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※アテンション

この話の前にサークル内イベントハロウィンを経て、ルリアはよりステイリーさんを意識している状態になっています

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目が覚めると温かく柔らかい場所に寝て居た 
たまに撫でられる感覚がしてくすぐったい 

「…?」 

身じろぎして違和感を感じる。寝ぼけた頭ではっきり分からないけど強烈な違和感だ 

「あ、気が付きました?」 

と、声がかかって顔をあげたら見慣れた人の姿。…ルリアさんだ 
よくよく注意してるのに相変わらず顔を近づけてきて目を覗き込んで来る 
澄んだ青に少し桃色が混じる独特の色味の瞳がやたら大きく見えた 

注意を促そうとしたけれど上手く声が出ない 
…おかしい 

「体どうです?一応手当てしてみたのですが…」 

手当て…?…僕はどうしてルリアさんと居るのか… 
とりあえず身じろぎした感じで特に痛みは感じない。問題ないので頷いておく 

「あ、やっぱり言葉わかってます?リース先生に診てもらったのですが特殊な子かもって言ってたのですよね。動物は専門外だって言ってましたがロフィーナ先生今日は居なくて…」 

…動物…? 

改めて体を起こすと普通に立てない。手を見ると黒い毛並みのまるで獣のような姿… 

「にゃ…!?」 

慌てて起きあがり、周りを見渡すと…うん。部屋だ。間違えようもないほど部屋だ。机の上にクッションが置かれ、その上に寝ていたらしい。僕には分からないおそらく専門の医学書が机の上には広がっている 
…ルリアさんの…部屋以外にないだろう。この状況は… 
見るからに本が詰まってる本棚がその証明をしている。借りた事のある本もあった 

「もう今日は遅いから、飼い主…というか契約主さんですかね?は明日探してあげますね。ここに泊まっていってください…!猫さん!」 

…聞き間違いじゃなく猫さんと呼ばれた… 
…え、い、いや…待て。問題発言があったような…? 

「ご飯、作ってあるのです。ちょっと待ってて下さいねー♪」 

動物相手だと遠慮がないのかいつもより明るい口調でエプロン付けて簡易キッチンにいそいそむかう彼女 

とにかくぶしつけかもしれないが部屋を見渡しドアの近くに全身用の鏡を見つけた。慌てて机から飛び降りてその前に立つ 

…猫だ。見間違えようもなく黒い毛並みの猫だ… 

…思い出した…!確か僕は講義が終わって戻る時、誰かの魔法の巻き添えをくったんだ 
そしてそのまま気絶した 
…攻撃性のある魔法ではなかったようだが…変身魔法の類なのだろうか…?これは 

そしてどういう訳だかわからない。けどルリアさんに拾われたらしい 
倒れた猫を放っとけずリース先生に見せてそのまま連れ帰って来た…というところか 

…何と言うか…これは逃げるべきなのか…? どうすればいいんだ…? 

「猫まんまです!食べれます?」 

…キャットフードでないことに安心を覚えつつ。 
こんな状況なのに体は空腹を訴える。とりあえずご飯位はいいかと頷く 

「よかったです!一杯食べてくださいね!」 

犬食いにはちょっと抵抗があったがしょうがない。有難くいただくことにした 

…そういえば彼女には前回よく分からず逃げられたままだったのを今更思い出す 
元気そうだし風邪という事はないんだろうな。それなら良かった 
彼女はパスタ料理を行儀よく食べていた 


ご飯を食べて一息ついて考え込む。とりあえず頼るならヤマト先生だろうか…。時計を見るともう遅い時間。居るとしたらきっと職員寮の可能性が高い。しかし職員寮のどこに居るのか見当もつかない… 
そんな事を考えていたら爆弾が落ちてきた 

「…ちょっと床汚れちゃいましたね。今体洗ってあげます」 

意識が一気に彼女に戻った 

彼女は上着を脱いで靴下も脱ぎ捨てる 
…え、まさか…!? 
思わず目を逸らす。確かに自分が動いた場所の床は汚れてはいた。けどそれは…! 

「大人しくしてて下さいね」 

抱きあげられ慌てて抵抗したら思わず手をひっかいてしまった 
けど目に入った彼女はそれ以上は脱いでおらず一安心した…… 
し…心臓に悪い…… 
…というか…傷を付けてしまった… 

「大丈夫ですよ、この程度なら」 

彼女は治癒魔法を使って自分の手を治した 
しょぼれくれている隙に…風呂場にいれられてしまったのは不覚だった… 
鼻歌を歌いながら優しく僕の体を洗う彼女 
は…恥ずかしい……… 
体をドライヤーで乾かされた頃にはすっかりのぼせていた 

彼女は床掃除をして立ちあがった 

「今度は私がお風呂行ってきます。待っててくださいね」 

…今のうちに逃げるべきなのか…。行くあてはないがこのまま泊まりは…流石に… 
しかしどう頑張ってもドアを開ける事は出来ず途方に暮れた 
…明日連れ出してくれるまで大人しく待つしかないか… 

仕方なく覚悟を決める事にした 


お風呂から上がった彼女は何とも可愛らしい桃色のネグリジェなんて着ていて流石に星飾りを外していた 
…何と言うか…目のやり場に困るような…。思わず目を逸らす 

「この髪飾りの魔法はね、その友達からの貰い物なんです 
 綺麗でしょ?私の宝物なんです」 

星魔法をかけた髪飾りを大事そうに綺麗な箱にしまう 
…宝物…。そんな言葉に嬉しくなった 
星がない状態の髪の方がもう珍しく感じてしまう。それ位いつの間にか見慣れていた 

「離れていても…近くにいる気がして…。ってゴメンなさいっ… 
 …ね…猫さんは好きな相手…います?」 

ど、どう反応したら良いんだ…?ここは 

「…ステイリーさんに会いたいなぁ……」 

彼女はベッドに腰掛け僕を手招きする 
側によると抱き上げられ膝に乗せられた 
いや、これはまずいだろう! 

慌てて膝から降りてせめて隣に座る 

「…照れ屋さんですかね…?」 

…もうそれでいいです…。目をそらし頷く 

「…そっか。…あのね、貴方の目の色私の大好きな人と似てるんです…」 
思わずドキリとした 

「…私ね、その人に悪い事しちゃったんです。だから明日…謝るんです…ちゃんと」 

原因は結局何だったのか 
気にした途端彼女は語りだす 

「…ちょっと練習させてください…! 
 …おほん。え、えとステイリーさん!この前は済みませんでした…!私はどうやら貴方のおかげで大人にして貰えたようなのです」 

ずっこけたのは仕方ないと思う 
…えーと。僕には身に覚えが… 

「大丈夫ですか?猫さん」 

頷いておく 

「…で、では続きです 
 …アゲハ先生に聞いたのですが…私はどうやら…その…えと… 
 す、ステイリーさんを…意識し過ぎたようで…。す、好きなのは前から…ですが…!その…だ…だ…男性として…意識しすぎて…怖くなって…。い、今さらなのでしょうが…先生曰く…女の子から…女性になったと… 
 ステイリーさんは怖い事しませんし…何も悪くないです…!す、すみませんでした…! 
 …で通じますかね…?猫さん…」 

…………はい、通じました…。つまりは…やっとでそういう意味での警戒心を持ってくれた…という解釈でいいの…か…?今黒ネコでよかった…。でないと真っ赤なのが伝わってしまっただろう 

「…私駄目駄目ですよね…。ステイリーさんに先なんて望めないのに…」 

彼女は僕を撫でながら目を覗いてくる 

「あ、ステイリーさんって言うのは私の友達です!優しくていい人で…大好きな人なんです 
 その人はね、自分を責めているんです。友人を傷つけた事を… 
…結局自分を許せるのは自分しかいないんですよね…。そう言うのって…誰かの言葉で解放されることもあるのですが…ステイリーさんにはきっとそうもいかないですし…」 

両想い。その甘い響きに応えてあげれない自分。彼女の普段言えない本音をようやく聞けている気がした 

「…私は璃王さん・・・・友達に救って貰えたけど…私が彼を救うのはきっと…出来なくて… 
 ただ、願うだけなんです。向こうも気持ちがあるのなら…。自分を責めながらも私を傍に望んでくれるのなら…。せめて傍に居る内は好きでいて、傍で支えたいって。…この気持ちがせめて、彼にとっての嬉しい物とか…ささやかでも幸せなものになってくれたらって… 
 幸せを望まないって言われました。けど…でもね…身勝手でも私は望むんです…。せめてほんの少しでも…気持ちを和らげてあげれたら…って。…一人にしないでいられたら…って。そうして優しさを返したいんです。好きだから…辛いだけでいさせたくないんです…」 

璃王がの一言はちょっと気になった。けど続く言葉に何とも言えない気持ちになる 
…そんな事考えていたのか… 

「”…傍にいれればそれでいい”…って思うのが多分正しいんです。…でも気持ちってままならないですよね…。重荷にだけはなりたくないのに…望む気持ちも増えるし… 
 …って御免なさい。初対面の猫さんに言う言葉じゃないですよね。…でも誰にも言えなくて…。御免ね?ご主人様にも内緒ですからね?」 

…とりあえず頷くしかなかった 

「…ありがとう。優しいですね、猫さんは…」 

彼女はそれから他愛のない話を続ける 
リュンヌさんをよく迷子から保護しているとか、エリザさんとロニヤさんと料理した時の話とか 
ゆっくりゆっくり撫でられる感覚に段々眠気が落ちてくる 

そうしている内に、疲れたのか眠りに落ちてしまった 

……戻ったらちゃんと謝らないとな……と落ちて行く意識の中考えた 




翌朝 
何だか暖かく柔らかい塊が腕にある 
心地好さに無意識に擦り寄る 

そうしたら相手も何だか動き出して擦り寄ってくる 
石鹸の匂いが心地好い 
しばらくそのまま互いに擦り寄いあう 

………えーと…… 
ゆっくり頭に昨日の出来事が蘇る 
…何かおかしい 
目を薄く開いて自分の手を眺めると普通に人間の手だった 

……戻った……? 

…というか…あれ…?この状況は… 
俗に言う添い寝というやつでは………?ああ、あれか…あの後きっと隣に運ばれたのか… 

「…ん…?」 

彼女の目が覚めたらしい 

「…ステイリー…さん…?」 

………… 
まずい………… 

段々状況が飲み込めてきたのか真っ赤になっていく彼女 
とっさに口を手で塞ぐ 

「さ…叫ばないで下さいよ…?」 

流石にここで叫ばれたら困る…! 
彼女は真っ赤になりながらこくこく頷く 

ゆっくり手を離した 

「…あ…あの……?これは一体…」 

彼女は髪を手で直しながら慌てる 
…もうどうしようもない… 
正直に出来事を告白する事にした 



「つ…つまりあの猫が…ステイリーさん……」 

「…すみませんでした…」 

「……!!」 

彼女は布団に顔を埋め必死に叫ぶのを我慢してくれた 
…気まずい… 



「…忘れて下さい…」 

しばらくの沈黙後つぶやかれた言葉はまさに自分の望みでしかなかった 

「…そちらも…」 

彼女は何とか頷いた 


着替えを覗かないよう背を向け目を閉じつつ…どうやって脱出するかを必死に考えるのであった… 


何とか彼女の幻術魔法で姿をごまかしながら脱出して帰った時には色々力尽きてしまった 

まだ、腕に感触が残ってる 
彼女の気持ちの変化とか、部屋の様子とか、宝物とか、色々頭を巡っては顔が熱くなる 

…一体僕は何をしてるんだろうか… 

疲れ切った頭で考えれたのはとりあえず 
―もう、猫にはなりたくない…― 

それだけだった 



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