top of page

登場人物紹介 
(全て読むの面倒だけど読みたい&全てを把握されてない方のための補足。 
イラストは本編には一切関係ありません) 

【ステイリー】 

魔導学院の生徒。属性魔法なら大体は扱えるが専門は星魔法。 
ラウンジでルリアに告白されるも思うところがあって振ってしまう。 
その後友人の璃王と話をし、ルリアと再び話をするためラウンジから連れ出した。 

【ルリア】

魔導学院の生徒。薬学科専攻。看護士バイトでステイリーの親友を担当している気弱な女の子。 
本が好きで書庫でよく共に過ごしている。 
ステイリーが施した魔法でキラキラと瞬く髪の星飾りが宝物。 


前置きがとても長くなりましたがご準備できた方はどうぞお進みください。 


*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---* 


『ラウンジ退出後-書庫のとある一室-』 


ルリアを連れ出した先は二人で何度も利用している思い出深い書庫のとある一室 
日焼けを防ぐため窓は一つもなく、所狭しと本が棚に並べられており 
インクの独特のにおいが漂っている 

大事な話をする場所を考えたらここしか思い浮かばなかった 
中に人の姿は見当たらない 

「ここまで連れてきてしまいすみません、ルリアさん」 

扉を静かに閉めた後、まず一つ詫びる 
さて、どう切り出したものか。と口元に手を当ててしばし思案する 

「い…いえ……」 

ルリアは緊張する様子を見せた。それもそうだろう 
いつも通りに話しかけようと必死になっていた直後連れてこられたのだから 

「あ…あの…?…えと……」 

いつもは二人きりでも気にしないルリアでもその前に交わした会話を思えば二人きりの状況は落ちつかないだろう 
彼女はどうしていいか戸惑いながらも、それでも逃げる気配はない事に一安心する 

「その、先ほどはすみませんでした。 ルリアさんの気持ちを考えもせず一方的に拒んでしまい…」 

頭を下げ、そして真剣な眼差しをルリアに向ける 

「聞いて欲しい、話があるのです。 ルリアさんには知っていて欲しい話が」 

真剣な気配を悟ったのか、彼女は一回俯いて顔を上げた 

「…はい。長い話になりそうですよね? 
なら座りませんか?あと飲み物用意しましょう?」 

女性ならではの気遣いに感謝して、お互い飲み物を手にして隣同士の席に体を互いに傾け座る 

「………。はい。大丈夫です。お話とは何ですか?」 

促され、始める事にした 
さっき友人にもした話を 

「…話、というのはルスのことです」 

病院にいる親友の名を口にする 
彼女にはもう彼のことに関して今更補足する必要もないだろう 
重い口を開けて、抱えてきた思いをルリアに告げる 

友人が倒れたのは自分の魔法を受けた後だと言うこと 
彼が苦しんでいるのは自分のせいだと思っていること 
彼に出来ない普通の生活を送れている、それだけで十分なこと 

「だから僕はもうこれ以上…幸せになるつもりはないんです」 

話しておくべきだと思った 
想いを告げてくれた彼女に、それが自分に出来る精一杯の誠意だと 

彼女はどんな反応をするだろうか。 
手に持ったカップの液体へと落とされていた視線は自然とルリアに向いていた 

彼女は俯いて体を震わせていた 
手にしていた飲み物を机に置き、顔を手で覆う 

「…私…知らなかった…何も…気付けなかった…!! 
ステイリーさんがそんなに…苦しんで、痛い気持ちを…抱えていたのに気付けなかった…!!!」 

言わなかったから当然なのに、彼女はそれを酷く悔やむように泣き出した 
まるでそれが自分の痛みのように 

「……相変わらず優しい人ですね、あなたは。 
それだけで、その言葉だけで僕には十分過ぎるくらいです」 

ずっと一人で抱えてきた行き場のない思いは 
誰かに理解してもらうだけでこんなにも救われるものなのだと改めて感じる 

だがそれは自分のエゴでしかない 
泣き続ける彼女の涙を拭う資格などないと、ハンカチを差し出す 

「この思いを背負っていく覚悟はあります。ルスの為に出来ることならなんだってやる。 
そうやって、生きてきたんです。だから…ルリアさんの気持ちには、応えられない。 
自分勝手ですみません…」 

ルリアはハンカチを受け取り顔に当てて頭を大きく振る 

「…ステイリーさん…らしいと……思います……」 

友達思いで、どうしようもない程優しい 
それがルリアが好きになったステイリーだ 

「私…は…良いんです…。星を…くれただけでも……十分なんです……!」 

ルリアにあげた星が消えかかるように小さく瞬いた 

「…そろそろ、魔法が切れそうですね。少し、失礼します」 

そう言って髪飾りを手に取る 
この魔法を施したのももう何度目だろうか 
開いた手からは先ほどより輝きを増した星が零れ落ちる 

「…僕はルスから、大好きな星を奪ってしまった。だからせめて僕の魔法で星を見せることが出来たらと思ったのが始まりでした。 
ルスが倒れるまではずっと攻撃的な魔法しか使ってこなかったので、最初は繊細な魔法にとても苦労をしたんです。だから、ルスやあなたが喜んでくれるのがとても嬉しかった。 
…でも所詮魔法で作った星。本物の星には、敵わない…」 

密かに抱いてた無力感 
瞬く星を瞳に映し、哀しげに笑う 

そんなステイリーの顔を見てルリアは思わず立ち上がり彼の頭を抱きかかえる 
それに驚いたステイリーはその腕から逃れるように立ち上がり本棚に背をぶつける 
ルリアはそんな彼に正面から寄りそった 

必死で涙を止めて 
目線を合わせて 
体を震わせながらも声を絞り出すように紡ぐ 

「ルスさんは…いつも感謝しています…何度も何度も話を聞いてます…!間違いないです…!ステイリーさん…私…私はね、貴方に救われたんですよ…? 
この星のおかげで…!」 

届けたい 
伝えたい 

そんな強い気持ちが弱気なルリアを前に進める 

彼女は明るくなった髪飾りから生まれる星を手に包みこんだ 

「言いましたよね?私お母さんを小さな時亡くした事 
それ以来、私にとって誰より近くに居てくれたお母さんは星になりました… 
本物は、遠いって…これも言いましたね…」 

思えばルリアは思った以上にステイリーに心を預けていた 
何で気付かずにいれたのか分からない 
こんなに震える大きな気持ちに 

「…ステイリーさんは…自分から…周りを勝手に遠い星にしてしまう…。そんな私に…傍にある星をくれたんです…」 

開いた手にある星をステイリーに差し出す 

「私にとって…何より…誰より近くに…傍に…ある星は貴方そのものなのです……! 
勝手に一人になってた私に…与えてくれたんです……!」 

星に願いを叶える力があるのならどうか、伝わって欲しい 

「ステイリーさんの星は私の何より大事な宝物なんです…!本物じゃなくて、貴方の星だから私に届いたんです!! 
…だから私は……貴方が……好きなんです……!」 

届いて 
願いをこめて手の星を彼の胸に

添えられた星は胸の中に沁み渡り、深く深く流れて消えない暖かな軌跡を残す 

開いた蓋から想いが溢れ出しそうだった 
伸ばしそうになった手を、必死で押さえる 

「……あなたはいつも、僕を困らせますね…」 

そんな言葉しか、出てこなかった 

少しの沈黙 
彼女は俯いて、苦笑いして顔を上げた 

「……ゴメンなさい…」 

-駄目だったんだ- 

ルリアはそう感じた 

どれだけ、どれだけ感謝をしているのか。自分を救ってくれたのか。伝えきれないこの気持ちは届けれなかった 
それどころか困らせた 

それが悲しい。悔しい。困らせて、傷つけるだけの自分を許せない 

「……そうですね。最初っからそうでした。……沢山感謝してます。嬉しかったって伝えたかったんです」 

意図的に過去形で話す 

「……傷付けてゴメンなさい。もう、終わりにしますから安心して下さい」 

何も出来ないならせめて、ちゃんと終わりにしよう。それしかもうない 
さっきと同じ。ちゃんと笑える。大丈夫。そう思い顔をあげて笑顔を向ける 
ステイリーはその表情に見覚えがあった 
ラウンジで一方的に拒んでしまった後の笑顔が重なる 

「私もう、ステイリーさんに近付きません 
…ほら、側にいると結局迷惑かけちゃいますしね!私ダメな子ですから…もう気持ちを隠せないから… 
ステイリーさんが私をそう見てないのも分かってますし」 

二歩、三歩と彼女が離れる 
違う。そんな笑い方をまたさせたい訳じゃなかった 

「…ルスさんの前で会ったら普通にしましょうね。それだけは約束です! 
………私は…好きになれてよかった。幸せでした 
…有難うございました…!ハンカチは洗って返しますから…」 

泣きそうになるのを必死にこらえた笑顔を最後に、彼女は背を向け逃げ出そうとする 
気持ちが、弾けた気がした 

「―――ルリアさん、待ってください!」 

部屋を出て行こうとするルリアの腕を思わず掴む 

「まだ、話していないことがあるんです。お願いですからもう少しだけ聞いてください…!」 

「……ゴメンなさい……!もう…無理です…!もう…これ以上は無理です…!!!」 

彼女は必死に抵抗した。でも離す訳にいかない 
これだけは伝えなければならないから 

「…もう…やめて下さい…!私…これ以上貴方の負担になりたくないの……!」 

更に逃げようとする彼女を思わず抱きしめる 

まだ逃がしたくない。そう思った瞬間閃いた 
彼女が驚きのあまり硬直しているその隙に魔法を唱える 

そうすると部屋は一面彼女が好きだと言ってくれた自分の星空に染まった 

天井から星が降り注ぐ 
不涸花杯で使った特別な魔法。それを今度は彼女の為だけに 

「………綺麗…」 

彼女から力が抜けた 

抱きしめたまま静かに言葉を紡ぐ 

「ルリアさんの気持ちは迷惑でも、負担でもないんです。むしろ逆で…。 
でも話した通り僕はこれ以上幸せになるつもりはなくて、あなたの想いに応えられないのが只辛いんです。でもこれだけは。自分勝手ついでに言わせてください」 


「――――――僕も、ルリアさんが好きです」 

応えられないなら言わないほうがいいと思っていた言葉 
でも言わずにはいられなかった、伝えたかった 

きっとすぐに彼女には自分よりもいい人が見つかるだろう 
こんなにも温かい軌跡を残せる人なのだから 

「すみません…忘れてくださって結構です」 

ルリアにはその言葉は遠くから響いたように感じた 
忘れて良いなんて、そんなこと出来る訳ない。だって何よりも望んだ言葉だから 

「ステイリー……さん……」 

名前を呼んだら強く、強く抱きしめてくる腕が 
ルリアにまで伝わる激しい鼓動が、彼の気持ちを雄弁に物語る 

涙が溢れた 

困らせるしか出来ない自分がこの優しい人に好かれてるなんて思わなかった 
心が大きく震える。ちゃんと、自分の星もこの人に届いたのだろうか 
星が自分たちを温かく包んでくれている気がした 

無意識に彼女も彼に抱きつき返す 

「……私……私も……貴方が……好き……」 

彼の体の熱が上がった気がした 
もうこの気持ちは我慢も、逃げも出来ない。我儘でも願いを言わずにいられない 

「……傍に……居たい……です……!私……付き合えなくても良い…。良いですから……せめて……せめて………!」 

互いに腕の力が強くなった 

これくらいは許されるだろうか。今まで通り友だちとして過ごすことぐらいは 
彼女の言葉が嬉しくて、つい我儘を言ってしまう 

「辛い思いをさせてしまいすみません。ですが出来るのなら、今までと変わらず傍にいてください。 
あなたに僕の星が、必要なくなるまで―――――」 












 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





…どれほどの時間そうしていただろう 
鐘の音が学院に響き、その音で我に返る 
慌ててルリアから体を離し、その弾みで星空もいつもの本が積み上げられた薄暗い部屋へと戻る 

「すみませ―――」 

ぐらり、と体から力が抜けて足元がふらついた 

――しまった…魔力を使いすぎた 

研究に没頭してるとたまにやらかして起こす脱力感 
ここに来るまでに何度か魔法も使ったし、そもそも精神状態が不安定だったため余計な魔力も使ったのだろう 

机に片手をついて重い体を支える 

「ステイリーさん!!」 

ルリアは慌てて駆け寄り支え、倒れない事を確認してすぐに椅子を引く 

「先ずは座って下さい」 

言われるがままに座ると改めて疲労感が襲う 

「失礼しますね」 

彼女は自分の手を取り脈を計り、何故か首元を触ったり目を覗き込み額に手をあてる 
思わず反応して赤面してしまうのは仕方ないだろう 

「頭痛いですか?」 

「い…いえ…」 

倦怠感はするが頭痛はない 

「…じゃあ重症ではない…みたいですね…。 
状況からいって魔力消耗が原因でしょうが精神的疲労もあるでしょうし… 
とりあえず糖分をどうぞ」 

………医者みたいだ 
と考えて彼女はそれを志望してたのを改めて思い出す 
こう考えては失礼だが普段気弱でおどおどしている彼女にきちんと落ち着いた対応が出来ると思ってなかった 

そういえば出会ってちょっとの頃、ルスに話を聞いたことがある。その時は手際よくて頼りになると聞いたのを思い出した 
彼女の知らない一面を見た。まだきっと、知らないだけでそういうのは沢山ある 

差し出されたお菓子を口に入れる 
甘い味に少し安心する 

「少し休んだら医務室行きましょう。休むのが一番の薬です」 

…そういえば医務室には璃王がいる…。寝てくれていると良いのだが… 
正直あんな話をした後だから少し顔を合わせるのは恥ずかしい。けどそんな言い分聞いてくれない雰囲気だし何より疲れていた 

「そう、ですね。ありがとうございます…。ご迷惑をおかけしてすみません」 

彼女はふるふると首を横に振った 

なんとか歩けるようになるまで回復した後、支えられながら部屋の扉を開ける 
明るい日の光が差し込み、思わず二人で眼を細めた 
あの時間がまるで夢だったかのような、そんな錯覚を覚える 

これ以上幸せになるつもりはないと言っておきながら、と軽く苦笑を漏らし 
まだ星の残像が残る空間を閉じ込めるように静かに扉を閉めた… 


Fin. 

*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---* 

bottom of page