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好きだって伝えあった想い 
傍に居続けて、恋の熱はますます上がっていくばかり 
私はいつまで、この人の傍で友達の顔をしていられる? 

いつまで 

隣に居ても、許される…? 




それはある日の事、ぽかぽかした陽気で温かく、心地よい午後 
講義が休講になって暇が出来たからいつもの図書館の狭い部屋に入り本を読んでいた 
誰もいないし遠慮なくソファーに横になる 

「ちょっとした贅沢みたい…」 

好きな本を読んで、人目を気にせずのんびりする 
陽気につられて少しづつ目が閉じてくる 
栞を挟んで本を抱きかかえる。少しだけ。そんな睡魔の誘惑に身を任せる 

目が覚めたら続きを読んで、それから明日のお弁当の食材を買って帰ろう 
週に一度程度作ってる恒例になった私の好きな人へのお弁当 
それを作る楽しみは材料の買い出しから始まってる 

お互いの内心はともかく一応は普通に日常は流れてる 
…こういう何でもない日常って…幸せだな… 
友達もいて、好きな人が傍に居てくれて… 

”それで良いの?”と自分の中に潜む不安が問いかける 

”だってあの人は、私を選んでくれないのに” 
”きっと、その内手放されるのに” 

首を振って考えを追い出す 
それでも、見返りがなくても好きでいて、傍に居たい 
私は大事な恩人にそう言いきった。ならばそれを貫き通すだけだ 

その時が来るまでは…… 

そんな事を考えながら私は夢に落ちて行った 



誰かの気配を感じて目が覚めたら…考えていた人がどアップで目の前に居た… 

「………うひゃあ!?」 

慌てて飛び起きると相手も吃驚して顔を真っ赤にして離れた 

「…す、すみません…!な、何もしてないですから!」 

「?何も…?」 

「…何でもないです…」 

な、何なのだろう…? 

「…それよりもう何度目かは忘れましたがいい加減無防備を何とかして下さい…。誰が来るかわからない場所なんですよ?ここは…」 

「す、すみません…」 

うう、私はいつになったらこういう心配をかけずに済むようなるのだろうか…? 
うっかり気を抜きすぎてしまった…! 

「あ、あれ?ステイリーさんも休講になったんですか…?それとも空き時間ですか?」 

「…いえ、もう講義は終わりましたよ?」 

「え…?」 

慌てて時間をみたら…そりゃあもう吃驚するくらい時間が経っていた…!な、なんていう事だ…!! 

「…あー!!この時間ならもうお店しまってる…!!」 

な、何たる事だ…!!明日の買い出しが…!! 

「疲れていたんでしょうね。このまま寮に帰って布団で寝たらどうです?」 

「…済みません…ステイリーさん…。明日…お弁当作る日だったのに…」 

「いえ、良いですよ。そうしたら普通に食堂行きますから」 

「…でも…」 

明日、会える口実がなくなってしまった 
それが少し切なかった。今会えても、傍に居ても 
もっと会いたい。傍に居たい。そんな気持ちは際限なく膨れてくる 
それに食べた後笑って感想を言ってくれるのも楽しみで… 

「あ、明後日作りますから…!」 

「たまには休んで良いんですよ…?」 

「い、いえ…!訓練は日々するものなのです…!!」 

相変わらずの子供じみた言い訳。それでも相手に何かがしたい 
ちょっとでも近づく言い訳が欲しい 

「ですが…毎度毎度貰ってばかりですし」 

「い、いえ!私の為の特訓なのですから…!」 

「…そうですけど…」 

ステイリーさんは義理堅い。悪いと思うと何かせずにいられない人だ 
…まぁそれは私もなんだけど…。そういうとこがお揃いなんだよね…私達 

「…うん。ルリアさん、今度出かけませんか?」 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・こ、これはもしや・・・・・・・よ、世に言う・・・・で、で、でぇと・・・・のお誘い・・・・・・・・・・・・? 

いや違う(断言) 

私達は両思いではあるけど付き合ってはいない 
だからそういう一線は決して越えない 
つまり…お礼の何か品を購入するのに付き合って欲しいといったところだろうな 

「い、いえ…!本当お返しとか考えなくて良いんですよ!?この髪の星貰ってるだけで十分ですから…!むしろ魔法まで教わったりしてますし…私のが何かをしなくては…!」 

「いえ、それこそ僕が好きでやってるだけなんですし…」 

「で、では私だって好きでやってるだけです…!」 

何だかよく分からないことで言い合いお互いを見詰め合う 
少しの沈黙の後、なんだかおかしくて笑いが出てきてしまった 

「何言い合ってるんでしょうね、私達」 

「そうですね」 

お互いくすくす笑いあいながらくすぐったさを感じている 

「お互いに感謝してるって事ですね。何か…良いですね、そういう関係」 

「…そうですね。良いんでしょうね…」 

そういいながら何か少し物憂げな顔をする 
互いを求める感情が強くなるほど募る、不安 
遠くを見られるのが嫌で、寂しくて袖口を握り締める 

疑問の顔をする彼 
私は俯いていい訳を探すけどうまく見つからない 

「…え、えと…何となくです…」 

やんわり指を解かれ俯いたら、そのまま頭を撫でられた 

「…あの?」 

「…何となくです」 

「…そうですか…」 

嬉しくてそのままされるがまま撫でられる 


”もっと” 


そんな溢れる欲求から自然と身を寄せる 
でも相手のとまどう気配に我に返ってあわてて離れる 

「す、すみません…!…私ってばまた…」 

イブの時もバレンタインの時もよっかかってしまった 
今度は何でもない時なのに… 

「い、いえ…。人恋しい時もありますよ…」 

彼の中でそういう事になるみたい 
近くにいれるのは”友達だから”その条件が前提なんだ 
相手の気持ちを考えればそれは当然で仕方ない 

自分を責める気持ちは分かる。分かるのに 
恋はそれを少しずつ曇らせ自分の欲求を強く生み出してくる 
溢れてくる気持ちにまた強く蓋をして気持ちを切り替える 

「そうですね…。ちょっとホームシックかもですね」 

冬は期間的に帰省しなかったからちょっと家が懐かしいのも本当だ 
お父さんとはその冬の時あったけど村の皆にだって会いたい 

「そうですか…。夏は帰るんですよね?その時までの辛抱ですね」 

「そうですね。流石に夏休みは帰省します」 

…その間ステイリーさんに、ここの友達に会えないのはちょっと寂しい 
ここから離れるのを寂しく感じるくらい私はここの生活に馴染んだ 
最初は友達も作れず魔法もろくに出せなくて情けなくて仕方なくて帰りたくなった。でも今じゃ自分の為に何かをしてくれる友達が出来て、恋をして…楽しくて仕方ない 

思えば随分自分の世界は変わった 
全ての切欠はやっぱり目の前の人に貰った 

…あ、やっぱり私この人が好き 

そんな事を何でもない会話でも自覚する 

「そうですか。じゃあそれまでの楽しみですね」 

「そ、そうですね…!!!」 

そんな私の内心を知らない彼の返答に妙に挙動不審をしてしまう 

「?あ、そういえば新しい本入荷したの見ました?」 

「あ、は、はい…!まだちょっとですが…!魔法理論の本が面白かったです…!!」 

「そうなんですか」 

「あ、よければとって来ましょうか?貸し出されてないかもですが探してみますよ…!」 

「あ、僕も行きます。ちょっと探したい本があるので」 

「は、はい…!」 

慌てて出ようとしたらつまずいて転びそうになる 

「わわ!?」 

衝撃を覚悟したけどその前に後ろから腕に引寄せられた 

「…危な…っ。大丈夫ですか?」 

「す、すみませ…!」 

顔を上げたら顔が凄く近い 
…前にもこの部屋で顔が近かった事あったな… 
なんて考えてから一気に顔に熱がともる 

「すみません…」 

「…あ、い、いえ…」 

ゆっくり体勢を直す。でも、腕に居れるのが心地よくて何となく動きにくい 
ダメだ、離れないと。この腕は私のじゃないんだから… 
自分に一生懸命命令してゆっくり離れる 

「…え、えと…」 

「行きましょうか…」 

彼は顔を真っ赤にしながらも、それでも私を振り切るように先に部屋から急いで出た 
寂しく感じた気持ちにまた蓋をする 
そして私達は共に部屋から出て広い図書館に出た 



「えと…あ、あった…」 

新書用の棚から目当てを見つけて本を引っ張る。上の方にあるから上手く引き抜きにくい 
けど、整理したてなのか、誰かが無理矢理入れたのか 
本がギチギチにつまってて上手く取れない 

「僕が取りましょうか?」 

「い、いえ…!あと少しですので…!」 

これ位自分で出来なくては…!そう思いあとちょっとだからと一気に引き抜いた 
それがいけなかった 

目の前で一蓮托生と言わんかごとく本がスローモーションのように自分に降ってくる 

「危ない!!」 

「え!?ひゃ、ひゃー!!」 

とっさにステイリーさんが私を庇う 
あ、あれ!?本に潰される彼も前に見たような!?なんて感傷に浸る間もなく本がなだれてくる 
それだけだったらなんとも無かっただろう 

けど、落ちて来た本の一冊が運悪く彼の頭に当たる 

「あ、危ない…!」 

支えきれる自信はない 
とっさに頭だけは打たないよう倒れこんだ 

「大丈夫ですか!?ステイリーさん…!?」 

急に起こすのはまずいかも知れない。声をかけてみる 
頭を押さえながら彼はゆっくりと上体を起こした 

「…っ……だ、大丈夫です…。すみません、ルリアさんは?」 

「大丈夫です…。すみません…」 

周りに居た人も心配そうに私達を気にかける 
途端に今押し倒されてる体勢なのに気付いて一気に恥ずかしくなる 

「す、すみません…!今本戻しますから…!」 

慌てて動いたのがいけなかったのか 
ステイリーさんが手の支えにしてた本が滑った 

「え!?」 

「っ……!?」 

彼はそのまま体勢を崩した 
そして・・・・・ 

ほんの一瞬だったと思う 
微かに触れた程度な気がする 


でも、確かに 


私達の唇が…重なってしまったのだった・・・・・・・・・・・・・・ 

                                 
      
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…どうしよう 
どうしよう 

今、確かに 

私…初めての・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 

「え、えと………」 

ステイリーさんが顔を真っ赤にしながらどうにか体を上げた 
目線が合う 

心臓が一気に高鳴り顔は火を噴きそうなくらい熱くなった 
言葉を探すけど何も出ない 
金魚みたく口をパクパクさせて…私は… 

「し…失礼します…!!」 

この上なく神がかり的な今まで出た事もない火事場の馬鹿力を出し、彼の下から脱出して飛び出た本を一気に整理していく 
その勢いに押されたのか、気配でステイリーさんも立ちあがって本を戻すのが分かった 
普段なら倒れた拍子に怪我してないかな?とか気にする場面なのだが今の私にその余裕はなかった 

心配してくれたギャラリーが大丈夫?と言いつつ何人か手伝ってくれてそれに彼に顔を向けないようありがとう、と答えつつ手を止めない 

手にした本の一冊が偶然にもその前に話していた本だった。それだけ別にする 
周りの協力もあり一気に片付いたそこ私はステイリーさんをちょっとだけ見て本を押し付けた 

「こ、これが先ほど言ってた本です…!!す、すみませんでした!では…!!!」 

何かを言わす間もなく私は久しぶりに逃げ出したのであった…… 


どうしようどうしよう 

初めて、だった 

人形で人工呼吸の練習の講義はあったけどあれは人じゃない 
人はもっと違った温かかった… 

口元を手で押さえながら部屋に戻り、着替えもせずに布団にもぐりこみ目を閉じたのだった… 
その内心は…私は…本当は…嬉しいなんて感じてしまってる… 



「はぁ…」 

出るのはため息ばかりあれから気まずくてステイリーさんと会ってない 
お弁当は結局作れなかったし顔が合わせにくいでどうしたもんだか… 

「あ、ルリちゃんまで暗い顔してるー」 

「クローシアさん…」 

いつも明るく可愛らしい彼女。 
…彼女は今はルスさんの事をどう思っているのだろうか… 
ルスさんと付き合っていたクローシアさんはルスさんの病が原因で別れたとステイリーさんが言っていた 
私なら、そんな形で別れたら笑顔でいれるのだろうか…? 

「だーめーよ?そんな辛気臭い顔してちゃ!折角ミスコンで賞まで取った美少女なんだから♪」 

うぅ…。それは自分としては恥ずかしいのだけど… 

「び、美少女かはおいといて…その…すみません…」 

「謝る事じゃないわよ?うーん…ねぇ、ステちゃんと何があったの?」 

いきなり確信を突かれてむせそうになった 

「な、何でですか…?」 

「ん?さっきステちゃんに会ったらステちゃんもルリちゃんと同じよーに辛気臭かったから☆」 

…相変わらず反応がお揃いな私達…。う、まずい。そんな事に頬が緩みそうになる…!! 
…自分は恋してかなり馬鹿になってる気がしてならない… 

「え、えと…大した事では…」 

「本当にぃー?」 

う…うう…クローシアさんの目線がじっと自分を捕える 
う、嘘はやはり苦手だ…!!ど、どうしたら…!! 

「も…黙秘権を行使します…!!」 

「んー…そう来るのね…じゃあこれだけ。喧嘩したの?」 

その目はやっぱりルスさんにステイリーさんが好きか聞かれた時と同じで、友達を思いやっている真剣な目だ 

「…いいえ。喧嘩じゃないです。…ただ…その…ちょっと…事故で…えーと…密着し過ぎてしまって…気恥ずかしくて…相手に悪いだけです…」 

う、嘘は言ってない…!うん!!密着というか触れたのは…唇だけど… 
思い出したら顔が真っ赤になってぼふん!となってしまった。 
う、ううぅ…恥ずかしい…!! 

「ふぅん?そう?なんかステちゃんもルリちゃんもやたら思い詰めた顔してたし、ステちゃんがついに狼になっちゃったのかと思ったわ。でも二人は思った以上に純情な付き合いだったのね…!」 

「す、ステイリーさんは狼になんてなりませんよぅ…!…そ、その…彼女でもないのにそういうのはいけないのに…と考えただけで…」 

「なーに言ってるの!両想いなんだから悪いも何もないの!ステちゃんってばいつまで遠慮してるんだか…」 

彼女に伝えられたのは告白したけど振られて友達付き合いを続けている。それだけだ 
ラウンジで公開告白した以上彼女に隠したっていつか分かる事だ 

多分私の言いまわしも加わりステイリーさんは公開告白に照れて振ってしまってそれ以来そのまま。という認識になってるんだと思う 

遠慮…彼が感じてる気持ちはそこよりもっと深く、重い気持ち大切な人の幸せを奪った贖罪と懺悔。自分を何より許せない故に生まれる自責。 
それは私の目の前の彼女にだってきっと 

「え、えと…でも…そうだとしても…許されない気がしてしまって…」 

そして私も分かっててもなお相手を求める 
一人にしたくないその気持ちに嘘はない。けど今は…もっと単純に…好きな人と離れたくない 
だからその先には踏み込まない 

「真面目ねー…。だったらもう一回告白しちゃったらどうかしら?今度は二人きりで!」 

そ、そう来ますかーーーー!!!! 

「い、いえいえいえ…!そんなそんな…!!」 

「それじゃあ駄目よ!良い?ルリちゃん!青春は待ってくれないの!一度きりなの!絶対ステちゃんもルリちゃんが好きだから大丈夫!ほら、これあげるから!」 

彼女の手から出されたのは何かのチケットだったいつものファッションショーかな?と思ってよく見たらそれは… 

「…遊…園……地………?」 

この学院から列車で少しの場所にあるという遊戯用施設が集まった楽しい場所…だったと思う 
そこは門をくぐると夢の世界だとか…とても楽しい場所だとか… 

「そう!デートスポットの定番よ!一回ちゃんと話しあって、仲直りしちゃった方がいいわよ?」 

…告白はあれだけど、このままでは居たくない 
誘いは良い言い訳とはちょっと違うけど…切欠にはなるのかもしれない 
…というか…遊園地って行ったことない…。行ってみたい… 

「あ、でもこういうチケットってお高いのでは…!?」 

「大丈夫だいじょーぶ!それ貰い物だから!友達と行こうと思ってたけど二人にあげるわ♪その代わり、ちゃんと二人が元気になってくれればいいの♪」 

…良いのだろうか…?しかし好奇心は止まらない。行ってみたい…。ステイリーさんと話したい 

「じゃあしっかりね!あ、日付決まったら教えてね?とびっきりのお洋服、特別価格で提供してあ・げ・る♪」 

「ええええ!?」 

「じゃあねー♪」 

言うだけ言って彼女は去ってしまった 
でも多分、これはステイリーさんを心配しての事だと思う…彼の友達は本当に優しい人が多いな… 

チケットを握りしめ、私は思い切って動く事に決めたのだった 



後日覚悟してラウンジにいた彼を連れ出し二人きりになる 
ま、まずは…ずっと練習してきたこの言葉から…!! 

何かを言おうとするステイリーさんを差し止めてとにかく口に出す 
顔が見れないがそれはもう仕方ない…!! 

「あ、あの…!この前はステイリーさんの大事なもの奪ってしまって申し訳なかったです…!!!」 

「え、えと…いえ、大変なのはルリアさんの方でしょう…?女の子なんですし…」 

「い、いえ…初めてではありましたが…嫌ではなかったので…」 

…顔が熱い…。そういえばステイリーさんって…経験あるのかな…?う、考えない考えない…!! 

「え、えとそれは…」 

「あ!!え、えとそ、それでですね!話は変わるのですが!!く、クローシアさんから…その…チケットをいただきまして…」 

とチケットを差し出す 
…しまった 
とてもまずい 
誤魔化すようにチケットを差し出したけど…この流れで行ってくれる気がしない…!! 
ど、どうして私はこう上手く誘えないんだろうかー!! 

「…遊園地…?」 

「そ、その…仲直りにいいと…」 

言い訳にしては弱すぎる 
いくらなんでも私だってここが恋人がデートによく行く場所という事程度は知ってる 
つまりはあれだ…前の言葉じゃないけど…デートみたいなものを…してみたくなったんだ… 

暫しの沈黙が痛かった 

「…すみません…ダメですよね…。返してきます…お、お気になさらず!私は大丈夫ですので。はい!」 

無理矢理チケットを奪おうとしたらその手は逃げた 

「いえ…行きたい、ですか?」 

私は慌てて首を振った 

「…気を使わないで下さい…!」 

本当は行きたい一緒に遊んでみたいでもそれは踏み込んだ先 

「…お詫び、です」 

恐る恐る覗いた表情はいつもよりちょっと困った感じだけど、嫌ではなさそうだ 

「お詫び…?」 

「そ、その…事故の…」 

その事故の意味がわかって互いに真っ赤になった。また下を向いてしまう 
キスのお詫びに遊園地ってどういう… 

「行きたいんですよね?なら、これで償えるとも思えないですが…何でも我儘聞きますし」 

顔が自然と真っ赤になっていく 
本来なら遠慮しなきゃいけない場面だって分かってる。それでも…一緒に行きたい 
その我儘が私を突き動かす 

「…貴方が…それで行ってくれるのなら…」 

「…はい」 

そういう事だから、一緒に行く 
こじつけだな…とか思わなくもない。けど嬉しい 

「…で、では…一緒に行ってください…!!な、仲直りして欲しいです…!!」 

ステイリーさんはいつものように笑って、頷いてくれた 

そして初めてのキスから、初めての遊園地に行くことになった 



この時、そんな我儘我慢しきれていたら、何かが変わっていたのだろうか? 
それでも、結果は変わらなかったかもしれない 
でも、もしかしたら、もっと引き伸ばせたのかもしれない 

私達のその時を 



当日 
クローシアさんが作ってくれた可愛らしく明るい色合いの服に身を包み、こういう場所では手作りお弁当が良いというアドバイスによりお弁当を手に持った。待ち合わせ場所に急ぐ 
髪型を迷って結局いつも通りに落ちついて予定よりちょっと遅く出たけどそれでも時間前 
目当ての人はもういた 

「ステイリーさん…!!」 

声をかけて小走りで近づく 

「おはようございます、ルリアさん。早いですね」 

「い、いえ…!ステイリーさんこそ…!」 

「ちょっと早く目が覚めてしまって…」 

ちょっと照れたような仕草に心臓がぎゅっと掴まれたような感覚になる 
今日は…一日一緒に遊べるんだ…。う、嬉しい… 
うっかり頭にキスの事が浮かびかけるけど頭をふって追い出す 

「荷物、持ちますよ?」 

相手の目線は手元のお弁当 

「い、いえ!自分で持ちますので…!」 

「良いですから。こういうのは男の役割ですし今日はお詫びなんですから、頼って良いんですよ?」 

そう言って手から荷物をとられる 
…こんな始めっから…心臓がもたなくなりそう…。この人は、ちょっとずるい… 

「で、では…お願いします…」 

素直に甘えてみる。そうしたら嬉しそうに笑ってくれた 

「はい。では行きましょう」 

こうして私達は列車に乗って少し先の目的地に向かった 
列車の中ではあらかじめ古本で買ったガイドブックを片手に乗りたいものや見たいものを相談して、着いたその先は…とても楽しそうな場所だった 

賑やかな音楽、楽しそうにしている家族連れ、恋人、友達 
大きな乗り物が沢山あって皆笑顔でいる 



「わぁ……」 

「もしかして初めてですか?」 

「え!?あ、は、はい…。す、すみません田舎者で…」 

圧倒されていた自分がちょっと恥ずかしい。初めて学院に入った時も暫く動けなかったりしたし… 
うぅ…分かってはいたけど私は本当田舎者なんだなぁ… 

「いえ、別に悪い事じゃないですよ。では先ずは荷物を預けて行きましょうか」 

「はい…!!」 

そうして私達は並んで一緒に歩いて行った 



「…大丈夫ですか?あれに乗るんですよ…?」 

ステイリーさんが指差すのは高速で動く天井のない汽車のような形をした魔道具の乗り物 
一番人気のジェットコースターだという 

「だって落ちないようなっているんですよね?」 

安全の為の装置はしっかりしているとの評判だ 

「はい…。けど…怖がりそうな気がしたので…」 

確かに見るからに速く動きまるで自由に動いてるようなそれに乗るのは怖いのかもしれないけれど 

「でも…興味あるので…!一番人気という話ですし覚悟は決めてきました!!」 

握りこぶしと共に力説する 

「そうですか…。なら良いですけど」 

順番がやってきて私達はベルトと魔法でしっかり固定される 
緊張するけど楽しみで仕方ない 

係員さんが行ってらっしゃーい!と元気に言うとそれは動き出した 

「わ…!!」 

最初はゆっくり、でも徐々にスピードが上がっていく 
そしてそれが急降下を始める瞬間、私の絶叫が響き渡ったのであった… 



「…だ、大丈夫ですか…?」 

終わったあと、憔悴しすぎて上手く立てなくて後の人の邪魔になるので彼の腕を借りてなんとか歩いてベンチに座った 

「だ、だ、大丈夫…です…」 

面白かった…んだと…思う…きっと… 
ただ初めての体験に心臓はもの凄いバクバク言ってるし体はやっぱり怖かったと言わんかごとくに力が抜けてる 

「…いきなりあれはまずかったですね…。すみません、僕がもっと気を使ってれば…」 

あ、また勝手に自分のせいにしてる…責任感強いのは良い事だけど… 
それじゃあ本当に潰されそうで見ててとても怖い 
私は相手に寄り添って目をしっかり見る 

「でも、乗りたいって言ったのは私です…。怖かったですけど楽しくもありましたし…だから良いんですよ。こういうのも…その…良い思い出になりますよ、きっと」 

「…そうですか…?でも今は大分ぐったりさせてしまいましたし…」 

「そうなんですよ!…大丈夫ですから…!!」 

無理やりにでも立ちあがる。多少めまいはするが立てない程じゃない 

「ほら、ね?」 

「あ、いえ、無理しないで座ってて下さいって」 

私はむりやり手を握られてまたベンチに座らされた 

「ステイリーさん…?」 

じっと顔を覗かれてなんだか落ち着かない 

「飲み物買ってきますね。ここで大人しく待ってて下さい」 

「え!?い、いえ…!行くなら私も…!」 

「いいですから。大人しくお願いしますよ?」 

「…はい…」 

しっかり念を押されてしまった…どうして自分はこう上手く立ち振る舞えないのだろうか… 


「ねぇ、君大丈夫?具合悪いの?」 

一人で俯いていたら知らない人に声をかけられた 
私は首を振る 

「すみません、大丈夫ですから…」 

酔ったからより置いていかれた方が自分にとって重く感じる… 
呆れられたのかな?とか、すぐ戻ってくるのにちょっとでも離れるのが寂しいとか 
自分はやっぱり我儘だよなぁ…とか思うとますますしょぼくれる 

「そう?君一人?連れは?もしかして振られちゃった系?」 

一人という言葉にちょっと棘が刺さるけどそれは出さずに首をふって否定する 

「良かったら俺と一緒に遊ばない?俺も今彼女にふられちゃってさー」 

……振られてなんですぐ他の女の子に声をかけるんだろうか…?というかこれは世間一般で言う…ナンパ…なのかな…? 

「飲み物を買いに行ってくれてるだけで…すぐ戻ってくるので…」 

「あ、じゃあ喧嘩しちゃった系かぁ。そんな男より俺と遊ぼうよ?折角の楽しい場所なのに君をそんな俯かせる男より楽しませれるよ?俺」 

…なんだかちょっとカチンと来た 

「俯いていたのは乗り物酔いしたからなだけです…」 

「無理させられたんだ、酷い彼氏だねー。そりゃ喧嘩しちゃうよね!」 

「だから…!」 

勝手に決め付けるような言い回しに流石に立ち上がって抗議しようとする。けど 

「ほらほら、行こうよ。酔ったならゆったりしたのがいいよね?」 

無理矢理手を引かれてつれられそうになる 

「いえ、私は…!やめてください…!」 

抵抗しようにも力では敵わなくて何とか振りほどこうとしても上手くいかず反動で転びそうになったのを誰かが抱きかかえて支えてくれた 

「…僕の彼女に何か御用ですか…?」 

…ミスコンの演劇コーデ時の比較にならない黒いオーラを発したステイリーさんだった… 

「え、い、いや…具合悪そうでその…」 

「そうですか。有難うございます。後は僕が看ますので」 

そう言い切って彼は私の肩を抱いて歩き去るのであった 


私たちは少し離れたら肩を離されベンチに二人で腰掛けた 

「…すみませんでした…。あぁいう輩はああ言わないと引かないと思ったので…」 

「い、いえ…助かりました…!」 

まるで恋愛小説みたいな状況だった… 
改めて理解が追いつくと顔が一気に真っ赤になっていく。相手の顔もこの上なく真っ赤だ何となく唇に目が行ってしまいますます赤くなる 

「…これ、どうぞ…」 

真っ赤な顔した彼が手渡してくれたのは、見るからにイチゴ味の飲み物だった 
…私の好物知っててくれてるんだ… 
それだけ。それだけなのに泣きそうに嬉しくなる 
さっきまでのしょぼくれた気持ちとか、身勝手な我儘に対する自己嫌悪とか、こんな小さな事で全部ふっとんでしまう 

「…有難うございます…!」 

クリスマスに彼が望んだ笑顔をしっかり向ける 

「…はい」 

私が笑うと相手も少し困ったように、照れくさそうに笑ってくれる 
それが本当にたまらなく愛しい 

口に入れると太いストローから苺の潰した実が口に入る 
甘くて、でも爽やかでとても美味しくて一気に飲めてしまった 

「…。うん、エネルギー補給完了です!次はどうします?」 

「…もう少し休んでからですからね?えと…絶叫系じゃなくてゆっくりできるのが良いですよね…」 

そう言ってマップを眺める二人で一つのそれを眺めて 
ふとまた顔近いな、と思った緊張はした。けど離れたくなくて、お互い気付かないふりしてそのまま話を続けていた 



それから私達は色々な乗り物に乗ったり施設を楽しんだ 

小さくなる魔法をかけられ巨大な世界を楽しむ施設では小人の気持ちが体験出来て面白かった 
ドラゴンのような形の魔道具が運ぶ籠にのって園内を空から見下ろした時は本当に景色に感動した 
最後に水の精霊が現れ歌を歌ってくれるゴンドラでは乗り降りの時、手を引いてくれた 
馬型の魔道具がぐるぐる飛んだりしながら回るメリーゴーランドにはステイリーさんがちょっと乗りたがらなかったけどしょぼくれたら折れてくれた 

園内はどれも目新しく楽しい物がたくさんだった 

外で食べるお弁当は美味しかった 
残さず食べてくれたのが嬉しかった 
頬についた食べ物をとって貰った時はくすぐったくなってお互い真っ赤になっていた 

ゲームセンターに入ってみたらいいな、と思ったマスコットをとってくれた。さすが流星のステイリーさんは伊達じゃないですね…!と言ったら渋い顔をされてしまった… 
迷路になってるミラーハウスはとても迷って最後は時間切れになってしまった 
お化け屋敷はどうです?と勧められたけど怖いのは嫌でいやいや首を振ってしまった(結局入らなかった) 
他にも魔力がなくても飛べる箒や魔道具を使って幻影の敵を倒すアトラクション、兎に角色々二人で楽しんだ 

最後にゆったりと観覧車乗る…今日は本当楽しくて、嬉しくて終わりになってしまうのが寂しい 

「…もう大分暗くなりましたね…」 

「…そうですね。疲れましたか?」 

「…多少は?でも楽しかった疲れですから大丈夫です…!」 

「…それならその…一ついいですか…?」 

「?なんです?どうぞ…!」 

ステイリーさんから何かを言い出すのは珍しい気がして全力でくいついた 

「いえ、今日でなくとも…とは思いますが…流星群が来ているので見て帰れないかと…」 

…もしかして、ステイリーさんもまだ、離れがたく思ってくれたのだろうか…?それならとても嬉しい 
私は一にも二にもなく頷いた 

「はい…!星一緒に見たいです…!!」 

「…良かった」 

きっと今私たちはお揃いに、くすぐったくて嬉しい気持ちでいる 
私はそう感じて嬉しくて嬉しくて仕方なかった 

出る際ゲートをくぐるのがちょっと寂しかったけど、まだ一緒にいれるまたきっと来れる。そう思って最後に一回振り返って目に焼き付けておいた 



学院に戻って空がよく見える高台の小さな椅子が一つあるだけの場所 
二人揃ってなれたように椅子に座り用意してきた温かい飲み物に口をつける 

「あ、流れ星です…!!」 

「そうですね」 

二人で星を指差しながら夜空を隣で眺める 

わずかに伝わる相手の熱にドキドキするこうやって近くにいれて、今日は一日楽しくて 
幸せだな…そう深く感じて実感する 
私はこの人がいるだけで…それだけで… 

「あ…雲が…」 

見上げる空に雲がかかる星が隠れてしまう 

「…予報じゃ曇りでしたしね…」 

このままじゃ今日が終わってしまう 
まだ、一緒に居たい。その一心でどうにか考える 

「え、えと…では…流れ星作ってみます!」 

無我夢中だった動く映像なんて作れなくともそこは気合い! 

「…わが心映せ…」 

イリュージョンを使用し夜空を先ずは作る 
最近特訓しているのは平面だけでなく、もっと空間的に作る映像だ 
最終目標はルスさんの病室一面を夜空に出来たら…いいなぁ…と… 
が、願望は自由である… 

拳大の夜空を手元に作る 

「これで動く映像を流せられれば…」 

集中して何とか光を動かそうとするが夜空ごとやはりぶれる 

「うぅ…」 

魔法というのは一朝一夕に身につかない 
どんな技術でもそれは同じなのだろうが…私はなかなか習得が遅い気がしてしょげる 

「そのまま空間維持だけして下さい」 

ステイリーさんは私の映像に手をかざした 
そして何かを唱えると私の魔法の中に流れ星が流れた 

「わぁ…!!」 

キラキラと光る星がいつくも流れる 
空の奇跡が今手の中にある 

「…凄いです…!ステイリーさん…!!やっぱりステイリーさんの魔法は凄く素敵ですごいです…!!」 

「…喜んで貰えたなら…嬉しいです」 

「…嬉しいです…!本当に…。空が見えなくたって…私は…こっちの方が良いです…」 

空が嫌いな訳じゃない。けど私は手に取れる方がいい 

「…ルリアさんが喜んでくれるなら…いくらでも」 

「…あ、は、はい…!え、えと…はい…!」 

何だか妙に良い雰囲気でどぎまぎする 
少し疲れたのか集中を欠いて自分の魔法が消えてしまった 

「あ…。すみません…」 

「いいえ。無理はよくないですよ」 

流れ星も消えてしまってちょっと物寂しい 
髪についている星をいじる 
控えめな星は少し光が弱って来た気もする 

「かけ直しますか?」 

「あ、お、お願いしていいですか…!?」 

私は思わずいつもの癖で目を閉じて顔を相手に向けてしまった 
あ・・・・そういえばこれよくなかったんだっけ…。しかも私達は事故とはいえキ…キス…をしてしまったわけで… 

ちょっとした間のあとため息が聞こえた気がしてそのまま髪に手が伸びる 
恥ずかしくてゆっくり俯いていく 

「…今日、楽しかったですか…?」 

静かな夜の中、静かな声だけが私に響く 

「はい…。とても…」 

「…よかった…。僕は貴方をよく泣かせてしまうから…今日はお詫びでもあったんです…。楽しい思い出になれたなら…嬉しいです」 

顔が知らず熱くなる 

「…泣くのは…好きだからですよ…。貴方の痛みや苦しみも…自分のにしたい我儘かもしれないです…」 

「…貴方がそんなのまで背負う必要なんて…」 

思わず目を開けて袖を掴み相手を見つめる 

「…欲しいんです…。嫌…ですか…?」 

痛みでも、自責でも、苦しみでもこの人の大事気持ちなら自分にも分けて欲しい 

「…ステイリーさんは…私に笑って欲しいって…言いました…。私が笑いたい時は…貴方も笑ってくれる時なんです……ただ貴方が少しでも…一人で…苦しまないで…いてくれる事が大事なんです…」 

幸せになって欲しい 
でも自分の幸せを許せない相手にそれは言えないならせめて、孤独に痛みを抱えないでいて欲しい。我儘でも 

 

「僕は…貴方といると…それだけで…もう…」 

額がつっくいて、彼が何かを呟いた気がする 

手を頬に添えられて自然に見つめ合う 
頭は警鐘をひたすら鳴らしてる 

でも心が言う事を聞かない 

「…ステイリーさん…」 

お互いの目にはお互いしか映ってない 

「ルリアさん…僕は…貴方が…」 


もう、気持ちの蓋が抑えきれない 

自然に、それが当然のように唇が重なった 
どっちから求めたか分からない。多分互いに求めたんだと思う 

言い訳もきかない互いの意志で動いてしまった 
それはとても優しくて、温かくて、心地よかった 



暫くして離れてお互い何を口にしていいのか迷って 
先に口を開いたのはステイリーさんだった 

「・・・・・・・・・・・・・・送ります・・・・」 

私は小さくうなずくしか出来なかった 
ただ、無言で歩いて、寮の前でじゃあと別れた 
またも着替えもしないで布団にもぐりこむ 
…ただ、心臓が苦しくて、顔が熱くてたまらない 

この先を考えるのをやめて、ただ今この時だけは、恋に浸って眠った 
今日だけは、哀しい気持ちになりたくなかったから 



後日どうなったか聞いてきたクローシアさんにはとりあえず話すだけはしたと誤魔化し(赤くなったし何かしらは気付かれたかも?)数日してステイリーさんに呼び出された 

もう、予感はあった 
そうなるとは思ってた 

だって自分が相手なら、同じ事をきっと言うから 
いつも二人でよく使う小さな書庫の部屋そこで二人並んでソファーに座りながら、ゆっくりステイリーさんが口を開いた 

「…すみません…。僕は…もう…貴方と…一緒にいれません…」 

幸せになったら罪悪感が更につのる 
-友達なら-それが私達の関係の約束 
あの時の行動は、気持ちは、確かに友達を越えてしまった 

「…そうだと…思いました…」 

絞り出すように声を出す 
お互いに顔が見れない 
あの日以来ずっとずっと覚悟していた言葉は思っていた以上に痛い 

「…すみません…。守らせて欲しいって言ったのに…結局…僕が貴方を…一番傷つける…」 

私はゆっくり首を振る 

「…ちゃんと…今まで私は…嬉しくて…幸せでした…。私は…貴方がそういう人だから…大好きで…仕方ないんです…」 

私達を隔てる彼の罪悪感 
それは彼を傷つけ、苦しめる物 
でもなにより重くて大事な物 

私は彼のそういう気持ちを含めて好きになった 
大事な人を傷つけて、苦しめ続ける自分を許せない 
それでも、私を好きだって言って側にいさせてくれた 
きちんと応えれなくても、それでもこの人は私に恋を伝えてくれた… 

「私は…ステイリーさんが…好きです…」 

泣きたくない。なのに涙は勝手に零れてくる 
弱い自分のままじゃいけないと何度思っても…全く駄目なままだ… 

「…はい」 

「…私は…ただ…ステイリーさんが…少しでも苦しくなければ…」 

大好き 
大好き 

だから、もう一緒にいれない 

知っていた、分かっていた。いつかはこの日が必ず来る事を。それなのに…いざとなると口から上手く言葉が出ない 

「…御免なさい…ルリアさん…本当に…本当に…」 

ステイリーさんも本当に苦しそうに俯く 

「…いいん…です…」 
困らせたくないその一心で我儘を殺して必死に言葉を紡ぐ 

「…貴方は…優しくて温かい人ですから…きっとすぐに…もっといい人が見つかりますよ…」 

それは何より痛い言葉だった 

「…今度は…普通に恋して…応えて貰って…何も気にせず好きなだけ…甘えて…抱きしめて貰って…ただ笑って……そんな…そんな恋がきっと…貴方なら出来ます…」 

嫌だそんなの、そんなのより…自分が欲しいのは…例え未来がなくても…今の恋なのに… 

「僕は…貴方が幸せになってくれれば…それが、一番嬉しいです…。だから――」 

その先は言われたくなくて、手で相手の口を押さえ首を必死で振る 

「…ずるい…です…。貴方ばかり…私に…望むなんて…。私は…私だって…貴方が一人で…苦しまないで…ちゃんと…笑ってくれたらって…」 

涙が止まらない 
好きだから別れてしまう道が悲しくてたまらない 

「僕は…何も望むべきじゃないですから…。それでも貴方の事だけは…望みたいんです。…大事な…好きな人の事ですから…どうしたって…」 

「…じゃあ…私も…お揃いです…。好きな人の…事を…どうしたって…望みたい…」 

彼はいつものように困ったように笑った 

「…だったら…幸せになってください…。貴方が…幸せになってくれら僕は…それだけで…」 

そんなの嫌だ反応が出来ず俯いてしまう 

「…もう行って下さい…。これ以上は…何を話しても不毛です…」 

もう、言葉も交わせない 
近くに…いる事が許されない… 

痛くて痛くてたまらない 
それでもゆっくり立ち上がる 

私はどうするべきなのだろうか?嫌だと我儘言って何が何でも縋るべきなのだろうか? 
でも、それだともう相手の心を潰す事になる 

自分が相手に出来る事はもう、これしかない 

目を合わせてくれないステイリーさんから背を向け、一歩一歩と歩く 

でも途中で足が止まってしまう 
行かなきゃ、離れなきゃいけないのに 

「…ステイ…リー…さん…私…私…は…」 

これで本当にいいの?迷いで足が進まない 

相手が近づく気配がした 

期待したけど私を素通りして追い越し、背を向けたままその足を一度止めた 

「…元気で…」 

「…!!!待っ…!!!」 

先に進みそうになるステイリーさんの背に縋って引き止めた 
心が言う事を聞かない 
離れたくない…!と 

「私…私は…」 

ただ、泣いて手が離せない 
困らせてるのが分かっててもどうにも出来ない 



「……どうか僕の事は忘れて下さい。…そして…幸せになって下さい…。それが僕の…最後の願いです…」 

「いや…いやです…。寂しいです…!!友達で良いから…一生このままでいいから…!!」 

どんなに困らせても、苦しませても、ここで手を離したら二度と触れあえない 
それに耐えれない。ただ気持ちのまましがみつく 

「…貴方は最後までやっぱり、僕を困らせるんですね…」 

「…っ…!私は…だって…」 

いやいや、と首を振る 
理屈でわかっててもどうにも出来ない。大好きな人と別れたくない 

「だって…離れたらもう…顔見てもおはようって言えなくなる…一緒に…お勉強も出来なくなる… 
お弁当だってまた作りたいですし…まだいっぱい一緒に行きたい場所も…みたい本も…あって…。星…この髪の星だって…何度でもくれるって…約束してくれました…!なくすのは…いやです…。…お願いですから…おいて…行かないで…」 

そう言うとステイリーさんは暫し俯いてこっちに向いてくれた 
でもその顔はとても苦しげな表情で… 

「…御免なさい…。終わりにしましょう…これで」 

そうして唇が彼のそれでふさがれた 

一度目は事故 
二度目は自分から 
そして…三度目は… 

長いキスに力が抜けてへたりこむ彼は丁寧に、壊れ物を扱うように私をゆっくり床におろした 


「…さようなら、ルリアさん…」 


もう彼は振り向かなかった。私も今度はどこも掴めず、扉をくぐられそれが閉まる 

バタンという音が私達を隔てた 

もう、二度とこの距離は埋まらない 

「…てい…り…さ………すて…い…りぃ……ステイリーさん…!!!」 

私はただ、名前を呼んで、ひたすら泣き続けた 
どれだけ呼んでも、呼んでも、彼が戻ってくる事はなかった 



この日、私達は サヨナラを した… 



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