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※アテンション​
このストーリーの前にルリアはサークル内ラウンジトピックでステイリーさんに公開告白をしてしまっており、そして振られています。そしてルリアは一旦退出して、ステイリーさんはその場にいた璃王さんに連れられてきています。そのことを頭にどうぞ

登場人物紹介 
(全て読むの面倒&全てを把握されてない方のための補足。イラストは本編には一切関係ありません) 

【ステイリー】 

魔導学院の生徒。属性魔法なら大体は扱えるが専門は星魔法。 
ラウンジでルリアに告白されるも何か思うところがあって振ってしまう。 
その後、璃王にどこかに連れて行かれる。 

【璃王】


魔導学院の生徒。夢見科所属。いつも何かとステイリーをからかってくる友人。 
夢守という任に就いていた為、当時の家族、知り合い諸々すでにこの世にいない。 
知っているものは極僅かである。 
移動魔法科のラミィのことが好き。 



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『ラウンジ退出後-夢見の研究室-』 



【璃王】 
ラウンジから真っ直ぐに向かった先は、勝手知ったる夢見魔法の研究室。 

(バタン) 
万全とは言い難い体調のせいで足取りはおぼつかないが、薬のおかげか大分楽になったようである。 
研究室内に誰もいないのを見て取ってから、つかつかと窓辺まで歩を進める。 
そこでようやく、ステイリーの腕を放した。 

無言で、振り返る。 
その表情は明らかに怒っていることが見て取れる。 


【ステイリー】 
何か怒っている 
彼が振り返りその表情を見る前から、掴まれた腕の痛みがそれを語っていた。 

「こんなところまで連れてきていったいなんだよ…。 
体調が悪いんだろ。寝てたほうがいいんじゃないのか?」 
掴まれていた腕をもう一方の手でおさえながら無言の璃王にそう切り出す。 


【璃王】 
「―――ボクが怒っている理由、それは君が一番良く判っているだろう」 
今は体調への気遣いは無用、と付け加えてステイリーの瞳を見据える。 


【ステイリー】 
「……聴いていたのか?」 
目の前の人に意識を持ってかれすぎて周りに注意していなかった。 
こいつはそういうやつだ。 

「お前には…関係ないだろう。確かに僕も言い方に配慮が足りなかったかもしれないけれど…」 
思わず璃王から眼を逸らす。 


【璃王】 
「配慮が足りないとか、そんなことを問題にしていると本気で思っているのか」 
…言外に問題は他にあるだろうとの意味を込めて。 
「眼を、反らすなよ」 
反論があるなら、目を見て話せ、と。強く凝視する。 


【ステイリー】 
腕を組み適当なところにもたれかかる。 
威圧的な言葉に少しイラついて、逸らした眼を望み通りにその人物に向ける。 
「だったらなんだ。いつもみたいにお前が口出しすることじゃない。…僕が決めたことだ」 


【璃王】 
他者を寄せ付けようとしない物言いに、一瞬口をつぐむも、息をついて言葉を続ける。 
「……その、”自分で決めたこと”にステイリー自身が納得いっていないだろう。 
僕には…君が意地を張っているようにしか見えない」 


【ステイリー】 
「意地?僕が…?僕はただ――…」 
何かを言いかけて口をつぐむ。 
視線は再び璃王から外れ床に落ちる。顔に影を落とし、思いを向けるのは璃王ではない、誰か。 


【璃王】 
心ここに非ず、といったステイリーに、やや落ち着きを取り戻した声で続ける。 
「ステイリー、自分の心を偽って出した結論なんて、君も、周りも辛いだけだよ。 
ボクは…友人、が苦しむ姿なんて見たくない」 
”友人”という不慣れな言葉に言い淀んでしまったことに、らしくない、と小さく苦笑を漏らす。 


【ステイリー】 
「…友人、か」 
友人という言葉に引き戻される。 
自分を想っての言葉が少し心に染みて、改めて璃王に向き合う。 
「僕だってそうだ、友人が苦しむ姿なんて見たくない。でも僕にはあいつを救えない…。 
璃王には…話したことがあったかな。病院にいる友人の話」 


【璃王】 
(かぶりを振る) 
大切な話であることは、真剣な表情と悲しみに満ちた声音から伺えた。 
ならば。 
「… …うん」 
続けて、と言葉短く先を促す。 


【ステイリー】 
「中等部から、だったかな。一緒にヤンチャしていた友人がいるんだ。 
一緒に駆け回って、馬鹿やって、怒られて、笑いあって喧嘩して。…毎日を楽しく過ごしていた。」 

「なんとか一緒に高等部に上がって、懲りずに馬鹿やってた時だよ。…突然、倒れたんだ。 
聞けば原因不明の不治の病だっていうじゃないか。自身から生みだされる魔力や他人の魔力にも拒絶反応を起こす病だって」 

「対処は魔力を抑える薬ぐらいしかない。それすらも微量の魔力が残っていて副作用を伴う。 
大量投与は出来ないから効果が切れてしまったら一気に表情が苦痛に歪むんだ。 
もともとの潜在魔力が大きい奴だからどれほどの苦しみなんだろうね。 
…のたうちまわって押さえつけられて薬を打たれて…そして死んだように眠るんだ」 

「そんな友人に僕は何一つ出来やしない。ただ見てることしか…、出来ない…」 
そこまで話すと苦悶の表情を浮かべ一旦一呼吸置く。 

思えばこんな話を関係者以外にしたことがなかったかもしれない。 
する必要もなかったし、したいとも思わなかった。 

―――関係のない者には重すぎる。 

静かに話を聴く眼の前の友人に、こんな話をして良かったのだろうかとそんな考えが頭を過ぎる。 


【璃王】 
窓辺に寄りかかり、語られる言葉にじっと耳を傾ける。 
「……、」 
一旦言葉を置いた後何かに逡巡している様子の友人に、大丈夫だというように頷き視線で先を促す。 


【ステイリー】 
「………」 
何かを察したかのように頷いた友人に少し救われたように微笑を浮かべ、促されるままゆっくりと、再び口を開く。 
「この病の原因は不明らしいんだけど倒れる前日にね、いつものように馬鹿やってて、少し…力を過信しすぎた。魔法が暴走して、手に負えなくて、あいつに大怪我をさせてしまったんだ。 
すぐに治癒師に看てもらって大事には至らなかったけど…。『気にするな』ってあいつは笑ってたよ。でも、そのすぐ後にこれだ。 
…原因は僕にあるとしか思えない」 

「僕のせいであいつはもう駆け回ることも、遊ぶことも、勉強することも、友人を作ることも、大好きだった星を自由に見ることだって出来ない…! 
―――恋を、することだって出来ないんだよ」 

「僕は十分なんだ。あいつに出来ない普通の日常を過ごしてる。それだけで十分、幸せなんだ…。 
だから、これ以上はもう…」 
そう消え入るように言い終わるとキツく唇をかみ締める。 

目頭が熱い。…情けないな 


【璃王】 
「……そうか」 
長く止めていた息を吐き出すようにして口にした言葉は一つ。 
「辛かったな」 


【ステイリー】 
「………っ」 
たった一言。ただそれだけなのに。 
今まで溜めていたものが溢れた気がした。 

自分よりもきっと辛い思いを抱えているであろう友人の言葉はとても重くて、何よりも優しくて。 
しばらく、動くことが出来なかった。 


【璃王】 
どれくらいの時間が経っただろうか。 

「……ボクはその友人ではないから、 
「彼」がどう思っているのかは判らない」 

そう前置きして、言葉を選び、選び、ゆっくりと話し出す。 

「ただ若し、君とボクが友人だと仮定して 
そして若し、ボクが同じ状態になったとしたら…きっと辛いだろうね。 
友人がそんな思いを抱えて生きていると知ったらとても辛い」 


【ステイリー】 
心なしかすっきりした顔を上げ、困ったように微笑う。 
「…そうだとしても、この思いは消えないし、消すことも出来ない。 
あいつが元気になる日まで僕は、この思いと付き合っていくしかないんだ。…勝手だけれどね」 
ただ、と一言付け足し、 
「今一番辛いのは…自分の勝手な都合でルリアさんにあんな顔をさせてしまったのが……とても辛い」 
手の中に納まる菓子を見つめながらぽつりと呟くように言葉を漏らす。 


【璃王】 
「まったく、君は…本当に頑固だな」 
告げる声は呆れたかのような響きを帯びていた。 

そうだ、この目の前の人物は、相当な頑固者だったのだ、と。 
意地でも考えを曲げないその言を聞いて今更のように実感する。 
ただ、先ほどよりは幾分か落ち着きを取り戻した様子にほっと安堵の息をついた。 
そして。 
辛い、という呟きに小さな悪戯心を刺激され一つの質問を投げかける。 
「単刀直入に聞くよ。 
君はルリアのことをどう思っているの?」 


【ステイリー】 
「どうって―――」 
今まで無意識のうちに閉じ込めてきた感情はとっくに開け放たれてしまった。 
もう、自覚はしている。 

だが落ち着きを取り戻した思考はふと話す相手を考える。 
「あー……、悪い。過去は話せてもこういう話は話せないな。 
特にお前には。(真顔)」 


【璃王】 
「―――…おい」 
どうやら、目の前の友人はいつもの調子を取り戻しているようである。 

「特にボクには、って。……冷たいな、ステイリー。 
それが友人に対する態度?」 
わざとらしいため息をこれ見よがしにつく。 
が、その様子は何かを感じ取ったかのように言葉とは裏腹に嬉しそうだ。 


【ステイリー】 
「あれ、さっき僕と璃王は友人ではないような発言があったように思うんだけど、 
璃王にとって僕は友人なのか違うのか…どっちなのかな?」 

話を逸らす、という意図はない。 
”ただ若し、君とボクが友人だと仮定して―――” 
引っかかってはいたものの先ほどの雰囲気では聞き返せずにいた言葉、 
再び璃王の口からついて出た”友人”という言葉に思わず反応する。 


【璃王】 
思わず、しまった、と顔をしかめてしまう。 
「あー……  
なんだよ、耳ざといな」 
予想外の問いに、一瞬でも返答に窮してしまった事が悔しい。 

「ボクがそう思っていたとしても、君が同じように思っているとは限らないだろう」 
”友人”という言葉は敢えて避け、ぷいと顔をそむけてしまう。 
我ながらまるで子どものようだ、と思う。 
今日は一体どれだけ”らしくない”行動をとったのだろう。 


【ステイリー】 
「…僕は結構前から友人として接していたつもりだけどね。 
時々関わりたくないと思う時もあるけれど」 
普段の璃王からは想像がつかない弱気を含んだ発言に驚きつつも、 
顔をそむけてしまった彼に正直な言葉を贈る。 

「ついでに言わせてもらうと、僕が”お前”なんて言える友人はそうそういないし、 
自分の思いを吐き出したのは璃王が初めてだってことだけは伝えておくよ」 
友人はそれなりにいる。 
けれどそれは、その友人の中でも特別なんだという意味を込めて。 


【璃王】 
ステイリーは意外にストレートに好意を口にする。 
「………………不意打ち………、君、ばか?」 
横を向いたまま、子どもじみた負け惜しみを言っても説得力はない。 
左手で口元を覆ったのは、意図せず緩んでしまった口元を隠すためか、照れ隠しの為か。 
何を言いたいのか判らないほど鈍感ではないつもりだ。 


【ステイリー】 
「はは」 
意外な反応に思わず笑いが漏れる。 
いつもとは逆の立場に、もっとうろたえれば良い、 
と意地悪く思ってしまうのは仕方のないことだろうか。 


【璃王】 
「あれ…?」 
ぐるぐると、視界が回っている。 
額に手を当てると。 
「―――――――――…熱い」 
そういえば熱があったんだった、と他人事のように思い出した。 
緊張の緩んだ身体は、素直に不調を訴えてくる。 
ずるりと、もたれかかっていた窓辺にそのまま座り込んだ。 


【ステイリー】 
「璃王?」 
座り込んだ璃王に気づき思わず駆け寄る。 
先ほどより幾分か具合が悪くなっているように見てとれた。 
「だから寝てたほうがいいと…。いや、僕のせいか」 

「…仕方がないな、治癒魔法はあまり得意ではないんだけれど。 
終わったらちゃんと保健室に行くんだぞ」 
そういって片手を徐に手前に翳す。 
静かに詠唱を唱えると淡い星光が璃王の体を包み込んだ。 


【璃王】 
掛け寄ってくる気配に続けて詠唱する静かな声。 
詠唱に合わせて生まれた淡い光が体を包み込んでくれる。 
温度はない、けれど不思議と暖かさを感じた。 

「――有難う、大分楽になったよ。 
迷惑をかけて済まない」 
得意ではないと言いつつも対処してくれる辺りやはり生真面目だ。 
感謝と謝罪の言葉を述べ、…と同時にお腹のムシが鳴る。 
「……。…うん、保健室の前に食堂だ」 
まずは食い気とばかりに立ち上がり歩き出そうとして、振り返る。 
「何してるんだ、当然ステイリーが付き添ってくれるんだろう。”友人”の君が」 


【ステイリー】 
「食堂?」 
その言葉につられて鳴くムシがもう一つ。 
「あぁ、そういえばラウンジでドタバタしていてすっかりご飯を食べるのを忘れていたな」 
まぁ食欲が出たのなら良いことだ、と笑い。 
「しょうがない、付き添ってあげるよ。”友人”の君に」 

璃王の後に続いて夢見の研究室を後にする。 
足早に前を行く彼の表情こそは見えないが、その後姿に向かって感謝の言葉の代わりにそっと呟く。 

「もしお前に何かあったら、今度は僕が力になるから―――」 

聞こえたかはわからない。 
そのまま二つの影は食堂へと向かって消えていった。 



Fin. 

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