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【アズサ】 


ぼくが護衛するお嬢様事レティシア・シェーンベルグ、通称レティの憧れの従兄のヴェルノ王子様が幼馴染のシファネさんとアールトルーナ魔導学園に入ってしばらくしたある日 

ぼくは耳を疑う言葉を彼女から聞いた 


「…御免。もう一回言ってくれない?…アールトルーナに追いかけるって空耳が聞こえたんだ、おかしなことに」 

いや、実際言い出してもおかしくないのは分かってる。レティは我儘だし 

でも、流石に…それはないと思いたい 


【レティ】 


「おかしくなんてありませんわよ? 

わたくしはお兄様のところへいきますのっ!!一緒に学園で学ぶのですわ! 

想像するだけでとてもわくわくしますわ♡ 

あ、こうしちゃいられませんわ!入学の手続きしなきゃですわっ!! 

さぁ、アズサもはやくしなさい?」 


ん?と当然でしょ?といいたげにアズサを見るとはやくと目で促した。 

まさか来ないなんて言葉が待っていようとはこの時はまだ思いもしていなかった。 


【アズサ】 


「…はぁ…」 

当然と言わんかごとくの彼女にため息しか出ない 


とりあえず自己紹介をしておこう。僕はアズサ・コルク・ラディ。学園の人ならそれなりには知ってるであろうヴェルノ・アルフォード王子様の国の富裕層に住むそれだけの一般市民 

12の時からこの我儘幼馴染のお嬢様の護衛についている 

ぼく達の両親は身分差こそあれど親友で、ぼくの両親は仕事で忙しくこの家に預けられ一人娘のレティと共に育ってきた 

彼女とは長い付き合い…俗に言う幼馴染だ 

そして12の時、ぼくは彼女の護衛役となり今も傍に居続けている 


…それで彼女はまぁ…親戚のそのヴェルノ王子様の事が好きなわけで 

…たったそれだけ。それだけの理由で国の外についていくと言い出すくらいには我儘でばかなお嬢様ってわけ 

「…ヤダ。面倒くさい。ぼくは行かないよ?と言うかお嬢様のご両親は?ちゃんと許可とったの?」 

まぁこの返答もおおよそ検討はつくけどね 




【レティ】 


「え!なんでですの?!わたくしがいくのにアズサが来ないなんて!」 


驚きと落胆と苛立ち。 

レティは不機嫌になりむすっと頬を膨らませた。 

勿論ついてくると思っていただけに『拒否』されたことが気に食わない。 

心の内がぞわぞわ、もやもや嫌な感じ。 

言ってやりたいことはたくさんあるけど、ガキっぽいと思われるのは悔しくて嫌。 

だからぐっとこらえて、前を向いて。 


「・・・・わかりましたわ・・・一人で行きますわ。」 


一言。 

親から許可は?と聞かれたのでむっとしたまま口を開く。 


「お父様たち?勿論いいと言ってくださったわ。ヴェルノ兄さまがついているなら問題ないと。 

だいたいお父様たちがわたくしにNOというわけありませんもの」 


アズサの一言一言が気に入らなくてそっけなく答えるけれど。 

でももしかしたらと淡い期待もしていて・・・ 


もしかしたら自分と離れるのはやっぱり嫌と言ってくれるのではないかと。 


「本当にきませんの・・?わたくしがいってしまうのですのよ? 

アズサ一人残ってしまうのにそれでもいいんですの?」 




【アズサ】 


やっぱり、か… 

つくづく娘に甘い両親だな、とため息をわざとらしくつく 

「…行かない。ぼくはいつでも他の仕事について良いって言われてるし?お嬢様がお一人で行かれるならそれはそれでどうぞご自由に 

 せいぜいお兄様に甘えに行けば?」 

嫌みっぽい口調で突き放してそっぽを向いて立ち去る 


…心配じゃない訳じゃない 

この我儘だって本当は想定済みだ 

…でも、何が楽しくてあんな間抜け面しながらも遠くをいつも見てる様な王子様にレティが会いに行くのに手伝わないといけない訳?おかしいし 

ぼくの都合なんてお構いなし過ぎる 


…そして応えれない何よりの理由 

「…ぼくにアールトルーナが見える訳がないじゃんよ…。ばーか!」 

僕は確かに才能はある。 

この国で12才になった時必ず行われる魔法才能のチェック。それを基準以上出せば相応の仕事、環境が待ってる 

ぼくはそれに基準値以上で通った 

けど、同時に発覚した。ぼくは魔法使いとして欠陥品だ 

そんな人間をアールトルーナが迎えてくれるのか?もし見えなかったら? 

それを確かめるのが怖かった 




【レティ】 


打ち砕かれた淡い期待は猛烈な怒りとなって、 

レティの心で暴れまわる。 


(いじわるいじわるいじわる!!!!!!!!!!!) 


レティは顔を真っ赤に染め、頬を膨らませ怒りのオーラを振りまいた。 

体内の魔力も暴れまわってレティの周りでパチパチと火花を散らす。 

嫌味交じりな言葉が胸に突き刺さってそれがじんじんと広がっていっていくのを感じた。 


(もうアズサなんか嫌い!!!!) 


「わ、わかりましたわ!!もうアズサなんて知らないんだから! 

寂しくなってひとりでわんわん泣けばいいんですわ!!ばかばかばぁああああああああああああか!!!!」 


立ち去っていく背中をじっと見つめ、こちらもぷいっとそっぽを向いてその場から離れていく。 

その途中何度も何度も振り返り、そして振り返りもしないアズサに肩を落とした。 

離れていくこの距離がそのまま心の距離におもえて・・・ 

先程までは怒りであんなにも全身燃えるように熱かったのに、 

いまはとても背中が寒い。 


「寂しくなんて・・・・ないっ・・・・ですもの・・・。」 


小さな声でつぶやくとそのまま走って自室へ向い、 

心配そうに声をかけてくれた母を無視してベッドに飛び込んだ。 

そしてシーツにくるまって丸くなり目を閉じた。 




離れる、というのはどんなかんじなのだろう。 

今までずっと一緒だった。 

いつもなんだかんだついてきてくれた。 

アズサにとって一番は自分だと思っていた。 

思っていたけど・・・・・それは自惚れというものだった。 


あんなにはっきりと拒絶されたのは初めてのこと。 

きちんと本当の理由を話せばついてきてくれたのだろうか? 

・・・いや、きっとおそらく彼は来なかっただろう。 

そんな目をしていた気がする。 

拒絶の端に見えた諦めに似たなにか。 


(前からアズサは魔法のことになると少し浮かない顔をしてましたわ・・・それに関係してる?いや、でも・・・) 


考えても考えても分からない。 

いろいろな憶測が飛び交って、結論なんて全く見えてこない。 


レティはただ茫然とベッドで丸くなることしかできなかった。 


「貴方はいま何を考えているの・・・?」 


答えは見つからないまま、その日一日は過ぎて行ってしまった。 




【アズサ】 


あれから何度かレティの両親から護衛まで強制しないからせめてついて行ってやってくれないか?と打診された 

あの両親はどうやらぼくも行くと勝手に思い込まれていたらしい 

「全く…。どれだけそう思い込まれてるんだかなー…ぼくも…」 


広い庭にある噴水 

縁に足をかけ『唱う』 


<水の飛沫よ 我が声に応え 踊れ 歌え その力を我が魔力を糧とし具現せよ>


歌いながら水の上に立ち飛沫を広がらせる。それは光を受けキラキラ輝く 

調子に乗ってきたのでそのまま幻影でも作ろうとした。けど… 


そこにレティが居なくてやめた 


「わわっ!!!」 

意識を途切れさせすぎた 

歌を思わず止めてしまい水に落ちた 


「…何してんだか…」 


魔法も、行動も、喜ぶ相手がいないとこうも意味を見出せない物だったんだ… 

そう思うと無性に寂しく…感じてない感じてない!!!え、えと…ただ…その…幼馴染だし!?ずーっと一緒にいたし!?ちょっと…物足りない…だけだし… 

「はっ…くしっ!!!」 

水からあがってくしゃみをする。…寒い… 


お互い意地っぱり同士。あれからレティはツーン!とした態度で良いんですの?行っちゃいますわよ?と言わんかごとくのままだし 

「…つまんないの…」 

だからと言ってやっぱり欠陥品な事を確認する勇気は出ないままだった 




【レティ】 




あれから何度か両親が頼んでくれたらしいがアズサはすべて断ったと聞いた。 

それがまた気に入らなくてアズサとはまともに話すことができずにいた。 


(なんでお父様たちが頼んでも頷かないのかしら。 

ほんとはわたくしが嫌だった?寂しいと思っているのはわたくしだけ・・・・?) 


しょぼくれて一人廊下を歩いているとふと噴水に立つアズサの姿が目に入った。 

光を受けてキラキラと輝く水しぶきと歌うアズサの姿に見惚れ、 

レティはしばし目を奪われてしまっていた。 


(綺麗・・・・わたくしのとは全く違う美しい魔法。 

近くでみたい・・・・・こっそりならきっとばれませんわよね?) 


小走りで下まで駆け寄り扉をこそっと開けて隙間からアズサの様子を覗く。 

アズサは此方に気づく様子もなく一人唄い続けていた。 

そっと耳を澄ませ、うっとりと目を閉じる。 


(綺麗な声・・・) 


 

突然の『わわっ!』の声に目を開くと噴水に落ちてびしょびしょになっているアズサの姿が。 


(も、もう!!なにやってますのよ!風邪ひいちゃうじゃない!ばかなのかしら!ばかなのかしら!) 


「もう・・・!」 


そういうと急いでタオルを取りに走り、ふぅ、と息をついて小さな声で呪文を唱えた。 

するとレティの手から炎の鞭のようなものが現れそれはタオルを包んでゆるゆると進み扉の隙間を抜けてアズサの元へ。 

気づかれぬようにそっと近くにタオルを置くと鞭はすぅっと消えてなくなっていった。 


(ばれなかったですわよね、セーフですわよね!!!) 


「・・・ってなにやってますのよ、わたくしってば・・・」 


そう呟くとととと、っと走ってまた自室まで走り去っていった。 




【アズサ】 


少し頭を冷やして噴水から出る 

するとそこにはさっきまで無かった『いかにも』なタオル 


「…ばれないと思ってるんだろうな…ばかだし」 

冷えた筈の顔が地味に熱い…。か、風邪でもひいたのかもね!?うん! 


タオルを有難く使って体を拭く 

魔法を使い服についた水を植物に撒いておく 




彼女に何だか会って話したくなった 

これが最後になるかもしれないから 


どうせ彼女の部屋でぶすくれてるだろうと部屋に向かう 

ノックだけは一応するけどろくに返事も聞かずドアを開けた 

「ちょ…!着替え中だったらどうするんですの!?アズサ!」 

…あぁ、レティもそういう事を気にする年にようやくなったのか… 

「…は?…別に?ぺたんこ見たってなんとも無いから安心しなよ。第一風呂一緒に入ってたりしてたんだし今更」 

レティは顔を膨らませて怒る 

それを適当になだめる。いつもの構図 


「あのさ…レティ」 

あえて護衛の仕事についてからあまり呼ばなくなった名前で呼ぶ 

「ちゃんと一人でもしっかりしなよ?ぼくは行かないんだから」 

行けないかもしれない。それを言う気にもなれない 

「じゃあね。タオルありがと」 

一度位ちゃんとお礼を言っておきたかった 

でも返答を聞く気はなくそのまま勝手に部屋を出て行った 




【レティ】 


乱暴に入ってそしてお礼の言葉を残し出ていくアズサをレティはぽかんとみていることしかできなかった。 


(いま・・・レティって・・・・・) 


久々に名まえで呼ばれたことに思わず頬が緩んだ。 

彼は普段レティとは呼んでくれない。 

いつからそうなったのかは覚えてないけれど。 


でもいまよんだということは・・・それは・・・・ 




・・・このままにしちゃいけない。 




(本当のさよならになっちゃう!) 




「いかなきゃ・・・・ッ!」 




部屋を飛び出し全力でアズサの部屋へ走った。 

途中ワンピースの裾を踏んで転んだり、メイドさんにぶつかったりしたけれど 

そんなことはどうでもよかった。 

今思うことはただ一つ。 


『向き合って話をしなきゃいけない!!』 


ドーンと扉を開けて中へ。 


「アズサ!お話がありますわ!!そこに座りなさいッ!!!」 


涙を瞳にため、顔を真っ赤にしたレティはアズサに向かって仁王立ちをしてじっと見つめた。 




【アズサ】 


………デスヨネ 

あのお嬢様がああ言っておいて大人しくするわけが無いよね 

しまった…。お別れだと思って感傷的になりすぎた… 


「何?人の部屋に勝手に入ってきて」 

こっちだってやったけどそれは置いておく 


誤魔化すように俯いて盛大にため息をつく 

「別にぼくに話はないけど?お嬢様は学園に行きたいんでしょ?っだったら止めない 

 でもぼくは付き合わない。それだけの話じゃないか」 

これで行くのをやめると言い出すとは思ってない 

何せ目的はあの王子様なんだし?…だったら尚更ぼくが行く必要なんてないじゃないか、うん 

ぼくは間違ってない 




【レティ】 


「わたくしはありますの!!そこでじっとわたくしの話を聞きなさい!」 


レティはぎっとアズサを睨みつけるとそのままふぅっと息を吐いて口を開いた。 


「アズサが行きたくないというのはよくわかりましたわ。 

あの時はアズサも行ってしまったし、わたくしもむきになっていたからそれならそれでしょうがないとあきらめました。 

・・・・・・・でも、やっぱりアズサなしで行くなんて嫌ですわ!! 


た、たしかにお兄様と離れたくないからアールトルーナへ行くと言いました。 

それは嘘じゃないですわ。 

でもほんとは・・・アールトルーナへ行けばアズサが自信を持ってくれると思ったから・・・ 

学園でアズサの魔法をみんなが見てみんなが「綺麗、凄い」といってくれたらアズサも笑顔でいてくれると思ったから!!」 


叫ぶようにそういうと深く深く息を吐いて。 

そして俯いてプルプルと震えながら言葉を紡ぐ。 


「最初はただわたくしのわがままに付き合うのが嫌だとか、 

お兄様に合うのが嫌だとか、そういうことだと思っていましたわ。 

でもそれだけの理由でアズサがわたくしと離れる選択をするなんてありえませんわ。 


で、思いましたの。 

もしかしたら他に何か理由があるのかもって。 


だからあちらへ行く前にあなたにわたくしの考えを伝えようと思って。 

もしこれを聞いてもまだ来ないというのならわたくしは・・・」 


(・・・あきらめてアズサと離れる・・・・・なんて無理ッ!やだ!!そんなのやだ!!) 


レティの瞳からは大粒の涙が零れ落ちる。 


「レティはお兄様よりもアズサと一緒がいいッ!!!」 


そしてそのまましゃがみこんでわんわんと泣き出した。 

屋敷に響き渡るほど大きな声で。 




【アズサ】 


「ちょ…泣かないでよ!レティ!」 

思わず昔の癖のまま呼び傍に寄り添う 


…知らなかった。てっきりお兄様に会いたいっていう下らない理由一つだと思ってた 

…欠陥持ち故の自信のなさがレティにまで伝わる程出てしまっていたのか…。それは不覚だ… 

馬鹿だな、レティも、ぼくも 


「…分かった…。行くよ」 

するりと出た言葉 

レティをなだめるように抱きしめる 

よく昔からこうして泣き虫の彼女が泣くたびに慰めてきた 

この役割を他に譲りたくない 


「…ぼくはレティと一緒に居る」 


学園に選ばれるかどうかはまだ分からない。けど言葉の力を信じてそうなるよう祈りを唱える 




【レティ】 


「泣いてませんわよバカぁぁああああうわぁああああんっ!!」 


ぎゅっとしがみついてそしてアズサの肩を涙で濡らしていく。 

なだめるように抱きしめられ心があったかくなっていくのを感じた。 


「アズサ・・・・・ッ 約束ですわよッ・・・ひぐっ・・・嘘ついたら燃やしますわよ・・・ッ」 


そうして泣き止むまで抱きしめてくれるアズサに身を預け、そのぬくもりに酔いしれるレティだった。 

レティが落ち着いたのは日が暮れてからのことだった。 

泣きはらした顔をぶらさげてアズサの手を引き、両親のいる部屋へ向かった。 


「お父様、お母様、アズサもアールトルーナに行くことになりましたわ。ですからご安心くださいませ。」 


そういうといつもの勝気な表情でにこっと笑ってみせた。 





【アズサ】 


嘘ついたら燃やすって… 

これは学園に選ばれるのを本当期待しておかないとな 


レティの両親が安心したように良かった、と言ってくる 

何だかなー…。頼りにされてるのがくすぐったい 


「お嬢様、学園では寮生活なんだからこういう風にいつでもぼくのとこに来れる訳じゃないんだからね?」 

え!?という顔をするレティ 

やっぱり調べてないのか…はぁ… 

仕方ないか。ばかなんだし 

「ま、入学手続きしに向こう行ったらお土産買ってくるからさ。待っててよ」 

学園に入れたら通信用アイテムでも買っていってあげよう。それでいつでも連絡とれるように 

結局レティにはぼくが居ないと何も出来ないんだし、ね 


頭を数回ポンポン叩いて覚悟を決める 

「じゃあぼく準備あるから」 

手を振って一旦彼女と別れる 




因みに学園には後日すんなり入れた 

…あれだけ心配したのに…とは思うけどそんなもんかもね 


そしてぼくたちは、アールトルーナに入学を果たす事になるのだった 


END 

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