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私が彼女達を揃って初めて見たのはある日の夜の図書館が切欠だった 
広い館内の中でもマイナーな本を探して歩き回っていたら一つの光が私の目の前を横切った 

「…星…?じゃない…光…?」 

最近知り合いになったばかりの星魔法を使う知人を思い出した 
けど何となく違う 

好奇心で追いかけてみた 
その光は外に向かい私もそのまま追いかける 

裏庭の水辺 
そこにその美しい人達はいた 

蛍のような光を生み出す長い黒髪の……多分男の人に、それを嬉しそうに眺める金の髪の女の子 

あの金髪の人は前に書庫で話し掛けられた事がある 
確かリュンヌさんだ 

彼らまるで完璧な物語の中の王子様とお姫様みたいで 
しばらく私は二人を眺めていたのだった… 



「星とはまた違ったな…」 

「何がですか?」 

「わわ…!い…いえ…!その………綺麗な王子様とお姫様みたいな人達が…いまして…」 

病院のバイトの帰り 
今日は病室でその星魔法を使うステイリーさんと会ったので帰りに送ってくれると申し出て貰えたその待ち合わせだった 
しかし…ただの知人に対してなんと優しい人なのか…!内心で拝んでおく 

「…まぁ実際王子様もお姫様もいますしね」 

それは知ってる 
実際私の国の王子様が居るんだから 

「…そうですね」 

光に囲まれていた彼等はまるでお伽話の一ページを切り取ったみたいで目に焼き付いた 

「…図書館で会うサシェさんみたいな感じの綺麗さだったんです」 

何故かある日突然本を借りに来たエルフの人 
エルフだから綺麗なのは当然。あの二人にはそれに通じる美しさがあった 

「…サシェさんですか…」 

彼は前の私が起こしてしまった騒動を庇ってくれた時サシェさんに会ってる 
あの独特のマイペースぷりを思い出してるんだろう 
私にはそれが有り難いんだけどな。話しやすくて 

「また見てみたいです…」 

私だって綺麗な人は好きだ 
美しい物には心が惹かれる 

その願いは不涸花杯前に叶えられた 


お祭り前日 
緊張で上手く寝れなくて私は寮の食堂でホットミルクを飲んでいた 
同じような人が他にもいて親近感を覚える 

「…いい加減寝なきゃ…」 

しかし緊張は収まらない 

久しぶりに星でも眺めようかと上着を羽織り外に出ると、前に見かけたリュンヌさんがいた 

その顔は泣きそうにも見えた 
だから思わず話し掛ける 

「…大丈夫ですか…?」 

「え…?…あ、大丈夫よ。ゴメンなさい」 

…何て綺麗な人なんだろう… 
上品な感じだし… 

「あ…えと…その…良ければこれどうぞ…」 

あまりの綺麗さに見とれたせいなのか思い切って食べようと思ってたクッキーを差し出してみた 

「…有り難う」 

月の光を浴びて笑う彼女は月の妖精みたいだな、とか間の抜けた事を考える 

「い、いえ…!外は冷えますから…早く入った方がいいですから…!」 

慌てて立ち去ろうとすると裾を捕まれた 

「あ…!ゴメンなさい!待って…!」 

心臓がドキドキした 
失礼だったかな? 

「あの…寮まで連れてってくれないかしら…?」 

…ひょっとしたら、心細いのかもしれない 
明日を考えると仕方ないかも 

「…はい。行きましょう」 

「えぇ…。有り難う…」 

星空は眺めれなかったけど、まるでお月様に微笑まれた気分の夜だった 


そして不涸花杯当日 
明らかに場違いな私は緊張中 

唯一会話しやすい知人のステイリーさんとは順番も離れていたし最初に挨拶したきり。彼は社交的なのか色々な人と話していて順番に並んでいる今声はもう声がかけれる状況じゃない 

しかも私はあの時の綺麗な男性と順番が近くだったりする 
彼はヴィヴィさんと言うらしい 

一回ステイリーさんと目が合った 
大丈夫と強がって笑い返せたと思いたい 


気をそらすように私の近くに立つ人の背中を眺めて、ふとあの美人の彼女がいない事に気付いた 
前に出場者で集まった時彼女は居たはずだから出場する筈なのに。どうしたのだろうか? 

「…あ…あの…ヴィヴィさん…」 

緊張したけど話し掛けてみた 

「…はい?どうかしました?」 

うぅ!やっぱり綺麗…! 

「その…あの…リュンヌさんは…どうしたのかな…と… 
き、昨日寮で会って……沈んでいたみたいで…心配で……! 
わ、私お二人が…一緒の所見た事…ありまして…!お友達なら知ってるかと……思いまして……」 

人の心配する余裕なんてある立場じゃない 
けど、気にかかった 

「…リュンヌ…落ち込んでました?」 

「…雰囲気は…沈んでいたかもしれません」 

「…そうですか…」 

彼は困ったように、少し悲しそうに顔を伏せた 

「リュンヌは昨日事情で出場断念になったんです。だからだと思います 
私からも後で気にかけますら。有り難うございます 
ルリアさんは自分の事に集中して下さい」 

名前を呼ばれて軽く恥ずかしくなった 
やっぱり綺麗 

しかし、言われた通りだ…!自分に集中しよう…!!! 


不涸花杯、場違いなのはわかってたけど応援してくれた患者さん達に気持ちを届けたい 
その一心で頑張れた 

それからしばらく二人と会う事はなかった 


そのしばらくしたある日 
私は寮の散策をしていたらやっぱりうろうろしているリュンヌさんを見付けた 

…どうしたんだろう? 
何となく眺めていたら彼女は私を見て救いを見付けたかのような顔をした 

「あの…ルリアちゃん!ゴメンなさい、ここどこかしら?部屋に帰りたいの…!」 

………そりゃあここは裏庭だ 
正面じゃない 

………でも普通迷う場所じゃない 
もしかしなくても方向音痴…? 

「えと…では…中に入れば分かりますか…?」 

綺麗な人相手に緊張しながらも声を返す 

「うん…!有り難う!助かるわ!」 

綺麗綺麗綺麗綺麗 
もうそれしか頭にない 

「は…はい…!ではついて来て…下さい……!」 

慌てて返事を待たず歩きだす 
なんだかちょっと恥ずかしい 

「…図書館では有り難うね。資料とっても助かったわ」 

「い、いえ…!どう致しまして…!!」 

人見知りが災いして上手く話せない 
俯いてしまった私を気遣ったのか後は無言だった 

「着きました。あの…ではここで…。失礼しますっ…!」 

あまりの恥ずかしさに思わず逃げ出してしまった 
…どうして私はこうなのだろう… 
折角相手が話してくれたのに。自己嫌悪がする 



そして更に時間は流れる 
私は恋をして、失恋をして 
少しずつだけど変われた気がした 

中庭で紹介があってしばらくして 
私はまたうろうろしているリュンヌさんを見付けた 

迷子の彼女はなんだか可愛らしく親近感が沸く 
勇気を出そう 
親しい相手を作ろう 
前に話せなかった分、きちんと話してみよう 

「あの…!」 

私は自分から、綺麗な彼女に近づく一歩を踏み出したのだった

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