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「ここでは桜という美しい花を見る習慣があるという話ですわ!さぁ!行きますわよ!アズサ!!」 

「…はぁ…」 

「なんですの!?そのため息交じりの返答は!もう、若いのにもう老けこんでしまってますの?駄目ですわよ?アズサ!」 

うん、ぼくがため息をついたのはまたお嬢様の我儘が始まったか…ということだ 
でもまぁ毎度の事だ。いつも通りだむしろ花見で済むならむしろ悪くないか… 

「お兄様にも声をかけていきますわよ!」 

「行かない」 

「どうしてですの!?」 

「やだからかな?」 

レティの目に映るぼくは気持ち悪い位の笑顔を浮かべている 
嫌だ。絶対嫌だ。何が楽しくて娯楽の時間にまであの顔を見ないといけないんだ 

「理由になってませんわー!」 

「なってるよ?やだなぁお嬢様ってば。あははははー(棒)」 

「むー…何がそんないやなんですよー!?いいから行きますわよー!!」 

そうして暫く行く行かない論争を繰り広げる事となったのだ… 



そうして出た結論は 


「苺大福美味しい…」 

「そうだねぇ。俺の彼女のお手製だから当然だけどね。…ロニヤちゃんバイト時間じゃなければなぁ…」 

そう言ってレムさんはしょぼくれた。…あれか、この人は恋愛バカの類だ 

「…料理上手な彼女って絶対手放しちゃいけないと思う…」 

「?…あぁ、お嬢様じゃ料理なんてしないのか」 

「しないならどれだけいいのか…」 

レティの料理はダークマターだ(断言) 
なのにイベントがあるの作りたがる。今回もお団子作りますわ!と言いだし慌てて全力で止めた 

「でもほら、楽器は上手じゃんよ」 

さっきから聞こえてくるのはヴァイオリンの二重奏 
悔しい位絵になる王族の二人がデュオをしてる 

・・・・・・・・どーせ負けたよ・・・・・・ 

結果半泣きになったレティにぼくが折れた形になった 
ただし三人は絶対嫌だというぼくの言い分で折衷案で王子様の友達の彼女がバイトで暇そうにしてるレムさんを引っ張ってきた訳だ 

「まぁ、仮にもお嬢様だしね」 

レムさんの彼女のお手製だという苺大福は甘みと酸味がマッチして本当に美味しい 
魔法もかかってるらしく口にいれた途端に味と香りが広がってもう他のは食べれなくなりそうなくらいだ 

「お、音楽出来るのも才能だと思いますよ…!?私音楽は全く習わなかったので駄目駄目ですし…」 

巻き込まれたもう一人、同郷仲間のルリアがそう言う 
この人は行きがけ王子様が見つけてよければお前もどうだ?と引きずり込まれた 

「学ばなくても歌う位は簡単じゃんよ」 

上手く歌うには訓練は必要だけどただ楽しむ為だけなら覚えればいいだけなんだし 

「そ、そうでしょうが…その…音感悪くて…」 

「あはは、音痴なんだ。逆に聞いてみたいな」 

「か、勘弁して下さい…」 

大人しくて気弱そうな人はちょっとしたからかいにも顔を赤くする 

「…ルリアって簡単に悪戯とか引っかかりそう」 

「え…!?そ、そんな事は…!!」 

「あー、それ俺も思うね。素直って事だろうけど」 

「そ、そんな事は…!多分…ないかと…」 

「別に?悪いとは言ってないし。そういう風に分かりやすい人は嫌いじゃないよ?」 

「…ど、どうもです…」 

この程度の言葉でもやっぱり顔を赤くする 
…この人多分もてるタイプだな。…レティにももう少しこういうしおらしさが欲しいのは我儘なのだろうか… 
いや、それじゃあレティじゃないか…。何て考えてたら変な音が響いた 
レティのバイオリンかららしい 

「アズサ!ちゃんと聞いてますの?」 

失敗が恥ずかしかったのかレティが怒り気味に話しかけてくる 

「聞いてるよ。お花見って談笑しながら桜見るものなんでしょ?話してたっていいじゃんよ」 

「ま、まぁ…そうですけど…」 

「まぁまぁ、良いではないか。どうであった?なかなかのものであろう?」 

自分の腕前を自慢するように王子が偉そうにふふん、とする 
実際偉いから良いけどこれ王子様じゃなかったら相当うざい…。王子でもうざい 

「お、お上手でした…!二人共…!とても素敵で感動しました…!」 

「ヴェルノ最近練習サボってたんじゃない~?前聞かされた時より引っかかってたよ?」 

「そ、そういうのは言うでない…!折角ルリアが褒めてくれたというのに…!」 

「…あ、アズサ?貴方はどうでしたの…?」 

「ん?そうだな…」 

わざともったいぶって間をためる 
緊張気味に待つレティはなかなか面白い 

「ぼちぼち。でも先生にまた見て貰う前にもう少し練習したら?」 

これでも音属性が主の自分だ 
だからか分からないけど細かい部分の粗も何となく伝わってしまう 

「…これでも前より練習しましたのに…」 

「うん、上達はしてる。だからその調子でもっと音の伸びとか気にしたらもっと良くなりそう」 

ヴァイオリンは出来ないからちょっと抽象的なアドバイスにはなってしまうがレティは認められたのが嬉しいのかふふん、とドヤ顔をした 

「最初からそう言えば良いんですのよ!これでも聞いてもらおうと練習を…」 

「してたんだ」 

へぇ、それは初耳だ。寮暮らしになって前よりレティが何してるのか分からなくなったけどひっそり特訓なんてしてたとは… 
…う、なんかくすぐったい… 

「・・・・・・れ、練習は普通にしますわよ!?ベ、別にアズサの為とは違いましてよ!?ほほほほほー」 

…分かりやすい誤魔化しだ… 
このお嬢様がどうも憎めないのはこういう一面があるからだろうな 

「へーぇ、そうなんだー」 

そしてぼくには可愛げがない。こうやって弄って嫌みっぽい事を言ってしまう 

「…ど、どちらでもいいじゃありませんの!」 

「あ、あの…お二人とも喧嘩は…」 

「大丈夫だって、ルリアちゃん。これはただのじゃれあいだよ」 

じゃれ…いや、否定はしないけど… 

「そ、そうなのですか…!?」 

この人は阿呆だ(確信) 

「仲良き事は美しきかな、だな。二人共」 

ニマニマとからかうような王子 

「わ、私はお兄様とももっと仲良しになりたいですわ…!」 

気を引きたいのか必死に力説するレティ 
…こういうのが面白くない… 
いや、別にレティが誰と仲良くしようと勝手だけど… 

「そうか?だがアズサがむくれておるぞ?」 

あ、今カチンと来た 

「…え?そうなんですの?」 

「…別に」 

…何と言うかこれじゃあなんだかあからさまに機嫌悪いって言ってるのと同じだ… 
隣のレムさんはニヤニヤしてるし… 

「そうですわ!次はじゃあアズサも一緒に一曲やりますわよ!」 

「歌ありの曲か…うむ、良いぞ」 

「お断りします」 

笑顔で言い切る 

「ど、どうしてですの!?」 

「やるなら二人でどうぞ弾いてれば?い・や・です」 

舌をだして意地悪っぽくそっぽ向く 
レムさんが何だか笑った気がしたけど気にしない事にする 

「え、えとえと…わ、私もアズサさんの歌聞いてみたいですが…」 

「…じゃあルリアが歌えば?」 

「む、無理です!音痴です!」 

わたわたするのが面白い… 

「遠慮する事ないぞ?レティシアと二人がいいなら俺は聞きに徹するぞ?」 

「えー!レティはお兄様ともっと弾きたいですわ!!」 

…あ、やっぱムカムカする… 

「ぼくはお花見につきあってって言われただけだし?歌までは付き合わないから」 

「・・・・・・・意地悪っ!」 

「今更」 

「いけず!けちんぼ!!」 

「知らなかったの?」 

「…むー・・・・・・・・・」 

このまま言い争っても不毛な気がした 
ぼくは立ちあがる 

「ちょっと周り見てくる。どうぞ其方はごゆっくり」 

「え!?ちょっとアズサ!?」 

「戻らなかったら適当に帰ってていいから」 

手をひらひらさせて歩きだす 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ガキか・・・・・・・・ぼくは・・・・・・・・・ 



桜を眺めつつ歩きながらぼんやり考える 
やっぱり嫌なものは嫌だしそこを曲げる気もない 
レティはレティなりにぼくと王子を仲良くさせたいのかもしれない。けど…うん。嫌だ 

前よりましな関係になってるだけ良いと思って欲しいものだ 

適当な木にもたれかかって思いついた曲を≪唱い≫始める 

『水気よ我が手に、空に踊れ、花を誘え、空へ空へ』 

魔法は発動してぼくの魔力を対価にして現れた水が細かく空に舞って桜の花びらを巻きあげる 
桜は初めてみたけどなかなか美しい花だ 

『我が声をのせこの力よ舞い踊れ、世界に花を広めよ』 

輪唱が加わり魔法が更に相乗効果をなし地面に落ちた花もまた、巻き上がり辺り一面桜が踊るように舞う 
こんな真似出来るのは一人しかいない 
レティだ 

ちょっとバツが悪そうにぼくがもたれかかってる木の裏側に回り込んで歌を続ける 

…本当、この人は…嫌いになれない人だよなぁ… 

『世界に彩る花よ、水よ、この場の人々に祝福を、一時の安寧を』 

特に打ち合わせしてなくても二人の魔法が上手く輪唱して声がより遠く、響いて行く 
魔道具を使いさらに効果を広げる 
いっそサービスだ 
この一体の人たちに美しい光景を、歌を、そして気力回復の効果を 

このひと時が誰かの心に残るように祈りながら歌う 


「・・・・・・・お疲れ様」 

「…其方こそですわ…」 

別に喧嘩と言う程でもなかったとは思う 
けどなんとなく言葉が切れた 

「…アズサはそんなにお兄様がきらいですの…?」 

「気にくわない」 

嘘を言っても仕方ない。だから正直に言った 

「…レティはただ、二人と一緒にいたいだけですわ…」 

なんという欲張りな我儘なんだか 
でも好きな人とただ、一緒にいたい。それは当り前の願望な気はした 

「…これでも大分歩み寄ってるよ?同じ空間にはいるじゃんよ」 

「そうですけど…!」 

「…レティの我がままでも聞けるのはここまで」 

感情はどうにもならない。レティはあからさまにしょげるけど仕方ない 

「…ばか。そもそもレティの頼みじゃなきゃ一緒にすらいる気ないんだよ?」 

どうしても顔を合わせると突っかかってしまう 
そんな相手と一緒に居たいなんて思えるものか 
それでも、レティの我儘には弱い。だからそれだけは折れる 

「…え、えと…それは…」 

あ、珍しく照れてる? 
…それはそれで気恥ずかしい… 

「大事な幼馴染なんだし、レティの我儘は今更だし」 

「・・・・あ、そうですの!」 

「レティの我儘聞くのはぼくの役割なんだし?まぁ出来る範囲だけはね」 

・・・・う・・・やっぱりこういうのは恥ずかしいか… 

「…それじゃあレティが我儘しか言ってないみたいじゃありませんの…」 

「違わないじゃん」 

「そ、そんなことありませんわー!アズサだって自分勝手じゃないですのー!」 

ぽかぽかくってかかってくるレティ 
うん、面白い 

「そうだよ。身勝手同士で良いんじゃないの?」 

「…むー…。ま、まぁそんなアズサと付き合っていけるのもレティくらいですし!?いいですわ!」 

「そうそう。幼馴染なんだし今更互いに遠慮したっておかしいし」 

思ったままを言うのは摩擦を生んだり我がままにしかならなかったりする 
けど我慢する関係も違う 

「…戻りませんこと?」 

「…いいよ。苺大福、お嬢様も食べてみなよ。美味しいから」 

「あ、あれは気になってましたわ!」 

「うん。少しは見習ってほしい」 

「どういう意味ですの」 

「料理音痴」 

「誰がですの?」 

レティがだ 

「はぁ…。次何か作る時は本当に誰かに教わってよ…?」 

「?」 

「ほら、行くよ」 

手を何でもないように差し伸べる 
レティはちょっと顔を赤くしてその手をとった 

「…はいですわ…!」 

もう魔法は発動してない 
けど、ぼく達の道を桜が歓迎するよう舞ったのだった 


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