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【アズサ】 

…イライラする 
ここの所特にそれが酷い 

同じ部屋だと言うのも精神衛生上よくない 
嫌でも目に入る。日常生活が思いっきり駄目なあの王子様が… 

いや、王子様なんだから日常系出来なくても良いんだ。それは問題ないんだ 
問題はそれが分かっててなんで専用の従者なりなんなり用意しないんだ!って事なんだろう… 

あの王子はいつもまぬけ面して、朝も起きれなくて 
話に聞くと問題児で 

…何でレティはあの王子が良いのか意味が分からない 

ぼくは部屋で静かに勉強していたらその相手が帰って来た 
あえて無視して机に向かう 


【ヴェルノ】 

「よーう、今帰った。腹はすいておらぬか?レムのところへ行ってきたのだがロニヤがいてな、たんと菓子をもらったのだ。食わんか?」 

彼の様子に気づくことなくぐいっとお菓子の袋を差し出す。 


【アズサ】 

「…お気遣いは必要ないので。それはせんぱいのですからどうぞせんぱいが食べて下さい」 

若干言いまわしに刺を含ませつつ袋を押し戻す 
…子供か…ぼくは… 

そして何一つ空気に気付かない相手に更に苛立ちは増した 


【ヴェルノ】 

いらないと押し戻されたお菓子の袋を「そうか?」と何も気にせず受け取り机の上をぽんっと置いた。 
そのままベッドを腰かけると枕元に置いていた本を開きパラパラとめくる。 
なんだか重い空気にさすがのヴェルノもきづいた様子でチラリとアズサに視線を送る。 

「あ、そういえば魔法はどうだ?新しい魔法でも覚えたりしたか?俺はまた少し新しい術が使えてな、あ、そうだ、今度俺が魔法みてやろうか?きっと二人でやったほうがはかどるし・・・」 

なにか会話をと話題を振ってみたが重い空気は変わる様子を見せない。 


【アズサ】 

苛つきが抑えれなくなって思わず立ち上がった 
どうせ、どうせどんなに焦がれてもぼくには王子みたく、レティみたく炎は使えない 

フェステリアに置いて重要視されて、最も発展しているのは炎だ 
水しか扱えないぼくが特例中の特例並みに 

この王子はぼくには出来ない事が出来て、そしてどうしようもない人なのに… 
その立場、力で多くの存在に認められる存在 

「せんぱいは歌魔法や水魔法を知ってるとでも!?」 

…八つ当たりだ、こんなの 

あの日、あの時王様に立ち向かう事一つ出来ない自分がとても小さくて、みじめで… 
嫌になる 
拳をきつく握り締め、感情を押し込めた 

「…申し訳ありません…。口が過ぎました。…外に出てます」 

そうしてぼくはその日、同じ科の友人に頼んで泊めて貰った 
…自分がガキで嫌になる… 


【ルリア】 

それはある日、私は実習の一環で医務室に居た 
リース先生も暑い…とうなだれて部屋にいたので先生に色々聞ける事は聞きつつ勉強をしていたら、魔力切れを起こしたというヴェルノ様が入って来た 

「…しょうがない子だね、君は」 

とリース先生は言いながら魔力を分け与えて手当てをする 
そして見てあげな、と言われ相手に向き合った 

「ヴェルノ様…気分は如何ですか?気持ち悪いとか頭痛がするとかありますか…?」 


【ヴェルノ】 

体がぐったりとして力が入らない。魔力の供給を受けて少しましにはなったが気分は悪い。 

「気持ち悪くはないがまだ少し頭がぐらつく。」 

またやらかしてしまった。力を求めるあまり魔力消費の激しい魔法ばかり使いすぐに倒れてしまう。強くなくては国を守れない。だからといって倒れていては守る以前の問題なのだが。 

「情けない。これではアズサに偉そうなことが言えんな。この間もなにやら怒らせてしまったようだし」 


【ルリア】 

魔力消耗だけでなく精神的にも弱ってるみたいでとても心配になった 
リース先生も魔力を渡したばかりで疲れていそうなので自分で出来る事をしようと考える 

媒介を手にして魔法をよくイメージする 
「我が友を癒す光よ、彼の者に力を…Recovery」 
まずは相手の体力を回復させる 

そして棚から魔力回復薬を取り出してベッドに座る彼の横に座る 
「まだ魔力が足りなかったら飲んで下さい」 
と薬を手渡す 

リース先生は空気を読んでくれたのか、少し離れた場所で黙っていてくれている 
先生になら聞かれても構わないだろう。私はヴェルノ様に向き合って考えて、口を開く 

「えと…アズサさんと何かあったのですか…?」 
おせっかいかもしれない。けど友人として相手が何かを抱えているなら聞くだけでもしてあげたいと思った 


【ヴェルノ】 

ふぅ、と息を吐くと瓶を受け取り「すまぬ」と呟いた。 
何かあったのかと問われるとうむ、と力なく頷いてそっと口を開く。 

「あ、ああ。理由は分からぬのだがアズサの様子がおかしいのだ。なんだか暗く浮かない顔をしているようでな。会話でもしたら気がまぎれるかと思ったのだがどうやら怒らせてしまったようで…。あれは俺にはなにも話さぬ奴だしどうしようかと思ってな。」 

人付き合いが得意ではない自分ではどうすることもできない。 
誰からも愛され愛することのできる彼女ならなにか良い方法を教えてくれるかもと淡い期待を抱きじっと見つめ彼女の返答を待った。 


【ルリア】 

期待の眼差しを受けちょっとプレッシャーでうぅ…!となりつつ考えてみた 
アズサさんは確かに夏休みの帰省から学園に戻る時、何か様子がおかしかった 
落ち込んでいるような感じがして…でも触れていいのか分からず結局何も言えなかった 

原因は分からない。私はそこまでアズサさんの事を知ってるわけじゃない 

「…私が間に入ってみますか…?やはり思春期の年頃というのは素直になれないのが普通ですし… 
 え、えと…その…アズサさんは特に…何と言いましょうか…ヴェルノ様にあたりきつい感じが前からしてましたし…」 

本人同士の話だけでは余計、状況が悪くなるかもしれない 
自分なら二人と相応に話したことがあるし、少しは役立てるかもしれないと提案してみた 


【ヴェルノ】 

「はは、やはりか・・・俺もなんとなく、な」 

鈍感な自分だが育った環境のおかげか敵意や嫌悪の情に対しては敏感だ。 
表に出すことはなくともなんとなく気づいてはいた。 
だけどまぁ改めて言われると痛いものがあるなぁとため息をつくとヴェルノは頭をかいた。 

「・・・すまんがあやつのこと頼んだぞ。」 

言葉少なくそういうとヴェルノはゆっくりと身体を起こしベッドを降りた。 
小瓶をそっとポケットへしまいこむ。 
それとほぼ同時にレムがガラっと保健室の扉を開けた。 

「ヴェールノ!もうよくなったかな?歩けそうなら寮へ帰ろう。送ってやるよ!」 

レムの言葉に「あぁ」と頷くとヴェルノはレムに支えられながら静かに保健室を後にした。 


【アズサ】 

…部屋に帰りにくい 
ため息をつきつつどうしたものかとぶらぶら歩きまわる 
子供っぽい癇癪をおこしてる自分に嫌気がさしてため息がこぼれる 

自分の気持ちの整理がうまくつかない 
せんぱいに八つ当たりしても仕方ないのは分かってる。頭で分かっているのに 

「…今日も誰かに泊めて貰おうかな…」 
ため息交じりでぼやいたら、その問題の相手とばったり会ってしまった… 

「…せんぱい…」 
よく見たら相手は少々顔色が悪そうだ。おまけにレム先輩に支えられてる 
…無言で立ち去るか少々悩んで立ち止まった 


【ヴェルノ】 

レムに支えられながら寮までの道のりを歩いているとふと目の前に先日怒らせてしまったアズサの姿が視界に入った。 
重い頭を上げて立ち止まるアズサに目を向ける。 

「よう、機嫌は治ったか?」 

レムに支えられたままの情けない姿のままいつも通り挑発めいた言葉をかけるとレムにコツンと頭をたたかれた。 

「まったくお前は・・・。やぁ、アズサくん。こんにちわ」 

レムはにっこりとアズサに微笑みかけた。 


【アズサ】 

なんでそんなふらふらしてまで人の感情逆なで出来るかな…この人は…!! 
昔からそうだ 
そういう人なんだ 
この王子様は… 

「こんにちは…レムさん」 

あえてレムさんにだけ挨拶はちゃんと返した 
そしてせんぱいに向き合う 

「…たった今、もの凄く悪くなりました。貴方様のおかげです」 
取り繕う笑顔すらも作らない 

…だからガキか、ぼくは…! 
分かってても負の感情の連鎖は止まらない 


【ヴェルノ】 

「・・・?」 

心底不思議そうな表情を見せるヴェルノとにこりと返すレム。 

「あれまぁ、またなにかやらかしたのオマエ?」 

レムはやれやれといった表情でついついっとヴェルノの頬を突いた。 
ヴェルノはむっとした表情をしつつもされるがまま。 

「貴様には関係のないことだ、アズサ・・・何に腹を立てておる?口に出さねば伝わらぬのだぞ?」 

ぶにぶにとされたままじっとアズサを見つめ、ヴェルノは首を傾げた。 


【アズサ】 

相手の言葉にまた感情が一気に溢れて来た 
何を言うんだ!?この人は!どうせ…どうせこの人は… 

「…言ったって聞かない人が何を…!」 

敵意を隠さず相手を見たらその後ろに戸惑ってるルリアを見かけた 
少し、正気に返ったけど気持ちは収まらずどうにも出来なくて俯く 

「…済みません…」 

それだけ言うのが精いっぱいで相手に背を向けて小走りで立ち去った 

「アズサさん…!!」 

と背中にルリアの言葉がかかったけど、それを無視してただ相手から逃げた 



【ルリア】 

「済みません、レムさん、ヴェルノ様の事お願いします…!」 

そう言って私は相手を追いかけた 
さっきヴェルノ様に頼まれた事もあるし、それ以上にあのままにしておくのは良くないと自分でも思ったから 

何度か躓きそうになりながらも必死に走ってようやく泉の側に座り込んでる相手を見つける事が出来た 

「アズサさん…」 

息を整えながら声をかけると相手はいぶかしんだ顔をして目をそらした 

「何…?」 

バツが悪そうにそっぽ向く姿はまだ幼さが残る 
深呼吸して無理矢理息を整えてちょっと隙間をあけた隣に座る 

「…えと…その…ヴェルノ様と…どうしたのですか…?」 

「…ルリアには関係ない」 

「…ない…ですけど…その…えと…私ヴェルノ様とお友達ですし…アズサさんは同郷の仲間で…よくして頂いてますし…その……し、心配で…」 

「…うん」 

「…えと、言えば楽になる事もありますし…その…頼りないかもですが言うだけはただですし…!!さあ!どうぞ!遠慮なく…!」 

半分呆れた目でため息をつかれた… 
うぅ… 

「…ルリアは…どうしてあの王子と友達でいれるの?」 

遠くを見ながらぽつりとつぶやかれた言葉 
ちゃんと答えようと自分に尋ねて正直に言葉を紡ぐ 

「…好きだから…だと思います。尊敬もしてますが…単純に…友達として、お話するのが…うん、へ、変な意味でなく!好きだと思ってますし…」 
「それステイリー先輩が聞いたら誤解しかねないよね」 

その言葉に胸が痛んだ。星のない髪を指でちょっといじった 

「…そう…でしょうかね…?」 

今度は私が泣きそうになる。前にヴェルノ様と話して妬いて貰えた事をちょっと思い出した 
一生懸命胸の痛みを振りはらうように頭を振る 

「と、友達を…好きだと思うのは…普通だと思います…。親愛的な意味で…」 

「…うん、まぁね…」 

ちょっと沈黙 
遠くで鳥のなく声が響いた 

「…どうして友達になったの?」 

「…私が…ヴェルノ様と友達になれたのは…中庭での出会いが切欠でした。その時…私は相手が王子だって知っていたから…逃げるように友達の背中に隠れていたのですが…ヴェルノ様は…向こうから話しかけて来てくれたんです。それで…嬉しくなって…」 

「…ルリアってちょろいよね。絶対」 

「え…。そ、そうでしょうか…」 

「そうだよ」 

アズサさんは立ちあがって足元の石を拾って泉に投げた 
3回はねて石は沈んだ 

「ぼくが知ってるあの人は…朝は起きれないし問題児だし…我儘だし偉そうだよ?」 

「…そうかもですね…。でも、優しい人です。まっすぐで…」 

「…優しいなんてありえない。だってあいつは…」 

私は相手の言葉をじっと待った 



【アズサ】 

なんでこんな話をルリアにしてるのか分からない 
ただ、誰でも良いから聞いて欲しいのかもしれない。自分の気持ちを 
バカにしない人だって事位は分かってるから 
だから、少しだけ 

「あの人は…人の話なんて何も聞いてないんだよ?分からないの?」 

言っておいて…何かが引っかかる感覚がした 
自分で言ってて違和感がある 

「…そんな事ないですよ…?」 

「あるよ… 
 ぼくは王子様を昔から何度も眺めていた。だから知ってる。レティが…相手に楽しそうに話しかけている間…あの人は…何一つ聞いてなさそうな、どこか違う場所に居るような感じだった」 

「…そうなのですか…?」 

「そうだよ!あの王子様は…何でも持ってる。何も…人の話すら聞かなくても…何でも手に入る 
 …そんな相手をどうやったら好きになれるのさ…!!」 

言いきって少し息があがった 
自分の中が本当どろどろした感情で一杯で、とても苦しい 

ルリアはぼくの息が整うのを待って、そして立ちあがってぼくの手をとった 
少し、かさついてるけど温かくて小さな手だ 

「アズサさん、自分で分かってますか?その時のヴェルノ様の事、過去形で話しているの」 

「…だって前の話だし…」 

それがどうしたのだろうか? 

「そうです。それは…”前”の話です。今じゃないです…」 

俯くぼくの額に柔らかく熱が触れた。頭と頭が触れあってる状態らしい 

「…アズサさんが知ってる”ヴェルノ王子様”はそうだったのかもしれません。でも…私は今の…私の友達の…”ヴェルノ様”しか知りません 
 私が知ってるヴェルノ様は…私の話をちゃんと聞いてくれる人です。つっかえつっかえで…要領も得なくて…自分の事を離すのが苦手な私の話を、気持ちを、ちゃんと聞いて、汲んで、喜んで…時にはちゃんと…怒ってもくれました…」 

手がぼくを逃がさないようぎゅっと握られる 

「勿体ないです…。昔の姿を全てだと思いこんで…今は違うって…気付けないのは…」 

少し顔を上げると相手を目があった 
ルリアは少しぼくから離れて自信なさげに俯いた 

「…偉そうに御免なさい…」 

「台無し。割と良い事言ってたのに」 

そう言うとルリアは顔を赤くして俯いた 

「…うぅ……」 

「…ねぇ、ルリアが知ってる…あの阿呆王子の事、教えてよ…」 

そう言うとルリアは少し、嬉しそうに顔をあげた 

「…はい…!」 



様々な話を聞いた 
ラウンジの大暴走からの尊敬してますとか、ハロウィンで何故かおぼろげな記憶らしいけど助けて貰った事とか 
その時友達って言って貰えたとか 
その後ルリアが王族に感じていた事を謝罪して、それに対して相手も頭を下げた事とか 

ぼくは、あの王子を嫌な奴にしたかった 
そうすれば、レティが相手を慕ってるのは盲目なだけで、間違ってるって言えるから 

でも実際は、あの人に何があったのか分からない。けど、あの人はもうぼくの知ってるあの時の王子様じゃない 
頭で分かってたんだ。認めるのが嫌だっただけで 

どれだけ自分は情けないんだろう… 
そう言ってしょぼくれたらルリアは 

「そうやって、ちゃんと考えを直せれるのですから、あとは謝れば問題ないですよ」 

と言った 


もう、色々認めるしかない 
ぼくは単純に…相手に嫉妬してただけだって 



ルリアと別れてぼくはその足でそのまま進んだ。その先には…あの王子とよく一緒にいる人達が見えた 


【ヴェルノ】 

レムに誘われてそのまま外でぶらぶらしていた 

いつもの仲間たちがみんなラウンジでくつろいでいるのが目に入った。 
ロヴィは此方に気づくなり大きく手を振って駆け寄ってくる。 
ヴェルノも自然と手を振り返した。 

「ヴェールノ!!お帰りなさいっ!まったくあれほどやめとけっていったのにロヴィのこと無視してつっぱしるから!心配するコッチの身にもなってよね!」 

会ってそうそうぷりぷりと文句を垂れるロヴィとそれを見て笑うレムたち。 
つられてヴェルノも微笑んでいた。 

彼らとの出会いがあって今がある。 
彼らに出会う前の自分は今思うと最悪な男だった。 
誰も信用しないし、人生がつまらないものだった。 
きっとそのころを知るアズサだからこそ自分を好ましく思わないのだろうなぁとヴェルノは目を伏せた。 

「まぁまぁいいじゃないの。俺たちも戻ってきたことだし優雅にティータイムを楽しもうよっ あれ?あそこステイリーくんとかプリンスもキリヤにエリザ嬢?あ、なにみんないるじゃん!俺たちもあっち行って騒いでこよーよ」 

ふいにぐいっと腕を引かれて「暗い顔してたらだーめ」とレムに耳元で囁かれた。 

(この女ったらしめ・・・) 

そう思いつつもみんなの輪の中へ連れられていく。 
くだらない話をしたり、またキリヤやエリザに挑発されたりドロシーにやめなさいってはたかれたり。 
たくさんの仲間に囲まれている今は人生で一番楽しい時間だ。 
いまなら胸を張ってそう言える、ヴェルノは楽しそうに口角を上げて微笑んだ。 


【アズサ】 

遠目から今のヴェルノ王子様の姿を何となく眺めていた 
ぼくも知ってる面々と仲良さそうにして、からかわれて 
楽しそうに、幸せそうにしている 

あんな顔するあの人は知らない 
あんな風にからかわれるんだ…なんて…今更見えてきた 

(勿体ない…か…) 
ルリアに言われた言葉を思い返す 
いつまでも、自分がこのままじゃ自分だけ昔のまま取り残されてしまう 

ぼうっとしてたせいなのか、気付いたらヴェルノ王子はいなくなってて数人、残ってるだけになってた 
ふと、レムさんと目があった気がした…。多分あれは気付かれてたな… 
何となく気まずくてとりあえず頭を軽く下げた 


【レム】 

先程からずっとこちらへ向けられている視線の主と目があったのでにこりとほほえみかけてみた。 

彼は彼で何かを抱えていてきっとヴェルノという存在を認めることができないのだろう。でもあそこでじっと見ていたということはなんだかんだ気に入らないけれど気にはなるんだろうなぁ。 

レムは頭を下げるアズサに手招きをしてこちらへおいで、とまた微笑んだ。 
戸惑いながらもこちらへ歩み寄ってくるアズサに紅茶を注いで向かいのソファへ腰掛けるように手の平を向けて指し示した。 

「さっきぶりだね。何か気づくことはできたかな?」 

そっとカップを口へ運ぶとじっと優しい表情でアズサを見つめた。 


【アズサ】 

手招きされ席を勧められたので大人しく座る 
優しい顔にレムさんは大人だなぁ…とか変に感心した 
一口飲んだ紅茶は暖かくて、美味しくて…気分が落ちついていく気がした 

「…そうですね…。とりあえず…あのせんぱいにも…友達がちゃんといるんだな…って…」 

ぼくが知ってた相手はそんなのいなさそうだし居ても心からあんな楽しそうにするような相手なんて想像もつかない 

「…ぼくの視野が狭いって事は…分かりましたかね…」 

もう一口飲んだ紅茶はちょっと苦い気がした 


【レム】 

「あははっ そうだねぇいるねぇ」 

レムはくくくっと口元に手を当て笑うとまた紅茶を一口すすった。 

「まぁでもここに来てからだからねぇ~アイツが笑うようになったの。君が知らないのも当然だよ。入学当初なんかほんっと大変だったんだから~」 

思い出したらまた笑いがこみあげてきて、なんだか笑いが止まらない。 
あの頃のヴェルノはまるで野良猫みたいだったなぁ、なんて。 
今思えば本当に嘘みたいだ。 

「まぁさ、昔いろいろあったかもしんないけど今のアイツをみてやってよ。わがままでプライド高くてめんどくさくってほんっとーにぎゃんぎゃんうるさい奴だけど友達思いのいいやつなんだ。あのバカは。」 

そういいながらレムはすっと腕を伸ばして向かいに座るアズサの頭をぽんっと優しくなでた。 

「まぁーだ君は若いんだ。悩め悩め!まぁでもいっつも眉間にしわを寄せてたら女の子に逃げられちゃうからほどほどにね?」 

そして暗い表情を見せる彼に「笑ってごらん?」とレムは口元にそっと指を乗せ、ウインクひとつしてみせた。 


【アズサ】 

…男にウインクしてどうするんだ…?この人… 
と半分あきれ顔をした 

「うん…知らなかったし…知ろうともしなかった…。あの人は…せんぱいは確かに面倒くさいですよね…。朝起きやしないし部屋はすぐ散らかすしその上掃除なんて出来ないし…バカだね。本当に」 

でも、ルリアもレムさんも真正面から相手を信じている 
撫でられた頭がくすぐったい 

「レムさん、そういうとおっさんみたく感じるよ?あと別にもてようとか思ってないし。あと男にそんな恰好つけてどうすんのさ」 

そりゃあ自分だって嫌われるよりは好かれたい。けど口が悪い自分に付き合える相手なら眉間にしわ程度で逃げるとも思わない 
優しくしてくれた相手にすらとりあえずこんな口をきいてしまう辺り自分はまだまだだな、とも分かってはいる。けど簡単に直らない。それでも 

「……あと………ありがとう」 

と小さな声で言うのが精いっぱいだった 


【レム】 

「あははっ ごめんごめん。癖みたいなもんだからあんま気にしないで~」 

はははっと頭をかいてへらへら笑ってみせる。 
どうにも癖は抜けないものらしい。困った困った。 

「おっさんは嫌だなぁ~女の子に嫌われちゃうし~、まぁでもロニヤちゃんならおっさんの俺でもいいよって言ってくれそうだなぁ~♡」 

後半にたにたしつつも「はっ!」っと我に返って咳ばらいを一つ。 
そして彼の小生意気な態度にいつかのバカ王子を思い出してまたくすっと笑った。 

(似た者同士って仲悪いってよく言うけどさ、ほんとそっくりだよキミたち) 

小さな声でお礼の言葉を述べるアズサに一瞬驚いた顔を見せそしてすぐ嬉しそうに口元を緩ませると「どういたしまして」と微笑んだ。 

「さてと・・・そろそろ俺はいこうかな」 

レムはすくっと立ち上がる。 
チラリとアズサに視線を向けて「何かあったらいつでも相談においで?」とまた微笑みかけると長い髪を靡かせてラウンジを後にした。 


【アズサ】 

「癖って…」 

ロニヤさんも大変そうだなぁ…ベタ惚れなのは見て分かるけど… 

そろそろと言って立ち上がる相手にお辞儀をした 

「はい…。えと、お気をつけて」 

相談か…。まぁ頼りにはなるし…お世話になりそうかもな… 
何となく見えなくなるまで見送って深呼吸一つ 
自分の行動を冷静に振り返ってみた 
八つ当たりを謝らないといけない…か…と思いため息が出た 

でも、ここでしっかりしないと自分は駄目なままになってしまうから 
意を決して立ちあがった 


そして部屋に戻りノックしてから入る 

「…ただ今…」 

そう言って扉をくぐったのだった 

 

 

【ヴェルノ】 

「少しずつやってみるか・・・」 

慣れない片付けをしているとノックの音と扉が開く音が聞こえた。 
音の主に「おかえり」とぎこちない笑顔を向けてみる。 
部屋は片付けをしようとしてかえって散らかり見るも無残な状況だ。 
ふぅーっと息を吐いてガバッと顔を上げると、恥ずかしそうに顔をポリポリ。 

「あ、あのな・・・俺も少し自分のことは自分でやろうと思ってな。そのいろいろやってみたのだが・・・」 

は、はは・・・とぎこちない笑みを浮かべながら顔を伏せた。 


【アズサ】 

帰ってみたらこの状況… 
ぼくは隠さず肩を落とすように深くため息をついた 

「あのさ、ぶっちゃけるけどせんぱいにそういうの向いてない。と言うか王子様が出来るようなる必要もないんじゃないの?従者の一人位連れてくればいいのに。どうせ自分で出来る!とかタカくくったんでしょ?アホだよね、せんぱいって」 

そう言いながら余計散らかってる部屋を片付け始める 

「せんぱいはその箱の中に筆記用具まとめて入れて。他はしなくていいから」 

と指示を与えつつ部屋を片付けていく 

…何をしてるんだか…と思わなくもないけど、少し気まずさが軽くなった気がした 

(でも…どうやって謝ればいいんだ…!?) 
タイミングを失った… 


【ヴェルノ】 

「・・・言い返す言葉もないな」 

ヴェルノはしょぼんと肩を落とした。 
また失敗してしまった。 
本当は部屋を綺麗にして『どうだ、俺もできるのだぞ』と見せつけてそして綺麗な部屋で膝を向き合わせて話そうという作戦だったのだが、大失敗である。 

「あ、ああ」 

大人しく言われるがままにまとめて筆記用具を入れて片付ける。 
チラチラと様子をうかがうがどうにも話しかけられる雰囲気ではない。 

「すまぬ」 

ヴェルノは顔を伏せたまま消え入るような小さな声でぼそっと呟いた。 


【アズサ】 

王子様に対する態度じゃないよな…自分…とかちょっと罪悪感を感じ始めていたらぽそりと謝られた 
いや、それ違うから!と慌てて相手を見る 

「えと…あのですね、この場合せんぱいが謝る必要はないと思いますが?」 

軽くキリをつけて一旦相手と向き合う 

「えと…何と言うか…色々…御免なさい…。悪かったです…」 

言えた。ちゃんと、頭も下げれた 
それだけでも自分の中で何かがちゃんと変わった気がした 


【ヴェルノ】 

謝られたのだがいまいちピンと来ないらしく不思議そうな表情で首をかしげるヴェルノ。 

「何を謝ることがあるのだ?」 

ぽんっと優しく頭に触れる。 

「顔を上げろ。お前はただ自分に正直にしているだけ。それは悪い事ではないのだぞ?」 


【アズサ】 

…この王子様は…本当阿呆なのか大物なのか区別がつきにくい… 
ぽんっと触れられた頭を振りはらうのは簡単だけど、なんとなくそのまま受け入れた 

「いや、悪い事しましたよ。一方的に突っかかって八つ当たりしたんですから…」 

そう、あれは八つ当たりだ 
今までの態度全てが… 

「…今までだって…せんぱいには理不尽に凄く嫌な態度とってきたし…」 

理由を言うべきか迷って一回区切って相手の反応を待った 


【ヴェルノ】 

「んーそうだな。確かに王子に対する態度ではないな。まぁだがここは学校であるからしてそこに問題はなかろう。此処では俺も貴様もただの一般生徒だ。」 

ん?と首を傾げて。 

「理不尽?はどうか知らぬが俺は貴様が俺のことを嫌いに思っていることはよく理解している。嫌いなものに対する態度としては問題がないのではないか?」 

ふむふむと考えるように頷いた。 
当たり前のことのように話す姿は実に凛々しい。 

ヴェルノにはアズサの心に持つ嫉妬心や八つ当たりなどではなく自分のことが嫌いだからあのような態度なのだと思い込んでいるようだ。 

「まぁ、俺は貴様のこと嫌いではないがな」 


【アズサ】 

ばかじゃないの?と一瞬思った 
嫌ってるのは隠してなかったし気付かれてても驚かない。けど、それであの態度をしていて怒らないどころか嫌いじゃないって… 

王子が単純に人の善意しか信じない良い人なんてありえないし… 

「何と言うか…せんぱいって…うん、色々な意味で大物だね」 

特別な立場と言うのは何でも持ってるように見える 
けど、それには大きな責任が肩にかかる 
普通じゃやってけないんだろう。きっとそうだ 

「ぼくは…せんぱいがキライ…でしたよ?今は…保留で 
 ちょっと…色々あってね。少し見方を変えてる最中です」 

ちょっと苦笑いして相手を見た 


【ヴェルノ】 

「まぁここへ来る前までの俺ならまずアズサを傍に置くことはないだろうし、喋ることもなかっただろうなぁ。ここへきてみんなと会って俺はより良い王になる器になれたと思っている」 

別に褒められたわけではないのだけれどヴェルノはへへっと嬉しそうに頭をかいた。 

「保留・・?おぉそれはいいな!その調子でもっと俺をみろ!そして今まで通り正直にものを言え!貴様のように遠慮なしに物事を言うものはフェステリアにはおらん。貴様のその生意気なところも含め俺は気に入っているのだ。これからもレティの傍でそして俺の傍らで世話を焼いてくれ」 

いろいろ、というところに突っ込もうとも思いつつも表情を見るにあまり触れられたくないところのようなのでそこには触れず此方も思うままに彼に言葉を伝え、そしてにこりと微笑んだ。 


【アズサ】 

「…ぼくの知ってたヴェルノ王子様は…人の話なんて聞いてなくて遠くをいつも見てて…そのくせ何でも持ってる人…だったかな 
 確かに…そんな人のままじゃ…話にもならなかっただろうね」 

昔の自分と今の自分が違うとこの人はちゃんと理解してる 
人っていうのは変わるものだ。成長していく事も悪化する事もある。今の相手に話はちゃんと通じている 
この人は…良い方向にこの学校で、友達の影響でなったのかな… 

じゃあ自分は?まだそう長い訳でもないけど馴染む程度には時間が経ってきた 
自分の悪い部分がはっきり見えるようなっただけでも進展なのだろうか? 

「何が楽しくて男を見ないといけないんだか…って言いたいとこだけど?見てあげなくもない。貴方が本当にぼく達の未来の王にふさわしいのか、信頼に足るのか、勝手に見るから 
 世話は勝手に自分でどうにかしてよ。ぼくの主はレティシアお嬢様一人だよ」 

欠点を自覚しても簡単に人は変われない良い一例なんだろうな…自分は… 
ちょっと辟易しつつも相手の人の大きさに甘えてしまう 

「ま、でも同室のよしみで適当にそれなりに片づけ程度ははやっておいてあげなくもないけどね、せんぱい」 

さっきよりは屈託なく、相手に笑えたと思う 


【ヴェルノ】 

アズサの言葉に耳を傾け終始満足そうな表情をみせた。 
相変わらずの小生意気な言葉も本当は優しい彼を知っているから素直に聞き入れてやれる。 
どうやっても嫌いになることはないのだろうなぁ、とヴェルノは自然と顔が緩んだ。 

「俺は未来の王として貴様に期待している。これからも宜しく頼む、アズサ」 

ヴェルノのはすっと手を差し出す。 
その表情は今まで見せたどの表情よりもずっと凛々しくいい表情だった。 


【アズサ】 

未来の王様に期待される程の事はしてないんだけどなぁ… 
なんてひねくれて考えつつも差し出された手が嫌な気分じゃなくて自然と、素直に取ってしまう 

「えぇ。ぼくも、一国民として貴方に期待してますよ、ヴェルノ王子殿下」 

軽く握手をして手を離した 
相手の表情が凄く凛々しくて、頼りがいも見えた 

「色々、有難うございました」 

最後にもう一度頭を下げて、もう無意味に突っかかるのはやめようと自分の中で決意をしたのだった 


 

・・・・・・・・・・・・・・まぁ・・・・だからって・・・・・朝は起きないといけない 
王子に遅刻させて放置して良いわけじゃない 
レティを迎えに行かないといけないんだからさっさと行動するに限る 

「せーんーぱーい!!!朝です!起きてください!いい加減にしてよね!」 

と布団をはいで朝日を差し込ませる 

「朝ごはん作ってあるからチャッチャと食べて!昨日のうちに鞄に教科書つめておいたから後はさっさと支度する!!!」 

ベッドをけりつつ相手の目覚めを促した 


【ヴェルノ】 

差し込む朝日に目をぽしょぽしょとさせているとベッドを蹴られてヴェルノはのっそりと体を起こした。 
ぼへーっとしていると朝ごはんのいい匂いにお腹がぐぅーっと大きな音を立てた。 

「、、、、はよう」 

といいうつまたバターンと後ろに倒れた。 
どうにも朝が弱いのは治らない。 


【アズサ】 

…うん、多少見直したところでこういうのは変わらないんだろうな… 
口うるさくして良いって事なんだし遠慮なく 

音魔法を王子にのみ大音量に聞こえるように歌う 
≪目覚めの歌よ、かの者の眠りを妨げ目覚めの時を≫ 

こういう時、音魔法は便利だ 
頭を押さえながらも起きた相手を無理矢理着替えさせ、何故か来たレムさんがお洒落に髪を整え朝ごはんを無理矢理口に突っ込ませ、登校する事にした 


【ヴェルノ】 

なにやら無理矢理起こされ忙しく世話を焼かれ身支度されてまだぽやーっとする頭のまま無事学校にたどり着いた。 
いまだあくびが止まらない。 
気づけばアズサはレティと共に別の校舎へ行っていて隣にはロニヤちゃん、ロニヤちゃんとあたりを見渡すレム一人。 
ヴェルノはまたくぁーっと、おおきなあくびをした。 

「ぅあっ」 

ふわっと風と共に花びらが頬をかすめた。 
花の甘い香りに遠くから聞こえる陽気な鼻歌。 
ヴェルノはぶんぶんと頭を振って眠さを吹き飛ばし、一目散に駆け出した。 


「フローリア!」 

中庭に咲く花たちに囲まれたフローリアはヴェルノの声に振り返りにこりと微笑む。 

「王子様おはよーう」 

相変わらずののほほんとした調子でにこにこ。 
ヴェルノは嬉しそうに顔を緩ませ隣に並ぶと彼女が手にする小さな花にすんすんと鼻を寄せた。 

「良い香りだな。フローリアの好きな花か?」 

「うんっフローリアこのお花大好きだよ~いい匂いするしとっても素敵な香水になるの~」 

花の名前は?何色の香水になるんだ?そんなたわいない話が楽しくて、 
ヴェルノは終始にこにこと微笑みを向けていた。 


【アズサ】 

…王子の周りに花が飛び散ってないか…? 
二人と別れレティを教室に送り届け、自分の教室への移動をしていた矢先…さっき別れたせんぱいが薄い紫の髪のふわふわした感じの女の子とにこにこにこにこ話していた… 

レムさんがロニヤさんと話す時と似た感じのあの脳内お花畑状態の空気に感じる 
え?あれ?そういえば…聞いた事なんてないけど…あの阿ほ…じゃなかった、せんぱいに…恋人…いるのかな…?あの人が?もしかして? 

…急激に気分がふわふわした自分が単純すぎて、少し蹲ってしまった… 
後で聞こう… 
そう心に決めたのだった… 


そして夜、部屋でお待ちしていましたとばかりに帰って来た相手に向かう 

「お帰りなさいませ、せんぱい。夕飯はちゃんと食べてきた?」 

第一声がこれなあたり…何か自分が間違った方向に進んでる気がしてきた… 
おいておこう 

「ねぇ、聞きたいんだけど…朝せんぱいと一緒にいたあの薄紫の髪に赤い目のふわふわした人、先輩の…その…何…?」 

…いや、待て 
落ちつけ自分。言葉選びがなんだかおかしくないか…? 


【ヴェルノ】 

帰るなりまるで嫁のような発言に慣れているのか「いや、まだだ」と自然に返すときていた上着をアズサに預けどすんとベッドに腰掛けた。 
聞きたいことがありますと顔に書いてあるアズサに案の定質問をされ、首をかしげる。 

薄紫、ふわふわ、赤い目? 

「おう!フローリアのことか!何とは、どういう意味だ?」 

まるで浮気を疑われる旦那のような気分だな、と内心思いつつ返す。 

何と言われると困る。 
大事な人、好きな人、想い人。 
いやもっと大きな存在。かけがえのない人。 

「いや、とぼけるのはやめよう。俺の愛する人だ」 

ヴェルノは愛しくてたまらないんだ、といった表情で微笑んだ。 


【アズサ】 

上着を預けられそれを当然のようにハンガーにかけ形を整えておく 
そうでもしないとこの王子は適当に放置して折角の良い服をよれさせやがる 
「夕飯早めに終わらせときなよ?混むし」 
と小言をとりあえず言っておき、相手の返答を聞いた 

…フローリアさんというらしいあの女の子… 
見た感じ普通のお嬢さんっぽい子だったけど… 

「あ、あいしてる…!?え!?じゃああの人が将来妃になるの!?」 
国民としてまずはそこが気になった 


【ヴェルノ】 

妃になるのっ!?という反応にちょっと想像してにへっと顔が緩む。 
ごほんとわざとらしく咳払いをひとつして表情を戻した。 

「ぜひそうなってくれると嬉しいと思っている。だがそれはその、フローリアしだいであるからして、、、俺は、、」 

珍しくしどろもどろにもごもごしゃべるヴェルノ。 
あくまでも片思いの身故に断言出来ない。 
でもそうなってくれたらいいなぁと心から思っている。 

「綺麗な子であろう?はっ!!」 

気付いたようにぐいっとアズサを引き寄せると深刻そうな表情を見せ、「か、彼女に惚れるなよ」と眉を下げて囁いた。 


【アズサ】 

…あれだ、フローリアさん次第とかこの反応は… 
片思いだな(確信)と言うかどこの乙女の反応だっての 

しかも勝手に変な事言い出してる 
「そうだね、綺麗だね。へぇーそっかぁー」 
顔がにやけてるのはもう仕方ないだろう 
明らかにからかったら面白い!と分かる 

でもそんな気にならなかった 
そっか、愛してるって…大げさだけど、好きな人いるのか… 

…自分がつくづく単純だなって感じた 
それだけで気分が随分楽になるんだから 

「よく知りもしない子に惚れたりしないよ。ぼくは相手を知ってないと無理だし人のをとる趣味もない」 
レティの事は…まぁ大分知ってるつもりだ。だてに長年一緒にいない。誰よりも、そこの身内の王子様よりも 

しこりを完全に吐きだすように息を深く吐き出した 
「さ、て。ぼくは宿題やるから。せんぱいは夕飯いい加減食べてきなよ」 
自然と笑顔が浮かんだ 
傍から見たら多分気持ち悪いくらい清々しく 

それからせんぱいは「なら良いのだがな!」と言って身だしなみを整えてうきうきでご飯を食べに行った 
どうやらその例の彼女と一緒に食べる約束をしてきたらしい 
仲好き事は美しきかな 

フェステリアは一夫一妻。つまりあの人が妃になるなら… 
…にやけそうになる顔を何とか平常心で抑え込む。…だからどんだけ単純なんだっての!…まぁせんぱいの片思いっぽいしまだ油断しきれないんだろうけど… 

でも、相手が前みたいに言葉が通じてない人のままじゃないんだし、お相手候補が居るんだし 
これまでみたく嫌ったりする必要なんてないんだ。一緒に暮らすんだし相手の事は嫌じゃない方が良いに決まってる 


宿題をさっさと終わらせ機嫌が良いまま早めに寝る事にした 

朝 
眩しくなって目が覚めた 
…なんだか体が温かい…。というか…少し痛いような…? 
動こうとしたら動けない。変に寝たのか?と何とか動こうとするけどどうやら何かに体を固定されてる感じだ 
布団がからまったにしてはおかしい… 

「ふろーりあ~…」 
「ひっ!?」 

耳元で響いた声に思わず背筋がゾクッとした 
…おい、まさか… 

頭をひねってよく見たら、僕をがっちり捕まえていたのは… 
阿呆王子の腕だった…。マテ、なんでぼくのベッドで寝てる?寝ぼけたのか!? 

「ちょっと、好きな子と男を間違えないでよ」 
そりゃあまだまだ大きくはないけどさ! 

「ううう~…?ふろーりあ~あいしてるぞ~」 
え?なに?二人は片思いとみせかけてそういう関係なの!? 
とか思ってたら 

抱きつくだけじゃ飽き足らず、耳にはむっと温かい感触が………… 

「…おきろおおおおおおおおおおお!!!」 

盛大な水魔法と共に、寮を騒がせ朝があけたのだった 

前言撤回!この王子は大っっっっキライだ!!!! 
一生認めてやらない!!!! 


結局関係自体はろくに変わらない事が決定した訳だが、それでも 
一つ、心の進展は遂げた気がする。今回はそんな日常のお話 

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