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ルリアは見れた分だけの内容、読み方をレポートにまとめてエリザに渡した 
一々こまめにしてしまうのはルリアの癖だ 
しかしエリザは 
「何だ、占星術の本だと思ったのに違ったのね。有難うね。読めないし良かったらルリアさん、どうぞ」 
と 
続きが読みたかったルリアには願ってもない話だ 
「い、良いのですか!?星で見えるって多分それなりに稀少本…!」 
「良いわ。お礼。少ない?」 
頭をぶんぶん振る 
「有難うございました…!!」 
「本は分厚いですしステイリーさんと一緒なら日中でも読めるので、どうぞお二人で仲良くお使い下さい」 
「……え……」 
ルリアは自分の体温が上がるのをわずかに感じた 


「……仲良く見えるのかな……?」 

自分と彼は共通の知人を通して知り合った友人だ 
まだ友人として日は浅い。が、仲良く見えるものなのか… 
もしそうなら嬉しい。顔が自然に緩む 
「そうだ、早速探してみよう!」 
あの時彼にもこの本は途中になった 
だから一緒に見たい。 
………夜まで待てないのも否定しないけど 


彼を探す途中、璃王を見付けた 
ルリアから見てステイリーと璃王、二人は仲良しだ。知り合うきっかけになった彼の友人ルスさんとステイリーさんが喧嘩しながらも仲良しなのを見ていたせいで、男の子同士の友達=喧嘩するほど仲が良いの図式になったせいである 
「あ、あの…璃王さん。こんにちは」 
彼は自分に本を借りに来たことのある知人の一人 
だから話し掛けれる 
「あぁ、こんにちは」 
意地悪も言うけど彼は基本的には優しそうで話し掛けやすい 
「あの…ステイリーさんどこにいるか知りませんか?」 
「ステイリー?彼なら今は授業じゃないかな?デートにでも誘うの?」 
ルリアは思わず真っ赤になった 
「ち、ち、違います…!!ただその…本を…一緒に読もうかと……」 
「…へーぇ。仲良しだね」 
下を向いて真っ赤になってた為、含みのある笑い方には気付けない 
「…有難うございました」 
いたたまれなくて立ち去ろうとすると、背後から声がかかった 
「ステイリー、今日は今の時間ので講義終わりって話してたよ。学科塔二階ね」 
意地悪も言うけどやはりこの人は悪い人じゃないな、とルリアは感じた 
「はいっ…!有難うございました!」 
読みかけの別の本を持って近くで待っていよう。そう決めて歩きだした 

そして 


「…ルリアさん?」 
肩を叩かれてようやく気付いた 
集中すると周りが見えず、音も聞こえなくなる癖のせいで鐘を聞き逃したらしい 
「す、ステイリーさんこんにちは…!…あれ?講義は…終わったのですか…?」 
建物出入口の近くのベンチにいてよかった…! 
でないと気付かれず本を読んでいたであろう 
「はい。次講義あるなら急いだ方が良いですよ?」 
「い、いえ!今日はもう終わりです!その…ステイリーさんを待ってました」 
口に出すと恥ずかしい。赤くなる自分がもっと恥ずかしい。連鎖でもっと赤くなる 
「え…あ…そうですか。何かありましたか?」 
「は、はい…!あの、エリザさんがあの本くれたのです。よかったら一緒にどうかと思いまして。途中まででしたし」 
ルリアには一瞬、ステイリーが深く息を吐いたように見えた 
「…だよな…」 
ちいさく呟かれた言葉は上手く耳に届かない 
「いえ、何でも。そうですね。是非」 
「は、はいっ…!ではこの前と同じ場所行きます?」 
彼は本の下敷きになった事を思い出したのか苦い顔をした 
「そう…ですね。確かに他の人の邪魔にならない方がいいですからね…」 
「あはは…。今度は気をつけましょうね」 


そして二人はまた書庫の狭い部屋に来た 
「続き楽しみです…!」 
「そうですね」 
何故か諦めたようなため息をつきながらステイリーは魔法を使う 
小さな声で、意識するだけ無意味か…と聞こえたた気もしたがルリアにはそれより本だった 
「えと、このくらいですかね」 
今度は距離を気にしながら本を広げる 
「では続きから」 
二人で並んで本を読む 
静かで、穏やかで、星に囲まれた時間 

今度は問題なく最後まで読み終わった 
「…ふぅ…」 
本を閉じて余韻に浸る 
この余韻に浸る時間がルリアは何より好きだ 
「…面白かったです…」 
「そうですね」 
二人でゆっくり、並びながら星を眺める 
ちゃんと瞬くそれは、魔法でも十分幻想的で美しい 
「星、触って大丈夫ですか?」 
「少し熱いですよ?」 
魔法だから本物の温度ではないけど注意は必要だ 

ルリアはゆっくり、星を引き寄せ手で包む。空気が優しくて、何となく気が緩んでしまう 
「…昔ね、お父さんが言ったのです。星は死んだ人の姿で、空から私達を見ててくれると」 
それはよくあるお話 
親しい人や家族を亡くした人にする、お話 
「だから私うんと子供の頃は…お母さんはお星様になったって信じてました」 
ちょうど、今読んだ童話もそうだった 
星が願いを叶えてくれて、死んだ身内に会わせてくれた話 
「でも…本物の星は寂しいです。綺麗ですけど…話しても、抱きしめても、いつでも側にいてもくれない。手にも届かない。 
お父さんに言ったら死ぬってそういう事だから…医者をするんだって言ってました」 
「…そうですか」 
「あ、ゴメンなさい。もう昔の話だから大丈夫ですから」 
幼い傷は日常に埋もれる 
そして、自分も父の背中を追ってここまで来た 

「何が言いたいかと言いますとね!だからこそ、ステイリーさんの魔法は素敵だと思うのです 
こうして隣で、側にいて手に触れれる星をくれるのですから 
死んだ人が星になるなんて慰めだとわかってます。ただ、側で綺麗だなって思えるのは…優しい事だなって…。ステイリーさんの星は…なんというか…優しい感じがします 
私、ステイリーさんの魔法好きです」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

反応を待ってみたけど彼は動かない 
もしかして引かれたのだろうか!?喋りすぎた!?と顔を覗く 
「あの…?」 
「ちょ、ちょっと待って下さい。…えと有難うございます。そう言って頂けて嬉しいです」 
珍しく早口で言い切る 
「…ゴメンなさい。変な事言って。でも素敵だと思ったのは本当です 
…この星、持ち帰れたら良いのに」 
「それは…すみません」 
「わかってます。ただちょっと考えただけです」 
ルリアはふと、エリザや璃王の言葉を思い出した 
「あのですね、私達仲良しに見えるそうですよ?」 
「え?」 
「本をくれた時エリザさんが言ってました。ステイリーさんが一緒ならいつでも読めるって」 
「はぁ…」 
「璃王さんも仲良しって言って下さいました」 
ステイリーは見るからに嫌そうな顔をした 
「…璃王と話したのですか?」 
「?はい。本の貸し出しで話した事ありまして。話しやすい人ですよね」 
「………騙されないで下さい…」 
「?別に騙されてませんよ? 
えと、つまり私達って友人期間まだそこまで長くないけどそう見えるんだって思ったら嬉しかったって話です」 
「…………はぁ……。貴方は何と言うか……」 
呆れられたのだろうか? 
それは嫌だなって思う 
「…ゴメンなさい……」 
「いえ、私が普通に取れば良いだけなので。はい 
……貴方の幻術も夢があって良いと思いますよ?」 
「そうですか…!?有難うございます!!」 
褒められたのが嬉しくて素直に喜ぶ 
しかし彼はまたため息 
「魔法を解きますね」 
「はいっ」 

空間は普通に戻る。手の中の星も消えた 
消えたけど、温もりはまだ残ってる 

星をくれた人も隣にいて消えてない 
温もりが消えないように手を握りしめる 
「有難うございました!」 
この人が側にいてくれるのは、凄く自分にとって大切な事なんだな 
ふとそうルリアは感じた 
「いえ。では出ましょうか」 
「はいっ。ついでに書庫ですし新しい本を選んで行きます」 
本の後にまた本 
ルリアは相変わらずである 
「では私はこれで」 
「あ、あの…ステイリーさん」 
「はい?」 
「また、星見せて下さると…嬉しいです」 
「…はい。喜んで」 

立ち去る背中を見えなくなるまで見送る 
手を開くとまだ、星がある気がした 

…側にいてくれる 

ルリアは胸が熱くなるのを感じた 

「さて、じゃあ次の本は何にしようかな…」 
この色気より食い気より読書の少女 
彼女の胸の花が咲くのはそれからしばらく後の話

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