top of page

さて、ぼくの誕生日は過ぎた 
彼女からお祝いも貰った事だし毎年何かしらは文句いいながらあげてるんだし今年も何かをあげるつもりでは勿論、ある 

例年ならぬいぐるみとか…その時欲しがってた物をあげたりとかしている 
…しかし今年はどうしたものだか… 
勿論ぬいぐるみだってかまわない訳だけど…もう少し大人を意識したのをそろそろ贈ったって良い頃合いな気もする 
そして最近…割と贈り物をしている気がして普通に物一つじゃなんだか物足りない気もしてくる 

彼女の誕生日までまだ一カ月以上 ある 

あれこれ考えぼくは迷った末行動に起こしてみる事にした 



「え、えと…頼みとは何でしょうか…?」 

気弱そうにぼくの様子を伺うのは同郷の仲間のルリア=ブックス 
彼女はよく彼氏に弁当を作ってるらしく以前お昼時に会って一緒に流れでご飯を食べた事があったのだが、その時一口貰った手料理は割と美味しかった。女の子らしい雰囲気もあるし…きっと彼女なら出来るだろう…と意を決して呼びだした訳だ 

「…け……ケーキの作り方を教えて欲しいんだけど…」 

迷った末に出したぼくの結論 
それは手料理を渡すという至ってシンプルなものだった… 

「…え、えと…良いですけど…どうして…?」 

人の良さそうな感じと違わず拒む事はなかった 
善意に漬け込むみたいだけど他にアテもない。遠慮なく好意に甘えよう 

「…レティシアお嬢様が…来月誕生日で…。練習含めて付き合って欲しい」 

…言うと恥ずかしさが倍増する… 
これだけ聞くとなんて従順で尽くす奴なんだ…自分は… 

「あ…!そ、それはおめでたいですね…!わ、わかりました…!頑張りましょう…!!きっと喜んでくれますよ…!!」 

…からかわれてる訳じゃないのは伝わるのだが…何と言うか…気恥ずかしい… 

「…まぁ普通に考えれば買った方が美味しいんだけどね」 

口から出るのはこんなひねた言葉 

「え、ええええ…!?い、いえ!そんな事言ったら世の中買ったものしか料理がないとおかしくなりますよ…!大事なのは気持ちです…!相手を思って作ると言うのが大事なのです…!!」 

「…力説しなくても知ってる…。まぁあれか…先にせんぱいに許可取ってからルリア借りた方がいいか…」 

「許可…?」 

ぼくだって気を使わない訳じゃない 
一応ルリアとぼくは同郷で気安い関係で、三つしか違わない分周りからどう見えかねないかとか分からない訳じゃない 
…まぁぼくが幼く見えやすいのとルリアの周りの評判的に一緒に居てそう見えるとは思わないけどやはり先に彼氏には言っておいた方が後々面倒にならないだとう。そう思ってステイリー先輩の元に行く事にした 

「あ、とりあえずやる事は…アゲハ先生に調理室使う許可を貰う事ですね…!そうです…!どうせなら教わりませんか…!?」 

…善意で言ってるのが分かる分性質が悪い… 
…あぁ…そうか…あの先生に許可を貰わないといけないのか… 
ぼくはため息交じりにこれから会う先輩を巻き込めないか何て割と酷い事を考え始めたのだった… 


「…と言う訳でルリアに付き合って貰うつもりですが…先輩も一緒にどうですか?」 

明らかにステイリー先輩は渋い顔をした 
まぁ…会いに行く相手があのアゲハ先生で先輩は被害者の会とかいうメンバーと言う噂だし… 

「…いや、遠慮しておくよ」 

…やはりそうなるか… 

「…先輩が来ないならルリア借りるけど良いのですか…?一人で行きたくないですし…」 

「…別にアズサなら構わないけど…」 

…まぁ信頼されてるってトコかな?まぁルリアとぼくがどうこうなるなんて想像もつかないし 
…でもルリアは気にしてなさそうにぼく達の会話を聞いてるけど…一応彼女に聞こえないよう先輩に言っておく 

「…良いの…?そういうのさらっと言うと彼女機嫌悪くしないの?いや、ルリアなら平気かもしれないけど… 
 恋人にそうさらっと言われたら流石に…さぁ…」 

後でこれが原因でもめられても面倒だし一応確認はしておく 

「こ…!いや、ルリアさんとは別にそういう関係じゃ…!」 

そう言って先輩は何故か顔を手で覆う 

…そういやルリアもそんな関係じゃないって前に言ってたなぁ… 
…うん、二人に悪いけど説得力ない 
手料理作ってるだけでもそうだし二人で居る場面入学してから何度もみたし二人の空気とか雰囲気とか友達に見えない 
ルリアと会話すると大半が本の話題か先輩の話題ばっかり出てくる 
先輩の事話す時はそりゃあ嬉しそうにしてるし… 
今だって無意識かもしれないけど構わないって扱いがまんま恋人扱いだと思う 

うん、恋人にしか見えないな 

「…彼氏までそんな否定してどうするのさ…。と言うか何苦悩してるの?」 

「だから違うんだって…本当に」 

…人に言えない事情があるのだろうか… 

「…そうなの…?」 

「そうだよ」 

…人の事情は人それぞれ 
まぁ言えないならそれでいいか… 



誤解されるというフラグを先に折っておいて二人でぼく達は例の先生の部屋の前に来た… 
レティには出来るだけ内緒に動いているけど見つかったら正直に話すつもりである 

…しかし…気が重い… 

「…やっぱり帰…」 

「だ、大丈夫ですから…!やりたいと思うのは恥ずかしい事ではないですよ…!?」 

うん、料理自体を恥ずかしく思ってるのもあるんだけどね 
からかわれるのが分かってて… 

「…分かってるよ…!ただ…さぁ…」 

「い、いえいえ!アゲハ先生は優しい方ですから…!」 

…ルリアの優しいの基準は多分相当ハードルが低い 
彼女がドアを開ける 

「せ、先生…!どうもお邪魔します…!!」 

ぼくは覚悟を決めて相手に向かって頭を下げる 

「…失礼します…」 

「おいでませー。あらあら、アズきゅんは研究室にも1人で来られないのかな? 
 で、なになに?ステイ君とお姫たんの話? 
 胃袋掴んで心を掴む極意を聴きに来たんでしょ☆」 

…帰りたい… 
しかしここまで来たからには目的を果たさない訳にいかない…! 

「あ、いえ…その私は今回アズサさんの付き添いで…あ、で、ですが…その…お時間があればまたお料理を教えて頂ければと…」 

「…関連ない先生の元に来るのに勇気が要ったものでして… 
 えと…お嬢さ・・レティシア様がその…今度誕生日で…。ケーキを作りたいのでその…練習の時と本番の時調理室の許可を頂きたいと思って来ました」 

「美味しいのが作りたいそうで…作り方教わった方が私は良いと思うのですが…」 

…余計な事を… 
確かに専門の先生に教わる方が良いのは分かってるけど…あの服装本当何とかならないものか… 

「…ルリアに聞くからいい。先生の手をそこまで煩わせるのも悪いし…」 

「あらー、もうすぐお姫たんバースデーなの。 
 それじゃあ、盛大なウェディングケーキが必要ね! 
 まかせて☆おねーさん、時々卒業生が結婚した時とかに、 
 ウェディングケーキ作ってるの。しづ君先生とフィアたん先生の時もね 
 恋の協力は惜しまない…メリエルルーナの愛の女神の名は伊達じゃありません♪ 
 ルリたんも何時でも承るからね!」 

「何で誕生日って言ったのにウエディングケーキなんですか…」 

…どうしてその発想なのか意味が分からない…!! 

「…アズサさん結婚なさるんですか!?」 

ルリアも何故か発想がそういきついた 
…この人も大概意味が分からない発想する… 

「しない!ルリアは阿呆なの!?ぼく達の国はそういうのそもそも16以上からだしぼくとレティはそれ以前の関係だからね!?」 

「す、すみません…!」 

「…普通のホールケーキで十分です…。出来ればレシピも頂けると有難いです…」 

「誕生日にプロポーズって、ベタだからね♪ 
 そうか、でもウェディングケーキ作るのは大変だから、 
 今の内に将来見越して練習するのもアリだと思うわよ? 
 それに、普通のホールケーキなんて駄目よ。相手はお姫たんでしょ。 
 舌の肥えたお姫たんを満足させるのに”普通”じゃ余裕で落第よー。 
 プロのおねーさん監修のケーキ位は出さないとねぇ 
 それとアズきゅん、おにゃの子相手にすぐ怒鳴るのは駄目よ?」 

…将来的に料理が出来た方が良いのは認めよう 
認めた上でやはりどうしてウエディングから離れないのか…!…まぁレティはあれでもお姫様で美味しい物を食べ慣れてて…普通じゃいけないのもわかる…けど… 

「怒りっぽいのは気をつけます 
…あとぼく料理は本当最近やるようになった初心者なんです。だからあまり難しいのにして失敗するよりは無難なのを普通に作るほうがましだと思ったんですが…」 

自分の腕前以上の事をして失敗するリスクが高い。大丈夫か保守派の自分は不安になる 

「せ、先生がついて下さるなら大丈夫ですよ…!」 

「いや…ぼく関連ない生徒なのにそこまでは… 
 ぼくとしてはダークマターにならず普通に美味しければ…ってそれならやっぱり買った美味しいのの方が相手喜ぶかな…?」 

…まぁその方が美味しいのは事実だけど… 

「い、いえ…!こういうのは気持ちが大事ですよ…!ですよね、先生…!」 

「まぁ確かにねー…。其方の王族の方はダークマター製造に定評があるみたいだし☆ 
 まずいの作るよりは普通なのという気持ちも分かるけど、 
 ただ無難に済ませたいなら買った方が安全だし、 
 折角作るなら特別な物の方が良いでしょ?関係ないなんて事無いわよぅ! 
 全ての恋に、等しく手を差し伸べる主義だもの」 

…恋に…って…え… 

「こ…!! 
 べ、べ、べ、別にそんなじゃないですし!!ぼ、ぼくは単に…そう!幼馴染にプレゼントを渡そうとしてるだけですからね!?」 

まだ自分でも自覚したばかりなのにそう言われて一気に焦る 
彼女に恋してる状態が落ちつかない 

「…そうなのですか!?私てっきり…」 

…ルリアまで…!! 

「違う!全然そんなじゃない!!分かった!?」 

「は、はい…!!」 

い、いかんいかん…冷静になれ…冷静になれ…!! 

「…え、えと…まぁ特別な方が良いなと思うのが本音ですが…ぼく別に料理うまくも特別器用でもないですよ…?」 

「嘘発見器使うまでもない位の動揺っぷりね 
 大丈夫、大丈夫。最低限の料理の常識さえあれば平気だから。 
 無いなら無いで出来そうな物を選ぶけど。 
 因みにお姫たんの好物とか聞いておこうかな? 
 そういうの入れた方がポイント高いし♪」 

「…一応最低限の事は前にアリューテさんに教わったのでそこまで突飛ではないと思いたいです…。とりあえず洗剤で素材を洗う真似はしない程度には常識はあるつもりです 
 彼女の好みは…甘いのならなんでも食べますけど…ホイップ系のが好きそうですかね…」 

「ふむふむ、多少仕込まれてる訳ね! 今日びの男子はお料理上手もポイント高いから、良い事だと思うな ホイップねー。じゃあ、甘さ控えめな上品なクリームに、 旬のフルーツをたっぷり使って華やかに、とかどうかな? ベリー系やチェリー、メロンにマンゴーなんかが良いんじゃない。 此れなら豪華で美味しいけど、そんなに技量も問わないから安心して♪ 
中にエンゲージリング仕込んでおくのもサプライズでお勧めよ☆」 

すらすらとケーキのアイディアが出てくる辺りやはり先生なんだな…と感じた矢先にまた変な言葉 
…なんでエンゲージリングを仕込まないといけない訳…!?あ、でもケーキだけじゃ駄目だよな… 
まぁそれはおいおい考えよう… 

「ケ、ケーキはではそれでお願いします…。あと指輪は入れません…!ぼくと彼女は単に幼馴染ってだけですので」 

「わ、私も一緒に手伝いますので…!え、えと…今度リュンヌさんが誕生日でして…私も聞いていたらケーキを贈るのも良いかもと少し思って…!」 

「彼氏にでもあげたら良いのに」 

ルリアは分かりやすく真っ赤になった 

「か、彼氏なんて居ませんから…!違いますから…!!」 

…やっぱり否定するのか…。あんなに分かりやすいのになぁ… 

「アズきゅん分かってないわねー。 
 リュヌたんのバースデーにケーキ作って、それで自信を得てから、 
 本命のケーキ作るのよ。今までのお料理経験が火を噴くの 
 料理の道は1日にしてならず…だからね☆」 

「せ、先生…!私別に練習でリュンヌさんに作る訳でなく…」 

「あー…ルリアは作りたいの作ればいい。それで良いでしょ?話を進めない?」 

「じゃあ具体的に何作るか考えてみましょうか。3つケーキ提案するわね。」 

1.火薊のショートケーキ 
http://joconde.exblog.jp/20188147/ (←イメージ画像。薊にはなってませんが) 
無花果のコンポートを薊に見える様にカットしてショートケーキに飾る。 

2.生パイ 
http://blogs.yahoo.co.jp/octagon1712/40068853.html 
杏子を混ぜ込んだたっぷりのクリームの上に、さくさくのパイが乗っています。 

3.ラブラブハートケーキ 
http://www.garitto.com/product/16785323 
説明不要← 

「どれが良いかな?おねーさんは勿論3推奨よ」 

「火薊のショートケーキでお願いします」 

「!?そ、即答ですか…!?」 

「二番目のが難しそうだし。手堅くいっておくよ」 

「…3も可愛いと思うのですが…」 

だ・れ・が!作るか!あんなの! 

「自分が作れば?ぼくはやらない」 

気持ち悪い位の笑顔で言い切った 

「…リュンヌさん喜んでくれるでしょうか…」 

…多少の嫌味も込めてたんだけど…何と言うかルリアは毒気抜かれるなぁ… 

「さぁ?女子はそういうの好きだよね 
 …では先生、お手間をおかけしますが…ご指導よろしくお願いします」 

いくら…と感情がなろうともこれからお世話になる先生相手なのでしっかり頭を下げた 

「えー、3じゃないのー?お姫たん好きそうだけどなー。 
 其れならまぁ致し方ないわね。じゃ、作ってみましょうか?」 

「ぼくは料理で冒険はしない主義なので」 

「が、頑張りましょうね…!喜んで貰う為にも…!!」 

「…うん、まぁ…程々にはね」 

レシピの書かれた紙を受け取りぼくは先ずは内容をよく読むのだった 


そして覚悟を決めて練習講義を受けたら…案外まともで吃驚した… 
普通にケーキが(ちょっとしぼんだけど)やけた時には感動したものだ 
…この調子なら誕生日にはそこそこのが作れそうだ…!! 


練習するはいい 
作るのもやはり回数を重ねるに越した事はないだろう 

問題が発生した 
それは…試作品の処分だった… 


「…ルリアはもう少し太ってもいいのに…」 

と先ほど本人にも言った愚痴を呟きながらあてもなく歩く 
言った後気にするんです…!と真っ赤な顔で気弱そうに言われたら流石にそれ以上は言えない 
そういう訳でぼくは食べてくれる人を探して歩き回る事にした 


歩いていたら人の気配を感じて覗きこんでみるとヒビキさんとレイトさんが居た 
丁度いい。二人共知り合いだし頼むのに気安く済む 

「失礼します」 

中は研究室みたいな部屋。誰かのよく使う場所なのかもしれない 
二人共僕を見てやぁ、と反応してくれた 
…しかしヒビキさんをよく見ると重ねた本の上に座っていた 

「ヒビキさん、行儀悪い」 

「あはは、実はこれ本の形をした椅子なんだよ」 

「そうなの!?…よく出来てますね…」 

…世の中色々な物があるとは思っていたけど…なんでわざわざ本の姿の椅子を!?い、いや…こういうのには見た目以上の意味はないんだろうな… 

「実際に本だからね」 

本を使って椅子を作る…うーん…娯楽というか趣味の塊だなぁ… 

「まぁ良いけど…ルリアが見たら怒りそう」 

まぁ怒っても迫力はないだろうけど 

「あー…本好きだからね」 

確かに。今はそれを置いておこう。目下の目的を切り出す事にした 

「ねぇ、ヒビキさん甘いの好き?ケーキ食べない?よければそこのレイトさんも」 

声をかけてみたらレイトさんの顔が明るくなった 

「お、ありがとう!」 

「何か唐突だねぇ」 

…確かに 

「えと…ぼくが作ったんだけど味見して欲しくて。…一応自分でも食べたから普通の味と言う事だけは保障する」 

「ふーん、アズサ君って器用だよね」 

ま、人並みにはね 

「うん、ケーキ美味しいぜ!」 

嬉しそうに食べてくれるレイトさんを見て少し安心した 

「じゃ、俺も。…うん、なかなか良く出来てるじゃないか」 

「そう?よかった…。ルリアに教わりながら作ったんだけどさ 
 …またよかったら味見付き合って欲しい」 

「飾り付けも綺麗だし売れるよ?」 

「味見ならいつでも付き合うぜ!」 

よし、味見要員捕獲 

「いや、プロには敵わないし流石に売るのは…」 

そう口にすると改めて不安が押し寄せてくる 

「…やっぱ貰うなら買った方のが美味しいし嬉しいのかな…?」 

ぼくならそっちのが…嬉しいけどそれは相手の料理の問題が大きい 

「俺は手作りの方が喜ぶと思うな」 

とレイトさん。…そうなるかな…? 

「誰かにあげたいの?」 

とヒビキさん。ちょっと迷ったけど変にからかう感じじゃないし…良いかと口を開く 

「…お嬢様が今度誕生日で…」 

「あぁ、成程ね。プレゼントも兼ねてってところかな?」 

「…そう。ただ相手王族だから美味しいの慣れてるしさ…」 

入学してからはレティを連れて学食やら色々な店をめぐってご飯を食べたりもしてるけどやっぱり生まれつきずっと良い物を食べて来た相手に違いはない 

「アズサが作ったなら良いんじゃないかな?」 

「…そうかな。作ったら自信なくして…。ルリアも似た事いってた。気持ちが大事って」 

「ま、レティちゃんならすっごく喜んでくれるよ」 

「…うん、なら嬉しい。うん、頑張ってみる」 

笑顔で有難う!って言われたら、それは、考えるだけでとても… 

「おー。頑張れ青春!」 

「おう!頑張れ!」 

「青春って!?あー…いや…そ、そういうんじゃ…」 

え?何?まぁ行動が行動にだけにそう思われても仕方ない部分もあるけど?あるけどそう見えるわけ!? 

「お、顔真っ赤」 

レイトさんの言葉に更に顔が熱くなった 
「い、いや!だから、これはそういうのじゃなくて…!!」 

…あ、否定してたステイリー先輩とルリアの気持ちがちょっと分かった… 
確かに恥ずかしくて否定せずにいられない…!! 

「アズサとレティはラブラブだな」 

「!!!?!?!?ち、違うって!レティはそもそもうちの王子が好きなんだし!!」 

「この前、敬愛してるとは言ってたよ?恋愛じゃないってさ」 

「…でも小さな頃から大好きって言ってたし…」 

「そりゃあ、小さな頃と今とでは色々違うでしょ」 

…それはそうだけど… 
でも… 

「…ま、まぁレティが誰を選ぼうと…レティの自由だし?ぼくに関わる問題じゃないし!うん!」 

…と言う事にして欲しい… 

「そう?まぁ、気になるなら後悔はしないようにしときなよ?お兄さんからのアドバイスです」 

「…うん…それはね…。何もしない事はしないけど…」 

…後悔しない為に、今少しでもわずかでもあがいてる訳なんだし… 

「って!!!いや、だからぼくは本当に…!!!」 

「はいはい、照れない。素直になるのも大事だよ?」 

「…知りません!!」 

相手はちょっと肩をすくめて空気を変えるように話を変えた 

「で、今日の用事ってケーキの話だけなのかな?」 

「…あ、はい…。済みませんそんな事で。でも処分しきれなくて」 

「いや、美味しいケーキを頂けて嬉しかったよ」 

「…そう?なら良かった…。直す場所あった?」 

「俺としては無いかな?レイト君は?」 

「俺もない!」 

「二人共評価甘いの。…有難う。また作ったら宜しく」 

「おう!味見なら任せろ!」 

うん、沢山食べてくれるみたいだし是非お願いしよう 

「むしろアズサ君が厳しすぎるんじゃない?」 

「そうかな…?うーん…王族の人と暮らしてたし良い物食べてきたからかも」 

「お金持ちなんだな…」 

とレイトさんが感心したようにぼくを見る 

「いや…まぁそうなるのかな。別にぼくのお金じゃないけどね」 

「ああ、そういう事ね。それじゃあ舌も肥えるわけだ」 

「相手も条件同じだしね。もっと頑張らないと」 

「…そこまで気にやまなくても良いと思うんだけどねぇ…」 

「微妙な味の渡されても相手だって困るじゃん。…ダークマターは論外だけどね…」 

「ダークマター?」 

「何だ?それ」 

「・・・・・・・・・・あれはダークマター以外に言葉が見つからない…。兎に角破壊力のあるまずい味の物体…」 

「…もしかしてそれって…?」 

「…料理始めたばっかの自分でもこの程度は作れるのに…お嬢様…」 

「あぁ…」 

察しを込めたヒビキさんの目線が有難い 

「そんなにまずいのか?」 

「…水で流しこんだ後も体が拒絶して…三日寝込んだかな…」 

あの時は死ぬかと思った… 

「…下手な毒薬より性質悪いよ…それ…」 

「…いっそ毒なら解毒薬が効いたのに…」 

「…ご、ご愁傷様でした…?」 

「…うん、ある意味だから仕返しかもしれないね…手料理…」 

「…あぁ、それは確かに傷つくかもね?」 

傷ついて、反省して味の改善をしてくれれば…ぼくとしては万々歳だ… 



それからぼくは数回練習を重ね、更に何人かに「…ちょっと練習で作ったんですけど、味見と処分に付き合って貰えませんか?」と言って味見と言う名の処分を頼んだ 
とりあえずルリアを借りたんだしその結果をみせようと先ずはステイリーせんぱいに 


「アズサが?…うん、美味しいよ。頑張って作ったんだね」 

「練習してるなんて本番は誰の為に作るつもりなのかしら♡」 

…いや、一緒に居たし処分に付き合って貰えるだけで良いからあげたけど… 
クローシアさんは相変わらずフリーダムな… 

「…多分ご想像通りのお方だけど?」 

と、とりあえず返しておいた 
…まぁ処分に付き合って貰っただけそれでいいや、うん 


続いて発見したのはドロシーさんに蘭世先生だった 

「無花果を使うとは珍しいケーキね。味もバランスがとても良いと思うわ。」 

「あ、有難うございます。ノワン家のお嬢様にそうおっしゃって頂けると自信付きます」 

「薊の花畑の様で、見た目にも随分と拘りが感じられて、 
 此れは貰う方もさぞ喜ぶことでありんしょう。」 

「そ、そうでしょうか…。…喜んで…か…。あ、有難うございました」 

よし、生粋のお嬢様のお眼鏡に敵った!!内心でガッツポーズをしつつ喜んで貰えた事にじんわり嬉しくなってきた 


そして続いてはサラジュ王子様 

「私も料理を嗜んでおりますが、ひとりでこれほどの美味しいお菓子は作れそうにありません」 

「王子様も料理を!?…あの王子も見習って…いや、変なのしか作らなそうだからいいや…。王子様に美味しいと思って頂けるなんて光栄です」 

…うん、見た事はないけど絶対確信がもてる。あの王子が料理したら間違いなくレティと同レベルだ。家事なんてしてる姿を見た事ないし 


そしてコノハさんにもおすそ分けしてみた 

「アズサくん、料理男子だったんだ~。…うん、この味ならモテると思うよ!」 

「最近やり始めただけなんですけどね。…いや、モテてどうするのさ…」 

そういえば…ぼく自身モテた覚えが… 
い、いや…深く考えるまい。…どうせレティの事がどうにかなるまで応える事はないんだし… 
それに性格悪い自覚もあるしね。…う、でも…そういえば…と思うと若干何とも言えない気持ちになるような…。うん、だからもてても仕方ないんだし!気にしない気にしない…

さて、ケーキについては食べてもらえる人も出来たし問題のプレゼントだ 
ギリギリに用意じゃテストと夏休みがあるからよくない 
早いけど先に用意することにした 

店に迷ってケーキを作る時ルリアに聞いてみたらメティさんのお店がお勧めです…!と力説された 
以前そこで買った星のように光るけど普通に使えるインクをステイリー先輩にあげたら喜んで貰えたとか言ってたしなかったら他に行けば良いか、と覗きにいくことにした 

「…ここがルリアの言ってたメティさんのお店か…こんにちはー?お邪魔しますよ?」 

「いらっしゃい!おや、アズサ君じゃないか」 

新店舗の店長さんになったって聞いたメティさんのお店 
魔法道具が目を引くけど今はぐっと我慢する 

「うん。ちょっと贈り物探してたらルリアにここを勧められたんだ。ちょっと見てっていいですか?メティさんのお店って何があるかも興味あるし」 

「あ、ルリアちゃんのご紹介?なら、会員割引になるね。紹介者にも来店者にもポイントがつくよ 
 贈り物?お相手様はどういう感じの人?」 

へぇ、会員割引なんてあるんだ 

「へぇ、そんなのあるんだ。じゃあ遠慮なく特典を受けるよ。…ってお得だよって言ってかわせる魂胆も少し見えるけど…。ま、いいか 
 相手…メティさんはあった事ないか…。ぼくの主様で都年は14になる…元気で我がままお嬢様の見本みたいな感じの人かな」 

メティさんはちょっとギク!と反応した気がしたけど気にしないことにした 

「アズサ君とい同い年か。元気で我が儘お嬢様の見本みたいな感じの人!なるほど、なるほど 
 そのお相手、色とかは、どんなのがお好みかわかる?」 

「色は…可愛い感じのが好きみたいだけど…うちの国で重用されてる炎イメージの赤系がいいかも 
…もう14になるし…えと身分高い人と言うか王族だから質が高いのが良い。 
…毎年だとぬいぐるみとかだったけど…少し大人に踏み込むようなの…って難しいかな…?髪飾りと腕につけるのは前に贈ったからそれ以外で…って…注文多くて済みません」 

髪飾りは前にクローバーの冠を与えたし腕輪は前にリュンヌさんに貰ったミサンガをそろいでつけてる 

「もう14になるし、か。ふふっ。思春期だねぇ。誕生日の贈り物かい?髪飾りと腕輪以外の装身具でもいいし…誕生石はルビー?美容ケア用品なんかもいいかもね 
 赤系がいいなら、ちょうどルビーでもいいよね」 

所持金を値踏みされてるのかな?これは 
まぁ予算オーバーしても困るし 

「そうですね。世間一般で言う思春期まっさかりの年齢ですよ。そう。誕生日になるから…メティさんも良かったらケーキ試食しない? 
 まぁそれは置いといて…うーん…装身具…防御系なら悪くないかも…。いざという時の為とか…」 

「じゃあさ、メインはルビーのアミュレット効果のついた装身具で…美容ケア用品を特典でつけようか。あ、ケーキ頂く、ありがとう。ちょうどお腹すいてたんだ」 

「うーん…美容ケア…既にお付きの女官とかにされてると思うけど必要なの…?」 

よくそこらへんは知らないけどいつも綺麗な身だしなみだし間違いなく手入れはしっかりされてる 

「すでにおつきの女官とかにされてる…うんうん、なるほど。まあ、数があって悪い物じゃないし…誰にもらうかにもよるけどね。消え物といえば消え物なんだけど…」 

美容用品は一回置いておいてぼくはルビーを眺めてみた 

「まぁ…それもそうなのかな?まぁあって困るものじゃないからね… 
ルビー…悪くないけどもう持ってるのに多分あるかな…?」 

レティはお姫様だし沢山装飾品がある。流石に全てを記憶してはいないけど赤い宝石のは…確かあった気がする 

「あ、なるほどね。王族で、ルビーが誕生石なら、もうお父様やお母様から譲り受けてるとかね」 

「そうそう。装飾品色々あるからぼくも把握してるわけじゃないけど」 

メティさんは考える仕草をした 

「リップグロスはちょっとまだ早いか。校則違反になったり…って王族なら学校いかないで家庭教師かな?リップクリームなんかはどうかな?」 

「まぁね…。今回消え物はケーキがあるから出来れば何かが残るものが良いかな?あ、ケーキどうぞお好きに 
 お嬢様は今ぼくと一緒にこの学院通ってる。そうだね…グロスって何だか知らないけどあまりきついのはNGかな?…リップか…。悪くないかな…?」 

少し大人っぽい贈り物という条件には合う 
けど…少し気恥ずかしい贈り物な気はする 

「あ、でもこれね。綺麗な本体なの。紅い薔薇の模様がついてて。やっぱりこれ、候補に入れてよ、よかったら。サービス分だし 
 ちょうどアリュ君から仕入れたルビーの指輪があるけど、指輪はさすがにまだ早い感じだよね?高校生になったらステディリングもありな感じだけど」 

「あ…うん。確かに綺麗だね。うん候補に入れるのは構わないよ 
 指輪は…流石にぼくから贈るものじゃないし…ってステディリング…?」 

メティさんはぼくの様子をチラチラ眺めつつ商品を更に勧めてくる 

「ルビーの嵌めこまれたネックレス、ブローチ、イヤリング…小さな石だから上品で可憐なイメージだし、お値段もそんなに高くないよ?」 

「ブローチとかイヤリングか…。ちょっと背伸びに丁度いいのかな…?ぼく出せるのこの程度だけど平気なの?」 

ぼくは手持ちの予算分指を立てた 

「…え?う、うん、おつりくるよ。小さな石だし、特別なルートがあるから、ここのお店の宝飾類は安価なんだ」 

流石にぼくの年齢が持つには不自然な額だったしちょっと驚かれた 
一応王族の護衛として今は学生な分役割がゆるくなった相応には下がったけどお給料を貰ってたりする 
逆に王族の護衛にしては持ってないけどあまり多くのお金を持つにはよくない年という事で両親が給料を管理してくれてたりする 

「あ、そう。なら良かった…て無いとは思うけど一ケタ勘違いしないでよ? 
…そっかそれなら宝石も買えるか…。だったら綺麗なデザインが良いかな…。上品なのがいい」 

「勘違いは、ナイナイ。えーと、こういうのどうかな、小鳥が紅い実をくわえてるデザイン。ネックレスとブローチ、両方あるんだけど。イヤリングは片方が小鳥で、片方が赤い実」 

「うーん…可愛いけど赤い実をくわえてるってのちょっとうち炎が重要な国だから縁起が悪そうに見えるかな…。御免。…イヤリングも可愛い…のかな?これ。…女の子からどう見えるか分からないけど…」 

「なるほどねー。片方ずつ、ばらばらならいいのか…イヤリングは僕は可愛いと思うけど。イヤリングにしては小さめだし。ピアスもあるんだけど、王族で14歳ならピアスはどうなのかな?と思って。じゃあ、他のデザインもみつくろってみるね」 

「あ、すみません。あと有難う 
ピアスは…もう少し大人になってからかな…?イヤリングなら良いと思いますよ?」 

「えーと、例えばこれ。ルビーを小さな紅い薔薇の花束にみたてたブローチ。あ、兎の目ルビーっていうのも可愛いかも。どちらも台は銀」 

…あ、これは良いかも 
レティが喜ぶ姿が素直に浮かんだ 

「そのバラのいいね…!…あ、でも年考えると兎のが良いかな…?」 

「サクランボのブローチも可愛いかな。これらのブローチは実はチェーンを通す穴もついてて、ペンダントトップにもなるという優れもの。なのでブローチとしては小さめだけど、僕はそれも可愛いと思う。まあ、アズサ君次第 
背伸びをしたいお年頃なら…薔薇のがいいかもね?」 

「あ、確かに…。バラのが大人っぽいか…さくらんぼは流石に子供っぽいけどペンダントになるのは良いね…」 

うーん…と迷っていたら他のお客さんが急にひょこっと現れた 

「ブレスレットは、候補にならないのか?」 

黒髪ショートで凛々しい雰囲気のお姉さんだった 

「え!?え、えと…それはもう彼女に贈ってるので…」 

…つまり迷ってるのをみかねて野次を飛ばしてきたって所なのかな? 
…一見して凛とした雰囲気なのが伝わるし冷やかしではなさそうかな…? 

とか思ってたらメティさんが芸人みたいにずざざざ…!!と後ずさった 
…どうしたんだろう…? 

「嗚呼、もう贈っているのか。なら、合わせてアンクレットとかな。あと指輪ならピンキーリングくらいなら重くなりすぎないのではないか?……と、しかし、ブローチに決まりそうなのかね。それはそれで可愛くて良いな」 

「そうですね…、とりあえず指輪はやめておきます。済みません 
 あ、そうだ。通りすがりの方に聞くのも恐縮なのですが…良いでしょうか?お姉さんなら14歳の年の頃って仮定したらどっちの方が嬉しいと思います?バラと兎」 

「薔薇か兎か、私なら薔薇一択だが……。年齢というより、相手の性格次第ではないのかな?」 

「あ…それもそうですね…。性格性格…… 
 有難うございます。考えまとまりました 
 うん、可愛いし兎にしますよ。兎は縁起がいい動物って聞きますしね」 

「兎を選ぶということは、可愛らしいお嬢さんなのだな。喜んでもらえると好い」 

「可愛いもの好きな趣味なんですよね。アドバイス有難うございました」 

と頭を下げた 

「お役に立てたなら何よりだ」 

「はい。お世話になりました。通りすがりなのに済みませんが本当助かりました」 

なんて会話してたらメティさんが慌ててお姉さんに力説を始める 

「…!アンジュ!朝のタキシードはあれは、違うからね!」 

「タキシード?なんのことだ?私のことは頬っておいてくれて構わない。将来の妹の誕生日プレゼントに、何か適当に見繕ったら声かける」 

「ん…?将来の妹…!え、何、リュンヌちゃんのことかな…って、そこまで話すすんでたの?」 

ってリュンヌさんって恋人いたんだ…。まぁ美人だし当然か 
ってこのお姉さんアンジュさんって言うんだ 

「詳しくは聴いてないが……ヴィヴィの性格からいえばそうなる可能性が高いと私は踏んでいる。嗚呼。リュンヌちゃんへのプレゼントはこれがいいな。誰かと被っても、数あっても大丈夫だろうし、柄まではおそらく被るまい」 

これくれと差し出すのは、蒼薔薇モチーフのスカーフ 
彼女になかなか似合いそうだ 
…と言うかさっきの言葉が気になる 

「タキシード?なにそれ?」 

「あー、朝ちょっとタキシードをね、試着して。それを写メって…」 

とごにょごにょしだす 

「…試着?メティさん結婚するんですか!?それはおめでとうございます! 
…お相手は…え、こちらのお姉さんなんですか?」 

違う予感もあるけどメティさんの態度的にその可能性もありそうで聞いてみた 

「い、いや、それはね…僕の方はね…」 

「おや、メティ、お前結婚が決まったのか。それは……相手のお嬢さんに本当にコレでいいのか聴きたいところだな」 

…あれ?違ったのかな・・・・?親しい仲…じゃないの…かな…? 
…うん、何と言うか気持ちいい位バッサリだ 
メティさんは小声でぼくに教えてくれる 

「はーっ。この人がね、僕が“101回目のプロポーズに失敗した“と言ったら悪友のヒビキに“108回目の煩悩が消えるまでプロポーズするの?”って、返された相手」 

…へぇ… 
なかなか上手い言いまわしするものだな…ヒビキさん 
ぼくも小声で返す 

「…へぇ…メティさんってああいう人がタイプなんだね…。恰好良い感じじゃん 
…ああいう相手ってでも…落とすの大変そうだね…。トンビに油揚げみたくならない内に上手くいくといいですね…って101回振られて諦めないのも凄いけど…」 

普通に考えて三ケタ同じ相手に振られるって…それだけでも偉業だ 
メティさんは気を取り直して彼女に向き合う 

「ぼ、僕はね、色々アレでソレでだけどさ、プロポーズしたいのは君一人だから」 

アレでソレってなんだろう…? 

「あ!どさくさにまぎれてつい…102回目を…」 

…これはぼくはコントを見せて貰ってるって事で良いのかな…? 

「……その言葉を真に受けたら、友人たちなどに、先ほどの私のように私は正気を疑われるわけだな」 

…うん、102回のプロポーズが全部ああなら確かに受け入れたら正気を疑われそうだ… 
けど三ケタと言うか…二桁超えた時点で少しくらい本気を受け取り…にくそうだなぁ… 

メティさんは青薔薇モチーフのスカーフを受け取り、ポツリと 

「…青薔薇の花言葉は奇跡。僕には奇跡はおきないよね…」 

…確かにあれでこの恰好良い感じのお姉さんに受け入れて貰えたら…奇跡な気もする… 
メティさんは改めてぼくの品物を包み始めてくれた 

「兎のブローチに…特典の薔薇モチーフの飾り模様つきリップつけるからね。」 

「あ、おまけ有難うございます」 

そして小声で 

「彼女、いかすだろう?とりあえず108回目まではがんばるから」 

…百二回プロポーズが失敗する訳が分かった気がする… 

そしてぼくもやっぱり小声で返す 

「あ、うん。凄く恰好良い感じが確かにメティさんの好みそう。…ってあと6回じゃんよ…って普通求婚は一ケタでたりそうなのに…えと…そこまで頑張ったならうん…諦めたくなるまで頑張ったら…?」 

…所詮は他人事(酷)適当にいってみた 

「何をへしょげてるのだ?良く判らんが元気出せ。大人しいオマエは気持ち悪い 
 で、いくらだ?」 

…これは励ましてるのだろうか…?それとも本気で言ってるのだろうか… 

「おっと、休憩時間が終わりそうだ。悪いが先に会計すませて頂いて帰るよ。」 

「アズサ君、ごめんね、こちら、お急ぎのようだから先に」 

「あ、うん。分かってる。大丈夫ですよ。どうぞお先に。ぼくは他の商品みてるから」 

別に自分は急いでないしこういう時はレディーファーストだ 
メティさんは熟練の技でささっと包装を終わらせて彼女の会計を済ませた 
そしてささっとアンジュお姉さんは去って行った… 

「あーもう少しラッピングに時間をかけて話を引き延ばせばよかった。千回…に延ばすか…」 

千って… 

「…百以上の時点でアウトなのにそこまでいったら多分ストーカー被害で訴えられるんじゃないの…?」 

今でも訴えてられてないのが不思議な位だ… 

「そういえば、某国では忍者のことをストー○ーっていうんだったね?きっと良いストー○カーもいるのさっ」 

いや、伏字にしなくても… 

「…忍者…?それは知らないけどどの道ストーカーって良い意味じゃないからね…?まぁ本気にされてない部分からの改善が必要だと思うけど…そこは真剣に迫れば何とかなるんじゃない…?多分…だけど…」 

さっきのだってこんな他に客の居る前で日常生活の一部で言い出してるあたり…真剣味が伝わりにくそうだし… 

「若人から慰めの言葉をもらってしまった…う、うん。まあ、多分…何でも可能性はゼロってことはないよね? 
 0.0000…1%でもさ…気長にやるよ」 

低!!! 

「うん、おまけ本当に有難うま…まぁ…何事もゼロの可能性の物はないって言うからね…。…困難にはなるだろうけどね…きっと…って現状困難でしたね。済みません 
えと会計ですね…」 

うん、もう何言って良いかわからない。所詮ぼくだって今が初恋という程度の経験値だ 
大人の恋愛は荷が重すぎる 

「え、えと…まぁ人の気持ちってある時突然変わる事もあるしね… 
じゃあ有難う。また来ますね」 

じゃあねーと手をふる相手にお辞儀して去って行った 
…結局他の店見なかったけど…まぁいいか。これ、レティが気に入ってくれたら…嬉しいな…とラッピングをよれさせないよう注意しながら丁寧にもって帰るのだった

それから 
テストも終わって夏休みに入って 
ぼく達は祖国のフェステリアに帰省をした 

道中ちょっとルリアの様子がおかしかったけど突っ込んで欲しくなさそうだったからぼくは何も言わず普通にしていた 

きちんと送り届けさせるぞ!と言い無駄なドヤ顔で豪華絢爛な馬車を用意した王子に全力で突っ込んで見た目だけでももう少しだけ普通な馬車にさせるというハプニングを起しつつ 
田舎に向かうという彼女と別れぼく達は久々に家に帰った 


一市民にしか過ぎないぼくが王族の家に王家のお嬢様と住んでいたなんて本当両親がどれだけ仲が良かったらおこることなのだろうか…? 
いや、家にいた頃はそれが当たり前だったから考えもしなったから今更そんな事を考えてしまう 
ぼくも彼女も一人っ子な事も大きいんだろうな… 

王子と別れがたそうにするレティを放置して先に家に向かおうとしてぽかぽかされつつなつかしの…我が家といえるのか言えないのか…に入る 

「ただ今ですわーーー!!」 

レティは元気に家の扉を開けて出迎えに待っててくれてたご両親に抱きついた 

「お父様っ!お母様っ!レティシアただいま戻りましたわ!」 

「おかえりリトルプリンセス!」 

そう言ってこの家の主人は愛しい娘を抱きしめた 

「おかえりレティちゃん。学園生活は楽しんでいますか?困ったことなどありませんか?お母様は聞きたいことがたくさんです」 

「パパも聞きたいなぁ~はやくおいで!みんなでお茶しよう!」 

そう言って二人はレティと話したくてたまらないという感じで彼女を誘導する 

…相変わらず仲良しな家族だな… 
ぼくは少しだけ挨拶と言葉を交わして家族の邪魔をしないようそっと荷物運びと整頓があるから、と言って家族水入らずにして部屋に行くことにした 



「ふぅ…」 

一仕事を終わらせてようやく久々の我が部屋 
着替えもせずにそのままベッドに倒れこむ 
さすがに距離があった上に…あの集団がボケばっかりで本気で疲れた…!!!シファネさんが救いと言えば救いだけど大人しくて突っ込んでくれないし… 

少し転寝して目を覚ます 
人の気配を感じて体を少し動かすと…レティが隣で寝てるし… 

あれか?感動の再会が終わって会いにきたら寝てたから一緒に寝たとか? 
…ぼくは男にカウントされてないわけ…?これは… 

何だか無性にむかついた… 
鼻でもつまんでやろうかと思って顔を見て手が止まった 

(…幸せそうに寝ちゃってまぁ…) 

すやすや穏やかな寝息をたててこんなに安心した顔されると…毒気が抜ける… 

(…少しは大人っぽくなったのかな…?) 

中身はまだまだまだまだ、ま・だ・ま・だ!!お子様だけど… 
それでも一歩ずつ、体は勝手に大人に近づいてくる 

長い綺麗な金髪を指ですく 
くすぐったそうに寝ながら笑う彼女はまだ幼い 
幼いから、子供だから、男のぼくがこんな風に一緒に居れる 

目を縁取る長いまつげが揺れる 

「…ん…?」 

「おそようございます、お嬢様」 

「…おはよう…?」 

「夕方だし」 

「んー……あ!そうですわ!私アズサの顔見に来て…」 

「そのままねこけたって訳?何してんのさばーか」 

「ちょ、ちょっと疲れただけですわ!断じて寝顔見てたら眠くなった訳じゃありませんわよ!?」 

成る程、そういう事か 

「だ、第一!アズサだって寝てたじゃないですの!おあいこですわ!」 

「はいはい。じゃあそういう事で良いデスヨ」 

「むー・・・・・・何かバカにしてません?」 

ほう、それが分かる程度には成長したか 

「してないしてない。で?良いの?ご両親と色々話しに行かなくて」 

レティは首を振った 

「折角久々に二人でゆっくり出来るんですもん。夕ご飯の時までここに居ますわ」 

……今が夕方で少し助かった 
反射的に熱くなった顔を上手く誤魔化してくれるから 

…そういやあまり考えてなかったけど…ぼくは彼女にいつか言うのかな?この気持ちを 
え?言うの!? 
あ、いや、自分で考えてなんだけど…… 

実感が沸かない 
あ、いや、今はいいや。うん 
そこまでの覚悟なんて今は出来てない 

「どうしました?」 

覗き込まれた顔から少し逃げるように離れた 

「何でもない。…ま、何もない場所だけどゆっくりしてけば?」 

二人なら礼儀なんて今更だ。もう一度ベッドに転がって深呼吸をする 

「あ、分かりましたわ!まだ疲れてるんでしょう?アズサってば体力が足りませんわよ?」 

「だーれーのーせーいーでー!?」 

ぼくが感じたのは断じて気疲れだけじゃない 
彼女の大量の荷物(女の荷物って何であんなあるのか謎)の一部をぼくも持ってたからだ 
こういうとき従者っていうのはしんどい 

恨み言を吐きながら傍にあった手から指を掴んでぐいぐい引っ張ってやる 

「私ちゃんと大人しくしてましわよ!?」 

「大人しかった…?へーぇー?ルリアに話しかける度足を踏んできた人が?」 

「そ、それは…アズサが何か笑顔でしたし…最近よく一緒に居るし…私を置いてけぼりにしているなんておかしいじゃないですの!」 

ま、立場的に確かにおかしいんだけどね 
ここの所ルリアと一緒に居た機会は確かに多かったけど…それはケーキ作りの練習の為なんだけどなぁ 

「あの人には毒気が抜かされるだけ。本当に独占欲強いんだから、ぼくのご主人様は」 

顔を見ると目に見えて分かるくらい彼女はむくれてる 

「アズサは…」 

「分かってる。ちゃんと、望んでくれる限りお嬢様のですよ」 

引っ張ってた指に指を絡めてみる 
…彼女の手はいつの間にかぼくより小さくなっていた 

「…話すなとまでは言いませんけど、レティが一番じゃなきゃダメですわよ!?」 

「はいはい」 

投げやりに言ってやる 
内心は割とこの状況に落ち着いていないんだけどね 

「返事が適当すぎますわー!」 

「へいへーい」 

「もっと適当になってます!やり直しですわ!」 

そんなやりとりをメイドさんにご飯に呼ばれるまでやってた自分達はまだ子供なんだろうなぁ… 


和やかに学院の話をしつつ夕ご飯は済んだ 
夜、レティが寝たのをしっかり確認してから行動におこし、誕生日にケーキを作ってあげたい旨をコックに伝え説得し了解を得て 
材料の用意をしっかりメイドさんに頼んでおく 

ここじゃ学園みたく目が離れてる時間のがあまりないだろうからもう練習は出来ないだろう 
こっそりレシピを読み込んで、プレゼントは隠しておくのだった 


その日まではごく平凡にすごした 
一緒に課題を最初に終わらせて、それから両親に魔法の上達度を見てもらったり 
家族と一緒に買い物に出かけたり(ぼくの両親も来た) 
プライベートビーチで泳いだり大量の買い物に突き合わされたり 
至極健全に一緒に過ごした 

…前はこれが当り前だった 
ぼくの近くに年が近い異性はレティしかいなくて、レティの傍には…お茶会等に呼ばれない限り同じく 
学院に入って周りに年近い異性が多くなった。他を見て実感したのはやっぱり自分にはレティが一番大事なんだ、という事実 

いよいよ明日がレティの誕生日 
また一歩大人に近づくのを、ぼくは素直に祝福出来るのだろうか? 
そんな事を考えながらお揃いのミサンガとレティから貰ったペンダントに触れて、夢におちるのだった 


当日 
彼女の身支度中にぼくは従者としての身だしなみを整える前に厨房にこもった 
周りの微笑ましいと言う雰囲気の応援とアドバイスを受けつつ(…どう見られてるかはあえて考えない)練習通りにケーキを完成させ、運ぶのは任せて急いで身支度 
贈り物をポケットに忍ばせようと思ったけど素直に手にもつ事にした 

緊張しつつも彼女の元に向かう。エスコートは父親の役割だけど傍で控えてないとうるさい我儘お嬢様なのである 

「あ、アズサ!どうです?似合うでしょ?」 

ふふん、と偉そうに足りない胸をはるのはいつも通り 
その恰好はとても綺麗でやはり血統の良さを感じさせる。ふと頭につけてる飾りが目に入った 

「冠、それで良いの?」 

レティの頭には依然ぼくがあげたクローバーの冠が乗っていた 

「勿論ですわ!綺麗ですし幸運を運ぶ物ですし良いじゃないですの」 

…何となく顔が熱い 
他意はないんだろうけど…こういう特別な時に使ってくれるのが嬉しい 

彼女の父親がそろそろ、と促しぼくたちは会場入りした 
最初に彼女が踊るのは勿論そのまま父親だ 


ぼくは周りの噂話に耳を傾ける 
綺麗になったとか、将来が楽しみだとか周りの反応はそんな感じだ 

「アーズサ!」 

踊り終わったレティはまっさきにぼくに向かってくる 
それは昔からの姿なので微笑ましく眺められている 
それに一応安堵する 

「はい、飲み物どうぞ。お疲れでないですか?椅子はあちらに用意ありますので」 

場所が場所だけにぼくも言葉を選んできちんと従者を務める 

「あ、有難うですわ。でも私まだ疲れてません!それよりダンスどうでした!?上達したでしょう?」 

偉そうにしちゃってまぁ… 
忘れたからって今日までダンスレッスン受けてたの誰だったけ? 

「えぇ、とても美しいダンスでした」 

意外この公衆の面前でどう言えと? 
と言う内心に気付かない彼女はますますエヘン!となった 

「さ、次の曲はアズサの番ですわよ?」 

…いや、次に踊るのが従者ってどうだ 

「お誘いは有難いですが皆さまもお嬢様のダンスの順番待ちをしてますよ?」 

「レティはアズサと踊るの!」 

…この人は本当ぼくに対して立場とか気にしないよね… 

「…あ、ほら王子ですよ。ご挨拶してこなくていいのですか?」 

入口付近が賑やかになって王子がシファネさんと入って来た 
にこやかに、華やかに 

…あれでいて学院では掃除も出来ない阿呆王子なんだけどね… 
しかしこの場の人達はそんな事知らない。王子様相手故ににこやかに話しかける 
レティはぼくの言葉で王子に気付いて顔をパッと明るくして相手に駆け寄る 

「お兄様!!来て下さったのですね!嬉しいですわー!」 

他の人が挨拶してるのにお構いなし… 
いや、今日は彼女が主役だからいいや…。現に皆微笑ましく道を譲ってるし… 

「勿論来るとも。お前の誕生日だからな。おめでとう、レティシア」 

「おめでとうございます…」 

王子とシファネさんは揃って贈り物をする 
周りは拍手喝采。勿論一応ぼくも 
自分の贈り物はちらちら見られてたけどまだ渡してない 
…先に渡せば良かったかも…。絶対値段で負ける… 

「わー!ありがとうですわ!!お兄様!!」 

心底嬉しそうにしやってまぁ… 

王子が来たって事は王子側の護衛もいるわけで 
ぼくは守衛に人よいしたと伝えテラスに出た 

護衛としてこれで良いのか?と思わなくもないけどここは外からの客がない分平和だしぼくよりずっと優秀な守衛が沢山いるのを知ってる 
万が一の時すぐ駆け付けれる距離で人込みを抜けた 


「はぁ…」 

どうせレティはこれからあの阿呆王子と踊るんだろう。その場にいて不機嫌な顔を隠しきれる気がしないあたり自分はまだまだ子供だ。彼女が主役の日にまでそんな真似はしたくない 
渡しそびれた贈り物を手にしてまたため息をつく 
ケーキ含め…パーティー終わってからのがいい気がしてきた… 

華やかな場所、綺麗なドレス 
この場に居ると改めて彼女が遠い場所に居ると感じてならない 

「…現実ってしんどいよなぁ…」 

暫くぼーっとそのまま夜空を眺める 
曲が終わりそうになってそろそろ戻らないと怒られる気がしたので振り向くと彼女がいた 

「あ!いましたわ!もう!どうして目を離すとどこかに行ってしまうんですの?」 

「…王子様と踊りきらなくて良かったの?」 

「…べ、別に途中で足を踏んでしまったとかじゃありませんことよ!?ちょっとその…休憩ですわ!おーほほほ」 

踏んだんだ… 
ヒールの靴を見て内心ざまぁとか性格悪い事を考え心の中だけで合掌しておく 

「主役がこんなとこ居ていいの?」 

「アズサが居ないから探したんじゃないですの!」 

なんと言うか…依存心と分かっててもこう必要とされてるって言う感覚がくすぐったいんだよなぁ… 

「はいはい。申し訳ありませんでした、お嬢様」 

「もう!悪いなんて思ってないでしょう?」 

「すみません、人酔いしたもので。他の方に迷惑はかけれないでしょう?」 

わざとらしい笑顔でわざとらしーく言う 

「酔ったんですの?」 

信じるの!? 

「…微妙に…?あーえーと…あ、そうだ。まだここにいるならちょっと待って」 

すぐ戻ると態度で示してすぐ近くのメイドさんに例のケーキを持ってくるよう頼む 
ちょっと待つだけでそれはすぐに来た 

う…なんだか緊張するなぁ… 
パーティーは主役が休憩中とみなされてるのか普通に和やかに皆楽しんでいる 

「ごめん、お待たせ」 

「何ですの?何をこそこそと。…そういえばここ最近ずーーーーーっと私には関係ないって忙しそうに皆とこそこそやってましたわよね…?」 

レティはじとーっと疑わしげにぼくを見る 
…別にやましい事してないしバレてもよかったんだけどどうやら他の誰かの口から耳に入らなかったようだ 

「関係は今から出来るよ 
 はい、ハッピーバースデー」 

ぼくはケーキを彼女に差し出した 

「…なんですの?これ…」 

「無花果ですけど?」 

「…ねぇ?これまさかとは思いますが…」 

「ぼくが作りましたけど?何か?」 

「・・・・・・割と普通ですわね」 

そりゃあ豪華なケーキを見慣れてるお嬢様には普通だろうけどね 
これでも頑張った方なんだけどなぁ 

「…ずっと何かやってたの…これでしたの…?」 

「…ノーコメント。良いから食べるの?いらないの?」 

「い、いりますわよ!折角アズサが作ったんですから!」 

あまりに吃驚したのか珍しく顔を赤らめて慌てた 
…ま、その反応がもらえただけ良いか… 

「頂きますわ」 

きちんとテラスの席について手を合わせるレティ、緊張しつつケーキを口にするのを眺める 

「…凄い…!美味しいですわ…!!アズサってば料理なんてしなかったのに…!」 

ま、確かに学院入るまではしなかったけどね 

「学院入って暫くしてから作るようなったからね。それ以来は割と作ってるし日々の成果かも」 

アリューテさんに教わって依頼朝ごはんに簡単なのを作るようなってきた 
これがやりだすと面白いのだ。なかなかに 
ひっそりレシピ本を買ったりして少しずつ、出来ることを増やしている 

「へぇ…。まぁ私の腕前には敵わないですけどアズサもなかなかやるじゃないですの!」 

顔が一気に引きつった 

「…へぇーえー?」 

「あ、アズサ…?何か笑顔が怖いですわよ…?」 

「…そうでしょうねー。お嬢様の腕前には(悪い意味で)誰も敵わないでしょうね」 

「???そうですわよね!」 

…ダメだこりゃ… 
ダメージを与える計画はもろくも崩れさったみたいだ… 

「…はぁ…。あとこれ。どうぞ」 

もう疲れた。贈り物を適当に渡す 

「有難うですわ!なんでしょう?」 

やっと貰えて嬉しいのかいそいそ早速包みを開ける 
中には目がルビーの兎のブローチと薔薇モチーフの飾り模様つきリップ 
レティは目を輝かせた 

「わぁ…!!!凄い!可愛いですわ!!こっちは…リップ…?」 

「店員さんがおまけにつけてくれたんだ。まぁぼくっぽい趣味じゃないのは分かってるけど折角くれたんだし…」 

「そうなんですの?ふふ、でも有難う!とぉーっても嬉しいですわ!」 

…あー…なんだかなー… 
無駄にした苦労とか、手間とか…渡そうか悩んだ時間とか 
全部この笑顔で報われてしまう辺り…自分は単純だ。本当に単純すぎる 

「どういたしまして…」 

レティは早速ブローチをつけてみてる 

「どうです?」 

「…ドレスに合ってるの?それ」 

「もう!似合うとか言えないんですの?」 

「…そりゃあ…似合うけど…」 

やばい、顔が熱い 

「ふふふ、大事にしますわね」 

「…そうして」 

ふと中の様子を見ると皆踊っていたり歓談してたりしてる 
…こんだけゆるいなら一曲くらい、せめて…良いのかもしれない 

「…で?曲途中になったけど…踊るの?」 

手を差し出してみた 

「…ここでですの?」 

「あまり目立つのは好きじゃない」 

「アズサってば我儘ですわね。良いですわよ、付き合いますわ」 

我儘って…まぁ確かにそうなのかも…?でも我儘お嬢様に言われると釈然としないなぁ… 

「では、一曲お相手願います、お嬢様」 

彼女は差し出した手を取った 
曲にあわせてゆっくり動く 

「アズサは…」 

「何ですか?」 

「いえ、曲途中からでしたし今の曲だけじゃなくてもっと私踊りたいですわ!」 

「全く…主役がこんな場所でのんびりしてて良いの?」 

「今日は私が一番の日だから良いのですわ!」 

ま、そうなんだけどね 
でも大丈夫かふと窓の向こうを見たら…阿呆王子と目があったあげく親指を立てるグッドを出された… 
何かむかつく… 

「はぁ…。お嬢様は本当昔からぼく離れしないよね」 

「い、良いじゃありませんの!アズサはレティのですし…」 

「…そうだね。お嬢様のですよ」 

わざと、少し引き寄せる 
身長差はそんなにないけど…ちょっとぼくのが高くなったかな? 

「…アズサ…?」 

「…ねぇ…もし…もしも…」 

ぼくのになって、と言ってみたら 
どうなるのだろうか…?断られるのだろうか?それとも… 

ゆっくりと足が止まる 
互いに互いを目に映す 

「もしも…?」 

心臓が大きく高鳴る 
ぼくはまだ、どうしたいのか分からない。覚悟が決定的に足りない 
だからその先を口に出すか迷った。そうしていたら、声がかかった 

「レティシアなにをしてんだ?中でこの国でも指折りの貴族の坊ちゃんたちが待ってるぞ?」 

声の主はこの国の国王、ライナス・アルフォード様。 
金糸の毛色の猫を肩に乗せにやっと笑みを浮かべながらライナス王はぼく達の元へ歩み寄ってきた。 
チラリとぼくに目を向けるとあ~と何か理解したように頷く。 

「お、叔父様!ど、どうしてこんなところにいらっしゃるのかしら?えと、いまはまだここに居たくて、その……」 

オドオドした様子で助けを求めるように視線をぼくに向けるレティ。 
それを制するようにライナス王はぐっと腕を引いた。 

「主役がいねぇパーティーなんぞつまんねぇもんだぞ。さっさと戻って愛想振りまいてこい。休憩は終わりだ」 

レティの意見は無視して腕を引いてぐんぐん中へ歩いていく。 
そしてレティの背をトンと押して扉の中へ押し込んだ。 
ぼくは其れを止める事が出来ない 

「お前、アズサだったか?」 

「はい」 

話しかけられて思わず背筋が伸びる 

「生意気そうな目がバカ息子にそっくりだな」 

くくっと笑うと優しく猫の喉を撫でた 

「共に居られるのもあと少し。まぁその時間を楽しめや」 

そのまま背を向けてをひらひらとさせてライナス王とレティは扉の中へと消えていった 



…なんだか牽制された気がした… 
気が緩んだ途端へたりこむ。さすが王様。威圧感が…凄かった 

さっきまで隣に居た人は一瞬で遠くに行ってしまった 

…あの阿呆王子に似てても嬉しくないし… 
あと少しって…そんなの言われなくたって… 

リュンヌさんから貰ったミサンガをなんとなく月にかざす 
彼女の願いがかなった時、これは切れるのだろうか?それがどんな願いか分からないけどその時自分は彼女の側に居続けられてるのだろうか? 

「…だからって…簡単に忘れたりは出来ないんだよね…」 

現実を直視しても、立場が違っても 
恋をしてしまったのはしょうがない 

「…仕事するか…」 

今はまだ、誰からも祝福なんてされない気持ち 
それでも、一番近くに居れるのは自分だけなんだから 
レティが勝手に入れた彼女の写真のペンダント。ぼくの気持を見透かすようなそれ 
一回笑顔の写真を眺めて蓋をした 

立ちふさがる壁が大きくても、声すら出せなかったくらい情けなくても、今は俯かない 

まだ、ぼくは何一つ行動してないんだから 
せめて、きちんとふられるまでは、このまま進むだけだ 

ぼくは気合を入れ直して会場に向かうのだった 

bottom of page