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「兎に角こっち!」 

ぼくはそう言って無理矢理レティを中庭から連れ出した 
あのままあの場にいるのはどうしても耐えれなかった。なんと言うか、学院に来てからどうしても気持ちが落ち着かないことが多くなってる 

新しい環境になったら馴染むまでは当然かもしれない。でもそろそろ慣れてきてもいい頃なのに 

「ちょ、ちょっと!?アズサ?頭痛は平気ですの?」 

いや、あの嘘本気にしてないよね? 

「頭痛はしてない…」 

ただ、繋いだままの手がどうしても落ち着かない 
レティって…こんなだったっけ?身長的にぼくがまだ大きくなりきれないから目線も近い 
けど前よりちょっと下にいる気がする 
手も女性らしい丸みとか出てきて 
髪も小さな頃よりずっと伸びて 

あれだ、旅行行くと相手の魅力が増して見えるというあの現象なんだ、これはきっと 

まだまだお互い幼いけど、それでもただ子供というには違う気がする成長してきた姿 
…色気部分はまだまだだけど… 

でもふと思う、彼女はこんな姿だったっけ?と 

「そうなのですの…?じゃあどうして…」 

人の気を知らない部分は下手したら一生変わらないんじゃ…?なんて心配が出てくる 

「…落ち着かなかったんだよ…」 

そういう事にしておこう 

「…?落ち着かない…?何がですの…?」 

知るか 

「それは…」 

ふと彼女に向き合う 
そしたらたまたま近くにあった桜が風に揺らされふわりと花弁を散らす 

「…わっ…!強い風ですわね…!…あ!でも見て!アズサ!とっても綺麗!!」 

指差されたまま空を見ると空に薄桃の花弁がひらひら、太陽の光を受けて輝いてるように見えた 
そして、それを無邪気に掴もうとレティは手を伸ばしたりしてる 

「…うん、綺麗だね…」 

何となく伸ばした手に自然に花びらが舞い落ちる 

「あ!アズサにばっかり!ずるい!」 

何がずるいんだか… 

「お嬢様にだって髪にまーたついてるし」 

軽く払って花を落とす 
さっきも触ったその髪はとても綺麗で柔らかい 

「あら、御免なさい。もう、桜ってさっきのアズサみたいですわ!逃げる感じとか」 

「そう?ぼくはちゃんとここにいるじゃんよ?」 

「…でもいなくなろうとしてたのでしょう…?」 

さっきの話題のせいかのかちょっと表情にかげりが出る 

「………」 

相手から逃げたいような、逃げたくないような 
学院に来てから自分の心が余計定まらない 

多分、あれだ 
別の場所で見る彼女が別人みたくたまに見えるから 

「…でもずっとぼくが一番なんでしょ?…なら逃げないし…」 

本当にそうなったら…なんてありえない 
レティだって外の世界に来た。様々人と触れ合うようになった 
そんな中でこんな性格ひねてるぼくだけを選び続けるなんて有り得るのだろうか?…現実的じゃない 

「…そう…ですわね!絶対の絶対ですわよ!レティとアズサはずーーーっと一緒ですわ!」 

指きり!と言わんかごとくに小指を出される 
それに応えるように指を出して絡める 

「指きり!嘘ついたらダメですわよ?」 

「…うん」 

「ゆーびきった!」 

なんでそんな嬉しそうかなぁ…? 

でも、一緒を望んでくれるのが嬉しいとか 
他の男が守るのが許せないとか 

ずっと降り積もってきた感情の輪郭がはっきりしてくる 

「アズサはレティのなんですから…。いなくなるのはずっと…ずーっと禁止!!」 

そんな我儘を言ってニコニコ笑う 
…心に変な期待がふくらんでしまった 

単に幼いころから一緒にいたからの依存だって、親愛だって知ってるのに 
分かってるのに 


「…貴方が望む限りは、約束する」 

「なら本当にずっとですわよ?」 

とクスクス笑う 

何と言うか… 
あーもう…認めるしかないんだろうか…? 

そう思った時点で負けだって分かってても気恥ずかしさが勝ってしまう 

「ね、アズサが具合平気なら…もう少しお花見、出来ます?」 

柔らかい髪が桜と共にふわりと揺れた 

「…いいよ。どうせお嬢様の我儘はいつも通りだし?」 

二人なら、構わない 

「まぁ!心外ですわ!そんな我儘ばっかりじゃありません事よ!?」 

「…自覚しないって性質が悪いよね」 

「もーもー!アズサの意地悪!分からず屋―!」 

「そんなぼくと居たがるお嬢様は変人だね」 

「…むー…それは!私がアズサの事ちゃーんと知ってるからですわ!…言葉は悪くても一緒にいてくれますもの…」 

…そういえば昔からそうだったか…。どんなに我儘に呆れても、疲れても 
ぼくは彼女から離れなかった 

…そう言うとマゾみたいで心底いやだけど… 
それでもレティと居たいって…ぼくの望みでもあるんだ 

「ま、お嬢様の面倒みれるのぼくだけだし?うちの王族が皆はねっかえりなんて思われても心外だし」 

「レティははねっかえりじゃありませんわよー! …ふんだ!」 

そう言いながらもぼくがついてくるのをちらちら確認しながら先を歩く彼女の仕草が何だか面白かった 

「…嫌じゃない…ですわよね…?」 

何を?と聞く程野暮じゃない 

「まさか」 

「…なら良かった!」 

笑顔が可愛い 
自然に繋がる手に心が浮き立つ 

嫌な訳ない。嫌いなわけがない 

だってぼくは…この我儘ではねっかえりで、目が離せない幼馴染が… 

「アーズサ!ほら!こっちですわよ!」 

そう言われて手を取られる 
そんな事に心臓がはねた 

「…はいはい。どこまでもお付き合い致しますよ」 

仕方ないな、なんて顔してやれやれなんて態度を取る 


苦笑いしながらも近づく距離 
王族だし、本来は届かない相手でおまけに王子が大好き 
それでも、どうしたって 


好きだって、感じてしまったんだ

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