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『二人のクリスマス』 


【ルリア】 
今日はクリスマス・イブ 
さまざまな異文化が溶け込んだここ、アールトルーナでもそれは行われている 

本来ならばステイリーさんと会う予定などなかったけれど、とある騒動の最中、午前中に偶然学院内で会うことが出来た 
ギンさんという青年と行ってしまったエリザさんのことが内心心配だったけど何かあったら連絡が来ると信じて今、私とステイリーさんは二人でのんびりそれぞれの目的地に向かって歩いている 
私は病院、彼は商店街 

会えたら渡すつもりだった彼への贈り物 
それを手に持った親しい患者さんにあげるプレゼントの中に忍ばせて、渡すタイミングをそわそわと計っている 
「…え、えと…エリザさんの男性姿恰好よかったですよね…!それにキリヤさんの女の子姿も可愛かったです……って…戻ってます!私!!」 
い、今さらすぎる!けどようやく元の性別に戻ってた事に気付いた 


【ステイリー】 
「え、今ですか…?エリザさんが戻られた時に一緒に戻ってましたよ」 
ルリアとエリザとキリヤ三人の性別が逆転してしまった時の事を思い出しながら、相変わらずの天然ぶりにふふと笑いが漏れる。 
同時に後方へと流れる白い息。 
まだ空は明るく日差しが差しているとはいえ纏わりつく空気は肌を刺すように冷えていた。 

「…今日は冷えますね。寒くはありませんか?」 
温かそうな服装ではあるものの、荷物を持つために外気に晒され冷えているであろう手を見やる。 


【ルリア】 
…は、恥ずかしい…!そんな前から戻ってたなんて…!! 
なんて私は鈍いのだろうか…!おまけに笑われてしまうし… 

「…笑わないで下さいよー…」 
ちょっと拗ねながら返す。そして続く言葉にそうですね、と返し目線に慌てる 
わ、私挙動不審になってた!?確かに荷物もってそわそわしてたかもしれないけど…! 

「あ…あのあのあのあの…!その…!これは…!その…!」 
心臓が激しく高鳴る 
と、友達なんだしお世話になってるんだし…これくらいは良いんだよね?大丈夫だよね…!?負担じゃない…よね…?そんな心配を無駄にしながら意を決する事にした 
プレゼントを間違えるというミスをしないようしっかり確認してそれを手にする 

「…ス、ステイリーさん…!そ、その…いつも…お世話になってます!そ、そ、その…感謝の印です…!受け取ってください…!!!」 
勢いよく差し出した 


【ステイリー】 
「?」 
何やらいきなり挙動不審になるルリアを見て疑問符を浮かべる。 

何か不味いことでも言っただろうか? 
そんなことを考えているとルリアは荷物の中からラッピングされた包みを取り出しこちらへと差し出してきた。 
勢いのまま思わず受け取る。 
「え、あ、クリスマスプレゼントですか?ありがとうございます」 
垣間見えた他の包みはこれから行くという見舞い先の患者さんへのプレゼントだろうか。 
普通そこまでするものなのだろうか? 
相変わらず優しいな、と思わず笑みがこぼれる。 

「開けてみてもいいですか?」 
手に収まる袋を若干持ちあげルリアに伺いを立てる。 


【ルリア】 
「え…!あ、開けるのですか…!」 
なんだかちょっと恥ずかしい…。でも、反応も見たい 
素直に受け取ってくれた事にくすぐったさを覚えて顔が真っ赤になりつつ返答する 

「…ど、どうぞ…!そ、その…えと……気に入らなかったら…御免なさい…」 
思えば彼がどういうのが好きとか欲しいとかはあまり知らない気がする 
食の好みと本の好みは大分覚えたけど 
期待と不安で反応を待つ 


【ステイリー】 
許可をもらうとリボンに手をかける。口を開けた包みにはインクとペンが入っていた。 
インクを取り出してみると液の中でキラキラとした粉が輝いている。 
「これは…まるで星空みたいですね…。ありがとうございます。ペンも使いやすそうです。有難く使わせていただきますね」 
嬉しそうに微笑みながら包みにそれを戻し、コートのポケットへとしまい込んだ。 

「…何かお返しをしなければいけませんね。欲しいものとかありませんか?」 
プレゼントを選ぶのは苦手でしてと続けてルリアに問う。 


【ルリア】 
喜んでくれた… 
もうそれだけで胸が一杯で、泣きそうになる位嬉しい 
…これだけの事でも心を揺さぶられる。やっぱり好きなんだな、って何度もした実感を重ねる 

「インクはですね…!思いを告げるインクとも言うみたいでして…!普通に使う分には普通のインクなのですが、ラブレターに『月が綺麗ですね』って書いたとして、星の光にあてると光る文字で「アイラブユー」と浮き上がったりとか…って店員さんがおっしゃってました!」 
そう言えば本を持っていく約束だしまたその内行こうと心に決める 

「えと、あのですね…お返しはもう十分です…!喜んでくれる…それが何よりのお返しですから…!」 
自分がした行為がちゃんと反応で、しかも嬉しいという感情を伴って返ってきてくれる 
それ以上に嬉しい事はない 
「いえ、それでは僕の気がすみませんよ。なんでも言ってください。ちょうど琥月街に行くことですし」 
なんでも 
そう言われてもちょっと困った 
本当に気持ちを返してくれる。それが一番嬉しいのに 

「えと…」 
断ろうとして、ふと思いついた 
今日は特別な日。イブというだけじゃない。私には加えてもう一つの『特別な日』である 
お母さんが亡くなって以来ずっと聞けなくなった言葉 
これ位の我儘なら許されるかな? 
他の誰でもない、この人に言って欲しい言葉があった 

「では…その…おめでとうって…言って貰っていいですか…?そ、その…大した意味はないのですが…」 
ステイリーさんはその言葉を聞いて不思議そうに首を傾げていた 
「おめでとう、ですか?えっと…何に対しておめでとうをいえばいいのでしょうか…?」 

…言えるわけがない 
『今日は私の誕生日なんです』…などと 
そんなこと言ったら絶対この優しい人は気にする 
…そういえば私ステイリーさんの誕生日知らないな…。今度聞こう。そうしよう 
私が欲しいのはただ、傍に居て欲しい。言葉も言ってくれればそれでいい 
今日会えた。それだけで十分過ぎる贈り物をもう貰えたんだから 

「…今日は『特別な日』じゃないですか…。だから… 
 い、嫌ならいいです…!気にしないで下さい…!そ、その…単なる…我儘なので…」 
自分で言ってて顔が熱くなる 
知られたくないのに祝って欲しいのはちょっと虫が良い話かもしれない 

「えぇ、まぁ特別な日、ではありますけど…。嫌ではないですが…本当に言うだけでいいんですか?」 
今一度確認をしたステイリーさんは軽く咳払いをする 

「えと、おめでとうございます…」 
「…ありがとうございます…!」 
ちょっと困った表情をされたけど凄く、嬉しかった 
特別な人にそう言って貰えるのはこうも嬉しいものなんて初めて知った 

戸惑う彼に思いっきり笑顔を向けて、浮き立つ気持ちで少し前を歩く 
そして分岐点に差し掛かったから笑顔で振り向く 

「では、私は先に病院行ってますね!タイミングがあったらルスさんの病室で!合わなかったら…このままさよならですかね?ではでは!買い物頑張ってください!クローシアさんによろしくです!」 
手を振って見えなくなるまで何度も振り返りながら歩いた 

…我ながら単純だな… 
たった一言がこんなに嬉しいなんて 


【ステイリー】 
なんだかよくわからないがとても嬉しそうな笑顔をを向けられた。 
腑に落ちないままこれでいいのだろうかと前を歩く彼女を見ながら思う。 

「はい。ではまた会えたら」 
何度も振り返るルリアが見えなくなるまで見送ると琥月街へと足を向けた。 
その道すがら考える。 
”おめでとう”といって欲しいということは何か嬉しいことがあったんだろうな… 
クリスマス…はやはり違う気がするし。 
絶版になった幻の本が手に入ったとか、薬学で何か素晴らしい薬を作って賞を取ったとか。 
それとも大した意味はなくとも言ってほしい時が女の子にはあるのだろうか…? 

琥月街はクリスマスマーケットが開かれていていつも以上に賑わっていた。 
その中に見知った先生や生徒を見かけたがクローシアとの待ち合わせに遅れそうだったので声はかけずに足早に通り過ぎる。 
ショーウィンドウに飾られた温かそうな小物を見てルリアの寒そうな手元を思い出した。 
「お返しはいいなんて言われたけど…」 

「―――……あれ、そういえばルリアさんの誕生日っていつなんだろう」 
今更過ぎるほど単純な答えがストンと落ちてくる。 
そういえば聞いたことがないと気付くころにはクローシアとの待ち合わせ場所に到着していた。 


【ルリア】 
病院についた。やっぱりもう一回ステイリーさんと会えたら良いな、という恋心から、特殊病棟は少し離れてるし、うん。などという言い訳を心の中でしながらルスさんを後回しにして、お世話になってる先生や仕事仲間、懐いてくれる子供に孫みたいって言ってくれて優しくしてくれる患者さん 
なるべく皆にあいさつ回りをしつつプレゼントを渡していった 

ルスさんの部屋に着いたのはもう暗くなり始め 
丁度彼の担当の一人の先輩看護師とすれ違う。 
話せる状態という話を聞けたので手を握れるように、それと何かあったらすぐ対処出来るよう魔力を遮断する特殊手袋を借りて中に入った 
中には彼が一人でいた 

「こーんにーちはー」 
彼は少し吃驚した顔をして私を見た 
「こんにちはールリアちゃん。どうしたの?って言うか私服?初めて見た」 
「お見舞いですよ。さっきまで他の患者さん達の部屋回ってました」 
「…相変わらず律儀だなー…。…もしかして…その髪の星が例のステイリーの?へーえ」 
ニヤニヤとからかうように見られて思わず真っ赤になる 
…彼にはステイリーさんが好きって言ってあるからなんだか恥ずかしい… 

「…おほん。すみません、外しておきますね…」 
念には念を。彼に魔法を触れさせる訳にいかない。髪についてるなんて無意識に触れてしまう可能性がある。そんな危険な真似は出来ない 
髪から星を外して纏めて鞄に入れておいて入り口付近の壁に置いておく 

「…あ、そうです。これ!プレゼントです!め、メリークリスマス…です…!」 
勿論彼にも用意しておいた 
小さな天球儀。電気で光る使用である 
「俺に?あはは、ありがとう。…俺にくれるってことはもちろんステイリーにも用意したんだよね?」 
受け取ってくれたプレゼントを膝の上に乗せ、悪戯っ子のような笑顔でそう問いかけてくる。 
「あ、はい…えと、ここに来る前に渡してきました…」 
「そっか。あいつ喜んでたんじゃない?…で、告白しちゃったりしてないの?」 
顔が一気に真っ赤になった 

こ、こ、告白…ですか…!!!クローシアさんにも以前聞かれた事があったけどルスさんにまで聞かれるとは…! 
…隠し事はしても嘘は出来るだけつきたくない… 
ええと…何と言えば… 

「……今日は…いいんです…。はい…。そ、その…えと…ほら!きっと…ステイリーさん困りますし…」 
うーん…クローシアさんには告白した事を言った以上彼にも告げるべきなのか…どうなのか… 
でも男の人にそういうのを言うのはちょっと…いや、かなり恥ずかしい… 
しかもいつステイリーさんが来るかわからないし… 
「そんなことないと思うけどなー」 
…実際困らせてるんです…はい… 

「え、えとえと…そ、それより今日面白い体験してきたんですよ…!あのですね、妖精さんに悪戯された話なのですが…」 
無理やり話題を変えて今日の出来事を話し始める 
そんなことをしていたらノックが響いた 


【ステイリー】 
買い物を終えてクローシアとともにルスの病室へと足を進める。 
毎年イブの日はこうやって二人で見舞い行くのが恒例だった。 
クローシアは魔法を使わずに作ったミニスカサンタ服を纏い、トナカイの角のついたサンタ帽子を僕に被せてくる。 
サンタ服かトナカイの着ぐるみという案を全力で却下してから折衷案として毎年これを被らされているわけだ。 
溜息を吐きながらノックをすると返事も来ないうちにガラッと勢いよくクローシアが扉を開けた。 

「はぁーい聖なる夜にぼっちなルス君にサンタさんからのお届けものでーす♪ってあら、ルリちゃんと密会中だったのね~お邪魔しました☆」 
テヘペロという仕草をしながらルスに近寄り二人で選んだプレゼントを差し出す。 
「メリークリスマース♪」 
「おぅ、サンキュー♪」 
そんなやりとりを笑顔で交わす二人を見つつルリアに軽く挨拶をしてベッドへと近づく。 
「ステイリーもお疲れさん。毎年大変だなー」 
手に持った荷物を見ながらルスが苦笑気味に笑った。 
見舞い前に琥月街で買ってきたものだ。 
「ステイリーん家、毎年家族同士でクリスマスプレゼント送りあうんだってさー仲良いよなぁ。あ、来年はルリアちゃんに買い物付き合ってもらったらいいんじゃね?ねぇ、ルリアちゃん」 
「いや、ルリアさんにそんな迷惑は…」 
「あら、わたしなら良いっていうのかしら?」 
「見舞いついでなんだからいいだろう」 
三人揃うのは後夜祭の時以来か。 
ルスとクローシアが揃うと相変わらずいつもは静かな病室が賑やかになる。 
そんな光景に憂いを帯びた表情を覗かせながら眼を細めた。 


【ルリア】 
「へぇ…!それは素敵な家族ですね…!いいことです」 
家族が仲良し…。それはとても良いことだ 

そういえば三人が揃ったのを初めて見たのに気付いた 
まぁいつでも仕事に入っている訳じゃないし…そう変な事じゃないか… 
それでも話に聞いている範囲だと三人で仲良かった印象で今が初めてなのは不思議な気はした 

当然のように仲が良くて、遠慮がなくて 
口がなかなか挟めない 
私には迷惑かけると思うんだ…とかちょっと疎外感を覚えるけど頭を振って追い出す 

邪魔にならないよう一歩身を引く。そして可愛い帽子を被ってるなぁ…ってステイリーさんを見たら表情は何故か晴れない 
目線の先はクローシアさんとルスさん 
…どうしたんだろう…? 

傍に寄って服を軽くつまむ 
「…どうかしました…?」 
何故か、その表情が前にルスさんへの罪悪感を語っていた時の表情に似ている気がした 


【ステイリー】 
「え…?」 
心配気な表情で問いかけてきたルリアに少し吃驚する。 

表情にでも出ていたのだろうか。 
出したつもりは全くなかったのだが。 

「いえ…なんでもありません。あぁ、そうだ…これ、受け取ってください」 
何も悟られないよう笑顔を向けると思い出したように荷物の中から一つの包みを取り出しルリアに差し出す。 
クローシアと合流した後、経緯を話したらやはり誕生日の可能性が高いんじゃないかという結論に至り急遽購入したものだ。 
もし仮に誕生日じゃなかったとしてもプレゼントを貰ってしまったのだからそのお返しとして受け取ってもらおう。 
「違ってたらすみません。今日はルリアさんの誕生日なのでしょうか…?」 
一応確認をとルリアに問いかけた。 


【ルリア】 
「………え…」 
……思わず受け取って固まる 
…や、やっぱり言い回しで分かってしまうものだった…!? 

事態が飲み込めると一気に顔が熱くなって涙が出てきた 
この人が私の言葉の意味に気付いて物を贈ってくれた。それが凄く、凄く嬉しい 
「…ありがとう…ござい…ます…!」 
否定しないのがきっと肯定になる 
包みをぎゅっと握り締めて少し、嬉しい気持ちをしっかりかみ締める 

こんなにも嬉しい事があっていいのだろうか?心が強く震えた 
「…見て…大丈夫ですか…?」 
さっきの彼と同じく許可を貰う 
どうぞ、と促されあけた包みには手袋があった 
ふわふわなファーがついていて、とても温かそうだ 

「…嬉しい…です…!本当に、本当に…!嬉しい…です…」 
大泣きしそうなのを必死でこらえながら、なんとか笑顔を向けた 


【ステイリー】 
どうやら誕生日というのは間違っていなかったらしいと内心ホッとする。 
大袈裟だと思うくらい喜んでくれたことがくすぐったくて顔が綻んだ。 

「何々?ルリアちゃん今日誕生日なの?イブの日が誕生日とは覚えやすくて良かったな、ステイリー」 
「うふふ、ステちゃん家族のプレゼントは超適当なのにルリちゃんのプレゼントはすっごく悩んでたのよ~可愛い手袋だから買うのも恥ずかしがっちゃってね~ぇ?」 
「だから来るのが遅かったのかーうむ、納得」 
「うるさい…っ!!」 
そのやりとりを見ていたルスとクローシアの言葉に赤くなりながら声を荒げる。 
当の本人たちはからかうように笑いあうばかりだ。 

「んー…あ、こんなものしかないけどこれ良かったら食べてよ。誕生日おめでと」 
「わたしは後でルリちゃんイメージしたアクセ作るわね♪ハッピーバースデー♪」 
ルスは傍らにあった林檎を二つ差出し、その言葉に続いたクローシアとともにじっとこちらを見つめてくる。 
観念したように咳払いを一つすると今度はちゃんと思いを込めた言葉を、微笑みながらルリアへと贈った。 
「では改めて…。誕生日おめでとうございます」 


【ルリア】 
またも、おめでとうと言ってもらえた 
心からの、自分に向かう言葉。意味が含まれてなくても嬉しかった 
意味が含まれるともっと嬉しい 

プレゼントに一杯悩んでくれたとか 
二人まで祝ってくれたとか 
もう胸が一杯で 
涙が堰を切った 

「…あ…ありがとう…ございます…!ルスさんも…クローシアさんも…ステイリーさんも… 
 私…私…今、凄い嬉しくて…幸せです…!!」 
小さな赤いリボンがついた白い手袋を大事に大事に抱きしめて涙を流す 


【ステイリー】 
「普通に教えて下さっても良かったですのに…」 
そう言って頭を軽く撫でる。 
そんな光景にどこか既視感を感じた。 

――あぁ、そうか。星をあげた時か 
以前髪飾りに星魔法を施した時、あの時も今みたいに凄く喜んでくれて生まれた星を握りしめ泣いていた。 
もしかしたらおめでとうという言葉だけであんなに喜んでいたのも家庭環境が絡んでいるのかもしれないな、なんて考えているとふいに距離が近づく。 
「あ、あの…ルリア、さん…?」 
寄り添ってきたルリアに思わず声が上ずった。 


【ルリア】 
寄ったのは無意識だった 
嬉しくて嬉しくて、前みたく頭を撫でられたのも心地よくて 
ーもっと触れてほしいー 
なんて思ってしまった 

「すみませっ…!」 
ステイリーさんの声で我に返って体が一気にこわばって大慌てで離れる 
わ、私何考えてるの…!?そ、そんな付き合ってもいない男の人に…!!! 
「ルリちゃんってば大胆ね~、やるじゃなーい」 
「く、クローシアさーん!!!い、今のは…違…え、えとその…!」 
大慌てで真っ赤な顔でどうにか弁解しようとしても上手く言葉が出ない 
「何々ー?なにが違うのかしら~」 
面白そうだ、とからかわれ顔に熱がさらに灯る 

だからすぐに気付けなかった 

やっぱり一緒にからかってきそうなルスさんが妙に大人しい事に 
「ですから…!今のは…」 
「…ルス…!?」 
ステイリーさんの声で我に返った 
彼は急激に青い顔になって、呼吸が乱れて、うずくまっている 

私はこの症状を知ってる。仕事中何度も見た 
ー発作だー 

「すみません!」 
手にしていた手袋をとっさにステイリーさんに押し付けて、来る前に預かった手袋を急いでつけてクローシアさんを引き離す 
「二人は今すぐ出てってください!」 
ナースコールを押して二人を追い出す。苦しそうに暴れだす彼。こんな姿を彼は二人に見られたいとは思わないだろう 
私は人が来るまで自分の出来る範囲の事をする事にした 


【ステイリー】 
すっかり油断していた。 
調子がいい時なんてそう多いわけではないというのに。 
決して浮かれていた訳じゃない。 
でもその結果ルスの様子に気づくのが遅くなってしまった。 
一体僕は何をしているのだろう。 

追い出された先の廊下で医者や看護師たちが慌ただしく行き来するのをぼんやりと眺める。 

何度目だろうか、こんな光景を見たのは。 
こうして邪魔にならない場所で大人しく待つことが当然のようになってしまったのは何時からだろうか。 
ルスは一体いつまで苦しまなければならないのだろう? 

「―――もう大丈夫みたいね」 
隣にいたクローシアがそう呟く。 
どれだけ時間が経ったのかわからないが病室前はいつの間にか静かになっていた。 
外はもうすっかり闇に染まっている。 
「……送ってくよ」 
「いいわよ。もし不審者が出てもステちゃんより自分の方が頼りになるし?それよりルリちゃん送ってあげなさいよ。それも渡さなきゃでしょ?」 
手に持った白い手袋を見つめて笑う。 
「……ごめん」 
「謝ることじゃないわよ!ほら、そんな暗い顔しない!そんな湿気た顔してたらルリちゃんも心配しちゃうわよ?」 

違うんだ 
そうじゃなくて 

声にならない声はクローシアには届かない。 
「じゃあわたしは帰るわね」 
面会時間はとっくに過ぎているようで病院の中は閑散としていた。 
クローシアを見送っていつものベンチに腰を掛ける。 
握りしめた手袋に視線を落としながら白い息を吐いた。 

どうしてルスとクローシアはあんな風に笑っていられるのだろう―― 


【ルリア】 
鏡の前で星を髪につけて一息ついた 
どうにか落ちつくまで出来る範囲の手伝いをしつつその場に居させて貰い、ようやく落ち着いて出てきた時二人はいなかった 
帰るのが普通。むしろ一安心した 
ルスさんに林檎のお礼のメモを残し、帰ることにした 

外に出ると息が真っ白でとても寒い 
…手袋をとっさにステイリーさんに押し付けてしまったのが悔やまれる 
あれがあれば一人の道でも寒くなさそうだったのに 

流石にクローシアさんを送ってもういないだろう 
それなのにどこか期待していつものベンチに歩み寄ってしまう 

そこには、私の望んだ人がいた 

「…ステイリーさん…!?ど、どうして…!?先帰らなかったのですか…!?クローシアさんはどうしたのです!?風邪ひきますよ!?」 
色々心配しつつ駆け寄った 


【ステイリー】 
聞き慣れた声で我に帰り、声が聞こえた方へと顔を上げる。 
心配そうな顔で駆けよってくるルリアを見てクローシアの言葉を思い出し、無理やり笑顔を作る。 
上手く笑えている自信はないけれど。 
「…お疲れ様です。ルスの事、ありがとうございました…」 

そういえば待っていると約束したわけでもないのにここに来てしまった。 
ルリアが気付かなければ誰かに声をかけられるまでここでこうしていたかもしれない。 

かけられた言葉は届いていないのか違うことを考えながら立ち上がる。 
「送ります…」 
そう言って歩き始めた。 

【ルリア】 
質問の答えは貰えず前を歩かれる 
慌てて後を追いかけいつもより少し、速い足取りで歩く 
…いつもは歩調も合わせててくれたんだな…って今更ながらに気付く 

…あんな事があったなら仕方ない。そもそも調子が良くない時は面会謝絶をしているし苦しむ姿を目の当たりにする機会はそうはなかったはずだ 
おまけにステイリーさんはルスさんのその病症を自分のせいだと責めている 
…原因が不明である以上そんな事ないなんて間違っても言えない 

今、何を考えている?…苦しい…?悲しい? 
少し息切れを起こしそうになりつつそれを必死に隠しながら言葉を選ぶ 
「…あ、あの…その…三人での姿…そう言えば初めてみました…。凄く仲良いのですね…。 
え、えと…遠慮とかなくて…自然な空気があって…」 
いきなり直球では問えず先ずは思った事を口にしてみた 
三人の姿は羨ましい位だった 
「…クローシアさんとそういえば病室で会ったの初めてでしたし…なかなかタイミングって合わないものですよね…」 
背中を見失わないように、必死に声をかけた 


【ステイリー】 
「…クローシアは忙しくてなかなか見舞いにはいけないと言ってましたから…。僕も頻繁に行けるわけではないですし…」 
最初のころは行っても会えないことが多かったし、会えば体調が良くなくても無理して笑うから自然と足が遠くなった。 
そうでなくても長い入院生活だ。最初は見舞いに来ていた他の友人たちも今では滅多に来なくなってしまった。 
自分の生活があるのだから仕方ないと言えば仕方ない。 
だからこそ奪ってしまった罪悪感が大きくなる。 
三人で笑いあう場所は本来ならば学園が正しいはずなのに。 

足元に視線を落とながら歩く。 
街を彩るイルミネーションが、今の自分には眩しすぎた。 


【ルリア】 
「そうですか…」 
何を言うべきか、聞くべきなのか、それとも触れないべきなのか 
傷を付けたくないのなら触れないのが一番だとは分かってる 
それでも育った恋心は願ってしまう 
知りたいと。苦しんでいるなら…力になりたいと 

早足について行くのに精一杯で足をもつれさせ転んでしまった 
「ひゃっ!!」 
手をすりむいた 
手袋してたら汚してたな…って立ち上がり回復魔法を使いながら間の抜けた事を考える 

「大丈夫ですか…?!」 
ステイリーさんが気づいて申し訳なさそうに歩み寄ってくる 
そんな顔しないで欲しい 
「ステイリーさんのせいじゃないですからね…?私がただ転んだだけですから」 
顔をしっかり見ながら謝られる前に釘をさしておく 


【ステイリー】 
自分のせいではないとルリアに言われたがそんなはずがない。 
「…いえ、歩くの早かったですよね…すみません」 
短い声に反応してすぐに振り向いたのにルリアとの距離は遠く、そこで初めて歩くのが早くなっていたことに気が付いた。 
どれだけ呆けていたのだろう。回復魔法を使った手を見て手袋を返していないことにも気付く。 
手袋をしていたら怪我だってしなかっただろうに。 
ルリアさんに申し訳ない。 

「手袋…忘れてましたね」 
そういって徐に手袋を差し出した。 


【ルリア】 
そっと手袋を受け取る 
付けてみるとやっぱり温かくて、心までほんのり熱を帯びる 

悪くないって言っても謝ってしまう。こんなに罪悪感を苦しそうに抱えているのに、辛そうなのに 
それでもやっぱり私の傍に来てくれる 

「ありがとうございます…」 
ここで腫れもののように扱って逃げたらそれこそこの人を一人ぼっちにしてしまう… 
ツリーが星のように瞬く。それが背を押してくれた気がした。お守り鏡を一回握り締める 

私は決意したんだ。傷つけても、それでも傍に居るって 
一人で抱え込ませないって 
この人をこんな状態のまま帰らせたくない 

突き放されるかもしれない 
でも、それでも 
「…ステイリーさん…。辛いとか…悲しいとか…言っていいんですよ…? 
 …私には、言って欲しいです…。愚痴でもいい。あたり散らしても…構いません…。ステイリーさんの言葉なら…ちゃんと受け止めます…。だから…」 
目を見つめたまま服の裾をぎゅっと握る 


 

【ステイリー】 
「…ありがとう、ございます…」 
今まで誰かにそんな言葉をかけられたことがあっただろうか。 
長男だから頼られるばかりで何かあっても自分でなんとかしてきたしそれが当然だと思ってやってきた。 
全て自分で抱えて消化してきた。 
だから弱音の吐き方なんてわからない。 
ましてやこれ以上ルリアさんに迷惑をかけるわけにはいかない。 

だけど 

真っ直ぐな言葉が冷え切った身に沁みて、痛くて、痛くて、でも温かくて 
言葉が零れた。 

「あの二人…ルスとクローシアは昔付き合ってたことがあるんです」 
星のように煌めくクリスマスツリーに眼を向ける。 
「…でもルスが倒れてからしばらくしてルスから別れを切り出したらしくて。二人は笑って軽く言ってましたがやはり病が原因としか考えられないじゃないですか…。不治なんて言われたら当然ですよね。…だから今でも二人を見てると辛いんです。二人を別れさせた原因を作ったのは僕かもしれないわけですから…」 

だから二人で見舞いに行くことを出来る限り避けるようになった 
そんなことをしてもどうにもならないのに 

少し間を開けてルリアに顔を向けて微笑む。 
「すみません、それだけです」 


【ルリア】 
どうして…?どうして? 
そんな言葉ばっかり頭の中をぐるぐる回った 

私はこんなに近くに居てもやっぱり三人の事、誰一人としてちゃんと理解出来てない 
気付けない 
そんな…そんな事全く感じなかった…。あの二人が…そんな… 
もし自分のせいで大切な人達の”好き”と思う気持ちを引裂いてしまったら? 
…それは想像するだけで耐えれない位の痛みだ… 

どうして現実はこうもステイリーさんに優しくないのだろうか? 
そんなにこの人が間違った事をしたのだろうか…? 
「それだけ…なんて…!」 
やっぱり無力な自分は泣くしか出来ない。この人はどれほど傷ついて、今ここに居るのだろうか…? 

胸が突き刺さるように痛い 
「…そんな…そんなの…。痛い…ですよ…。それだけなんかじゃ…済まなくて…」 
その相手が大切なら尚更痛みは増す 
「…辛いなら…その気持ちを…私にも下さい…!分けて下さい…!私は…私は…貴方がそんな…痛みを…一人で抱えているのはいや…です…! 
 それだけなんて…言わないで…下さい…!」 

あぁ、私は相変わらずなんて身勝手なのだろうか 
ただ、私は目の前の好きな人が苦しむのが嫌という結論に達してしまう 


【ステイリー】 
――あぁ、馬鹿なことをした 
ルリアに視線を戻した後、すぐに後悔が押し寄せる。 

こんなことを話してしまったら優しいこの人が胸を痛めないはずがないのに。 
僕はどれだけ辛い想いをさせてしまったら気が済むのだろう。 
今まで通り、一人で苦しんでおけばいいものを。 
だけどこの人が閉ざした蓋を開けてしまうものだからつい、この小さな手のひらに受け止めきれないものを零してしまった。 

世はクリスマスイブで、こんなに綺麗なイルミネーションで街は輝いているのに、どうして僕はこの人を泣かせているのだろう…? 

ゆるく頭を振りルリアの涙を拭う。 
「…そんなこと出来ません。もう貴女には十分、持ってもらっているのですから。それだけで、本当に十分すぎるくらいなんです。だから…泣かないでください…」 

こんなことを言ってもこの人は納得しないかもしれない 
だけど、それでも 
僕が願うのは、愛しいこの人の幸せだから――― 

「…僕は大丈夫です。もう帰りましょう。風邪をひいてしまいます」 
微笑みながら真っ直ぐルリアを見つめてそう言うと再び歩き始めた。 


【ルリア】 
背中が再び遠ざかる 
それがイヤで、寂しくて 
思わずその背に縋りつくように抱きついていた 

「…待って…下さい…!置いていこうと…しないで下さい…! 
 わ、私今…その…はぐれたら迷子になるんですからね!?本当ですよ!?リュンヌさん以上に今の私は迷子病なんです!!」 
無理やり自分に意識を向けようとするにはあまりにも子供じみている…。済みません、リュンヌさん… 
それでも繋ぎとめたい 
どうして自分は彼に悲しそうな顔をさせてしまうのだろうか…。その痛みを自分が全部引き受けれたらいいのに… 

戸惑う気配に思わず飛び跳ねるように体を離す 
しまった…!というか…相手は男の人なのに…恥ずかしい…!!顔が熱い…! 
自分でしといて一体何なのだろうか、自分は…ううぅ… 

恥ずかしさを誤魔化すよう言葉を紡ぐ 
「え、えと…私に…出来る事…ないですか…?」 
見上げるように相手を見る 
どうしても、彼の為に何かがしたい 

 

【ステイリー】 
後ろから抱きつかれたと思えばやはりさっきの言葉では納得してくれなかったのだろう。 
「出来ること、ですか…」 
そんなことを言われても本当に何もいらないのにと思う。 

あぁ、そういえば僕も引きさがらなかったな、と今日の昼過ぎを思い出す。 
お返しをしないと気が済まないからと。 
お揃いならばやはり何か言わないとダメなんだろうな、なんて考えて願いを口にしてみた。 

「笑って…いてください。貴女が、幸せになれる場所で」 
例えそれがどこか別の場所でも構わないから、 

「ルリアさんが幸せなら、僕はそれで…」 
こんなことを言っても困らせるだけだろうか。 


【ルリア】 
一回ゆっくり息をして考えてみる 
もしも私がこの人の立場なら…やっぱり同じ事を言った気がする。好きだから幸せになって欲しくて… 
笑って欲しい 

「ステイリーさん…」 
笑顔を作って顔をあげる 
相手の気持ちを考えればちゃんと、笑える 
自分が痛くても相手の幸せを願う、この優しい人の願いを叶えたい 

「だったら”ここ”がそうです 
 …付き合えなくても、痛くても、悲しい事があっても…それ以上に私には…この…ステイリーさんの…好きな人の傍が…一番、幸せです」 


【ステイリー】 
「――――」 
この人は確かに今、僕の傍が幸せだと言ってくれた。 
そういって、笑ってくれた。 

「馬鹿ですか…貴女は…」 

大切な人の幸せを奪っていくばかりで、きっと自分には大切な人を不幸にすることしか出来ないのに。 
傍にいてもその笑顔を曇らせるばかりなのに。 
それでも貴女は―― 

眼頭が熱くなって雫が一粒、眼から零れ落ちる。 
見られるのが恥ずかしくて俯いて、気持ちを落ち着かせるように深く息を吐いた口元には自然と笑みがこぼれた。 

只々、その言葉がどうしようもなく、嬉しかった 


半歩踏み出し90度体の向きを変えると徐にルリアへと左手を差しのべる。 
きょとんとした顔をして手と顔を交互に見つめるルリアに、はにかみながら言い訳がましい言葉を口にする。 
「…今、迷子病なんですよね?迷われたら困りますので」 


【ルリア】 
彼の目の端から何かが零れた気がした 
でもきっとそれを指摘されるは嫌がりそうな気がしたし、笑ってくれたからそのまま気付かないふりをした 

手を差しのべられて思わず赤くなる 
な、何だか凄い嬉しくて一気に舞い上がる自分がいる…! 

知ってしまった事。それに対して考えなくちゃいけない事、色々ある気はした 
でも、今は…良いよね…?折角の特別な日なんだし… 

心臓をバクバク鳴らしながら、真っ赤になりながら緊張気味にその手を取る 
手袋越しに伝わる感触が、じわじわ伝わる熱が、たまらなく愛しい 
「…ありがとうございます…!」 
私は凄く単純なんだろうな… 
手が嬉しくて心の底から笑ってしまう 

初めて手をつないで帰った道 
それが綺麗に彩られた道 

私はこれ以上にない贈り物をこの人から貰えた 

私達はきっとこれ以上先には進めれないだろうし、傷つく事も多いんだと思う 
でも、それでも 

今繋がるこの手の幸せを笑顔でかみしめるのだった

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