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side ルリア 


それは夏休みも終わり新入生がそろそろやってくる頃、私が長く担当をした長期入院の患者さん… 
ルスさんが、退院することになった 

「ルスさん、退院おめでとうございます。これ病院からのお祝いです」 

そう言って仕事仲間と共に用意した花束を差し出した 
この日は絶対見送りたいと我儘を言ってシフトをいれて貰ったのは内緒の話である 

「お、サンキュールリアちゃん!いやぁなんだか名残惜しいなぁ」 

太陽みたく明るく笑いながら花束を受け取るその人は、最近まで長く苦しんでいたとは思わせない 

「ふふ、それならもう少しいてみますか?」 

「んーちょっと惹かれるけど遠慮しとくわ!」 

「ルスは勉強が嫌なだけでしょー?」 

「……その前にまずちゃんとお礼を言え」 

冗談に少し悩む様子で流したルスさん。彼を迎えに来た幼馴染の二人…ステイリーさんとクローシアさんが後ろからすかさずツッコミをしてくる 

…息の合った連携プレーだなぁ… 
これが長年の付き合いというやつなんだろうな…ちょっと羨ましいかも… 

「あ、いえいえ…その…良いのですよ。私達にとっては患者さんが元気にここを出てくれることが何よりのお礼なので。ルスさん、お元気で。ちゃんと勉強頑張ってくださいね?」 

「あーまぁ嫌でも頑張らないとだしなぁ……。つかお元気でとかルリアちゃんとは学院でも会えるじゃん。そこは向こうでもよろしくじゃね?」 

「ルス?」 

ステイリーさんは未だにお礼を言わないルスさんを笑顔でいさめ首根っこを掴んだ 

「ミナサンタイヘンオセワニナリマシター」 

…仲良しだなぁ… 

「…あはは…。えと…本当退院おめでとうございます…!また学院で会ったらよろしくお願いします」 

そう言って頭を深く下げた 
そしてルスさんは手を振りながら病院を後にしていった 

立ち去ってく三人に手を振り見えなくなるまで見送ると知らず、涙が溢れてきた。他の看護師仲間が 
よしよししてくれてそれに甘える。 
思う事の大きな部分は、良かったという安堵感。だけどちょっとだけ、ほんのちょっとだけだけど… 
寂しいとも感じてしまう… 
それはずっと担当してきたルスさんに対する思いではなく、病院でステイリーさんを見かけることが 
出来なくなるからで… 

…そんな事考えちゃいけないのに… 

…だけどももう傍にいることが出来ない… 
会える唯一の機会だったのが…なくなってしまった… 
それが、酷く寂しい… 


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side ステイリー 


「あー!やっぱ美味いな!ハンバーガーは!俺これなら毎日食えるわ!」 

病院から帰る途中、ルスに催促され水晶街へと寄り道をしていた 
ささやかな退院祝いという事で財布は僕が持ったわけだがその結果、机の上にはハンバーガーが数種類置かれている 

「毎日は流石にやめろ」 

珈琲片手にその量を見ながら呆れてため息を吐く 

「ん、そういえばクローシア、俺の寮の部屋ってどうなったんだ?」 

人の話を聞いているのかいないのか、口いっぱいに頬張りながら話題は寮の話へと移る 

「寮なら僕と同じ部屋にしてもらったから」 

「は?え、ちょっと待て」 

「ステちゃんにバレちゃったの~ゴメンネ☆」 

「いやいやいや!ステイリー梟寮だよな?!俺獅子寮が良いんだけど?!」 

「ルスの荷物は僕が預かってる訳だし。それに同じ部屋の方が勉強も教えられるだろ?」 

以前の部屋が残っている訳もなく、復学するにあたりクローシアに獅子寮の入寮申請を頼んでいたようだが途中で阻止しておいた 
熱血系が多く集まる獅子寮で無茶でもされて何かあったらとんでもない 
放っておくと勉強もろくにしないだろうし 

「お前はおかんか!俺あの寮の雰囲気苦手なんだけど?!」 

「人間諦めも肝心よ☆」 

クローシアは他人事のように良い笑顔を見せる 

「この裏切り者―!!」 

ルスとクローシアのやりとりが店内に響き渡る 
それが酷く懐かしく感じた 
あの独特の匂いも、ずっと変わりばえのしなかったあの白い部屋も、今はもうどこにもない 

(帰って来たんだな……本当に……) 

もうこんな日は帰って来ないとどこかで諦めていた 
昔と同じ煩いながらも楽しくて、笑顔が溢れるその光景に思わず自分も顔が綻ぶ 
どこにでもある日常の風景、だけど僕たちにとってはそんな風景さえも幸せに充ち溢れていた 

僕の幸せは、それだけで十分すぎる 

見送るルリアの姿を振り払うように少し冷めた珈琲を飲みほした 


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side ルリア 


「ふぅ…」 

あれから数日。私ははあの三人とは特に接点もなく、学院で会うことはまだない 
一人でお昼を食べて少しベンチで休憩しつつ寂しいなぁ…と一人考えていた 

ステイリーさんとは…あれ以来やはり離れたままの関係に戻っている。一回したお別れを簡単に撤回する相手じゃない。

分かってる… 
泣きそうになって俯きそうになった時、明るい声がかかった 

「お、ルリアちゃんじゃん!一人でお昼ご飯?」 

慌てて顔をあげたら考えていた内の一人、ルスさんが元気にやってきた 

「…え!?あ、は、は、はい…!…お元気そうで何よりです…!」 

「あはは、ステイリーのやつがうるさくって参ってるけどな。今もちょっと逃げてきたとこだったりw

 学院広いからなっかなか会う機会がないよなー」 

相手の明るい笑顔を眺める 
…本当に元気になったんだな…と実感してきて本当に良かった…と温かい気持ちがじんわりわいてくる 

「それだけ心配してるんですよ。そうですね…なかなか会わないですね…。あ、で、でも私見ると入院生活思い出しそうですし…その方が切り替えしやすそうかもですし…」 

「何言ってんの。髪型も違うしナース服でもないし印象違うから大丈夫だよ!」 

「そ、そうですか…!は、はい…。なら良いのですが…」 

学院ではやっぱり病院に居る時とは同じようにはなかなか出来ない。ちょっと気弱が出て俯いてしまう 
ちょっと沈黙したら第三者の声がかかった 

「あ、ルリアさん!こんにちは・・・・・・・・・・って…えと…御免、邪魔した?」 

ヘリオさんだ。黒いドラゴンを連れて歩く元騎士(って言ってた)の人で、最近異世界からこの世界についたばかりだと言う 
世界移動の際色々あったらしく疲労状態で倒れ、その時医務室に偶々いた私は世話をして話を色々聞いた 
そんな彼はじー…と観察するようにルスさんを見てる気がする…。どうしたんだろう…? 

「あ、い、いえ…ご挨拶していただけなので…」 

「ん?誰だ?ルリアちゃんの知り合い?」 

「あ、は、はい…その…友達…です」 

最初会った時、世界から切り離されたヘリオさんは孤独に潰されそうになっていて、思わず私が友達になります…!と伝えた 
それ以来、彼に凄く懐かれてるとは思う。けど他に知り合いや友人が背中の竜しかいないなら仕方ない話だろうな… 

そんなヘリオさんはびしっと姿勢を正して胸の前に手を当て頭を深く下げた 

「初めまして。私はヘリオと申します。この度この学院に新入生として入ることになりました。よろしくお願いします」 

そんな彼につられたのかルスさんも姿勢を正す 

「お、おぅ、新入生か…!俺はルス!ちょっとしばらく休学してたんだけどもうすぐ復学予定なんだ、よろしくな!」 

と手を差し出す。そして気になるのかドラゴンを見つめた 

「ルスさんですね。よろしくお願いします。復学おめでとうございます」 

そう言って二人は握手する。これを機に友達とかになれないかな? 

「私の相棒気になりますか?」 

「おぅ、カッケーなと思って!」 

「有難うございます。こいつも喜びます。…えと、ルスさんはルリアさんのお友達なのですか…?」 

「ん?あぁ、友達…だよな?」 

と言われ見られた… 
え…ともだ…ち…友達!? 

「…えええええ!?そ、そうだったのですか!?そ、そんな勿体無い…!!!え、えとえと仕事の関係だったと言いましょうか…!!」 

「仕事?」 

「えぇぇぇぇ!ちょ、何その反応!寂しいんだけど?!」 

「わ、私バイトしててその…バイト先でお世話してて・・・・・えと…、友達でよかったのですか…? 私がですよ…!?」 

そ、そりゃあ…私にだってルスさんは親愛感情もあるしとっても尊敬してるし…ゆ、友人と言って貰えるのは嬉しい…!け、けどけど…ずっと仕事先のスイッチが入ってるモードの私しか見せてなかったのに…!私が友人で良いの!?う、嬉しくてなんだかは、恥ずかしい…! 

ちらっと二人を見るとヘリオさんは何故かじーーーーっとルスさんを見ている…どうしたんだろう…? 
そしてルスさんは真面目な顔をした 

「…まぁ俺のお世話をずっとしてくれて俺のすべてを知ってるルリアちゃんに今さら友達になろうというのも難しいとは思うけどね?」 

え!?いやその…確かに嘘はない!ないけど…私は相手の身長とか退院した時前後の体重とか…えーと…体拭いたりもしてたしお風呂の手伝いとかもしてたし…もろもろ知ってるけど…! 

「…ごめん、話が見えない。二人の関係つまりどういう事なのか聞いていいかな?」 

…た、確かにそう言われると意味が分からないよね… 

「え、えと…若干プライベートな話と言いましょうか…。ルスさんが良いなら言いますけど…」 

…入院してた等患者の事を勝手に言う訳にいかないしなぁ… 
困った顔をルスさんに向けたら何故かからかうように私の肩を抱いてニヨニヨしだした 

「そんなに俺たちの関係が気になる?知る覚悟は出来てるのか?」 

「え?あの?ルスさん!?!?」 

覚悟って!?一体何を言ってるの!? 

「………先程仕事の関係と聞きましたが……。それ以上という事ですか…?」 

そう言うヘリオさんの声はちょっと声固い 
慌ててルスさんを見るけど彼は焦らすように相手を見つめる。すると急に明るく笑い出す 

「あはは、悪い悪い。まーあれだ、休学してたのは入院してたからでその時の担当がルリアちゃんだったってだけだよ」 

そう言いながら私から離れた 
し、心臓に悪い… 
ヘリオさんは息を吐いて頭を下げた 

「…成る程。ルリアさんはそういえば回復関係でしたしね。合点がいきました。失礼をしました」 

「ル、ルスさん…心臓に悪いですよ…」 

「いやぁ、ヘリオが見つめてくるからつい☆」 

「ついって…もう……」 

「…それは申し訳なかったです。ルリアさんが後夜祭誰と出るのか少々気になったので」 

「…ええ!?き、気にしてどうするんです!?わ、私出ませんよ!?」 

な、なんでそう繋がるの!?そして気にしてどうするの!? 

「…どうして?恋人と出ないの?」 

「え!?ど、どうしてそんな話に!?わ、私恋人いません!い…いませんので!!」 

そう慌てて言った言葉にヘリオさんは何かを考え込んでそして顔を上げた 

「なら、俺まだ知り合いルリアさんしかいないし…俺に色々教える為と思って出てくれないかな…?後夜祭は興味あるけど一人になるとほら、やっぱ寂しいしさ」 

「…それは……すみません…。リース先生に頼んでください…。私は…出たくないんです…」 

…言わんとする事がようやく繋がった… 
つまりヘリオさんはルスさんが私の恋人だと思って、一人で出にくいから私が誰かと出るのか知りたかったのかな…? 
でも…後夜祭は大事な思い出の日。ステイリーさんともう会えないなら、一緒に踊れないなら、相手に悪いけど他の人となんて居たくない… 

「ルリアちゃん後夜祭出ないの?俺も出る予定なんだけどさ、退院したばっかだし何かあっても困るか らルリアちゃん一緒についててくれないかな?って思ってたんだけど無理?」 

「…?え…でももう大丈夫なのでは…?ひょっとして具合悪くなったりとかしてるのですか!?」 

「ほら、人ごみとか緊張とかで気分悪くなるかもしれないじゃん?」 

まだ何か悪いのかって吃驚した… 

…確かに原因自体はもう取り除いて大丈夫でも…長年の入院で落ちた免疫力や体力は回復しきってないだろうしなぁ… 
急に人酔いで倒れる可能性は否定出来ないか… 
万が一の際の対処役で必要なら…それなら… 

「…分かりました。看護師として必要なら行きます。その代わり!…無茶しないでくださいね?」 

「もちろん!」 

「…じゃあついでに俺にも少しは構ってくれると嬉しい。じゃあ俺は行くね。邪魔して御免。ではお二人とも、歓迎会でか後夜祭でお会いしましょう」 

「え?あの…で、では…」 

「おーまたなー」 

これは…どうしよう…?話すくらいなら良いけど…? 
大して何かを教えてあげれるわけじゃないのになぁ… 

「そんじゃ俺もそろそろ行くわ!後夜祭、約束な!」 

「あ、は、はい…。分かりました。また…」 

そう言ってルスさんも去って行った 
急に寂しくなって私も席を立って別の場所にあてどなく歩く事にしたのだった 


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side ステイリー 


「……随分と長いトイレだったな」 

「いやーそれはもう頑固でなー」 

「はぁ……続きやるぞ」 

移動魔法を使ってサボりに行っていたとわかりながらとりあえずは戻って来たので良しとする 
ため息をつきながら一時間程前に広げていた教科書のページを再び広げた 

通院をしながら復学の準備をする間少しでも遅れた分(それ以前に学んだことも忘れてるわけだが)を取り戻そうとこうして毎日つきっきりで勉強を教えている 
ルスは頭痛くてまた入院しちまいそう、なんてぼやいているけど 

渋々と机に向かいペンをくるくる指で弄んでいたルスが顔を覗きこんでくる 

「なぁ、ステイリー。世話焼いてくれるのは嬉しいけどよ、俺言ったよな?お前の枷にはなりたくないって」 

「これは僕が好きでやってることだ、全然枷なんかじゃないよ」 

「ルリアちゃんを放っておくなっていいたいの、俺は」 

その名前に思わず手が止まる 
あれから学院で見かけはしても一度も会話はしていなかった 

「このまま俺にばっかりかまけてルリアちゃん放っておいたら他の男に攫われっちまうぞ?さっきイケメンがルリアちゃんを後夜祭に誘ってたぞ?ありゃ絶対ルリアちゃんを狙ってるよ、うん」 

「……そうか」 

少しばかり胸がざわつく 

「お前まだ告白してないんだろ?いい機会だし後夜祭で告白してラストダンス踊ってこいよ、な!俺が気ぃきかせてルリアちゃん後夜祭に誘っといたからよ!なんなら俺が告白の台詞も考えてやろうか? そうだなー……〝ルリアさん、僕は初めて会ったときから貴方のその瞳にコスモを感じ……”」 

ノートの真っ白なページを開きさらさらとペンを走らせる 

「なんだそのアホ臭い台詞は!そんなことより集中しろ!!」 

「アホ臭いとはなんだ!”僕の心はビッグバン……”」 

「やめろおおおおおお!!!」 

中二病時代を思い出しそうで思わず叫んだ 
それも元はといえばルスのせいなんだけど 

「クローシアにもちゃんと協力頼んどいてやるからよ!な!」 

「余計なお世話だ……!」 

ルスがこうして元気になったとしてもあの数年間がなくなったわけじゃない 
僕は知ってる 
どれだけルスが苦しんできたか、どれだけルスを孤独にしてしまったか 

本来なら講義を受けて、友人に囲まれて、どこかに遊びに行って美味しい物を食べて、ぐっすり寝て、起きて、……恋だって出来たその時間を僕は奪った 
奪った時間はどうしたって帰って来ない 

ルスにいえばきっと怒るだろうけれど…僕はやっぱりルリアさんと、これ以上傍にはいれない…… 


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side ルリア 


そして後夜祭当日。 
皆華やかな衣装だなぁ…やっぱり 
そう思いつつ着てきたナース服を見た。でも今日はこれでいい 

「では私はこの辺りで待機してるので。くれぐれも無茶しないように!それと気分が悪くなったらすぐ言ってくださいね?」 

「ちょ……!ルリちゃんどうしてナース服なのよ?!」 

と私の姿を見たクローシアさんは驚いたような声をあげた 

「え?だって今夜は看護師として来ているので…」 

「ナース服じゃなくても看護は出来るでしょー!ねぇ、ルス!」 

「お、おぅ、そうだな」 

ルスさんはクローシアさんの声に若干吃驚しつつ答えた 

「ええ!?い、いえいえ…!ドレスじゃ動きにくいですし汚れるのは困りますし…」 

「大丈夫よー汚れなんて気にしなくていいから!何かあったら魔法解いてあげるし!この会場でその服じゃ浮いちゃうわよ!」 

「え!?えとその…いえ…その…踊る気ないですしその・・」 

「と、いうわけで☆」 

まだ抵抗を続ける私にお構いなしで彼女は魔法発動し強制着替えをさせられた 

「えええーー!?」 

綺麗な薄桃色のロングの可愛いドレス 
ティアラがついてるのか頭に何かが乗ってる感覚がする 

「あ、あの!?私お金ないのですが!?」 

「しょうがないから今夜は特別サービスしてあげるわよ♪」 

「おぉ、ルリアちゃん似合ってんじゃん♪」 

「えええ!?えとえと…あ、ありがとうございます…でも…踊らないのに…。あ、あの…本当何かあったら…戻して下さいね…?」 

「わかってるわかってるぅ♪」 

…もうこれ以上抵抗しても無駄なんだろうな… 
一つため息をついて壁際に寄った 

「はい…。えと…では私はここにいますので…。一応見てますが何かあったら呼んで下さい。」 

そう言って用意されてある椅子に腰をかけた 


後夜祭が開会し、暫く。クローシアさんはドレスの修復に呼び出されルスさんは友人たちと楽しそうに話している 

見かけた友人に挨拶だけしつつ暫く眺めていたらヘリオさんが来た 

「あ、居たルリアさん…!ドレス、似合ってる。とても綺麗だ…」 

「あ…有難うございます…。」 

「貴方の髪の色によく合っててルリアさんらしい可愛らしさがとっても引き出されてて…うん、女神か妖精みたいだ」 

「…そ、それは…言いすぎですよ…。え、えと…」 

…ヘリオさんの居た世界がどういう文化だか知らないけど…こ、こんな事をさらりと言うなんて…凄い文化だなぁ… 

「あ、そうだ飲み物とってくる。ジュースが良いかな?看護で来てるんだし酔ったらいざという時に困るよね?」 

ステイリーさん以外とは他の誰ともいたくないんだけどなぁ… 
でも知り合いがさしていない相手をきつく突き放す事もまた出来ない 

「あ、いえ…お構いなく…。私よりその…学院に詳しい方多くいらっしゃるので…その…他の方との交流とるなら良い機会ですし…」 

「うーん、交流についてはそうだろうけど…俺は、ルリアさんが一人になりたがってるよう見えるから…一緒にいたい…かな?」 

「…お構いなく…」 

と俯き気味に返す 
…相手が不安になってるのが分かってて…私は嫌な人だなぁ… 

「…じゃあ人見知りの俺にかまって。勝手にここにいるから」 

「……」 

困ったなぁ…と感じながらちょっと俯く。もしかして好意を持たれてる…とか…? 
…知り合いのいない世界にきて最初に世話になった相手にそういう感情を持つのは心理学的にむしろ普通なんだろう 
けど…私は…やっぱりステイリーさんの事しか考えれない… 

会いたいな…。そんな事をひっそり考えながら、また俯いてしまうのだった… 


ラストダンスの時間が迫ってきた頃、私はヘリオさんに断ってテラスに出る事にした 
いつの間にかルスさんも見失って…なにしてるんだろうな…と落ち込む 

無意識に、去年一緒に踊った場所に足が向いた 
…今年は…ここで本当に…一人で過ごす事になるんだ… 
そう思うとただ…寂しくなった… 


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side ステイリー 


刻々と時間は過ぎ、ラストダンスまで時間が迫る 
寮の部屋で時計に目を向けながらもう彼女はダンスの申し込みをされている頃だろうか、などと考える 

去年はルスに代わりに踊ってこいなんて言われて、クローシアに引っ張られて連れていかれて…… 
それでもルリアさんならきっと他に誰か誘う人がいるだろうと思って一人新しい魔法を試していたっけ 

でもルリアさんは本人が言っていた通りずっと壁の花で、重い腰をあげて誘う頃にはもうラストダンスの時間になっていた 

でもあれから一年。友達も出来たしコンテストや新入生歓迎会でも賞を取っていたし、僕が気にかけなくてももう一人でいることはないだろう 
誘いだってきっとある 
そしてそれがルリアさんにとって、本物の特別な絆になればと願う 
僕はもう友達としても、手を差し出すことは出来ないから―― 

「こんなところで何やってんだステイリー!!もうすぐラストダンス始まっちまうぞ!!!」 

再び手元の本に視線を落としページを捲った時、ルスの叫ぶ声が背後から聞こえる 

「……行くとは誰も言ってないだろう」 

「はぁ……?!ルリアちゃん他の男と踊っちまうぞ?!」 

「……それが一番いい」 

「……んだよそれ……!」 

「他の男の方がきっとルリアさんは幸せになれる。僕は……ルリアさんの傍にいるべきじゃない」 

大事な親友の時間を奪った自分はやはりこれ以上の幸せなんて望めない 
それに彼女が巻き込まれる事はない。今度こそ、幸せにしてくれる人と踊って泣かずに居てくれればそれが一番だ 

「……お前、ルリアちゃんのこと好きじゃないのかよ……」 

「……そんな事どうでも良いだろ……」 

「どうでも良くねぇよ!!!」 

次の瞬間ルスに凄い勢いで胸ぐらを掴まれた 

「俺言ったよな?!前みたいにお前に笑って欲しいってよ!今のお前はどうだよ?本当にそう思ってんならしっかり顔見せて笑ってみやがれ!!それとも何か?まだ俺の幸せ奪ったとか思ってんのかよ? お前ルリアちゃんに振られるのが恐いだけだろ!!俺を言い訳にしてるんじゃねぇよ!!!」 

「……っ」 

言い訳……その言葉に頭が殴られた気分だった 

散々辛い思いをさせて、散々振りまわして、散々泣かせて、最後には突き放して 
……泣き続ける彼女を置き去りにした 
これ以上に酷い男がいるだろうか 

ルスが眼を覚まさなかった時も全てを諦めて、何もかも放りだして、子供みたいに泣きついてそのまま眠ってしまって、情けない姿を見せた 
ルリアさんがいなかったらルスとの約束を思い出すことすらなかっただろう 

……いい加減嫌われた 
ルリアさんは優しいから、放っておけなかっただけだ 

だから僕はルスへの罪悪感を言い訳にしてルリアさんから逃げようとしているのか……? 
ルスはこんなに必死になってくれているのに 
彼女は……弱くてもそれでも必死に好意を伝えてくれたのに…… 

「気持ち伝えねぇでこのまま離れてみろ!俺絶対許さねぇからな!!!」 

そんな真っ直ぐな親友の言葉に俯いてしまう 

今までも散々言い訳を重ねてきた 
それなら仕方がないと自分に言い聞かせるように 

――僕は、いつまで言い訳を重ね続けるんだ? 

「お前には、これ以上幸せを手放して欲しくないんだよ……!今までルリアちゃんの気持ちに応えてこなかったんなら今からでも幸せにしやがれ!!……もし振られたらちゃんと慰めてやっから心配すんな!!」 

「………それこそ余計な御世話だ」 

でもその言葉で不思議と気持ちが軽くなった 
言い訳はもう、全て本の中に閉じて置いていこう 

「行こう」 

「……!あぁ!」 

そしてルスと共に魔法のゲートをくぐり会場前に移動した 
先には痺れを切らしたクローシアが待っていた 

「ステちゃん遅ーい!」 

「悪いクローシア、頼む……!」 

「はいはい!」 

クローシアの魔法がかかり後夜祭にふさわしい恰好に早変わりする 

「ルリちゃん奥の壁際でヘリオって子と話してたわよ!」 

「わかった。ありがとう二人とも……!」 

 

そして一人会場へ駆けてゆく 
それを見届けてルスは一息ついた 

「あー、世話のかかる親友だなっと。……さーって、俺も探しに行かなきゃな」 

「あら、申し込みたい人がいるのね?誰なのかしらー♡」 

「さてなー。そういうクローシアは?誰か踊りたい相手いるんじゃないのか?」 

「わたしは例年通りわたしの服を着て幸せそうに踊る子たちを眺めてるわ~」 

「ほーぅ?」 

そして二人も会場の中へ向かうのだった 

会場へ着くと彼女の姿を探す 
でも二人は移動してしまったのか探しても見つからない 

焦っていたらもう一人の親友が話しかけてきた 

「ルリアなら男とどこかに行っちゃったよ?」 

「……そうか……」 

そうであっても仕方がない。そう思いながら思わず俯き、肩を落とす 

「――なんて、嘘」 

そんな僕をを見ながら璃王はくすりと笑ってテラスの方を指刺した 

「全く……普通に言えないのか?」 

「健闘を祈るよ」 

「……ありがとう」 

指差した先、詳しい場所は言われなくても分かった 
あそこは一年前……ラストダンスを踊り、友達になって欲しいと告げられた場所だ 

思った通りの場所に彼女の姿を確認するとテラスへと続く扉を静かに開けた 

会場の喧騒が扉一枚を隔ててどこか遠くのものになる 
それでもルリアさんは気付いていないのか振り向くことはなかった 

少し冷たい風が吹き、長い薄桃の髪が揺れる 
そこに星飾りが一つもないのは見るのが辛くてつけるのを止めたのか、それとももう見たくもなくてつけるのを止めたのか 
理由を考えるだけで足が進まなくなり、かけようと思った言葉も口から出てこない 

――今彼女は何を考えている? 

……そんなことを考えても意味がない 
振られるとしても僕は、もう一度彼女に伝えなければならないことがあるんだから 

「…いた…い・・・・会いたい…。寂しい…」 

一歩踏み出そうとした時、風に乗って小さく彼女の声が聞こえてくる 

「ステ…り…さん…ステイリーさん…!!!」 

聞き間違いなんかじゃない 
確かに今名前を、確かに今……呼んでくれた 

「……ルリアさん」 

「え……?」 

「……今年も…またここにいたのですね」 

「…どうして…ここに…?」 

璃王やレムが羨ましく思えた 
講義や研究内容の発表なんかはすらすら言葉が出てくるのに、どうにもこういうことは慣れてなくてうまく言葉が出てこない 
顔も……うまく笑えていない気がする 
それでもなんとか言葉を紡ぐ 

「…どうしても、ルリアさんに伝えなければいけないことがあって…。聞いていただけませんか…?」 

「……き…聞きたくありませんーー!!!」 

「え?!ちょ……!ルリアさんっ!」 

何故聞きたくないのかその理由を考える暇すらなく、彼女が脇を駆け抜けたところで慌ててその後ろ姿を追った 
もともと足が速くないのに加え、ドレスとヒールだ。すぐに追いついてその腕を掴む 

「待ってくださいルリアさん…!」 

「いや…!!もう、もうやめて…!!私…これ以上痛くなるの耐えれないんです…!ステイリーさんだって…私が弱いって知ってるじゃないですか…!」 

振り向いた彼女の顔は涙が溢れ、零れていた 

「……っ」 

反射的に思わず抱きしめた 
何を言われると思ったのか知らないが今彼女が泣いているのは、今まで自分が彼女に泣かせるようなことしかしてこなかったからなのは嫌でもわかった 

「……今まで辛い思いばかりさせてきてすみませんでした……、貴方の想いに甘え続けて、自分の都合で突き放してしまってすみませんでした……!それでも貴方が傍にいてくれたこと、貴方はそんなことないと言うでしょうが……僕にとっては支えで、救いでした。どんなに感謝してもしたりません」 

今までちゃんと言ったことがなかったように思う 
いつも貴方に沢山の言葉や気持ちを貰っていたこと 
それはどんな治癒魔法も敵わない、優しい魔法だった 

「………ルスが元気になった今、僕はもう……貴方が傍にいなくてもきっと大丈夫です」 

これから先何があっても、貴方に心配されないように強くなろうと決めた 

「………ですがもし出来ることなら、これからも隣に貴方がいて欲しいんです。支えてもらうばかりでなく…これからは僕も、貴方が辛い時に支えられるようになりますから」 

―――だけどそこに貴方がいてくれたら、きっとそれ以上に強くなれると思うから 

ゆっくりと息を吐いて呼吸を整えると体を離して真っ直ぐに彼女を見つめる 

「―――僕は、ルリアさんのことが好きです」 

「………え……?え…!?だ、だって…もう…傍にはいれないって…」 

「……ルスにルリアさんを幸せにしやがれと言われてしまいましたので…。やはり駄目…ですか?」 

「…駄目なんて…そんな…」 

彼女は首を振り、涙がまた新しく零れてきて止まらなくなる 

「…だって…私は…貴方に会いたくて…寂しくて…仕方なくて…。わ、私幻覚でも見てるんでしょうか…?こんなの…こんなの…だって…絶対ないって思っていて… 
叶うんですか…?私を…望んでくれるんですか…?側に…もう…離れずに…居れるん…ですか…?」 

……こんなにもまだ想っていてくれた 
思わず笑みがこぼれる 

「……貴方も望んでくださるなら……傍に居させてください」 

「…はい…っ…!はい…はい…っ…!!一緒に…居たいです…!!」 

そして二人で笑いあった 

ふいにパチパチと音が聞こえ、その音はいくつも重なり大きくなる 
お互いから視線を外し、周りに眼を向けるとおめでとうー!と言いながら拍手を送る人、人、人…… 

うっかり二人の世界に入っていたがそういえばここは……パーティー会場だった…… 
二人して思考停止しその場に固まる 

「いやぁ、告白しろとは言ったけどまさか公開告白とはな!やるな!ステイリー!!」 

ルスまで見ていたらしくそう声をかけられ、一瞬にして二人真っ赤になっていく 

「え、あ、え、あ…え…えと…その…」 

「……ルリアさん……、失礼します……っ!」 

「え!?は、はい!?ひゃああ…!!!!」 

羞恥に耐えられず彼女を抱き上げるとホールから逃げるように飛び出していった 




外まで出ると彼女を下し、息も絶え絶えに何とか言葉を吐きだす 

「す、すみません……あんなところで言うつもりは、なかったのですが夢中で……周りが見えず……」 

「い、いえ…わ、私も以前…その…人前で…その…好きって…言いましたし…」 

学生ラウンジでのその出来事を思い出すと酷く遠い事のように思えた 
あれからどれだけの月日を重ねてきただろう 

「もうホールには戻れませんね……」 

「で、ですね…」 

赤い顔を冷ますように少し沈黙をしたら、会場の方からラストダンスの曲が流れてくるのが聞こえた 
徐に手を彼女へと差し出す 

「………ルリアさん。一曲、お相手願えますか?……一年前はラストダンスだと気がつかずに誘ってしまいましたが今回は……これがラストダンスだと理解した上でお誘いしています。貴方が良ければもう一度ちゃんと、貴方と特別な絆を結びたいのです」 

彼女は何の迷いもなく手を重ねてくれる 

「…はい…!私も…ステイリーさんと…踊りたいです…。もう一度…特別な…絆が欲しいです…。今度は…そ、その…友達以上で…」 

「……世の中には友達以上恋人未満という言葉もありますが?」 

「…ステイリーさんがその関係をお望みなら…。恋人未満ですか…そうですか…」 

しょぼくれた彼女を見ながら何を今更心配してるんだと自重気味に微笑んで静かに呟く 

「……いえ、僕が望むのはそれ以上の絆です」 

そして星が瞬く夜空の下でダンスを踊る 
この繋いだ手がもう二度と離れないように願いながら、二人のペースでゆっくりと 

永遠とも思えたダンスの時間が終わった 
もう迷いはなかった 
小さなその手を取り、真っ直ぐに想いを伝える 

「――改めて言います。ルリアさんが好きです。……僕と、付き合ってください」 

「…はい…はい…っ!よろしく…お願いします…ステイリーさん…」 

はにかみながら笑いあう 
少しだけ他愛のない話をした後ふと星飾りの事を思い出す 

「星飾り……また魔法をかけ直したらつけていただけますか……?」 

そう言って星飾りのない髪を一房手に取る 

「そ、それは勿論…!わ、私も…また…欲しいです…。ステイリーさんの…魔法…。今日も持って来てはいたのですが…あれ?ありました…」 

ハンカチに包まれた星飾りを取り出す 
今日もってことは……いつも持ち歩いていたのだろうか 

「……貸していただけますか?」 

「は、はい…!どうぞ…!!!」 

星飾りを受け取るとその一つ一つに魔法をかけていく 
星飾りは暗闇の中、再び優しく光り始めた 

「…失礼しますね」 

手に持ったそれを一つ一つ髪につけていく 

「わわ…っ」 

恥ずかしそうに俯いたルリアさんはつけ終わる頃には以前と同じように眼を閉じていて思わずため息を吐く 
今までは友達の線を越えないようにしてきたけれど、今はもうそんな必要もない 
全てつけ終わるとそっと唇を重ねた 

「……異性の前で眼なんか閉じないでくださいと何度も忠告したはずですが……?」 

「………あ、え、う…えと……その…ス、ステイリーさんの…前でだけ…に…してます…ちゃんと…」 

「出来ればそれを止めて頂きたかったのですがね。……これからはもうどうなっても知りませんよ?」 

そしてはにかみながら手を差し出す 

「………帰りましょうか、ルリアさん」 

「……!…はい…!!」 

そして星空の下、手を繋いで帰っていく 


誰にも頼らず甘えることも出来ず、一人抱えてきたその時間 

傍にいたいと願う気持ちと傍にいるべきじゃないという思いに耐えかねて出した決断 

全てはここへ来るために必要なことだったといえばそれは結果論にすぎない 
だけど、いつかあの時の自分は馬鹿だったと笑い飛ばせる日がくれば――― 


その時までどうか、傍でこの星が煌めき続けますように 


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