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「あ…。しまった、寮の門限過ぎてた…」 

ステイリー・ニグットはそう呟いて研究の手を止めた 
どうにも集中し過ぎてやってしまったらしい 
仕方ない。今日は徹夜しよう。丁度書庫だし時間はいくらでも潰せる 
そう決めてせめて腹に入れる為立ち上がる 

移動途中にうめき声が聞こえた 
多分自分と同じうっかり組だろう…けど夜の図書館でうめき声とはなかなかホラーな出来事な気がする… 
気になってよく見てみたら、その人は後夜祭の時のラストダンスを踊った相手ことルリア=ブックスだった 
彼女は窓際で一心不乱に本と向き合ってる 

「星ー星ー…出て来てー!」 
「……ルリアさん?」 
彼女はびっくりして肩を大きく震わせ、そして大きな瞳を更に見開いた 
「ス、ステイリーさん…?寮はもう門限過ぎてますよ…?」 
「そちらこそ」 
「本を解読してたらうっかり…」 
彼女は無類の本好きだ 
会う場所も大体書庫だし本を持ち歩いてる姿をよく見る 

「私も新しい魔法を試していたらつい…」 
「あ、で、では…お互いうっかり同士ですね」 
「…そうですね。…ところで星とは?」 
「あ、はい。実は…」 

ルリアは事のあらましを説明した 
エリザに本の解読を頼まれた事 
どうやらそれは星の光に反応して文字が浮かぶらしい事を発見した事 
そして今曇ってしまって読めない事 


「…成る程。だったら私の魔法を使ってみますか?」 
星魔法は自分の専門分野だ。なら力になれる。そう思い提案した 
きっと魔法の星でも本が読めるはずだ 
「え、いいのですか…?え、と…うー…す、すみません!お願いします!もうこの本気になって仕方ないのです…!!」 
彼女の相変わらずの本好きに苦笑いする 
好奇心に輝いた目が綺麗に光る 
それこそ星のように 
そんな事を考えたのにびっくりして、気付かれないように踵をかえす 

「ではあちらに」 
他の人の邪魔にならないよう魔法を使って迷惑にならない狭い部屋に移動する 

部屋に入ってそこでステイリーは気付いた 
夜に女子と二人きりでこんな狭い部屋に 
下心がなかったとは言え警戒されるのでは、と彼女を振り返る 
しかしルリアは 

「どんな内容だか楽しみです…!」 
意にも介してなかった 
それはそれで複雑になるのだが彼女らしいと納得する 
納得はするのだが…心配にはなる。彼女は将来悪い人に引っかからないだろうか…と 
そこまで言うのはお節介な気がするし現状自分が言えた事でないので口を噤むが…警戒されないのに微妙に複雑にはなるのであった 

「…では」 
呪文を唱え、部屋に星空を作り出す 
「わぁ…!相変わらず素敵な魔法です……!綺麗です…!凄いです…!!」 
感動してくれてるのが凄くよく伝わる。心からの言葉だと伝わるから、くすぐったくなる 
今が暗くてよかった。でないと少し照れたのが伝わってしまうから 
「それで本は?」 
「えと…どれどれ…」 

本には文字が浮かぶ 
ステイリーも気になって覗き込む。ルリアはふと思い付いて座り込んだ 
「一緒に見ましょう」 
隣を手で叩く 
特に断る理由もないので素直に座った 
「はい」 
彼女は本を半分自分の膝に乗せた 
「星のお話…ですかね」 
見えづらいのか顔が近付く 
やっぱりびっくりするけど彼女は気にしてない 
友人なのだから当然だけど、それでも少し位… 
やはり心配になりつつも複雑な気持ちがまた芽生える 
「童話みたいですね」 
けどそんな気持ちは見ない振りして何でもないよう言葉を続けた 

ゆっくり本を二人で読み進める 
それは可愛らしい子供向けのお話 
けど二人して段々引き込まれるように読み進める 

「…素敵なお話ですね…」 
「そうですね…」 
ふと、目が合った 

長い睫毛が見える位の距離 
あと少しでキスしそうな、息がかかりそうな、距離 

……無意識に近くに寄りすぎていた… 


「きゃっ…!!」 
さすがにルリアもびっくりして顔を赤くして遠ざかる 
「すみませっ…!」 
反射的に自分も離れたら、勢い余って本棚にぶつかる 
ゴン!と良い音が響き渡りそして…… 

本棚の本に潰されるというベタをかましたのであった…… 

「きゃー!!ステイリーさーん!!誰か、誰かー!!!」 
結局先生に助けられ、二人して叱られたのであった 



後日 
「…その節は大変申し訳ありませんでした…」 
ルリアは顔を真っ赤にして謝る 
「いえ…。私も悪かったですし」 
「……痛くないですか?」 
彼女は正面から近付き背伸びして後ろ頭を軽く触った 
「だ、大丈夫ですからっ…!」 
慌てて離れる 
「薬、ありますし回復は私専門ですから…!!」 
彼女にとって今のは医療行為なのだろう 
しかし誰にでもやりかねない危うさがある 
それが何だか面白くない 
「ルリアさん」 
わざと、顔を近付けると流石に彼女も真っ赤になった 
「は、はい!?」 
すぐに離れて話しを続ける 
「…私は貴方の友人ですが、一応異性なのですから。もう少し注意して下さい」 
でないと変な気持ちになってしまいそうな予感がした 
「………精進します……」 
彼女は真っ赤になって、俯いた 

可愛いな 

って、感じるのは仕方ない事だろう 
きっと 
「は、はい。それでは」 
自分も赤くなったのをごまかす様にさっさと立ち去る 
「あ…有難うございました…!また…!」 
彼女の声にくすぐったさを覚えつつ、先を急ぐ 

この関係が変わり始めるのはまだ少し、先の話であった 

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