top of page

--------------------------------------------------------------- 

この学園に来て少し 
ようやく慣れてきた頃都市は華やかな色合いのチョコレート菓子をやたら売るようになっていた 

どういう事だろう?と調べてみたらここでのバレンタインの風習だとか 

僕の出身国、フェステリアではその日は男が女に花を贈る日という風習だ 
…まぁぼくだって?母親とか身近な女性位にはちゃんとあげてる 
…あー…まぁ・・・・・・・・つまり幼馴染にも… 

変な誤解をしないで欲しい 
それにはれっきとした訳がある 
幼いころまだバレンタインは好意を伝える日という認識ではあったけど…子供の好意なんて家族が好きとかそういう代物である事は普通だと思うんだ、うん 
幼いぼく達は仲良しで、普通に一緒にいる相手に”好意”があったっておかしくないと思うんだよね?変な意味じゃなくて!!! 

…と言う訳で子供だったぼくはレティに花を贈った… 
その時彼女はすごく喜んでくれて…嬉しかったんだ…。普通普通。うん、普通。だって贈り物を子供が喜んでもらえたら嬉しいのは普通 
で、その時約束をうっかりしてしまった 

『これからは毎年、必ずレティにあげるから』 

…と 
流石に意味を理解するようなった時、やめるのを考えた 
しかし毎年その日が近くなるとせっせと花瓶を用意したり飾る場所を厳選しているレティを見たら… 
やめれる訳がなかった… 

話がそれた 
つまりはここでの風習がどうあれ、ぼくは彼女に花束を選ばないといけない 
…しかし…ここの風習…何と恐ろしい… 
何がって?チョコなんて普通に買えばいいのに手作り用品までしっかり売ってることろだ…! 
レティは料理が下手だ…。どうひいき目に見ても下手だ…。そしてお祭り好きだ… 

…作りそうで怖い… 

そんな恐怖にかられながら、花屋をぐるぐる廻っている訳である… 


何件か巡って気に入った花をようやく選んだ 
色々な色がある少し大きめの綺麗な花だ。…レティにはピンクかな…とか考えていたら隣で誰かが黄色を手にした 

「おう、奇遇だな、アズサ」 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・帰るか 

「ちょ!?ちょっと待て!何故無言で回れ右をする!?」 

・・・・・・チッ・・・・逃げれないか… 

「…別に。…失礼をいたしました、せんぱい。…で?何のご用件で?」 

気持ち悪い位の笑顔で対応する 

「いや、用件はないが…」 

「では失礼します」 

「待った待った!どうしてそうなるのだ!?お前も花を見ていたのであろう?ならばわざわざ立ち去る必要はなかろう?」 

………はぁ…。何と言うか…この王子って…実は構ってちゃんなのでは?と疑惑が尽きない 

「…せんぱいはそれ買うの…?」 

丁度ぼくが選ぼうとしていた花… 

「うむ。これならきっと彼女に似合うと思ってな」 

ふふん♪という効果音が聞こえてきそうだ… 
…彼女って…まさか…。いや、ありえない。そんなことする訳ない… 

「アズサはレティシアにか?きっと喜ぶぞ?」 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんかすっごーーーーーくむかついた 

「…いえ、ぼくはもっと他を探しますので。失礼します、せんぱい」 

笑顔で言い切って立ち去る 
しかしその後どれだけ探してもあれ以上に良い花がなかなか見つからない 



…そして日に日にレティが甘い香りやたまに髪にチョコを付けてなにか企んでますと言わんかごとくの表情になっていく… 
あれだな、間違いなく…ぼくは被害者になるな……ぼくは何でこうも頑張っているんだっけ…? 

半分憂鬱な気分でいたらメイドがぼくにこっそり教えてくれた 

『私はアズサから貰ってばかりだから私からもあげるのですわ!私が最初嬉しかったみたく喜んで貰うんですの!』とはりきってると… 


メイドにお礼を言った直後慌てて自室に帰って布団にくるまった 
口元が、微妙に変な感じで、どこかくすぐったくて 
…最初の時を自然と思いだす 

『ぼく、レティがだいすきだから、ずっとずっとあげるね』 

なんて…言ったあの日を……ぐ…!!我ながら若気の至りが恐ろしい…!!! 
気分を変えよう…そうだ… 

まだ、諦めるには早い…。ちゃんと、ぼくだって喜んで貰いたい。だから、レティだって毎日頑張ってるんだから…がんばって…あげなくもない… 

顔を叩いて引き締める 
まずいのを作るのがわかりきってて止めないあたり、ぼくもレティと同じくどこかで期待をしてしまっているのかもしれない 

・・・・・・・・・・・・・・・断じて変な意味でもマゾ趣味もない!! 
ないけど…誰かが自分の為にって…何かを頑張ろうとしてくれるのは普通に嬉しいんだ、やっぱり 



当日 
ぼくは一回ようやく見つけたら花を取りに外に出てそれから戻ると部屋に誰かいた 
それは紛れもなくレティで部屋を出ていこうとしているとこだった花は見つからないようこっそり隠して何でもないように声をかける 

「なにやってんのお嬢様」 

「こ、これは・・・その・・・・な、なんでもないですわぁああああ!!」 

…普通の事を聞いただけで猛ダッシュで逃げられた 
ぼくには用事があるって言うのに 

「なに・・・?」 

ふと、部屋を見渡すと机の上に丁寧にラッピングされたリボンのついた小箱 

「…ばーか…。普通に渡せばいいのに…」 

…あぁ、もう何だかなぁ… 
箱を開けると想像通りの物…よりはましな出来に見えなくもないチョコ?が入っていた 
一口 
衝撃的な味が身を襲う 

「…!!!!」 

…しまった!水を用意してから口に含むべきだった…!! 
頑張って水道まで歩いて行ってコップで水を一気に飲み干す 

「…死ぬかと…思った…」 

何日も前から用意しててこれは…一種の才能だろう… 
…けど、それでも、今度は水を用意しながら頑張って食べようとする自分も大概だ… 


具合が何故か悪くなった時には死ぬかと思った…。けどなんとか持ち直して立ちあがる 
ぼくが頑張るのはこれからだ 

花束を手にして 
カジュアルじゃ恰好つかないから少しかしこまる 
お茶と、レティの好きなメーカーの高級チョコを皿に盛り付ける 

そうやって彼女の部屋に向かった 

「レティ、毎年の。あとお茶どうぞ」 

さて、待ちわびてくれていた彼女に何から話そうか 
次からこういう普通のチョコにしてくれない?って言うべきか 
花は好きにしなよって適当に渡すのが先か 

まぁ先ずは礼儀としてこの言葉からだろうか 

「…チョコ、ありがと…。ちゃんと貰ったから」 

bottom of page