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┃☆┃ 二度目の後夜祭 
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『……紅冠祭お疲れさまでした。貴方の魔法も拝見させていただきましたが大変素敵な魔法でしたよ。新しい魔法を試していたのですが…そうですね…、せっかくなので一曲、お相手願えますか?』 

ちょうど一年前の虹環祭 

私は当時今以上にもの凄い内気で一緒に居る友達も、勿論踊る相手もいなくて一人テラスでのんびりしていたら…彼は傍に来てくれて手を差し出してくれた 

二人しておぼつかない下手なダンス 
それでも私には特別な夜になった 

『わ……私と………その……お友達になって下さいませんか!!!??』 

だってその夜、私にとっては初めての友達が出来たんだから 


.:*:◦.☆.◦:*:. 


看護師のバイトをしている病院で担当を任せて貰えた患者さんの親友だったステイリーさん 
彼とはお見舞いに訪れていた病室で出会った 

知り合いとして今まで何度か話はしていたけれどその日、踊りながら言いたかったことを伝えた 
彼は快く受けてくれて、とても嬉しくて、そんな幸せな気持ちで踊っているとあっという間に曲が終わってしまう 

「…終わっちゃいましたね」 

ゆっくり離れる 
僅かな余韻が寂しく感じさせた 

「とりあえず中に入りませんか?外は冷えますし」 

「は…はい…!…ってあれ……?今のラストダンスだったの…ですか…?」 

ステイリーさんも中の様子を見てそれに気付いたみたいだ 

「…すみません…」 

「…え?ど、ど、どうしてですか…!?」 

「…いえ…その…ラストダンスはペア投票対象ですし…その…伝説とか……。流れとはいえ私が相手で…よかったのかと…」 

伝説 
ラストダンスを一緒に踊った二人は特別な絆で結ばれるというやつだった筈… 
私には縁なんてないと思ってたのに…… 

「…ステイリーさんこそ…私ですみません…」 

ちょっと申し訳ない事をした 
私がこの前踊る相手はいないなんて言ってしまったから気を使わせたのかも……… 

「いえ…、私は大丈夫です。どうせ元から興味なかったのですから」 

そういえばその時そんなことを言ってたっけ 

「…じゃあ…どうしてわざわざ…?」 

「………ルスが…」 

「ルスさん?」 

「世話になってるから俺の代わりに踊って来いって…」 

あ、成る程。と内心納得した。人の良い彼ならそう言いそう 
そしてやっぱり優しいこの人なら、こうして来てくれるのも当然だ 

「…えと…私は構いません。特別な絆も…嬉しいです」 

「え…」 

「友達も立派な特別だと思います。来てくれて…誘ってくれて…有難うございました。頼まれたからでも…嬉しいです」 

「…そう…ですか」 

彼は少し顔を赤らめて目をそらした 
年上なのにそんな仕種が何だか可愛かった 

「…これからもよろしくお願いします。ステイリーさん」 

手を差し出した 

「…はい。よろしくお願いします」 

軽く握った握手は友人の証 
特別な絆で結ばれた友人 
それがひたすら嬉しかった 


.:*:◦.☆.◦:*:. 


それから月日は流れ、私にとっては二度目の虹環祭 

私は去年と同じテラスでまた一人、物思いにふけっていた 
風はちょっと冷たくそれでも中の熱気で少しほてった体には丁度良い 

…色々思い出すな…。ここで去年踊って…友達になって…本当に色々あった… 

ラウンジで勢いのまま公開告白しちゃって…振られて…でもそれは親友であるルスさんの病気が自分のせいかもしれないという罪悪感、贖罪の気持ちから断っただけで…相手も好きだって伝えてくれた 

でもルスさんの幸せを奪ったという自責の気持ちから幸せを遠ざけてるあの人は恋人にはなれないと言った。私はそれでも良いから傍に居たいって願った 

そして友達として傍で時間を重ねた 
…だけど次第に気持ちは膨らんで…ついには越えちゃいけない友人の一線を越えてしまった… 

『…すみません…。僕は…もう…貴方と…一緒にはいれません…』 

数か月前、言われた言葉が蘇る 

分かってる…。もうあの人は私の傍に来る事はない…。でも…それでも… 

無意識に髪に手が伸びる 
そこにいつも優しく煌めいていた、支えだった星飾りはどこにもなかった 
”友達の証に”とかけてもらっていた星飾りの魔法はもう随分と前に切れたまま、その光らなくなった髪飾りを見るのが辛くて髪につけるのをやめたのだった 

「あ…いた…い・・・・会いたい…。寂しい…よ…」 

一度でも零れてきた言葉はもう止まる事はない。ただ感情のまま、涙が溢れるままに誰にも届かない言葉を紡ぐ 

あなたが傍に居ない世界が、寂しくて仕方ない… 

「ステ…り…さん…ステイリーさん…!!!」 

寂しさに耐え切れず届かないのに呼んでしまう 

これで傍に来てくれたなら…どれだけ… 


「……ルリアさん」 


「え……?」 

「…今年も…またここにいたのですね」 


…これは都合の良い妄想…?夢…? 


一年前もそうだった 
一人でいたら…相手がこっちに来てくれた… 

自分の傍に…来て…くれた…… 

「…どうして…ここに…?」 

「……どうしても、ルリアさんに伝えなければいけないことがあって…。聞いて、いただけませんか…?」 

…現実だ…。相手が…近くにいる… 
そう認識して言われた言葉の意味を考えた。途端に血の気が引く音がした気がした 
ステイリーさんの頑固さを私は身をもって知っている。改めてされる話なんて…悪い予感しかしてこない… 

「……き…聞きたくありませんーー!!!」 

思わず逃げるようにホールへと駆けだした 

「え?!ちょ…!ルリアさんっ!」 

…嫌だ、嫌だ…!今更…もう一度ふられるの!?それとももう他に大事な人が出来たって言われる!?そんなの聞きたくない…! 

なれない靴でつんのめりそうになりながらもドレスのスカートをたくしあげ走る 

ステイリーさんは私を追いかけてきて腕を掴まれた 

「ルリアさん!待ってください!」 

「いや…!!もう、もうやめて…!!私…これ以上痛くなるの耐えれないんです…!ステイリーさんだって…私が弱いって知ってるじゃないですか…!」 

涙が溢れるまま、零れていく。これ以上近くにいたら勘違いしそうで怖い 

「……っ」 

気付いたら、抱きしめられていた…。流石に思わず驚きのあまり硬直する 

「…今まで辛い思いばかりさせてきてすみませんでした…、貴方の想いに甘え続けて、自分の都合で突き放してしまってすみませんでした…!それでも貴方が傍にいてくれたこと、貴方はそんなことないと言うでしょうが…僕にとっては支えで、救いでした。どんなに感謝してもしたりません…」 

抱きしめられた腕は少しきつくて、想いの強さが伝わってくる 

「………ルスが元気になった今、僕はもう…貴方が傍にいなくてもきっと大丈夫です」 

酷い…。抱きしめながらもう一度別れ話を言われるなんて…。私は本当は…離れたくなんてなかったのに… 
こんな…触れたら…余計…離れるのが辛いのに。こんな…大事な思い出の日に… 
相手の言葉は鋭い刺となって胸に刺さる 


でも 


「………ですがもし出来ることなら、これからも隣に貴方がいて欲しいんです。支えてもらうばかりでなく…これからは僕も、貴方が辛い時に支えられるようになりますから」 

彼はゆっくりと息を吐いて呼吸を整えると体を離して真っ直ぐに私を見つめる 


「―――僕は、ルリアさんのことが好きです」 


また硬直した 
意味がすぐ理解出来なかった 

「………え……?え…!?だ、だって…もう…傍にはいれないって…」 

ルスさんの病が治ったからと言って時間を奪ったのは変わらない。だからステイリーさんはきっとずっと自分を許さず、このまま自分とは離れたままを選択すると思って……ステイリーさんはそんな私の顔を見ながら困ったように笑った 

「……ルスにルリアさんを幸せにしやがれと言われてしまいましたので…。やはり駄目…ですか?」 

「…駄目なんて…そんな…」 

首を振った。涙がまた新しく零れてきて止まらなくなる 

「…だって…私は…貴方に会いたくて…寂しくて…仕方なくて…。わ、私幻覚でも見てるんでしょうか…?こんなの…こんなの…だって…絶対ないって思っていて… 
叶うんですか…?私を…望んでくれるんですか…?傍に…もう…離れずに…居れるん…ですか…?」 

「…貴方も望んでくださるなら…傍に居させてください」 

どれだけこの言葉を望んだだろう?どれだけ…願っただろうか…? 
嬉しい。嬉しい。胸の中が温かい気持ちで一杯になった 

ただ、考えれるのは望む気持ちだけ 


「…はい…っ…!はい…はい…っ…!!一緒に…居たいです…!!」 


そして私達は笑いあった 

ふいにパチパチと音が聞こえ、その音はいくつも重なり大きくなる 
お互いから視線を外し、周りに眼を向けるとおめでとうー!と言いながら拍手を送る人、人、人 

うっかり二人の世界に入っていたけど…そういえばここ…パーティー会場… 
思考停止しその場に固まる 

「いやぁ、告白しろとは言ったけどまさか公開告白とはな!やるな!ステイリー!!」 

ルスさんまで見ていたらしくそう声をかけられ、思わず二人してお揃いに真っ赤になっていく 

「え、あ、え、あ…え…えと…その…」 

「……ルリアさん……失礼します…っ!」 

「え!?は、はい!?ひゃああ…!!!!」 

ステイリーさんはがばっと私をお姫様抱っこで抱き上げるとホールから逃げるように飛び出していった 


.:*:◦.☆.◦:*:. 


彼は外まで出ると私を下し、息を切らしながら何とか言葉を紡ぐ 

「す、すみません…。あんなところで言うつもりは、なかったのですが夢中で…周りが見えず…」 

「い、いえ…わ、私も以前…その…人前で…その…好きって…言いましたし…」 

あ、あれもなかなか恥ずかしい事をしたものだ…。当時の私は…突っ走ったものだ… 

「…もうホールには戻れませんね…」 

「で、ですね…」 

会場の一角だったとはいえ知り合いもちらほらといた気がする 
赤い顔を冷ますように少し沈黙をしたら、会場の方からラストダンスの曲が流れてくるのが聞こえた 

ステイリーさんは徐に手を私に差し出す 

「………ルリアさん。一曲、お相手願えますか?…一年前はラストダンスだと気がつかずに誘ってしまいましたが今回は……これがラストダンスだと理解した上でお誘いしています。貴方が良ければもう一度ちゃんと、貴方と特別な絆を結びたいのです」 

私はそれに応えるようその手に自分の手を重ねる 

「…はい…!私も…ステイリーさんと…踊りたいです…。もう一度…特別な…絆が欲しいです…。今度は…そ、その…友達以上で…」 

「…世の中には友達以上恋人未満という言葉もありますが?」 

「…ステイリーさんがその関係をお望みなら…。恋人未満ですか…そうですか…」 

やっぱりそれ以上はダメなんだ…としょぼくれたらふ、と微笑む気配がして静かに囁く声が聞こえた 

「いえ、僕が望むのは…それ以上の絆です」 

顔が紅潮して何も言えなくなってそのままダンスを続ける 
ステイリーさん以外とは踊りたくなかったからって練習をさぼらなければよかった… 
そんな私に合わせてくれてるのかステイリーさんはゆっくりとリードしてくれる 

その気遣いを感じて嬉しくなりながら相手のリードに合わせ、星が瞬く夜空の下で二人、ダンスを踊った 



永遠とも思えたダンスの時間が終わった 
相手は私の手をとり見つめながら 

「――改めて言います。ルリアさんが好きです。……僕と、付き合ってください」 

そうはっきり言った 
不思議なくらい迷いは無かった。望んでくれるなら、それ以上に嬉しい事なんてこの世にはない 

「…はい…はい…っ!よろしく…お願いします…ステイリーさん…」 

二人してはにかみながら笑いあう 
少しだけ他愛のない話をした後ステイリーさんは私の髪に視線を向けた 

「星飾り…また魔法をかけ直したらつけていただけますか…?」 

そう言って星飾りのない髪を一房手に取る 
思わず心臓がはねた 

「そ、それは勿論…!わ、私も…また…欲しいです…。ステイリーさんの…魔法…。今日も持って来てはいたのですが…」 

魔法が切れてからも手放せなくていつも持ち歩いていた星飾り 
でも今日はクローシアさんに無理矢理ドレスを着せられたからどうなったんだろうと慌てて体をぺたぺたしたらハンカチから何かの感触が 
思わず取り出し確認したら… 

「あれ?ありました…」 

クローシアさんのおかげなのかな…?と思いつつ星飾りを手にする 

「貸していただけますか?」 

「は、はい…!どうぞ…!!!」 

ステイリーさんは星飾りを受け取るとその一つ一つに魔法をかける 
星飾りは暗闇の中、再び優しく光り始めた 
私の大好きな…星の光が、また灯る。なんだか凄く、凄く嬉しかった 

「…失礼しますね」 

ステイリーさんは一つ一つ私の髪に優しくつけていく 
反射的に俯いた 

「わわ…っ」 

ち、近い近い近い…!!あ、会うのもちょっと久々で…こんな…色々あって…近くにいて…ど、どうしよう…ドキドキして…苦しい…でも…心地いい・・・ 

心地よさに身を任せ、少しずつ力が抜けていって目を自然に閉じた 

ステイリーさんがちょっとため息をした気がして、それからゆっくりと優しく口づけられた 

「…異性の前で眼なんか閉じないでくださいと何度も忠告したはずですが…?」 

「………あ、え、う…えと……その…ス、ステイリーさんの…前でだけ…に…してます…ちゃんと…」 

「出来ればそれを止めて頂きたかったのですがね。……これからはもうどうなっても知りませんよ?」 

その言葉にまた顔が真っ赤になってやっぱり何も言えなくなってしまう 
これからは…それを考えたら心臓がうるさいくらいはねる 

そしてステイリーさんははにかみながら手を差し出してくれた 

「………帰りましょうか、ルリアさん」 

「……!…はい…!!」 

そして私達は星空の下、手を繋いで帰っていったのだった 

私にとって二度目の後夜祭は………また特別な夜になった 


.:*:◦.☆.◦:*:. 


後日… 
私達二人は会う人会う人にお祝いされ、からかわれ、ステイリーさんは「死にたい…」とぼやいていた… 
そして更に後々に聞いたところ、後夜祭で公開告白をすると成就するという密かな伝説を作ったという…

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