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店先に並ぶチョコレート、手作りの本 
可愛いラッピング用アイテム。ハートの形のカード 

バレンタインが近づいて来た 

私は去年のリベンジをかねてどうしてもしたい事があった。 
それは…それは……! 去年は日付が変わってからバレンタインじゃないという言い訳で渡した。だから今年はその日になった瞬間に誰より最初に、一番に渡したいというリベンジ…! 一晩一緒に過ごすと言ったら私達ならやはりいつもの書庫だと思う 
一緒にお昼の時、お願いとして言い出した。きっと大丈夫と思っていたら… 

「…………すみませんがそれは勘弁して下さい」 

断られると思ってなかったので思わず固まってしまった 
「ど、どうしてですか…!? 図書館で一晩明かすってよくやってましたよね…? なんで…」 
「夜は冷えるから良くないですし……本来ならやって良い事じゃないですし、それに……」 
「それに…?」 
ステイリーさんは歯切れ悪く迷うように言葉を探す 
「…恋人だからダメです」 
「…ど、どうしてですか…!?」 
恋人になると一緒にいれなくなるの!? 
「一晩一緒に過ごすって意味が違います…それに…好きな人を外泊させるのは…その…やはり少々…」 
「…で、でも公共の場所ですし…それに…ステイリーさんが一緒ですし…」 
「それでも、です。…心配しなくても本命はルリアさんからしか受け取りません。その日は休みですし…一番に会えばルリアさんのやりたい事は出来ますよ?」 
「…そうですけど…」 
恋人になる前のが一緒にいれるのがちょっと、いや結構寂しい…。そう言えばここのところは夜居座ろうとすると送りますって無理矢理にでも帰らされていたとは気付いていたけど… 
それに…義理も含めて一番に渡したい…なんて我儘かな… 
しょぼくれた顔をした私の頭に柔らかい感覚。頭を撫でられてると気付いて自然と俯く 
「…すみません。その代わり朝から付き合いますから。…それではダメですか?」 
ちょっと見上げると申し訳なさそうに笑う顔。…ずるい。私はその顔に弱い 
「…お昼前からで大丈夫です…」 
朝に弱いステイリーさんの為に早くからという気分にはなれなかった 
「はい。じゃあ約束です。その日はルリアさんのリクエストを聞きますから、行きたい場所があったらどこでもどうぞ?」 
行きたい場所…行きたい場所…。私としては一緒にいれればそれで十分幸せだけど… 
でも一つ浮かんだ。私は相手の事がもっと知りたい。だからこそ 

「で、では…ステイリーさんの思い出の場所に連れて行って下さい…!」 
と我儘を言ってみるのだった 




毎年のように開かれてるチョコレート講座に参加して一生懸命チョコを作り上げる 
今年はもう遠慮する理由がないからハートの形で作ってみた 
私のたった一つの大事なハート。美味しいと思って貰えるよう頑張った 

服も頑張っておしゃれして、ちょっと背伸びして軽く色のついたリップを塗ってみて、前の誕生日に貰った手袋をして待ち合わせ場所に急ぐ 
「す、すみません…! 待ったでしょうか…?」 
「いいえ。大丈夫ですよ」 
…ど、どうしよう…いきなりチョコ渡すのもなんかおかしいし…やっぱりムードがちょっとは欲しい…! 
赤い顔してそわそわしていたら笑顔で手を差し伸べてくれた。手を繋ぐのも少しずつでも自然になってきた。けどドキドキするのはやっぱりとまらない 
そっと笑顔で手を重ねる。ステイリーさんも私が作ったマフラーをしてくれてるのに気付く。嬉しくてくすぐったい 
「では、行きましょうか」 
「はい…!」 
二人そろって雪の上をさくさく歩きだした 


まずは近くでお昼をとってステイリーさんの思い出めぐりツアーは始まった 
「ここが幼稚園です。とはいえ僕ももうあまり覚えていないのですが」 
「へぇ…! 小さなステイリーさんはきっと可愛かったのでしょうね…!」 
子供姿を想像してみたけどやはり大人の姿しか知らないから上手くイメージ出来ない 
でもきっと可愛かったと思う…! だってステイリーさん…結構綺麗だし… 
「いや…それはどうでしょう…。きっとルリアさんの方が可愛いですよ」 
「…ぴぎゃ!?」 
不意打ちをくらって思わずぼふん! と真っ赤になってしまう。い、今変な声が出た…恥ずかしい… 
彼はそんな私を見てクスクス笑う 
「あ、あの、えと…そ、そんなことは…えとえとえとえと…す、ステイリーさんはどんな子供でした?」 
「そうですね…。大人しめだったと思いますよ? 妹が出来てからはお兄ちゃんになろうとしてたとは思います」 
「そうなのですか…」 
確かに活発に走り回るより読書の方が好きそう…。あ、でもルスさんとは走り回る姿のが似合いそうだなぁ… 
「ルスさんとクローシアさんとはこの頃から?」 
「いいえ。もっとずっと後です。中等部あたりからですね」 
「へぇ…。もっと長いと思ってました。仲良しですし」 
「有難うございます。…僕にとって特別な友人ですからね」 
彼を思い浮かべる時、前はどこか遠くを見ていたステイリーさん。今は違う。ちゃんと遠くにいってない 
それがなんだか嬉しい 
「…少しうらやましいです…。特別な友人って…」 
気を許せてきっと誰より近い。私も初めての後夜祭で特別な絆を結んだ友人にはなったけど…それとはまた違う。そんなのなくてもちゃんと特別なのが羨ましい 
璃王さんもきっとそうなんだろうな…羨ましい… 

「そんな顔しなくても僕にとって、恋人として特別なのはルリアさんだけですよ」 
…どんな顔してたんだろう…。そして今の私は絶対真っ赤になってる… 
「…う、嬉しいですけど…私もですけど…そ、それと友達は別なんです…。い、いえその…友達に戻る気はないですが…」 
「僕もないです。奇遇ですね」 
な、なんだか…今日のステイリーさんは強い…。す、ステイリーさんってこんな風に言っちゃう人だったっけ!?い、いや…ずっとそうだっだ。この人は私よりずっと強い。私自身が弱いから当たり前だけど…翻弄しかされてない…! 
「つ、次! 次行きましょう…!」 
「そうですね、では次は…」 

そうして初等部、よく行ったっていう公園 
よくお菓子を買ってもらったていうお店 
ステイリーさんの思い出がつまってる場所に色々連れて行ってもらった 
インドア派の私達にしてはかなり歩いた。けど楽しくて疲れなんて感じない 
中二病時代だけはやっぱりあまり教えてくれなかったけど一緒にゲームしたら楽しかった 

「一杯歩きましたね」 
「そうですね」 
流石に少し休もうと思ったら雪がちらついて来た 
「…外はこれじゃあ寒いですね…」 
「そうですね…」 
「……その…良ければ、ですけれど……」 
ステイリーさんは照れたような顔をしている。どうかしたのかな? 
「休憩がてら…僕の家にでも来ますか…?」 
最後の方の語尾は小さかったけど確かに耳に届いた 
「……い、良いのですか!?」 
「…ルリアさんが大丈夫でしたら…」 
「い、行ってみたいです…! ステイリーさんのお家…! 興味あります…!」 
「…そうですか。では行きましょう」 
照れたように前を歩く相手について行く 
わーわー!嬉しい…!実家があるのは知ってたけど行けるなんて…! どういう家なんだろう…!? ご家族とか…家族…と…か………… 
「…行く前に手土産必要ですよね!?」 
今気づいた! つまりご両親とか妹さんとかいるかもって事!? 実は妹さんには前の後夜祭のあと思いっ切りにらまれた事はあるんだけど… 
「いえ、今日は家族はいないので大丈夫ですよ。月一で夕飯一緒に食べてはいますが今日はその日でないので。妹は寮でしょうし両親もデートですよ」 
「…仲良いご家族なのですね…」 
いいなぁ、そういうの羨ましい… 
「…まぁ普通より仲は良いかもしれませんね。なので手土産はお気になさらず」 
「は、はい…」 
普通…か…。うん、家族揃ってるのってこういう裕福な場所なら普通だよね…。いや、うちの場合問題なのは片親って事より…コミュニケーション不足なとこなんだろうけど… 

なんて考えていたら家についた 
なかなか可愛らしいお家だ。レンガ調の作りに三角の屋根、木製の扉…お庭も綺麗。春になったら花が咲くのかな?門には陶器のお人形さんが出迎えてくれている 
「お、お邪魔します…」 
「どうぞ」 
緊張しつつそっと入ってみるとそこは優しい空気が感じれる空間だった 
家族の写真が飾られていたり、きちんと整えられていてそれでもなお生活感は感じる 
「…えと…リビングがいいですかね…?」 
「あ、えと…」 
こんなチャンスは二度とない。そう思ったら口に出ていた 
「す、ステイリーさんの部屋が見たい…です…」 
あ、赤くなった 
「わ、分かりました…。此方です」 

そこは綺麗に片付いていて、生真面目な彼らしい落ち着いた部屋だった 
思わずきょろきょろ見てしまう。ここで…ステイリーさんは生活してきたんだな… 
「…あまり見られるとちょっと恥ずかしいですが…。飲み物いれて来ますね。ルリアさんは紅茶がいいですか?」 
「あ、えと、コーヒーでもいけます!」 
「ミルクと砂糖多めで?」 
う…。確かに苦いの苦手だけど…。遠慮しなくていいって言われてるけど… 
「多少めで…」 
「了解です。適当に座っていてください」 
部屋のドアがぱたんとしまる 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 

あれ!?今私彼の家の彼の部屋で…しかも二人っきり!? 
い、いや今更だけど…な、なんだかすごくドキドキしてくる… 
チョ、チョコいい加減渡さないと…。で、でもどうやって? と、とりあえず座ろう!うん! えーとえーと…ここだ! 
ベッドの柔らかさが身にしみる…って。じゃなーくーてー! 
ゆ、ゆ、床に座ろう…。うん。このお布団…ステイリーさんが寝てる布団…。ちょっとだけ… 
寝転がってみたらお日様の匂いがする 
…いや、待って自分。てんぱりすぎてる…。でも気持ちいい… 

「…疲れましたか?」 
コーヒーを持ってきたステイリーさんにばっちり見られてしまいましたとさ… 



二人きりなんて今更だしここまで緊張することもないのにって自分でも思う 
いつもは自分の部屋だからやっぱり落ち着くのかな? 
ちょっとぎこちなく落ち着かないまま甘いコーヒー牛乳をのむ。そんな私を見てステイリーさんはくすっと笑った気がした 
「…え、えと…その…見られると恥ずかしい…です…」 
「そうですか」 
でも相手は見るのをやめてくれない。真っ赤になってく私をじーと見る 
息がつまる。心臓が壊れそう。どうしよう 
「あ、あまいです…」 
「砂糖入れすぎましたか?」 
「…空気が…」 
あ、照れた 
「す、すみません…。なんだか今日は私変に緊張してしまっていて…」 
「いえ、こんな状況で安心されてもちょっと…困りますし…」 
「困るのですか?」 
「…まぁ…。ルリアさんにはただでさえ自覚が足りないので…」 
あ、また言われた。前より異性に顔を近づけないとか気にするようちゃんとしてるのに… 
「恋人と一晩とか…二人きりとか…もう少し危機感もっていいと思います。信頼は嬉しいのですが…」 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 
なんとなく、なんとなくだけど自意識過剰でなければ言われてる意味が分かって来た気がする… 
「…え、あ…その…ひゃっ!?」 
変に意識して手が震えた。コップを落としそうになって慌てる 
「大丈夫ですか?」 
「コップは無事です!」 
ちゃんと落とさずキャッチ出来た! 
「いえ、それよりルリアさんがですよ」 
彼はコップを私の手から取ってテーブルに置いて私の手や服を見る 
「…火傷とかしてないですね? 服は…一応汚れてないみたいですが…」 
「…………だ、大丈夫です…」 
いつになく暴れる心臓の音に意識が吹っ飛びそうになりながらなんとか返事をする 
「すみません、なんだか…」 
手を離して少し相手が離れる。ちょっと距離なのになんだかそれだけが急に寂しくなった 
「い、いえ…」 
二人して沈黙 
「えと…せっかくですし昔のアルバムでも見ますか?」 
「あ、は、はい…! それは是非…!」 
変な空気がなんとか変わって少し普通に戻れた。安心もしたけど…ほんのちょっとだけ残念にも感じてしまった自分が何とも言えない… 



「わぁ…! ステイリーさん可愛いです…!」 
小さなころの彼は自分が思ったよりずっとずっと可愛かった。やっぱり昔から癖っ毛なんだな。 

「まぁ子供ですからね」 
「あ、この赤ちゃん妹さんですね。可愛い…!」 
幸せそうな家族が段々成長していくさまが収められている。私の知らない年月がここにある 
私の知らない友人との写真、知ってる人との写真。どれも私が相手を知らなかった間の時間 
あ、ルスさんとクローシアさんだ。三人の写真が一気に増える。やっぱり仲良しなんだなぁ…。あ、これなんてクローシアさん単品だ 
と思ったら慌てたように次のページにめくられた 
「どうかしましたか?」 
「あ…いえ。なんでも。続きをどうぞ」 
「?」 
中二病時代の写真でもあったのかな…? 疑問に思いながらも次に手を進める。そして…きっとルスさんが倒れた時間。その後からの写真はぐっと少なくなって学院のイベント写真がほとんど。それも笑顔が陰っているものばかり 
それだけでどれだけこの人が苦しんでいたのかが伝わるようで胸が苦しくなる 
「あ…これ…私…」 
初めての後夜祭の後、ペア投票の為にって撮影された一枚。 
…なんだかこうやって改めてみると…恥ずかしいなぁ… 
「ここの少し前の時間から、ルリアさんと話すようなったんでしたね」 
相手も懐かしむよう写真を眺める。 
そうだったな…。出会いは病室で…それから始まって… 
それから色々あった。…折角こんな技術があるんだからもっと一緒に映っておけばよかった… 
「…これからは…もっと私もここに参加したいです…」 
アルバムをそっとなでる。これまではどうにもならない。だからこれからもっと増やしたい 
「写真はあまり得意でないのですが…けど、そうですね、たまにはお願いします」 
「は、はい…! たまには…!」 
最後は今年の後夜祭のMVP受賞の写真。これもまた愛おしい思い出 

「…終わっちゃいましたね」 
「そうですね。最近のは少ないので」 
さっきとはまた違うまったりした沈黙。自然と寄り添うよう体が動く 
「…ところで…その…それは…」 
相手の目線が私のチョコに向いた。あ、うっかりしてた…! 今日はこの為にデートしてたのに! 
「す、すみません…! で、では…その…ど、どうぞ…です…。ちゃんと…本命です…」 
「……有難うございます」 
「ど、どうぞ…よければ…」 
「いいですか? では頂きます」 
金のリボンに星の飾りがついていて、夜空の色の箱。星空をまた今年もイメージしてみた包みがほどかれ中からハートの形のケーキ。表面のデコレーションに星の形の黄色い市販のチョコを飾ってみた 
「これはまた…」 
「す、すみません…! 作ってて調子のってしまってつい…!」 
「いえ、美味しそうです。フォークとお皿持ってきますね」 

そうして準備されてケーキを一口。ドキドキしつつ反応を待つ。何度体験しても…目の前で食べて貰うのって緊張する… 
「美味しいです」 
緊張が一気に抜けて肩が下りる。良かった… 
「ルリアさんも一口どうですか?」 
「い、いえ。それは私の気持ちなので…ステイリーさんに全部食べてほしい…です…」 
自分で言ってて恥ずかしくなった 
でもやっぱりお揃いに私たちは照れている 
「…ちょっと待っててください」 
そう言ってステイリーさんは席を立って何かを持って戻って来た 
「家にあったお菓子で悪いのですが…。今日は疲れたでしょう?良ければどうぞ」 
エリュティアでよく見かける人気のチョコ菓子 
「私これ、好きです。有難うございます」 
遠慮なく一口。甘い味が口に広がる 
「美味しいです…」 
「良かったです」 
見つめあって笑いあう 
「……なんだか食べきってしまうのが勿体ないくらいです」 
「あ、有難うございます…。ですがやはり食べてもらわない事には…」 
「分かってます。他の誰かにうっかり食べられるわけにいかないですからね。これは僕のですし」 
…なんだか…私自身を僕の、と言われた気がして妙に気恥ずかしい… 
「ど、どうぞ召し上がって下さい」 
「はい。其方も好きなだけどうぞ」 
笑いあってゆっくり一緒に相手の部屋でチョコを食べる。…去年の自分は…逃げたままいじけていたことを思うとかなりの進歩だな… 



食べ終わって少し。二人きりでまだいたくて何となく二人して黙って寄り添ってしまっている 
「これからどうしましょうか…?」 
「…そうですね…」 
そう言いながらもステイリーさんの指に自分の指を絡めたり外したりとする 
ぎゅっと手を握られ包まれる。ステイリーさんも今同じようにまだ二人でいたいって思ってくれてるのかな…? 
相手を見つめれば見つめ返される。自然と顔が近づいて唇が重なった 
チョコレートの甘い味。チョコレートより甘い人 
心地良さに身を任せていつもより長めのキスをする。そしてぎゅっと抱きしめあう 
「…あったかい…」 
「そうですね」 
こ、これってすごく恋人っぽい…!こう本とかでよくあるような…そんな感じのだったよね?今 
「きもちいい…」 
体を寄せてすりすりと甘えてみる。少しずつだけど甘えるのにも慣れてきたかもしれない 
「……ルリアさん」 
「はい?」 
少し固い声にちょっと身を離す。何か問題でもあったのかな…? 
「……僕は貴方の嫌がる事は絶対にしません」 
「はい」 
「ですから…嫌な時は嫌と言って下さい。遠慮なく」 
「…? …ステイリーさんは私が嫌がる事しないって分かってますよ?」 
「…そうとも限りませんよ?」 
「…そうですか。確かに人間ですし気付かず何かあったりする可能性はゼロではないでしょうね…。分かりました。嫌な時はちゃんと言います。その代わりステイリーさんも遠慮なくどうぞ!」 
「僕はちゃんと言ってますよ。ダメなものはダメと」 
…確かに 
「でもどうして急に…?」 
「…まぁその…色々…」 
「?…よく分からないですが…けどね、本当に…私、ステイリーさんにされて嫌なことって多分…何もない…です…」 
本音を言ったのに真っ赤になって困ったように相手は頭をかく 
「信頼しすぎです…」 
「好きですから…」 
私が好きになった人はそういう人って分かってるから 

また唇が重なってゆっくり体が傾く 
背中には床。目には互いしか映ってない 
「ルリアさん…」 
指がからまる。心臓がうるさい 
また顔が近づいて、目を閉じて待って… 

「ステイリーちゃん帰って来てるの?帰ってくるなら帰ってくるって言ってくれれば良かったのに~」 

ぱたぱたと階段から響く足音と声。二人して慌てて起き上がると同時に扉が開いた 
「母さん……!?」 
「あ、え、えと、その…」 
二人して真っ赤になって口をパクパクさせてる。ど、どうしよう!ステイリーさんのお母さんと私初対面なのに…! 
扉を開けた姿勢で固まっていたステイリーさんのお母さんは、状況を把握したのか笑顔を浮かべ 
「どうぞ続きをごゆっくり」 
…とそのまま扉が閉められた… 

「…………すみません、ルリアさん…」 
「…い、いえ…。吃驚しましたけど…ど、どうしましょう!? ご挨拶…そう! ご挨拶をきちんとせねば…!」 
「落ち着いて下さい。はぁ…もうこうなったら紹介するしかないですね…」 
「え!? やはり私では紹介して頂くには分不相応でしょうか!?」 
「いえ、そういう事ではなくて、母さんはああいう人なので…その…恥ずかしいだけです…」 
「そうなのですか? …わ、私頑張りますので…! 気に入って頂けるように…!」 
「そこは心配しないで平気ですから…。ちょっと話してきますから待っててください」 
ステイリーさんは疲れたようにため息をついて出て行った 
気付けばもう外は暗かった。そんな時間だった事にも気付かなかった… 

それから私たちは半ば強引に夕飯に誘われ、ご家族との食事で紹介して貰う事になったのだった 
噂で私の存在は知られていたとかで色々話を聞かれた 


なんだか最後はばたばたしてしまったけど、それでも今年のバレンタインは成功出来た気がする 
彼のお母さんからこっそり聞いた話だけど、毎年お母さんが贈っているチョコも、今日は私の為に後で貰うって言って受け取らずにいてくれたんだとか 
それを聞いて私はまた、この人が好きだって再認識したのだった 

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