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『あれからと、これから』 


【ルリア】 
体温を測り今日は平熱なのを確認した 
魔法に拒絶反応を示す原因不明の病気の患者さん、ステイリーさんの大切な友人 

魔法を使った治療、検査は一切出来ないのでこういう日々の地道な検査が大切になる 
脈拍も落ち着いてるし今日は会話出来そうだ 
手を握り顔を寄せる 

いくら魔力が弱くても魔法を学ぶ身。万が一にも魔法をあてないように彼相手には魔法を通さない特殊な手袋は決して外せない 
それでも、人の熱は伝わる 
近くにはいれる 

それが私の役割で、仕事 

「ルスさん、今日は落ち着いてるみたいですが気分は如何ですか?」 

明るく、優しく笑う 
先日あった事は決して表に出さない 


【ルス】 
「ん、いつもより全然マシ。いつもこんぐらいだったらいいのにな」 
目の前の看護師バイトちゃんことルリアに明るく笑顔を向ける。 
いつものように検査をこなし、いつものように手を握り顔を寄せて話しかけてくるのにはもう慣れた。 
…多分。 

「いつもありがとうな、ルリアちゃん」 
言える時には言うようにしている言葉。 
人からも魔法からも隔離されたこの現状で手袋越しにでも伝わる体温は苦しみをどこか和らげるような、そんな気がする。 
彼女の気遣いはとても有難い。 

「ずっと体調悪い日が続いてたからなー、久々にこうやって話す気がするな! 
最近どう?ステイリーの奴はどうしてる?」 
屈託のない笑顔で問うのはいつもの友人のこと。 


【ルリア】 
私はルスさんを尊敬している。入院も長く、苦しむ事も少なくない彼はそれでも明るさを失わない 
強い人だ。素直にそう思う 
ステイリーさんの事がなくても彼には元気になってもらいたいと祈ってる 

明るくお礼を言ってくれる彼に笑顔で返し、続く言葉にほんの一瞬笑顔の裏で硬直した 
『患者さんに自分の事情で不安を与えるな』 
父の教えだ。何でもない顔をしなくては 

「そうですね、話せるのは久々ですね。ステイリーさんは今日は会ってないのですが…数日前にちょっと魔力を使いすぎていましたね」 

まぁそれは自分の為の魔法のせいだった訳だが 
でも重症でなかったのは分かっている。なので気にさせないように明るく、苦笑いで話す 


【ルス】 
「へぇー。で、ルリアちゃんに優しく介抱してもらっちゃったわけですな? 
これは今度ステイリーが来たら根掘り葉掘り聞くしかないな・・・!」 
ステイリーは月に一、二度しか見舞いに来ない。 
だからよく学校での様子を彼女に聞いているのだが 
今日はいつもより口数が少ない気がするのは気のせいだろうか。 

話しているとドアからコンコンとノックの音が聞こえる。 
彼女はぱっと握っていた手と顔の距離を離し、ドアの方へと振り返った。 

長い入院生活、訪ねてくる者も限られている。 
二度の控えめなノックの後、少し間を開けて入ってくるであろう友人を待ちわびた。 


【ステイリー】 
ルスの話し声が聞こえる。 
どうやら今日は体調がいいらしい。 
ドアの前で安堵の息をつき、いつものように二度ドアをノックする。 

話し相手は多分ルリアさんだろう。 
…少し気まずいがせっかくルスが話せる状態なのだ、入らない理由はない。 

握った取っ手を横へと引きドアを開けると、片手を上げ暢気な笑顔で挨拶をするルスとその横で頭を下げるルリアが目に入る。 
「久しぶり。今日は体調良いみたいだな」 
病室へと足を踏み入れルスへ軽く挨拶を済ませるとルリアに顔を向ける。 

「…ルリアさんも、こんにちは」 
告白の日以来少しギクシャクした関係が続いているが 
ルスに何も悟られないよう普段通りの挨拶に努める。 


【ルリア】 
ちょっと身を固くしてしまった 

仕事中でなければどもってたであろう自分が情けない 


こっそり深呼吸をして何とか平静を保つ 

「こんにちは、ステイリーさん」 

笑顔で返しお互い勘の良い彼に悟られないように装う 

「さっきの話、聞いても私は医務室連れていっただけなので面白くないですからね?」 
さっきの返答をルスさんにする事でステイリーさんに話していた事を教えておく 
話題を間違えた気がしてならない。済みません、ステイリーさん… 

「えと、では私は失礼しますね」 
お見舞いの家族や友達が来た時場を離れるのはよくある事だ 
この二人にもそうした事もある。最近は三人で話す事のが多かったからちょっと不自然かもしれない 
でもこのままここでボロを出すよりマシだ。そう思い立ち上がる 


【ルス】 
「二人っきりの医務室、揺れるカーテンにパイプベッド、夢が広がるじゃないか…」 
うんうん、と冗談めかして言ってみる。 
ステイリーにあからさまに嫌な顔をされたがいつものこと。 

「って、ルリアちゃん失礼しちゃうの?せっかくステイリーも来たんだし三人で話そうよ」 
立ち上がるルリアを引き止める。 
困ったように目配せをする二人を見やり、やはりどこかいつもと違う雰囲気に首を傾げる。 

「俺まだルリアちゃんとも喋り足りないよー?」 
そういって立ちっぱなしの二人を座るよう促した。 
ステイリーはやれやれ、といった様子で丸椅子に腰を落ち着かせる。 


【ルリア】 
「残念ながら他に寝てた人がいましたっ」 
一応二人きりという事だけは否定しておく 
彼のいつものからかいとは分かっているけど今の私には少々刺激が強い話題だ 

そしてそんな風に引き止められたら動けない 
ステイリーさんを見ると諦めたように頷くだけ 
私だって話がしたくない訳じゃない 

大丈夫。いつも通りをすれば良いだけ 
嘘に引っ掛かった故の行動やその前の告白は記憶の奥に封じれば良いんだ 
…思い出さない思い出さない…赤くなるな、私… 

「でもそう言って頂けると嬉しいですよ。有り難うございます」 
患者さんに懐かれるのはやっぱり嬉しい 
力になれてる証拠な気がするから 

出来るだけいつも通りを装いつつも、微妙にステイリーさんから距離を取って座ってしまう 
隣で平然と出来る程平常心にはなれない 


【ルス】 
「ん?別にお礼を言われるようなことは言ってないけどなー」 
二人とも座ったのを確認しつつまた感じる違和感。 
これまで徐々に近づいていった二人の椅子の距離が離れた。明らかに。 

思い切ってつついてみることにした。 
「てか二人ともどうしちゃったの?なんかいつもと雰囲気が違う気がするんだけど喧嘩でもした? 
…あ、そっか、ステイリーが介抱するルリアちゃんに思わずセクハラしたんだな?!」 
「するか!!!」 
ステイリーから素早いツッコミが入る。 
昔に比べてすっかり落ち着いてしまったステイリーが顔を赤らめるのが面白く、珍しくもありついからかってしまう。 
三人で話している場合ルリアも赤くなって慌てるからまた面白い。 


【ルリア】 
流石に気付かれないとまでは思わなかったけど、まさかいきなり突っ込まれると思わなくて思わず動揺してしまう 
「されてませんっ!ステイリーさんが変な事するわけな………」 

そこでうっかり抱きしめられたのがフラッシュバックしてしまった 
まずい、ダメだ…! 

そう思っても一気に赤面する顔も、ドキドキする心臓もいきなりは元に戻らない 

真っ赤になって顔を隠してしまう 
…しまった!これじゃあ『何かされました』と言ってるのと同じになっちゃう…!! 

「されてない…!な、何もされてないです…!!」 
むしろしたのは私ですとも 
頭を振って否定する 


【ルス】 
途中で止まる否定→赤面→必死に否定 
…何かあったな? 

わかりやすいルリアの言動に思わずにやにやが止まらない。 
とりあえず喧嘩ではなさそうで安心する。 
「そんでそんで?ステイリー君はこのいたいけな少女にナニをやっちゃったのかな?」 


【ステイリー】 
…わかりやすいにやけ顔だ。 

ルリアも何を思い出しているのか容易に想像が出来る。 
思わず自分も思い出してしまいさらに顔が熱くなり困ったように俯く。 
…やむを得なかったとはいえ大胆なことをしてしまった自分が恥ずかしい。 

「……何もしてない」 
と、この顔で言ってもなんの説得力もないだろうが否定するより他はなかった。 


【ルス】 
「べっつに隠さなくてもいいじゃん。俺とお前とルリアちゃんの仲だろー? 
二人に隠し事されると俺寂しいなー」 
まぁお堅いステイリーのことだ。何かやったとしてもせいぜい抱きしめるぐらいだろうか。 

…二人を見てきて常々思っていたが、なんというこのもだもだ感。 
もし学院でも変わらずこの調子ならそう感じているのは俺だけじゃないはずだ。 
さっさとくっついちまえば良いのに 
と口をついてしまいそうになったがルリアがいる前で言うのは止めにしておく。 


【ルリア】 
「……だから何もされてないです……」 
仕事中の意地。気力の総力をあげて否定した 

真っ赤な顔で説得力がないのは百も承知 
だけどこの間の事はルスさんにだけは話せない 
特にステイリーさんの自責の気持ちだけは悟らせちゃいけない 

「…他の人見に行ってきます。後はお二人でどうぞごゆっくり 
ルスさん、後でまた来ますけどはしゃぎ過ぎちゃ駄目ですからね?」 
有無を言わせない笑顔で立ち上がる 

すみません、ステイリーさん。私これ以上はボロが出ます 
うっかり口を滑らす前に私は逃げる事にした 


【ルス】 
「了解でーす」 
真っ赤な顔で出て行くルリアを二人で見送り、ステイリーに向き直る。 
もっと問い詰めようかとも思ったがこいつは一度否定したら何を言っても否定し続けるから今日はこのぐらいにしておくことにした。 

いつも通りの他愛無い会話を始める。 
と言っても自分に大した話題はないからほとんどステイリーに関する質疑応答のような会話だけれど。 

授業のこと、研究のこと、読んだ本のこと、俺と気が合いそうな友人のこと、ケルベロスのこと、 
ラウンジをめちゃくちゃにした問題児たちのこと、目にした魔法のこと、尊敬する先生のこと… 

笑いあった後、ステイリーは必ず垣間見せる顔がある。 
申し訳なさそうな、そんな笑顔。 
一度だけ軽く気にするなと言ったことはあるが、そんな言葉でどうにかできるものでもないらしい。 
俺はこいつが心から笑っているのをいつから見ていないだろうか。 

会話もなくなり日が傾き始めたのを確認すると「そろそろ帰るよ」とステイリーは立ち上がった。 
去り際、何を思ったのか立ち止まり、手帳を取り出して何かを書き始めたと思ったら、 
ページを破りご丁寧にきっちり折って差し出してくる。 
「何?俺へのラブレター?」 
「違う」 
おどけてみるものの真顔の即答が返ってくる。まぁそんなことは最初からわかっている。 

「…ルリアさんが戻ってきたら渡してほしい」 
「へいへい」 
普通に伝言を頼めばいいのになと思いつつ受け取る。 
次回に続く挨拶を交わすとステイリーは静かにドアを閉めて去っていった。 

読みたい衝動に駆られながらもそこは友人としての信頼をなくさないためにぐっと我慢。…我慢。 
うずうずしているとちょうどタイミングよくルリアが戻ってきた。 
助かったといわんばかりに顔をあげる。 


【ルリア】 
一通り他の仕事を終わらせて戻ると部屋は静かだった 
ステイリーさんは帰ったようだ。彼がいないならさっき程動揺はしない。大丈夫 

「ただ今です、ルスさん」 
必ず笑顔で挨拶。相手を安心させるように 
お帰り、と笑ってくれる 
今日は本当に調子が良くてこの人の言葉じゃないけどいつもこうなら良いのにと思わずにいられない 

二人きりだからいつものように手を握ろうとする 
その前に一回止められステイリーさんからとメモを渡された 
「…どうも」 

促され緊張しながら開く。綴られた綺麗で几帳面な文字 
『帰り送ります。待ってますから』 

またも顔から火がふいて思わずうずくまる 
この程度で、とは思う。けど自覚したばかりの恋心は平常心をいとも簡単に崩してくる 

とても嬉しい。その気遣いが 


【ルス】 
ステイリーからの伝言を読んだ瞬間、 
本当に顔から火が吹き出そうなくらいの勢いで真っ赤になったルリアを見て思わず噴出す。 
ステイリーも大概だがなんともまぁわかりやすい娘だ。 

うずくまったルリアに笑いを堪えながら声をかける。 
「い、一体なんて、書いてあったのかな?…っ、もしかして、まさかのラブレター?」 
そんなものあいつが俺に託すわけないが彼女の様子からそう期待せざるをえなかった。 


【ルリア】 
ラブレターなんて言葉に増々心臓が跳ね上がる 
落ち着け!落ち着くんだ私…! 
相手は患者さん患者さん患者さん患者さん………… 

…よし 

「違います。帰り送ってくれるっていうだけの伝言です」 
今更体勢を立て直したところで無意味なのは分かってる 
熱が残る顔で平然とした口調しても何の意味もない 

「何を期待してるか知りませんが、私達は只の友達ですからね?」 
どれだけ説得力がなかろうと、関係性はそれが事実 
只の友達にしては気持ちが通じてしまってるけど…………… 

まずい、また顔が熱くなってきた……… 
平常心平常心…!! 


【ルス】 
「ふーん、ただの友だち、ねぇ…」 
説得力が皆無にも程がある。 
ただの友だちが送るという伝言だけであんなに赤面するものでもなかろうに。 

平常心を保とうとしているが徐々にまた赤くなるルリアを見て思わず本音が聞きたくなった。 

「ぶっちゃけさ、ルリアちゃんってステイリーのこと、好きだよね?」 
笑顔ではあるがからかいではなく、真面目に問う。 


【ルリア】 
笑顔だけど真剣なのは伝わった 

今は仕事中。他の患者さんになら窘めて何でもないように振る舞えたと思う 
けど今まで沢山した会話が、近くに居た時間が、彼に感じる親しみが、流させてくれない 

あ、そうか 
私ルスさんに親愛の情があるのか… 
今更すんなり落ちてきた 

仕事の関係である以上友人と言って良いかは分からない。けど彼にステイリーさんへの気持ちに嘘はつきたくなかった 

「………うん。好き……です………」 

恥ずかしくて目を思わず逸らす 

「…関係…おかしいと思われたのは……多分、私が…自覚したから…です 
……ステイリーさんのせいじゃない…です…。だから…その…あまり…つつかないで頂けると…有り難いです……」 

普段ルスさんに出さない気弱な自分が出てしまう 


【ルス】 
「え、自覚したの最近ってこと?…マジか。」 
ステイリーのことを話す時はいつも楽しそうだからすっかり好きなのだと思い込んでいたので少し驚愕した。 
ということはステイリーもそんな感じなのか? 
改めて今日の二人の雰囲気を思い出して思わず納得する。 

「はは、教えてくれてありがと。でもそっかそっか、なんか嬉しいな。 
あいつお堅いやつだけどこれからも宜しくしてやってな」 
普段は毅然と仕事をこなすルリアの女の子らしい挙動を微笑ましそうに見ながら 
つつかないかどうかは約束できないなと、付け足して意地悪そうに笑う。 


【ルリア】 
「…つい先日の事です…」 
恥ずかしい…!周りから見たらやっぱりバレバレだったのかな…?ううぅ… 

「ステイリーさんのお友達に嬉しく思って頂けるなら嬉しいです…。はい」 
なんとなく璃王さんを思い出した。彼も応援してくれたってことで良いんだよね…?エリザさんは言わずもがな 
…私周りに恵まれてるな… 

と、そこでタイマーが音を立てる 
ここでお話の時間は終わり。どれだけ調子良くてもこれはやらなくてはならない 
「時間ですので注射しましょうね」 
彼は苦い顔をした。それも仕方ない。これをすると副作用で当分寝たままになるからだ。でも、やらないとずっと苦しむ事になってしまう。 
魔力を抑える特殊な薬。それを注射器に慎重に液体を入れ量をしっかり調節する。これだけは絶対に間違える訳にいかない 

痛くしないように針を刺す。丁寧に慎重に 
刺し終わったら抜いてガーゼをしっかり当てて注射器を軽く片づける。そして手を握る 

「お休みなさい」 
しばらくすると彼はすぐ眠りについた 
手をしっかり握る。せめて、せめて一人にしないように 



「さて、と…」 
バイトの時間も終わり。交代の人に引き継ぎをして私はいつもの服に着替えた。 
待たせてるし急がないと 
髪をほどいて三つ編みにしてた部分の癖を軽くのばす。星の髪飾りを付けるとそれは髪にきらきら星を輝かす 
「…大丈夫かな?私…変じゃないよね…?」 
身だしなみをもう一度鏡でしっかり確認した 


そして小走りでよく待っててくれる時にいる場所に急ぐ 
患者さんと見舞客用の広めの庭のベンチ 
そこで本を読んでいるステイリーさんを見つけた 

「お…お待たせしました…!」 
ちょっとどもりながらも何とか普通に挨拶出来た気がした 


【ステイリー】 
「いえ…お仕事、お疲れ様です」 
顔をあげ、ルリアに労いの言葉をおくる。 
「帰りましょうか」 
読んでいた本を閉じ、脇に抱えて立ち上がると二人で出口に向かって歩き出した。 


寮まで続く魔法の灯りで照らされた夜道。 
なんとなく気まずくてここまで二人無言で只ひたすら歩いていた。 

あれから何日経っただろうか。 
しばらくまともに話していなくて、話したくて、思わず送ると進言してしまった。 
歩きながら怒涛の一日だった日の出来事を思い出す。 
告白をされて、振ってしまって、璃王と話をして、想いを伝えて…親愛のキスまでされて――― 

そこまで考えてはっとなる。 
「そういえば、親愛のキスのことなのですが…」 
あれは璃王の悪い冗談でここではそんな習慣はないと、誤解がまだ解けていないのなら伝えておかねばならない。 
そう思って切り出してみた。 


【ルリア】 
隣を歩くだけでも以前と意識が全く違う帰り道 
何か話さなきゃ…!と焦燥感が募るのに上手く言葉に出せない 
そしたら向こうが急に地雷を踏んできた 
「待った!!ストップ!!!それ以上言われたら堪えれません…!!」 
キスの話題は私的に無理だ…!!!咄嗟に逃げなかっただけ私には上々である 

でも…と戸惑う彼 

内心で璃王さんの馬鹿…!と恨み事を呟く 

「…あの後璃王さんと話して来まして…。嘘とは聞きました………」 

…気恥ずかしい……!つまり習慣がないのにあんな真似……!! 
あれ?これ謝るべきなの!?でも恥ずかしい…! 

「え、えとですね!璃王さんと言えば…私本当に友達になったんですよ?同盟組んだのです…!」 
話を無理矢理そらす 
でないと心臓がもたない 


【ステイリー】 
誤解が解けているようで一安心する。 
璃王も一応はちゃんと考えてくれたということか。 
またいきなりされようものなら心臓がもたないところだった。 

「同盟…?」 
その言葉に訝しさを覚えるも、再度ルリアの口から出た璃王と友だち発言に少しばかりため息を吐く。 

「この間の件でわかったと思いますが、璃王の言葉は無闇に鵜呑みにはしないほうがいいとだけ忠告しておきます…」 
一応言ってはみるものの相手はあの璃王だ。 
騙される時は騙されるのだろうなと内心諦めも混じっている。 

「…何か言われたら一度確認してください。出来るならば僕に」 
それが唯一の防衛手段だろうか。 
僕にとっても、彼女にとっても。 


【ルリア】 
確認して下さい、僕に 
そんな言葉にまた体温が上がる 
……傍に居て良いんだって思えるから嬉しい 
「そ、そうです…!同盟です!」 
何のとは流石に恥ずかしくて口にしない 
そのうち璃王さんから伝わるかもしれないけどそれで構わない 

「…確認はそうですね。した方が良いかもですね…!あの人ちょっとからかうの好きですし」 
意地悪な人 
でも、優しい人。でなきゃ今、こんな風にステイリーさんと話せていない 

「でも…あの人は冗談で傷付ける真似は絶対しないですから 
だから…信じれる人だと思います」 
貴方の友達だから余計に 
その一言を心で呟いた 


【ステイリー】 
「それはまぁ…否定はしません」 
誰かを傷つけるような冗談や悪戯をする奴だったら友人なんてやっていない。 
あれはあれで友人想いなところがあるのは知っている。 
だからこそルリアさんにまた何か吹き込まないか心配なのだが。 

同盟の件は聞きそびれたがルリアさんのことだ 
そんなに心配するほどのものでもないだろう。 

それにしても…友だちを作ったほうがいいとは確かに言ったけれど 
まさか最初の報告が璃王だとは思いもよらなかった。 
自分としては同姓のつもりで言っていたから…少し微妙な気分だ。 


【ルリア】 
やっぱり二人は仲良しなんだなってその一言で伝わった 

そして友達の話をしてたから思い出した 
ポケットのお守りの鏡を手に取る 

「そ、そうです…!あとですね、エリザさんとも友達になって貰えたのですよ…!勇気が出るお守りを貰ったんです…! 
これなんですが…凄く綺麗ですよね」 

私の宝物になったそれを、ステイリーさんに差し出した 


【ステイリー】 
「エリザ…」 
ラウンジでの騒動が蘇る。 
ちゃんと話したことはないがどことなくトラブルメーカー臭しかしない人物。 
確か最初に話しかけられたときもたちの悪い冗談だったし 
どちらかというと璃王側の人間といってもいいだろう。 
…この娘はどうしてこうやっかいな人間とばかり友だちになるのだろうか。 

差し出された鏡を受け取る。 
確か彼女は鏡を媒介にする魔法を使っていたはずだが…見る限り特に何もなさそうだ。 
まぁなにはともあれ同姓の友だちが出来たのだ、素直に喜ぶべきか。 

「そうですね…街灯の光が反射して輝いて、とても綺麗です」 
嬉しそうにこちらを見るルリアによかったですね、と鏡を返す。 


【ルリア】 
エリザさんの名前を聞いて複雑そうな顔をしたのは見間違いじゃないだろう 
鏡を受け取り彼女の良いところをあげてみる事にした 
「え…エリザさんは優しいんです…! 
逃げた時追いかけて来てくれてくれましたし…!」 
そういえば逃げるきっかけも彼女だったけど… 
それで自覚のきっかけになったんだよね… 

「お、お守りくれて…それで私…好きって言えて……」 
馬鹿、私、今この話題出してどうするの!? 

「あ…あの…えと… 
一回振られた後も慰めに来て頂けて……」 
……自分のこの地雷の踏み方はいかがな物なんだ……… 

「な…中庭でも…一緒に居てくれて……」 
………ダメだ………気まずい………… 

「………すみません……」 
違う、本当はもっと話したい 
ヴェルノ様と話した事、サシェさんと皆さんのやり取り、イブキさんにタローさんを抱っこさせて貰った事 
色々 

けど、一気に起こしてしまった変化が普通にはさせてくれない 
傍にいるって、強くなるって決めたのに 
弱いままじゃいけないのに、私は俯いて黙ってしまった 

私が好きになったから、変わってしまった関係は私のせいでなかなか上手くいかない 
それなのに気持ちは止まらない 


【ステイリー】 
「そう…、ですか…」 
気持ちが表に出てしまっていたのか必死にエリザの弁解を始めるルリア。 
しかしどんどん話題が気まずい方向へ流れていって思わず顔を背ける。 

今まで通りの関係を望んだのは自分なのだから 
今まで通りに接しようと出来るだけ平常心を保とうとしていた。 
だけどあの出来事はそう簡単に元に戻させてはくれない。 
いや、自覚してしまって想いも伝えてしまったのだから元に戻るなんて元々無理なことなのかもしれない。 
それなのに僕の我儘でルリアさんに無理を強いてしまっている。 
いっそのこと、何も話さず突き放してしまっていた方が彼女にとって良かったのかもしれなくて。 

「こちらこそ……すみません…」 
俯いてしまった彼女に、謝るのが精一杯だった。 


会話が止み、気まずい沈黙のままルリアの寮の前に着く。 
「それでは…」 
言葉短く逃げ出すように、自分の寮へ足を向けて歩き出した。

【ルリア】 
「あっ……!」 

無言のまま着いてしまった道 
去ってしまいそうな背中のマントをとっさに掴んでいた 

「あ…あのあの…その…!」 

まるで最初に戻ってしまったように上手く話せない 
こんなじゃいけないのに 

気持ちを諦めたら楽になれる? 
でも、そんなの無理だ 
好きで、好きで仕方ない 

恋人じゃなくていい 
貴方に他に大切な人が出来ても構わない 
ただ、ただせめて傍にいさせて 

「また…明日…!」 

 

 

困らせてゴメンなさい 
でも好きでいさせて下さい 

言いたくなる言葉を飲み込んだ 
返事も待たずに寮に振り向かず駆け込んだ 
明日は、次こそは普通に戻ろう。そう思いながら 


【ステイリー】 
引っ張られる感覚を覚えて後ろを振り返る。 

そこには言い淀む彼女がいた。 
まるで最初の頃のように。 
そこまで彼女に気を使わせてしまっているのかと、胸が痛む。 

振り絞って彼女が出した言葉は明日への言葉だった。 
それでもまた、明日を望んでくれるというのか。 

…僕の選択はどうすれば正しかったのか、考えてもわからないし、考えても今さらだろう。 
今は気持ちに応えられない僕の傍をそれでも望んでくれた彼女に 
何をあげることが出来るのか、それを考えることにしよう。 

とりあえず、また前のように話せるように、前のように傍にあろう。 
彼女が他の誰かを望むまで。 

「……また明日」 

星空の下、もういなくなってしまったルリアに向かって、そっと呟いた。 


Fin. 

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