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年も明けて暫くして新学期が始まった頃。ようやく冬休み前に休んだ分の遅れを取り戻した私は、ステイリーさんと私の部屋でデートしていた 

「――そういえば、ルリアさんのお父さんはお元気ですか?」 
 と彼は机の上に出しっぱなしにしていたレターセットを見て言った 
 私が手紙と言えば家族にというイメージだろうしそれで間違っていない 

 …そう言えば…あの時何があったとか話してない…。けど…話すのも…躊躇う 
「は、はい…。 去年倒れた件なら…大丈夫です。ちゃんと様子見てからこっち戻ったので」 
「その後ご連絡はとってはいないのですか?」 
「あ…えと…テストで忙しくて…。て、手紙書こうとはしてるのですよ!? ちゃ、ちゃんと…はい…」 
ただ、あんな別れ方をしたからちょっと気まずくて手紙が書きにくい。それだけ 

「そうですか……。前から気になっていたのですがルリアさんとおと……おじさんは普段はどんな話をしたりしているのですか?」 
「え…えと…どんな………? …どうしてですか…?」 
「以前一度会った時その、お互いぎこちない感じでしたし……ルリアさんから聞くおじさんの話はお仕事の姿ばかりだなと思いまして。普段はどんな感じなのかな、と」 

「……えと…普段は…というより…仕事してる方が普段です、うちは…。ほ、ほら…忙しいですし…はい…」 
 忙しい。それを理由に今まで家族らしくしてこなかった 
 少しずつでも手紙で歩み寄ろうと出来ていたのに…また離れてしまった気もする 
「……ではクリスマス前に帰省していた時はゆっくりと話せました?」 
ゆっくり…話せる時間はあったのに…それは出来なかった 
「…少しは、ですかね。…すみません、心配かけて…。なかなか…その…上手くは……何でもないです…」 
「いえ、急がなくてもいいと思いますよ。何かあったのかな、と少し気になっただけです。話しにくいことならば無理に話さなくてもいいのですが……」 
「何か…は…あったと言いましょうか…。どうなのでしょうね…。え、えと…その…ステイリーさんにご心配頂く程の事では…」 

 そう言いながら少しずつ俯いてしまう 
「そうですか……? あの時の様子はそうは思えませんでしたが……。 
 ……迷惑とか、そういうのは考えなくていいですから、ね?」 
 …やっぱりステイリーさんは優しい。心配して、それでいて私の事を考えてくれる 
だから心苦しい。私達親子の問題は…きっと重いから 

「…家族の事ですし…その…言われた事ももう今更と言いましょうか…変ではないのですが…。たぶん、私の…我がままなので…なんとも…」 
ますます俯く私の頭を彼は撫でてくれた 

「僕では……貴方の支えになれませんか……?」 
 そう心配そうな声に必死に頭を振った 
 そんなわけない。貴方は私をどれだけ支えてくれてるのか知らない 

「…重い話かもしれないですけど…大丈夫ですか…?」 
「僕が今までどれだけ貴方に重い話をしたと思ってるんです。……心配しなくても大丈夫です。話してください」 
「…ありがとうございます… 
 …お父さんの具合は…過労と心労だったそうでもう大丈夫なのですが…」 
 何から話そうか迷って考えてお茶を口に含んで考える 


「………私が住んでいた場所は何度か言ったと思いますけど本当に田舎で…それが嫌で出ていく人もいて…でも大半は家業を継いでて…。私もそのつもりなんです… 
 けど、お父さんはそれに反対みたいなんですよね…。医者を目指す事自体も昔は一杯反対されてました。重い仕事だからって…。今はもう諦めて受け入れてくれてますけど… 
 けど、それでも…。家に戻ることを…望まれてないみたいなんです…。えと…こっちのが…私にいいってお父さんは思ってるみたいで… 
 …何もない田舎より都会のがいいってお父さんは思うのかもしれないです。元々都会に住んでた人だから… 
 ただ…何といいましょうか…。家の為に…お父さんと肩を並べる為に…頑張っているのも嘘じゃないのに…。なんだか… 
 帰ってくる必要なんてないなんて言われても…嬉しくないんです…どうしても…。行き先を自由にしていいって親として普通の言葉だってわかってます! わかってますけど…それでも…」 
「……そうですね、おじさんもおじさんなりにルリアさんのことを考えているんでしょう。 
 ですがそれも踏まえて考えた上で、ルリアさんがやりたいことをやればいいのではないですか? 
 おじさんも、貴方が考えて決めたことなら……喜んではくれないかもしれませんが、貴方の想いは受け入れてくれるのではないのでしょうか」 
「…進路を変えるつもりはないです…。そこは大丈夫です…。ただ…頑張っても…お父さんが喜んでくれないって分かってます…。…それが…さみしい…」 
 自分を、見てほしい。必要とされたい…。単にそれだけの話なんだろうな…私… 

「私はやっぱり………じゃないから…」 
小さく言葉をつぶやいた。私は、お母さんじゃない。お父さんのたった一人の…相手じゃない… 

 慌てて首を振って言葉をかきけす 
「すみません…。つまりは…やっぱり…私の我がままな感情なだけです…。拒絶はされないのもわかってますし…」 
「……求めてもらえないのは寂しいですよね。親であるなら、余計に」 
「…そう…ですね…。大事にされてない訳じゃないのは…分かってますが…すみません…」 

 不意に手に、温もりが重なる 
「……ルリアさんの親にはなれないので、僕ではその寂しさを埋めることは出来ませんが……少なくとも僕は、貴方が傍に居てくれて幸せです」 

 …心が震えて涙が溢れた 

 私は、貴方を側にいる事で苦しめたのには変わらないのに…それでも、今は…幸せに出来て…いるんだと思うと…凄く凄く救われた気になった。気持ちのまましっかり相手に抱き着く 
「…傍に居て…」 

 ずっとずっと、近くに居て 
 願いをこめて、ぎゅっと寄り添った 




 それから後日。私たちに転機が訪れた 
 ステイリーさんを見かけて、声をかけようと思ったけど先生と話しだして思わず引っ込んだ 
 空気がなんだか堅い気がする。そして耳に届いた言葉は… 


「——留学の件、お断りしようと思います」 

 頭が理解を拒んだ 
 何を言ってるのかわからない。ただ心臓が大きくドクンとなってるのはよく聞こえた 


「今まで速攻で断られていたから少しは期待していたんだがな。……またどうしてだ?」 
「……離れられない……いえ、離れたくない人がいますので」 
 先生は呆れて声も出ない様子だった 

 …留…学?そんな話…知らない…。知らないのに…どうして…。離れたくないって……私…? 
 いやな汗が流れていく 

「あはは、凄く私情なのはわかっているつもりです。ですがそれでも、私にとっては大切なことなんです」 
「……たった数カ月だぞ? どれだけ色ボケしてるんだ」 
「それでも」 

「こういうのも大事な経験だ。自由な時にやっておいた方が良い。若い時の方が吸収も早いしな。あそこは星魔法にも特化しているし得るものも多い。悩んでいたってことは多少は興味があるんだろう? それでも、か?」 
「……はい」 
「……お前さんが頑固なのは知ってるけどな。ま、気が変わったらいつでも言ってくれや。枠が空いてたらギリギリまで受け付けてやるから」 

 足が震えた 
 去っていく先生の後ろ姿に頭を下げ、ステイリーさんも別の方向へ歩き出す 
 思わず後を追った 

「…待っ…! ステイリーさん…! 待ってください…! …あ、あの…その…えとえとえとえと…」 
「ルリアさん。どうかされましたか?」 
 ステイリーさんは何事もなかったように普通に振り向いた 
 けど聞き間違いなんかじゃない 

「…今の…話…留学って…? 私…聞いてない…です…」 
「……あぁ、先程の話を聞かれてしまったのですね。少し前にお話を頂いていたんですけどね、どうしようか迷っていたんです。ルリアさんにもお話しようかと思ったのですが……ですがもう行かないと決めましたので言わなくてもいいかな、と思いまして。すみません、隠していたわけじゃないんですよ」 
 この人は…この人は… 
 なんで…こんな…。 私の為だけに… 

「………私の…せいなんですか…? 私のせいで…行きたい場所に…いけないの…?」 
「違いますよ。興味がないといえば嘘にはなりますが……僕が居たい場所はここですので」 
「……やっぱりそれ…私のせいじゃ…ないですか…」 
「……僕が決めたことです。貴方のせいとか、そんなのではなくてですね……」 
 ステイリーさんが私の目にたまった涙を拭おうと手を伸ばす 
 でも思わず体がビクっとなって一歩引いてしまった 

 決めさせたのは…私だ…。私があんなこと言ったから… 
「……ごめ…っ!!」 

 それ以上言うのが怖くて、聞くのが怖くて私はやはり逃げ出してしまったのだった…。あぁ…成長してない… 



 後日の放課後 
 寮の付近のベンチでどうしたものだかぼーっとしていたら明るい声がかかった 

「おーっす、ルリアちゃん元気ー?」 
「……あ…。ルスさん…。は、はい…! 体調は至って万全です…」 
「そ。そりゃ良かった」 

 彼は自然に私の隣に座る 
 ステイリーさんがどうしているのか心配で、でも聞きにくい 
「………その…えと…ル、ルスさんはどうですか? 体調わるくなったりしてないですか? 無理は禁物ですよ?」 
「だいじょーぶ大丈夫! そういうルリアちゃんは?最近何か悩んでることとかあるんじゃない? 何か心に詰まってるならおにーさんに相談してみたらすっきりすかもよ?」 
「ええ!? あ、あのえとその…………」 
 言っていいのか迷った。けどきっと同室なんだから私達に何かあった事なんて知ってるだろうし… 
 素直に好意に甘える事にした 

「ルスさんは…ステイリーさんの留学の話…知ってますか…?」 
「ん、知ってるよ。留学先俺の出身国だしね」 
「そ、そうだったのですか!? ……そこ…どんな場所か聞いて良いですか…?」 
「んーどんな場所、か。星魔法勉強するには良い場所だよ。優遇されてるし、使えるやつは歓迎される。星に関することはなんでも揃ってる」 
「…そうですか…。だったら…ステイリーさん…興味あって…きっと行きたいって思いますよ…ね…」 
「……まぁそうだろうな」 
 その言葉が棘になって私に刺さる 

「…どうしよう…私…ルスさん…。私が…私が一緒に居たいなんて言ったから…ステイリーさんが…諦めようとしてて……」 
「俺個人としてはあんまりおススメは出来ないんだけどね。だから行かないってあいつが決めたのにはちょっとホッとしてるよ」 
「…お勧め出来ないの…ですか…? どうしてです…?」 
「んーなんつーか……星魔法至上主義みたいなところがあるからさ。外からは見えにくいけど俺は居心地が悪かった」 
「………そうなのですか……」 

 ルスさんは星魔法が使えなかった。それくらいは知ってる。そんな場所なら余計辛かったんだろうな… 
 でも…ステイリーさんには興味があって…星魔法がもっと勉強出来る環境で… 
「無いとは思うけど、ステイリーもそんな考えに感化されたら嫌だなってね」 
「…ステイリーさんはそういう人じゃないですよ…」 
 そう言って髪についてる星をいじる。優しい光がキラキラ光る 
「うん、わかってる」 

「………あのですね…ステイリーさんは興味あるって言ったんです。けど…離れたくない人がいるって…断ってて…。それは…私の事…だと思うんです…。だから…私のせいなんです…」 
「今までも、機会は何度もあったと思うんだ。でも行かなかった。……それは俺のせい。だから、気持ちはわかるよ」 
 …そうか。ルスさんも…また…ステイリーさんの我慢を知ってて… 
 けど… 

「……。私…違うんです…。もっとひどいんです…私は…最低の人間なんです…。行って欲しいって思わなきゃいけないのに…それなのに… 
 離れたくないって言われて…嬉しかったんです…! 離れたくないって思ってしまったんです…! 
 でもでも・・・・それはよくないんです…。だってやっぱり…相手の人生ですから…そういう風に縛るのは…イヤです・・・ 
 いや…なのに…喜んだ私は…最低です…」 

「そう思うのは普通じゃないかな。誰だって多少なりともそう思うさ」 
「…普通…でしょうか…? …私…」 
「うん」 
 肯定されて気持ちが少し楽になった 

「行ってほしいって言えないなら、あいつがした決断を喜んでやって。喜べないなら行ってほしいって言ってやって。そうでないと、きっと何かが残ってしまう」 
 何か。それはきっと…後々まで残ってしまうもので…私たちに影を確実に落としてしまうもの… 
 側にいてくれたら嬉しい。ずっと一緒がいい。けど、それでも 

「…………私…喜びきれないです…」 
「……離れたとしてもあいつは大丈夫、俺が保障する。なんたってもうルリアちゃんにぞっこんだからな!」 
 意味を理解した途端顔が一気に熱くなった 
「ぞっこ・・・・・・・・・・・あ、いえいえいえいえ! わ、私はその、ぞっこんですが…ステイリーさんがそんなそんなー!」 
「でなきゃルリアちゃん取らないよ。それだけ大切に想ってるってことさ」 
 そう言ってルスさんは明るく笑った 
 ううう…顔が…すごく熱い… 

「……そう…ですね…。私…大事に…されてるのですね…。 
 私、ステイリーさんと話してみます。有難うございました…!」 
 立ち上がって前を見据えた 
 こんな場所でじっとしてちゃいけない 

「ルスさんのおかげってちゃんとステちゃんに言うんだよー」 
 と言いながらルスさんは手をひらひら振ってくれた 
「は、はい…! 絶対言いますね…!」 



 場所を移動して人目につかなさそうな近場で通信道具を出す 
「……さて、と。魔力をこめて…。お願い…ステイリーさん…!」 

 いつもよりも少し間を空けて、声が聞こえた 
『……はい。どうかしましたか? ルリアさん』 
「…ス、ステイリーさん…! あ、あのあのあの…今時間大丈夫ですか…? 会って…お話がしたい…です…」 
 突然の申し出に吃驚したような反応が伝わる 
『は、はい、大丈夫です。……どちらで会いますか?』 
「え、えと…毎回で悪いのですが…私の部屋はどうでしょうか…?」 
『わかりました。今から向かいますね……』 
「はい…。お待ちしています…」 

 部屋で準備して待っていたらノックの音が響いた 
 扉を開いて相手を招く 
「はい。どうぞ、中に。お茶入れますので座って下さい」 
「……お邪魔します」 

 おずおずと入る彼が席に着いたのを見てお茶を出した 
「…どうぞ」 
「ありがとうございます……」 
 相手が一口飲んだのを見て私も口を付ける。少し沈黙が流れた 

「……………。あのですね、この前は…すみませんでした。急に…泣いて逃げ出して…」 
「あぁ、いえ……こちらこそすみませんでした……」 
 二人して頭を下げる。私は意を決して顔を上げた 
「ステイリーさん、お願いがあります。私の事は大丈夫です。だから行って下さい」 
「……え?」 

「私ルスさんと少しお話ししたんです。それで考えたんです。お話を…蹴ろうとしてくれたのは嬉しかったんです…本当に…けど… 
 やっぱり、私がステイリーさんをそこまで縛ってしまうと…罪悪感が残るんです。気にしてしまうんです。ステイリーさんは、ステイリーさんのしたい事をすればいいと思うんです… 
 今のは…ステイリーさんの言葉を少し借りました。けど…嘘じゃないです。私の…それが…考えです。寂しいですけど…私…何か月でも…何年でも…ずっとだって…待てます」 
「………いいんですか? 僕は別に行かなくても後悔は、きっとしないです」 
「…いいんです。きっと私が後悔します…私のせいでって…。本当にステイリーさんが…行くつもりがない留学のお話しなら…断ってもいいんです。けど…興味はあるって言ったじゃないですか…。 折角の機会を…諦めたら…勿体ないですよ…」 
「………」 
 ちょっとまた沈黙。本当は呆れられないか不安でドキドキする 

「……僕はルリアさんが好きです」 
 急に言われた言葉に顔が一気に熱くなった 
「え!? あ、はい!? わ、私も好きです!?」 
 慌てた私を見てステイリーさんはくすりと笑う 

「……貴方の傍に居たいし、貴方に寂しい思いをさせたくない。……ですが、そういう罪悪感が後に残るのも知っています 
 数か月だけ……寂しい思いをさせてしまいますけど、よろしいですか?」 
 あぁ…。 この人は本当に… 
 私のせいじゃなくて…私の為、なんだな…。どうしよう、嬉しい 
 諦めるのも、決断するのも全部全部、私の為… 

「…はい。数か月でも、何年でも。ただ…その…一つお願いが…。その……えと…」 
「……なんでしょう?」 
「わ、私を好きな間は…その…お別れしないで待たせてほしいな…と…。で、出来れば…連絡も取れる時はしたいですが…難しいなら手紙だけでも…! って二つですねこれでは!」 
「……別れるつもりなど毛頭ありませんでしたよ。連絡は……どうやら向こうはこの魔道具は使えないみたいなので手紙でよろしければ」 
「つ、使えないのですか…!? そ、そうなのですか…」 
 これがあればいつでも話せると思ってたから…だ、ダメージが…! けど気を持ち直す 

「が、頑張ります…! 私、きっと寂しいですけど…それでも…ちゃんと、待ちます。ずっと…」 
そう言って精一杯の笑顔を向けた。大丈夫、そう言葉に出すことで本当に大丈夫にする為に 
「……ありがとうございます」 
「…離れても…ずっと好きです…」 
 そう言って相手に抱き着く 
 互いの心臓の音が混ざるくらいの距離がとても心地いい… 
「僕も、好きです」 
 優しく抱きしめられてそのままお互いの体温を確かめあった 

「…本当に…行って大丈夫なんですね?」 
「…はい。頑張って来て…下さい」 
寂しい。行かないで。そんな気持ちも勿論ある。それでも後悔とか罪悪感を残したくない 
「…出発は春休みになると思います」 
 ちょっと先。でも多分すぐ来てしまう 
「それまで…沢山デートして下さいね」 
「勿論」 
 指を絡めてしっかりと繋ぐ。何があっても離さない。そう誓うように 

  
 この手が離れても、きっと繋がっていれる。何かが切れる訳じゃない。だから大丈夫 
 今は少しでも、ぬくもりを自分の体に刻み付けておきたかった 

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