もやむのサイト
【アズサ】
日常はごくごく平和に流れて行く
…流れてるんだって…
例え…目の前であの阿呆王子が売られた喧嘩を買っていても…
この学園だとこれがいつもの平和な日常らしいんだし…平和なんだろう…
…と言うか…建物壊れないの?これ止めないといけない場面だよね?
「とりあえずお嬢様はぼくから前に出ないでよ?」
と庇うように立つ事は忘れない
【ヴェルノ】
「今日という今日は絶対に許さぬ!!そこへなおれ!消し炭にしてやる!」
【レティ】
「ふぇ?なにがおきてますの~?アズサ~見えませんことよ~?」
状況が把握できていないレティは心底不思議そうに首を傾げた。
【アズサ】
・・・呆れる場面だよね?これは
と思いつつレティの抗議に彼女から見える程度に体をずらす
「見ても良いけど前に出ないでよ?危ないから」
これを見てがっかりするのかそれとももっと違う反応をするのか…
ぼくとしてはあの短気…直して欲しいものだなぁ…。
【レティ】
ずらしてもらった脇からひょっこり。
大好きなお兄様が雷バチバチさせている青年相手に怒り心頭で炎を爆発させているようだ。
「はーいですわ!」
生き生きと炎を使うお兄様にキラキラとした視線を向け、パチパチと手を叩いて見つめている。
「お兄様かっこいいですわぁー!きゃぁー♡」
レティの瞳はきっとおそらくハートマークになっているだろう。
【ヴェルノ】
「くそっ!先生が来なければ仕留められたものを・・・っとレティにアズサか。どうした??」
中庭を半壊させた犯人は何も知りませんの顔で二人の元へ。
【アズサ】
「せんぱいっ」
にっこりと、笑顔で出迎える
そろそろ慣れた相手ならわかるだろう。自分が怒っている事に…
〈水よ我が元にその力を示せ〉
逃げる前に先手必勝。水を頭からドバッ!!!とかけるのであった
「頭冷えましたかね?中庭の惨状、見えますか?」
ついでにまだ残ってた火種も消火しておいた。でないと危なくっかしくて仕方がない
…頭を冷やさせる為と消火の為である…
だ、断じて…レティの反応が面白くなかったからでは……
【ヴェルノ】
「ぅわわっ!!!!」
ざぱぁーんと見ごとに全身びしょぬれにされアズサの小言を聞かされるヴェルノ。
よくあることだが今日は何となくいつもよりも水の量が多い気がした。
「貴様アズサ・・・・・・この王になんたる無礼をッ!!!!!!」
いつもならば素直に謝罪するところだが先の一件で今はとてもじゃないが素直に謝る気分じゃない。
「貴様も燃えるか?」
ゴウゴウとまがまがしいオーラと怒りによって身体から湧き出る魔力が高まって一帯の温度がぐっと上がる。
【レティ】
「お、おにいさま・・・・?」
さすがのレティもこの様子には気づいたらしく本能でアズサの背に隠れた。
【ヴェルノ】
「覚悟はできているだろうなぁ・・・・」
一歩二人の前に近づいた瞬間『お前がね』という声と同時にヴェルノの頭上に巨大な雪玉が現れそしてそのままヴェルノの上に落下。
その雪玉はヴェルノを包み込みヴェルノを雪だるまのような姿にしてしまった。
「レム。貴様何をする!!!!」
空に向かってヴェルノが吠えると上空からスノウにのったレムがすぅ~っと地上へ降下、そしてそのままヴェルノの前へ。
レムは相変わらずの笑みを浮かべたまま雪だるま状態のヴェルノの額にピンッとデコピンをお見舞いした。
「いだぃ!」
「まぁーったくなにしてんのさ?二人ともびっくりしちゃってるじゃない。」
そういうなりレムはヴェルノの額に掌を当てすぅ~っと掌から冷気を流し込んだ。
怒りに熱くなったヴェルノの体温がみるみるうちに下がっていく。
「はい、これでよし。二人ともごめんねぇ~こいつ喧嘩のあとっていっつもこうなっちゃうんだよね。けがはない?」
雪だるま状態のヴェルノをそのままにレムは二人に話しかけた。
【アズサ】
やっぱり自分は相手に無自覚に甘えてるところがあるんじゃないかとふと気付く
強い魔力で向かってこられて正直怖くなった
けどレティの前でそんな態度はとれない。背に庇いつつ行動を考えていて正面突破は無理だしズルイ手を使ってでも…って思っていたらレムさんが救世主のごとく現れた…
「え、えと…助かりました…。有難うございます」
レムさんには素直に言えるみたいだ
これが人徳と言うものだろうな。うん
「…せんぱい…。せんぱいはもう少し周り見れないの…?」
声を震わせないよう必死に抑えて勤めてため息交じりにいつも通りに話す
【ヴェルノ】
ブスッとはしているものの熱が下がって落ち着いた様子でおびえた二人に視線を向ける。
アズサは虚勢を張って頑張っているようだがレティは半泣きである。
「あー、、、すまぬ。暴走した」
ヴェルノは動かせる頭だけをこてんと下げた。
【レム】
「どういたしまして」
軽く返事を返しなんとなく落ち着いてきた空気を読んで、「じゃあ俺はロニヤちゃんとこいく途中だったからいくねー」とまたひらりとスノウに飛び乗って退散していった。
【レティ】
あっという間にさっていくレムを見届けてからアズサの背中から飛びだして落ち着いた様子のヴェルノの元へ走り寄る。
「お兄様ご無事ですの?さっきはちょっと怖かったですけれど機嫌が悪かっただけですのね?と、とにかくこの雪溶かしますわ!」
そっと雪だるまに両手を当てると魔法を詠唱し、あっという間に雪を溶かしていく。
ついでに濡れた服も乾燥させ、にこりとご満悦のレティ。
「これでよし!、なのですわ!」
すっかりアズサの存在放置でヴェルノに構いまくるレティ。
アズサの様子に気づく様子はない。
【アズサ】
冷えて落ちついたらしくいつものせんぱいに戻って安心した
そして恋愛脳レムさんは颯爽と鳥に乗って去っていく…本気でベタぼれなんだなぁ…
レティが後始末に凍ったせんぱいを助けて相手しか見えません、と言わんかごとくにキャッキャしだす
…面白くない。面白くはないが…ぼくにレティの行動や気持ちをとがめる権利はない…
せんぱいには見えてるだろうから軽くお辞儀してレティを頼むよう軽く目線で訴えておく
通じなくてもまぁ従妹を放置はしないだろう
せんぱいに懐くレティを見てるのが億劫で…ぼくはさっさとその場から早足で立ち去るのだった
【ヴェルノ】
「???」
足早に立ち去るアズサにふしぎそうに首をかしげるヴェルノ。
「アズサ、いってしまったぞ?」
【レティ】
「え・・・・・?」
振り向くと既にアズサの姿は遠く方に。
「お、お兄様、わたくしちょっといきますわ!」
ヴェルノの返事も聞かずに一目散に駆けだした。またきっとなにかやってしまったのだ。いつもアズサを怒らせてしまう。
(どうしておいていってしまいますの?なにかあるならいってくださればいいのに!)
ヴェルノと話しているときたまにアズサの態度がおかしくなる時がある。いままではあまり気づかなかったのだけれど最近になってそれに気づくようになった。そして同時に去っていく後姿がとてもつらく感じるようになった。
「・・・・・アズサッ!!」
なんとかおいつきぐっと服の袖を引っ張る。走ったせいでワンピースもせっかくセットした髪もくしゃくしゃだ。
「なんで・・・?おい・・・ってたの?」
はぁはぁ、と息を整えつつ相手の返事をまった。
【アズサ】
誰かが走ってくる気配は感じていたけどまさかレティだとは思わなかった…
あーぁー…折角整ってる髪台無しにしちゃってまぁ…
「落ちついて。ちょっとじっとしてよ?」
まずは髪を軽く撫でてそれなりに整える
服も軽く伸ばしてそれなりに綺麗にしておいた
「そんな息切らして追いかけなくったって…。どうしてって…ぼくだって空気位読むけど?せんぱいと折角話す機会なんだし話してて良かったのに」
…普通に言えた…と思う
昔だったら身分で王子様の部屋になんて入れずレティがせんぱいと話す時は一緒にいなかったし…
まぁ今やってらおかしいかもしれないけど…相応の理由にはなっていて欲しいものだ
本音なんて言えない。ぼくの感情にレティを巻き込むだけの覚悟はない
【レティ】
「だ、だってアズサがどんどんいってしまうんだもの・・・そうですけれど別にアズサが立ち去る必要はないですわよ?」
自分とヴェルノが二人で話しているのが気に入らないの?
それとも会話の内容がいけないの?
アズサが自分たちのことでなにか嫌な気分になってしまう事には気づくようになったけれどその根本はまだわからない。
「それともほかに何かありますの・・・?」
正直に話してほしいとくいっとアズサの袖を引いた。
【アズサ】
ばかだなー…。そこまで気にして、こんな必死に追いかけてきて…
「必要って…はぁ…おーこーさーまっ!全く…レ…お嬢様は本当昔から変わらないんだから…」
うっかりレティと言いそうになったのを直しつつ
この分だと彼女の好きはきっと前にヒビキさんが言った通り敬愛の域なんだろうな…
そういう事に少し…いや、かなり安堵しつつ
それでも自分に向けられてる感情の答えまでは分からない
「別に?お嬢様が気にする事じゃないし。お嬢様もぼくもお子様ってだけの話だよ、これは」
何かを言うつもりにはなれずまた少し、今度はゆっくりの歩調で適当に歩き始める
「ぼくは適当に探索に行くけどお嬢様はせんぱいのとこ戻って良いんだよ?」
ちょっと、気持ちを試すように探ってみる
【レティ】
「お子様…?ですの??」
不思議そうに首を傾げてみせる。
探索に行くというアズサにレティは腕を絡ませにこり。
「じゃあわたくしも行きますわ!レティはアズサに素敵なところに連れて行ってほしいのですわっ」
アズサと一緒がいいのっ、とぐいぐいと彼の腕を引いて前を歩いた。
無意識にヴェルノよりもアズサに優先させたことにレティは気づいていない。
でも確実にレティの中でアズサの存在がどんどん大きなものになっていた。
【アズサ】
「…成人もしてないのに大人って言うのも違うし?」
中身もまだまだお子様だしね、とまで言ったらどうなるのかは予測がつくのでまぁ黙っておく
そして腕を絡まれ無意識でも何でも、自分を優先してくれた事に…無性に嬉しくなった…
(…こんな単純だったけ?ぼくって…。あー…これが好きって事…?自分が…何とも言えない…本当にこのお嬢様は…あーもうっ!人の気も知らないで…!!)
いや、知られても困るのだが
腕を引かれながら期待しないでよ、と前置きして行った事ない商店街のお店とかを巡るのだった
(ぼくは…彼女が好きだ…。それでどうする…?身分差なんて面倒な事…でも…また、何もしないで動けないのは…イヤだなぁ…)
なんて悩んで居る事は絶対(断言)彼女は気付かない
ふと恋愛事が大好きな先生が喜びそうなイベント、エリュティア祭の後に行われる後夜祭が近い事を思い出す
彼女は…誰かに誘われて…ラストダンスを踊るのだろうか…?
そう考えたら…気持ちは自然と沈んだ
だからと言って自分から誘って良いの?とあの日動けなかった自分が問う
答えが出ないまま、今はまだ…と隣で彼女を見るのだった
そして後夜祭当日
なるべく地味に従者っぽくって頼んでおいた衣装は想定よりちょっと華やかにされていた…
全く…ここのメイド達は相変わらずぼくで遊ぶのが好きなんだから…
内心ため息をつきつつレティの支度が終わるのをドアの前で待つのだった
【レティ】
何が良かったのか機嫌がよくなったアズサにレティもつられてご機嫌に。
楽しい探検も終わって明日のことを想像し眠った。
後夜祭当日はアズサを外に待たせてメイドたちとドレスを選ぶのに奮闘。
「この赤のドレスもいいですし、でもこちらも外せませんわぁ・・・」
待ちに待った後夜祭。先日の誕生日では叔父に邪魔をされてまともに踊れなかったから、と今日のレティはいつになくはりきっていた。
(今日は邪魔者も居ませんし、アズサと一緒に・・・)
悩んだ末に真っ赤なドレスに決め、さっそくドレスに身を包んだ。
靴も選んで、綺麗に化粧もして、あとはティアラをのせるだけ。
メイドたちはたくさんの箱からティアラを取り出し、これは?と見せてくる。
「わたくしティアラは決めてますの!」
にこりと笑うと部屋の机の上に大事そうに置かれた箱からアズサにもらったクローバーのついたティアラを取り出した。
「アズサにもらった大事なものですの。これがいい・・・」
レティは大事そうにそれを抱きしめるとトントン、扉の内側からノックをした。
「ねぇ、アズサ。ちょっとお願いがありますの」
少し扉を開けて中へアズサを招き入れる。
そしてはいっとティアラを手渡し、軽く頭を下げた。
「アズサ、わたくしの頭に乗せていただけませんこと?」
えへへっと嬉しそうに頭に乗せられるのを待つレティ。
大好きな絵本のワンシーンだ。
期待に胸を膨らませてレティはアズサの反応をまった。
【アズサ】
想定通り時間のかかる支度をまったり待っていたら内側から呼ばれて中に入った
真っ赤なドレスは高貴な仕上がりで嫌でも立場の差を認識させられる
しかも…ちょっと足出過ぎ…。とは思えどそういう苦言を言ったらどうなるかは火を見るより明らかだ。いや、似合ってるんだ。似合ってるけど…それを真っ正直に言える訳もなくメイド達の視線をちくちく受けつつ言葉を考える
「…頭飾り…それにするの…?」
そりゃあ彼女に合うように高貴に見えるよう作って貰った覚えはあるけど…もっともっと良いものがあるのに…
まずい、ちょっとどころでなく嬉しい…けど…どうしてもうまくやれる自信がない
「…そういうのは本職にやって貰ってください。ぼくがやったんじゃ途中で落ちる未来が見えますし彼女達の仕事奪う訳にいかないですし…折角綺麗に整えた髪を崩してまいそうですから」
それらしい言い訳を並べて一歩下がった手直し程度なら出来るけど本職みたく出来ないのは本当だ
何と言うか…うっすら化粧までして気合入ってて…直視するのがちょっと心臓に悪い
【レティ】
おもっていた反応がもらえずあからさまに肩を落とすレティ。
気合が入っていた分断られたショックが大きいようでいつものように言い返す言葉もでなかった。
「そうですの・・・じゃぁ外に出てまっていてくださる?」
ぷいっと背中を向けてそういうとレティはメイドたちにアズサを部屋から出すように指示を出した。
アズサがいなくなってため息を一つ。
「楽しみなのはわたくしだけだったの・・・?」
落ち込んだままのレティを励ますようにメイドたちは声をかけながら最後の仕上げを施すのだった。
【アズサ】
落ち込ませた…
声色と雰囲気でそんなのは分かる
素直に出て行って扉の前でまた待ちながらため息をついた
あれで基本は正しい筈なのに、しょぼくれさせてしまって苦い後悔が広がる
これで正しいのかすら分からなくて結局人生経験の足りなさに落ち込むばかりだ
ぼくは何がしたいんだろう?どうしたい?
頭をかきむしってただ俯くしか出来ない子供の自分がたまらなく嫌だ
レティが出てきてちゃんと手を差し出す
「それでは参りましょうか?お嬢様」
我儘かもしれないけど、ふさわしくない立場でもこれは他の人に譲る気はなかった
【レティ】
綺麗に着飾られ少しうつむいたまま出ていくと従者らしく待つアズサにすっと手を差し出された。先ほどのことがあり一瞬ためらったが差し出された手への嬉しさが勝り
「えぇ、いきましょう、ですわ」
とその手を取った。こうして彼を独占できるこの時間が一番好きだと改めて感じ自然とほほが緩む。
今日のアズサだときっと会場へ着いたらこの手を離されてしまう。なら今だけは・・・とレティはしっかり手を握った。
「着きましたわね」
あっという間に会場へ到着してしまった。きらびやかな光と入口まで聞こえてくる楽しそうな音楽。
「素敵でわねっ!」
落ち込んでいた気持ちはどこへやら。
レティはキラキラ輝くこの後夜祭をアズサの手をぎゅっとにぎったまま眺めていた。
【アズサ】
手を差し出した事で少し笑ってくれたのがくすぐったくて
手を握られるままついた会場でさっきまでのテンションはどうした?の如くのレティ
繋がれたままの手をどうしようかちょっと迷う。ぼくは従者で、彼女はお姫様で
今はまだ子供だからで済むこの距離もその内離される事になるのに
ゆっくり自分の手から力を抜いて、でもうまく離しきれず中途半端になる。まるで今のぼく自身を反映するみたいに
手放せないくせに…握りしめれないなんて半端にも程がある
「そうですね、綺麗ですね。で?どうするんです?踊るんですか?それとも何か口にしますか?食べるなら何か見つくろってきますけど?」
気をとりなおして周りを見渡してレティの好きそうな食べ物を探しておく
そうして見渡した先にヴェルノせんぱいを見つけた。あの人は、何かあったらしく国に戻ると言い出し出発まであと少しという状態だ…
「お嬢様、ほら、せんぱいいますよ?踊りたいなら声かけるならチャンスでは?」
内心で自分で言っててムカっとこない訳でもないのだが…相手には好きな人がいるんだ…そうカリカリする事もない…ない…
【レティ】
わぁぁと辺りを見回していると今からどうする?と尋ねられて、うーん、と悩んでいると大好きなヴェルノがあそこにいるとと聞きアズサの手を握ったままヴェルノの元へ駆け出した。
「お兄様!今日は来られないとばかり思っていましたわ!」
ヴェルノと向かい合っているのは紫のふわふわな髪の女子生徒。
ヴェルノはレティに気がつくと「よう!」と振り返り微笑んだ。
「今日は荷造りがあるから来ようか悩んだのだがフローリアの綺麗な姿を最後に見ていたくてな。つい出てきてしまったのだ。」
ヴェルノはそういうとフローリアの肩を引き寄せた。
「フローリア、俺の従兄弟のレティ。そして従者のアズサだ。2人ともこちらはフローリア。」
簡単に紹介をして、またにこり。
とても上機嫌な姿にレティもドレスの裾を上げて挨拶を交わした。
レティはアズサにチラリと視線を向けてからヴェルノの方へ向き直す。
「お兄様とこちらで会えるのはもうありませんのでしょう?レティはあまりわがままをいいたくありませんのですけれど少しだけ、踊ってくださいます?」
レティは少し恥ずかしそうにそういうと「あぁ、わかった」というヴェルノと共にダンスホールへ去っていく。
「いってらっしゃ~い」
フローリアはにこにこと手を振りフラ~とそのまま食事ゾーンへ歩いて行った。
【アズサ】
…あれ…?こっちで会えるのももうわずか(と言うかないかも?)なのに…
レティの反応が…普通だ…
しかも隣に可愛い女の子を連れているのに…
と言うか相手のフローリアさんも二人が踊って良いの…?まぁ従妹だし問題ないんだろうけど…と思ってみたら颯爽と食事スペースに…
え?いいの?放置!?
…そして二人は踊りだす
まぁ…別に例の変な伝説とやらがあるラストでもないし誕生日の時だって踊ってたし?もう無意味にヴェルノせんぱいを(出来るだけ)睨んだり突っかかったりしないんだ、ぼくは。うん
ひたすら無心になるようにぼくもせんぱいの思い人につられて軽食をつまむのだった…
【レティ】
ヴェルノと手を取り音楽に合わせダンスを一曲。
他愛無い話をしながらそっと残り少ない二人の時間を楽しんだ。
「フェステリアでは舞踏会なんていらしたことなかったのに此方では踊るんですのね。ふふっ、不思議ですわ」
「ま、まぁな・・・俺にも踊らねばならぬときがあるのだ。」
顔を赤に染めて恥ずかしそうにいうヴェルノにふふっと笑みを浮かべてみせる。
踊らねばならぬ時というのは彼女を誘うため、ということだろうか。
いや、きっとそうなのだろう。
何度誘っても踊ってくれなかったヴェルノがきっと恋をしてその人と踊るために好きでもない舞踏会に来ているのだ。
(お兄様、そんなにもあの方がいいのね)
ヴェルノに紹介された彼女。
きっと彼女がヴェルノの想い人。
いままでだったらその事実を受け入れられずにきっと彼女の顔面に水をぶっかけていたかもしれない。
罵声を浴びせて怒ってヴェルノに恥をかかせてしまったかもしれない。
でもレティの心はひどく落ち着いていた。
そう、波紋のない湖のように。
(ふふ、おかしいものね。わたくしこんなにも落ち着いてる。あんなにも大好きだったお兄様なのにやきもち一つ焼いていないなんて。それよりもお兄様と踊ることでアズサの反応を見たい、だなんて・・・)
くるっとターンをした時にこちらも見つめるアズサの視線を感じた。
それがひどく心地いい。
(あの紫の髪の彼女もわたくしと踊るお兄様を見つめているのかしら?)
「じゃぁ、今夜はお兄様を独り占めできませんわねっ」
「あぁ、すまないな」
ちょうど音楽が止まり、二人はそっと手を放した。
「お兄様、大好きですわっ」
「あぁ、俺もだ。レティ」
二人は微笑みを交わしあいそしてお互い背を向け大切な者のほうへ歩いて行った。
「アーズサ、ただいまです・・・わ?」
軽食を用意していてくれたアズサの元へ行くと彼はなんとも複雑な表情をしているようにみえた。
いつも一緒にいるアズサのことはレティが一番よく分かっているはずなのに今日の彼は何を考えているのか全く分からない。
(やっぱりお兄様と踊るの嫌だったのかしら・・・?だったら今から踊ればそれで問題なしですわよねッ)
「ア、アズサあの・・・」
「これも食べたら?」
はい、と皿を手渡され「え、えぇ」とおとなしく受け取る。
踊ろう、と言いかけた瞬間に遮られ言いかけた言葉をそっとのみこんだ。
(なんとなくいま、拒まれた・・・のかしら?)
まさかね、ともくもくと皿の上のものを平らげた。
その後ルリアと会い一緒にいたヘリオに誘ってもらい一緒に踊り、金平糖を配って歩くレムとロニヤにあってまた少し話してレムとダンスを一曲踊る。
(あれ?アズサは・・・?)
ふと気づくとアズサの姿が見当たらない。
アズサを探しているうちにまた声をかけられ断ることもできずに踊り続ける。
くるくると回りながら必死にアズサの姿を追った。
「あ、ありがとうございました、ですわ」
時計を見るとそろそろラストダンスの時間だった。
最後まで踊れないなんてそんなのない。
「もう時間がありませんの・・・」
どれだけ探しても見つけることができずレティは困りはてていたら知らない人に声をかけられた
「どういたしました?」
「あ、あの…アズサ見ませんでした?」
「アズサ…あぁ、貴方の従者ですね。残念ながら私は見ておりません」
「そうですの…有難うございましたわ」
そう言って探そうと離れようとしたけど相手の声は続いた
「まぁ彼は後で探すとして今は一曲踊りませんか?じきラストダンスですしその間従者を探していたら勿体ないですよ」
そっと差しのべられた手
でも…特別と聞いたラストダンス。それをこの人と踊ろうとは思えなかった
そう言おうと口を開こうとしたら急に腕が引っ張られた
「申し訳ありませんが彼女は高貴なお方。そうそう簡単に特別なダンスを見ず知らずの方と躍らすわけにいかないので失礼します」
「アズサ!?」
アズサは私にお構いなしで腕を引いていく
「あ、あの!申し訳ありません!失礼しますわ」
それだけなんとか相手に言って後は逆らわず付いていった
【アズサ】
途中同じ科の子に話しかけられてちょっと雑談してたらいつの間にかレティとはぐれた…
探しに行こうにもダンスを踊ってる人達が多い中あまりふらふらも大声も出せず時間が過ぎて行ってた
ラストダンスもせまり困った時、知らない男性に声をかけられてる彼女を見つけた
…見過ごせなかった。どうしても、手を譲りたくなかった
覚悟がないなんて言ってたら…相手がレティにとって特別だったら…彼女は本当に遠くにこのまま行ってしまう
…ふと見た月の光を浴びる彼女は昔の小さな姿じゃなかった
当たり前だけど背も大きくなって、ほんの少し、大人びて…
今はまだ幼さを残す。けど…大人になり始めている
お嬢様で、我儘で…可愛いぼくの幼馴染…
ぼくは…
「お嬢様」
声をかけると彼女は顔をふくれっつらにして声をあげた
「もうっ!アズサ!どこ行ってましたの!?」
「申し訳ないです。学友に捕まったらはぐれました」
敬語なんて使ったからか、レティが見るからにぷくーとふくれた
…ちょっと面白い…
ふと見たら冠がちょっとずれてた
「失礼しますね」
「え!?」
戸惑うレティを横目にとりあえず直すだけちゃんと冠を留めなおす
…そういえば昔彼女が好きだった物語にもんなシーンがあった気がした…。そっか、それをやりたかった訳ね。…単純
「ねぇ、お嬢様?」
冠を直しながら声をかけた
「な、何ですの?」
「ヴェルノ王子様帰っちゃうけど本当に帰らなくていいの?」
「ええ、わたくしは残りますですわ。まだ学ぶべきことも多いですし、なによりお兄様と離れたくないから、なぁーんて理由で帰ったらお兄様に怒られてしまいますものっ」
「…ま、それもそうだろうね。勉強しに来たんだしね」
そっと直し終わった飾りから手を離して一歩下がる
「…もうすぐラストだけど…戻らなくていい?ならこっち、来て欲しい」
そう言って手を差し出した
一度、一度はちゃんと頑張ろう。難しい事も考えなきゃいけない。どうしたら一番いいのかやっぱり子供のぼくにはわからない
なら、今感じた気持ちに素直になってみたい
【レティ】
やっと現れた彼はこっちに来て?と手を差し伸べた。
今日の彼は本当に読めない。
(もう、わけわからないですわ・・・まぁでも、ちょっとくらい期待したっていいですわよね。)
先ほどは遮られたがもしかして自分と踊ってくれる気になったのでは?と淡い期待を胸に手を取った。
「わかりましたわ」
彼の手から伝わる熱がレティの体を熱くさせる。
うれしいのと恥ずかしいのと入り交ざった感情を抱いてレティは歩き出すアズサの背中を見つめた。
【アズサ】
手を繋いで水辺の傍まで歩く
この辺りならギリギリで音楽が届く
自分が無力な子供な事は紛れもない事実で
大事に思う人だからそのままじゃいけなくて
同じように望んでくれる気持ちがあるのかを知りたい
手を一回離して恭しくお辞儀をする
彼女にも理解して貰った上で選んで欲しい
「ぼくはあくまでお嬢様の従者です。相応の姿、貴女に仕える態度が本来は正しい。ぼくの立場はそういう事です。
…それを分かった上で…ぼくは一回…貴女に手を出す。このぼくと、ラストダンスを踊って…くれる…?」
出した手が震えてないと良い
恰好はつけたいから
「此処は学校でわたくしたちは同じ生徒。今はそんな主従の関係なんていりませんわ。わたくしはただのアズサとレティとして一緒に踊りたいのですわ」
「ラストダンスって特別らしいけど…良いの?」
「わたくしはアズサがいいんですの!ってここまで言わせないでほしいですわっ…ばかっ…」
念の為に確認した言葉には相変わらず拗ねる
今はまだ、きっと彼女の感情は恋愛のそれじゃなくて依存とか、長年の付き合いとか…そう言ったものだと思う
けど…それでも。今夜、幼馴染以上に″特別”になれるのなら…
「…そっか。じゃあ御手をどうぞ、レティ」
手を差し出してそっとリードをする
かすかに聞こえる音に合わせて歌い、水の上に彼女を引っ張りそのまま水上で踊る
新入生歓迎会で見たヒビキさんの魔法の真似をして水を蝶々の姿にして巻き上げる
それは月の光を浴びてキラキラキラキラ輝き舞い踊る
今夜が彼女にとって、特別な思い出になるように、とびきりの笑顔を向けて彼女に美しい世界を見せた
【レティ】
広がる幻想的な世界に舞い散る蝶たち。
そして初めて見るんじゃないかというほどの彼のとびきりの笑顔。
レティは抱きつきそうになる気持ちを抑えてこちらもとびっきりの笑顔を彼に向けた。
(幸せって、こういうことをいうのかしら。大好きな人と一緒に過ごす時間。楽しい。嬉しい。この時間が永遠に続けばいいのに、って、、だい、すき、?そう、やっぱりわたくしは、、、)
心の中でそう呟くとそっと握られた手をさらに握り返した。
楽しい時間はあっという間に過ぎるもの。
音楽は止まり、名残惜しい気持ちを抑えて二人は地面へ降り立った。
(わたくし、自分の気持ち、はっきり気づいてしまったのですわ)
そっと握っていた手を離し、アズサの方へ振り返る。
「アズサ、わたくしねこの間のわたくしのパーティーで叔父様に邪魔されてしまったでしょう?あれからね、ずっとまたあなたと踊りたいと思っていましたの。だから今日この後夜祭の大事なラストダンスをアズサと踊ることができて、いまもうどうしようもないくらいに嬉しいですわ」
(アズサがいう立場とかそういうのもわかる。そしてそれをアズサが気にしていたのも今日わかった。でもそれでもわたくしはあなたがそばにしてほしい。これは友愛ではない。これは、、、もっと大きな愛)
「だから、ありがとう」
そっと彼の手を引いて少し高い位置にある彼の頬にちゅっと口づけえへへっと微笑んだ。
(いまはまだこんな伝え方しかできないけれど、でもわたくしあなたのことが大好きですのよ)
赤くなる顔を見られたくなくてそっと彼に背を向け歩き出す。
いつか彼が自分の中の葛藤にけじめがついたら迎えに来てほしい。
手を引いてほしい。その唇で愛を囁いてほしい。
そう思いながらレティはドレスの裾をきゆっと握りしめ、「置いてっちゃいますわよ?」と振り返った。
【アズサ】
…マテ。ちょっと待て。…ぼくは今何された…!?
しばし硬直して頬への柔らかい感触を時間差で理解して顔が一気に真っ赤になった
「ちょ…!レティ!一人で先行かない!そっちは道が違う!!」
日々の中で培った突っ込みを無意識にしつつ慌てて追いかける
レティがあの日以来そんなことを考えてたなんて気付かなかった…
自分で、ヴェルノせんぱいじゃなくてぼくだから、嬉しくなってくれたのが嬉しくてどうしようもない
隣に並んでどうしていいのか葛藤した
足りなさすぎる人生経験はどうやってこういう時どうしたら良いのか教えてくれない
それでも反応をしなくては
「…ませるのはまだ早い!全く…それ他の人にやるの禁止だからね!?」
とまずは釘をさしておく
あれを何でもなくほかの人にやられたらたまらない…!本当に…
とりあえず手を繋ぐ。そして一歩先を歩くようにリードする
「…今日は…ありがと…。えーーーと!帰ろう!うん!帰ろう!!」
何か気の利いた事を言いたかったのに、羞恥が邪魔して言葉にならない
そんな自分にじれったさを感じながらもそれがぼくなんだよな…、と内心でうなだれた
不器用でも、言葉にまだ出来なくても
ちゃんと進もう。この繋いだ手を自分から離してしまったら何にもならない
ちょっと振り向いた先にある笑顔を隣で見れるなら、どんな壁だって超えてみせてやるって格好つけた考えくらい浮かぶ
今はこの笑顔を曇らせないよう自分に出来る精一杯で
相手の手を優しく握って歩調を合わせぼくらは二人で会場に戻ったのだった