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ぼくはレティと幼馴染以上、恋人【未満】(大事)になった 
気持ちは伝えあってもぼくの立場が公に認められた訳じゃない。それに結婚適齢期に入ってくる手前のお姫様に婚約者でもない男がべたべたするのはとてもまずい 
それが立場ってやつだ 
ぼくはそれを弁えた上で彼女に接しなくてはならない 

なのに…肝心のお姫様は…分かってない…。それか確信犯なんだ…! 


「アーズサ! ね、ね、クリスマスは私夜景が綺麗な場所がいいですわ」 
「……」 
暫し考える。去年だって何だかんだで一緒に過ごしたんだしこの位なら一応大丈夫か… 
「あまり遅くまではダメだからね」 
「今の間はなんですの?」 
ここで返答を失敗したら怒られるパターンだな。ぼくだってそれ位は読める 
「別に。それより具体的に行きたい場所でもあるの?」 
「そうそう!これを見て下さいませ! とぉーっても綺麗な夜景が沢山載ってて…」 
話を逸らすのに成功したようだ。レティは雑誌を僕に見せびらかす 
「近場のがいいでしょ。まだ子供なんだからあまり遅くまで出たらダメなんだし」 
「もう! 折角のデートに野暮ですわ」 
「何言ってるのさ。子供なのは本当じゃんよ」 
「…そうですわね。あと二年の我慢ですししょうがないですわね…」 
しぶしぶだけど一応理解はしてくれたらしい。最近は少しは聞き訳がよくなったかな? 
「うーん…そうなるとやはりエリュティア内として…中央広場じゃ人が多そうですし…」 
外まで候補に入れないで欲しい。と思いつつ一緒に覗き込む。ぼくだって一緒にいたくないなんて訳じゃないし 
一応気持ちが通じてから初めてのクリスマスなんだし 
「ここのページのなんてどうです?」 
「どれ?」 
と顔を雑誌に寄せたらふわりと良い匂い 
彼女の髪の匂いだ 
(まずい、近すぎる) 
パッと顔をあげたら不思議そうな顔をされた 
「どうしました?」 
「い、いや、何でもない」 
…近いのに意識されないとかちょっとなぁ…。いや、今のは今までのノリで近づいた自分のせいだけど 
部屋に二人きりで平気でいる時点で今更すぎるか… 
「どれ?」 
雑誌を手にして自分に寄せる 
これなら問題ないと思ったら彼女が近づいて来た 
「えとですね」 
「ちょ! 近い!」 
あ、つい口に出た 
「……あ、もしかして意識してますの?」 
う…… 
キラキラした目線からは逃げれない。答えないという選択肢がない… 
「……多少は。別に普通でしょ」 
ぼくはもう気持ちを伝えた。ならそこを誤魔化す理由はない 
レティは分かりやすいくらいニコニコしてこっちを見る。…正直やめてほしい 
「へへ、嬉しいですわ」 
コツっと肩に頭を置かれる。くすぐったくてむずがゆい 
「…嫁入り前のお姫様が良いの?」 
「私はアズサのお嫁さんになるから問題ないですわ!」 
その自信はどこから来るんだか…。ぼくが失敗したらそうはならないのに。信頼は嬉しいけどさぁ… 
「それに好き同士なんですし問題ないですわ」 
「…ばーか」 
精一杯の強がりで返しつつも肩を突き放せない 
レティはそんなぼくをクスクス笑う 
「アズサ」 
「何?」 
じーと見つめられる 
何だ? この空気は 
「ん」 
…えーと? なんで目を閉じるのかな? えと? え!?!? 
「…………で!? 雑誌のどこなのさ?」 
無理矢理にでも話を戻した 
分かりやすくレティはむくれた。いや、待て。何かおかしいから 
「意地悪」 
そう言ってむすくれさせつつ何とか話を戻した 

…いや、それは…ダメだろう。流石に 

後々から心臓が苦しくなってその日はあまり眠れなかった… 



クリスマス当日 
無難に選んだ綺麗なハンカチのプレゼントを用意して二人で街並みを歩く 
はしゃぐレティにたしなめるぼく。あまり変わってないようで若干距離が前より近い 
レティの買い物に付き合ったりイベントを眺めたり、至って普通のデートみたいに過ごす 

「アズサ! 次はこっちですわ!」 
「はいはい」 
そう言いながらそっと手を取る。せめてこれ位は 
「…ふふ」 
「早くいかないとサンタどっか行っちゃうよ」 
「あ、そうですわね!」 
そしてサンタが配っていた風船を貰ったと表記するとなかなかに子供じみた行動だとは思ったけどね 


雪がちらつく中、レティ御所望の夜景を眺める。まぁ人がいないって訳じゃないけどぎゅうぎゅうでもない程度 

「今日は楽しかったですわね」 
「…まぁそれなりには」 
「前より私たち恋人っぽかったかしら?」 
「いや…分からないし恋人未満だってば」 
「両想いなのに?」 
「ぼくが認められない内は違うでしょ」 
下手をしたら彼女の名誉が傷つくことにもなる。周りがそれなりに歓迎してくれてるとは言え貴族の世界は一筋縄ではいかないのも知ってる 
あ、しょぼくれさせた 

………あーもう! 
「レティ」 
少し陰になるとこに強引に連れて行って隠れる 
皆がイルミネーションを見てる事を祈るばかりだ 
「え? あ、あの? アズサ?」 
「そっちが仕掛けたんでしょうが」 
「そ、そうですけど…い、今心構えを…!」 
「別にいらない」 
「え?」 

ふわりと、軽く額に唇を落とした 
これが今の精一杯 

「何期待してるのさ」 
ばーかってそっぽを向く。ただし顔は相当熱い 
「…もう! でも、まぁいいですわ。今は」 
「あっそ。じゃあ帰る?」 
「もう少しだけ眺めたらですわ」 
「御意」 


そうして二人で光り輝く飾りを眺めた 
どちらかともなく手を繋ぎながら 
これが、今の精一杯。それでもほどけないようしっかりと 

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