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彼女の孤独の片鱗を見た気がした 

彼女ことルリア=ブックスは本人が申告した事があった通り深い人付き合いが苦手な模様だ 
友人も自分しかいないとか 

彼女は親しくなれば普通に話せる。けどそこに行き着く前に逃げ出す 

話せば柔らかく、温かみのある人柄なのに何故? 
その疑問が解けた気がした 
彼女は親からの愛情を十分に受けれなかったんだ 
愛情不足は後に人を不器用にさせる 

話に聞く限り、確かに父親は立派な人だろう。娘を愛してないとは言わない 
けど、彼女の話す父親の姿は常に仕事の姿 
仕事以外だと父親がきちんと休めるようにしていたらしい 

つまりそれは愛情を持って語り、触れ合う時間が極度に少なかった事になる 
星の髪飾りを付けているのはもしかしたら、母親が側にいると思いたかった証なのかもしれない 

「星が欲しい…か…」 

自分でもらしくないな、とは感じてる 
けど一夜の事とは言えパートナーになり、殻に篭る彼女から友人になって欲しいと言われた自分だから出来る事があるのでは 
そう思わずにいられない 

それに魔法の永久継続の研究にも興味はあった 

「…そういうのはまずは専門家かな…」 

時を操る人を頭に浮かべた 


「無理ですね。私が魔力を使い続けますし…。そういうマジックアイテムもあるけどレアだから高価です…」 

時の魔法を操る彼女、アンテノーラさんからは当たり前な反応がやってきた 
それはそうだろう。簡単に永遠が手に入るなら皆やってる 

「そもそもどうして魔法を永久継続させたいのです…?」 

言うのは少し躊躇う 
友人の為とは言え相手が異性だと変な勘繰りされるのが常識だ 

「…星の光でしか見れない本を持つ友人がいまして」 

凄く無難に言った 
これなら嘘じゃないし変な勘違いもされない 

「…成る程。じゃあ話は簡単です。星を生み出せるマジックアイテムをあげれば良いです」 

…やはりそうなるのか 
出来れば自分の星をあげたかった 
そうしたら、自分は側に居るのを伝えれる気がした 

「………って、なんだそれ」 

「……?」 

「いや、こっちの話です。有難うございました」 

顔が一気に熱くなっていたたまれなくなった 
逃げる様に立ち去ろうとすると 

「…永遠を与える方法は一つじゃないです。一度きりじゃなく積み重ねる誰もが作る永遠もあると思います…」 

どういうことなのか聞く前に立ち去られた 
相変わらずテンポが独特の人だ 

「…一度きりじゃない…?」 

とりあえず店に行く事にした 


そして買ったのを渡す為に今度は自分が彼女を待つ 
彼女の行き先はわからない。だからここに居ればいつか必ず会えると書庫に居る 

予想は簡単に当たり、いきなり彼女に会えた 

「あ、ステイリーさん…!こんにちは。奇遇ですね」 

「こんにちは。貴方を待ってました」 

意趣返しのつもりだったけど彼女は真面目に考えこんだ 

「…私何か約束忘れてますか…!?」 

生真面目だな、と思う 

「いえ。今回は私が用事です。…またあの部屋に良いですか?」 

書庫は広く、狭い部屋も複数ある 
それが気に入りひたすら篭る生徒もいるとか 
贈り物をするのに人前は流石に恥ずかしい 

「え…は、はい…!!」 

やたら気合いを入れて彼女は握りこぶしを作った 

「私に出来る事なら何でもやります!!」 

「…それあまり異性に言わない方が良いですよ」 

あれだ、彼女はこういう人だと思うしかない 

「…?はい!!ではステイリーさんにしか言いません!」 

………彼女はこういう人こういう人こういう人…! 

「それもそれで…はぁ。良いです」 

「すみません…?」 

狭い部屋に入る 
本に潰された事はもう忘れたい 

「用事というのはこれです」 

過剰な包装は恥ずかしくてシンプルな紙袋に包んだだけのそれを渡す 

「…何ですか?」 

「星の本がいつでも見れるようにと思いまして」 

彼女は僕に促され袋を開けた 
シンプルなデザインの魔法具 

「…貴方の魔力でもそれを使えば星が作れますから」 

きっと喜んでくれる 
そう思ったのに彼女は驚いて、そして慌てた 

「あ、あの…!こういうのは高いのでは!?お金…」 

「い、良いですよ!…材料は一応自力調達もしたからそんなにかけてません」 

「自力…?……土台作ったのですか!?」 

彼女はちょっとズレてる 
確信した 

「そんなわけないでしょう。その核の部分の魔力です」 

流石に全て出来たのを買うには高すぎた 

「…………わざわざすみません…!お手数かけました…!あの、お金やっぱり払います!」 

彼女は意外な側面でガードが固い 

「良いですよ。友達なんですし」 

「……友達ってそこまでしてくれるものです?」 

「…仲が良ければ。要らないのですか?」 

彼女は頭をぶんぶん振った 

「…要ります。有難うございます…!」 

ふと、髪の星飾りに目がいった 
そして思い付いた 
自分にはまだ永遠の魔法なんて出来ない。けど、学園にいる間は何度でも会えるんだから 

「失礼します」 

髪飾りは小さい。そこに丁寧に魔力を編んで行く 

「…?」 

魔法には集中も必要と知ってるからか彼女は何も聞かず黙って目を閉じ、なすがままにされてる 
…何と言うか、この子の将来が心配になる… 
変な人に騙されないと良いけど 

そして魔法を発動させた 

「わぁ…!」

目を開いた彼女の前に小さな星 
明るい色の髪に星が小さく瞬く 

「髪飾りに星みたく光るように術をかけました」 

「わぁ…!わぁ!凄い!綺麗です…!」 

彼女はどうやら僕の魔法を与えた方が喜ぶらしい 

「髪飾りですからバイトの時は外せばいいですし」 

「凄い…!凄いです…!嬉しい…!」 

「その魔法は一ヶ月はもちますから」 

「そうなのですか?…一ヶ月後に寂しくなりそうですね」 

「その時は、またあげますよ。その次も、次も」 

何度でも、会える限り 
永遠には程遠い。けどそういう与え方もある 
学園に居る間は、側にいれる。その証 

「…そんな、何度も悪いですよっ…!確かに嬉しいですけど…」 

「じゃあ受け取って下さい。友達の証に」 

彼女は顔を真っ赤にして目に涙を浮かべた 

「……何で?どうしてここまでしてくれるのです…?私を…どうしてここまで気にかけてくれるのです…?」 

その質問は至極真っ当なものだろう 
自分でも分からない 
親友の看護をしてくれてるから? 
友達と言って懐いてくれるから? 

多分、だけど答えは… 

「私の魔法が好きだって言って下さったお礼ですよ」 

親友の為に身につけた魔法 
それがこの小さな女の子の為に繋がるなら、それは嬉しい 
欺瞞だと我ながら嘲笑する。彼を救えない自分を誤魔化して居るんだ 
でも彼女はそんな僕の内心を知らない 

「……私…私……何だか…助けて貰ってばかりです。貰ってばかりです……!」 

彼女は生まれた星を握りしめて胸に抱く 
泣いているのかもしれない 

「…良いんですよ。別に」 

子供をあやすように、妹によくしていたみたく頭を撫でた 
彼女の涙は一気に堰を切った 

「………有難う…ございます………!」 

引っ込み思案で一人で居る不器用な子 
誰にだって抱えてる物はきっとある 

「貴方はもう少し友達作ってみるべきですよ」 

「…友達……?」 

「そうしたら、星が届かなくてもきっと大丈夫ですから」 

自分は結局彼女に何も出来ない。後は本人が頑張るしかないんだ 
彼女は人と話せないわけじゃない。だからきっと大丈夫だと思う 

彼女はしばらく考えて、そして頷いた 

「…知り合いから、頑張ってみます…」 

やっと笑った彼女に星が輝く 
似合うな。と感じたからあげてよかった 

「本当に…有難うございました…!お礼しますね」 

「良いですよ、そんな」 

自己満足にこれ以上感謝されたら今度は罪悪感になりそうだ 

「いえ!魔法具まで貰ったのですから!こう見えてもお金はある方なのですから!バイトもしてますし」 

服装や立ち振る舞いをみればそういうのは分かる 
けどそういう問題じゃない 

「んー…何が良いですかね?私じゃあげれる魔法は……微妙ですし…… 
後夜祭のお礼もしてなかった!!」 

あ、そういえば僕も誘いを受けて貰ったのにお礼をしてなかった 

「本じゃいくら何でもいつも通りですし………うー……コーヒーお好きでしたよね!?よく飲んでますし。コーヒーメーカーとか豆とか!?」 

意外と見るとこは見てるらしい 

「いえ、こだわりあるので」 

やんわり断ると彼女はしょげた 
しまった。何か受け取るべきみたいだ 

「…じゃあ…そのコーヒーのつまみとかでも…」 

お菓子一つなら大した額にもならないだろう 
彼女は嬉しそうに顔を綻ばせた 

何故か、ふいにその一瞬 

良いな 

って心が囁いた 
彼女が喜ぶと、何故か自分も嬉しい 
…話してる相手が無愛想より愛嬌ある方が良いのは当たり前か 

「はいっ…!!気合い入れます!!」 

空回りそうだなって考えは表に出さない 

「楽しみにしてます」 

「はいっ!任せて下さい!料理は普通に出来ますから!」 

あれ?いつの間に手料理の話になったんだ? 

「甘いので良いですか?」 

……懐いてくれる普通に可愛い女の子の可愛らしい提案を断れる男が居たら見てみたいものだ 

「…はい」 

やたら気恥ずかしい 
彼女がこういう恥ずかしい事が平気でも自分は平気じゃない 
人生経験がまだまだ不足してる証だ 

「頑張ります!待ってて下さいね。では…本当に有難うございました!」 

そういう元気な面を表に出せればもっと彼女はモテそうだな 
勿体ない… 
けど、今は自分だけの物ということに僅かな優越感 
僕は自分が思う以上に自尊心があるらしい 

浮足立つように立ち去る彼女を見送る 
見えなくなるのに微かに感じた疼く感情 

それは勘違いだ 
きつく、きつく蓋をする 

しかし、後に彼女に公開告白されその蓋は開いてしまう事になるのだが、それはまた別のお話

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