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無意識にため息をついた 
どうして自分はこんなに 


恋愛運がないのだろうか…と 


自分、ヘリオはごく最近異世界からこっちに強制的に移動してきた 
色々あった直後だったから最初はそりゃあもう混乱した…。異世界という概念は物語にはあったけど本当にあるなんて信じれない話だったし 
でもこの学院の魔法の圧倒的なレベルを見た瞬間信じるしかなかった 

自分のいた世界じゃ故郷の土地が一番の魔法帝国と言われていたけどここの足もとにも及ばないだろう 
あの世界でそれで強くなったと思ってた頃の自分は本当井の中の蛙だったにすぎない 

もう故郷には戻れない。 
詳しいことは省くけど、処分を受けるところを仲間に助けられた。背にいる相棒にも 
帰ったらその全ての人の優しさを裏切る事になる 
戻る手段があっても…帰るにはあまりに問題を抱え過ぎた 


どうしても戻らねばならない程の気がかりがあるとすれば…その時になってようやく知った生き別れの姉の事だった。俺はあの世界を移動する前、確かに彼女を探していた 
けど…それももう手が届かない場所になってしまった… 


頭で理解してもいきなり感情まで割り切れる訳じゃない。 
ここに来てすぐ出会ったエリュテイア魔導学院の保健医、リース先生はそれが普通だと言ってた。でもそれが原因で引きこもるのは時間がもったいない、と 
前向きになれなくても逃避するなら勉強した方がずっと身の為になると 
家の為に騎士になるとしか考えてなかった自分にその道標はとてもありがたかった 


今はもう…自分の為に生きていいんだと…そう言われた言葉がやたら心に残った 


…前置きが長くなった 
兎に角そういう訳で俺はこの学院に入学して勉強をとりあえずする事にした 

最初に出会ったのは先生だけじゃなかった 
ルリアというちょっと桃色がかった青い瞳と薄桃色の髪を持つ…凄く可愛い…ぶっちゃければわりと好みの女の子 
一人で色々と一番辛かった時に手を繋いで…「だったら私と友達になれば…今は一人じゃなくなりませんか…?」なんて言われて… 

心細かった自分は一発で落ちた 

けど直後に先生に言われた 

「あの子、ずっと好きな人居るからね?」 

…と 



頭を抱えたくなった 
思えば初恋もそうだった…。良いなって思ってアプローチした子に…既に婚約者がいたあのショック… 
傷が浅い内に知れただけ今回はましだけど… 

どうしてこうも自分は…相手がいる子ばかり好きになるのだろうか… 
ちょっと切なくなった 




それから数日。先生はやたら親切な人なのかこの世界に多少は馴染むまでという条件付きだけど俺を家に招いて一緒に暮らしつつここでの生活や常識を教えてくれた 
衣食住全部用意して貰って申し訳ないやらありがたいやらだ。現状自分一人じゃ何も出来ないのは分かってる。だから今は甘えて後々ちゃんと恩を返そうと心に決めた 


先生が仕事の時間の間は勧められたのもありふらふらと学校を探索していた。ここは本当に魔法が溢れていて見る物全てが新鮮で面白いと思える程度には余裕が出てきた 

こんな事してていいのか?という疑問はすべて押し込める。もうあの世界に帰れないなら…考えたって… 

ふと、前方にルリアさんを見つけた 
…金髪の男の人と一緒に… 
…あれが例の思い人のお相手なんだろうか… 
どうしても気になってさりげなさを装って話しかけてみた 

「あ、ルリアさん!こんにちは・・・・・・・・・・って…えと…御免、邪魔した?」 

「あ、い、いえ…ご挨拶していただけなので…」 

ルリアさんは治療してくれていた時は堂々としてたけど外で会うといつもこう…俯いてる気がする 
…想い人と上手くいってないのだろうか…って、だとしてもそこに割り込む程酷い奴になる気はないけどさ… 

「ん?誰だ?ルリアちゃんの知り合い?」 

「あ、は、はい…その…友達…です」 

紹介されて俺はちゃんとビシっと姿勢を正して相手に向き合った 

「初めまして。私はヘリオと申します。この度この学院に新入生として入ることになりました。よろしくお願いします」 

「お、おぅ、新入生か…!俺はルス!ちょっとしばらく休学してたんだけどもうすぐ復学予定なんだ、よろしくな!」 

ルスさんとやらはつられるように姿勢を正し手を差し出してきた 
…悪い人じゃなさそうだ…。そんな彼の視線は俺の背中の相棒の黒いドラゴンに注がれてる 

「ルスさんですね。よろしくお願いします。復学おめでとうございます」 

そう言って握手をして相手をちょっとわざとらしく観察する 
…これ位は許して欲しい… 

「私の相棒気になりますか?」 

「おぅ、カッケーなと思って!」 

…普通にいい人そうだ。勇気を出して本題にちょっと突っ込んでみようと思った 

「有難うございます。こいつも喜びます。…えと、ルスさんはルリアさんのお友達なのですか…?」 

「ん?あぁ、友達…だよな?」 

友達… 
その言葉に少しほっとしたけどまぁ相手がいるには変わりないしなぁ… 

「…えええええ!?そ、そうだったのですか!?そ、そんな勿体無い…!!!え、えとえと仕事の関係だったと言いましょうか…!!」 

え?違ったの? 

「仕事?」 

「えぇぇぇ、ちょ、何その反応!寂しいんだけど?!」 

「わ、私バイトしててその…バイト先でお世話してて・・・・・えと…、友達でよかったのですか…?私がですよ…!?」 

…仕事で世話…?相手の反応を見極めようとしっかり見る 

「…まぁ俺のお世話をずっとしてくれて俺のすべてを知ってるルリアちゃんに今さら友達になろうというのも難しいとは思うけどね?」 

全てを知ってる!?え?で仕事の関係!?でも友達になる!? 
…どういう事なんだ…? 

「…ごめん、話が見えない。二人の関係つまりどういう事なのか聞いていいかな?」 

「え、えと…若干プライベートな話と言いましょうか…。ルスさんが良いなら言いますけど…」 

ルリアさんは困った顔をルスさんに向ける。彼はからかうような顔をして彼女の肩を抱いてニヨっと笑う 
…あ、ちょっと腹立った… 

「そんなに俺たちの関係が気になる?知る覚悟は出来てるのか?」 

「え?あの?ルスさん!?!?」 

…からかわれてる気しかしない…。それでも本当にそうな可能性も否定出来ない 

「………先程仕事の関係と聞きましたが……。それ以上という事ですか…?」 

ルスさんは焦らすように俺を見つめる。一息分の時間をおいて急に明るく笑い出した 

「あはは、悪い悪い。まーあれだ、休学してたのは入院してたからでその時の担当がルリアちゃんだったってだけだよ」 

そう言いながら彼女から離れた 
俺は息を吐いて頭を下げた 

「…成る程。ルリアさんはそういえば回復関係でしたしね。合点がいきました。失礼をしました」 

「ル、ルスさん…心臓に悪いですよ…」 

「いやぁ、ヘリオが見つめてくるからつい☆」 

「ついって…もう……」 

…ついでからかわれたのか… 
まぁ俺もじーっと見たんだしお互いさまだろうな、こういうのは 

「…それは申し訳なかったです。ルリアさんが後夜祭誰と出るのか少々気になったので」 

さらっと相手についてどんな人だか程度は知って諦めたい自分は一番気になってた部分を尋ねた 
ここの後夜祭でラストダンスを踊ると踊った相手と特別な絆が出来るという話だ 
なら恋人と出ない訳がない 

「…ええ!?き、気にしてどうするんです!?わ、私出ませんよ!?」 

「…どうして?恋人と出ないの?」 

「え!?ど、どうしてそんな話に!?わ、私恋人いません!い…いませんので!!」 

…いないのか…? 
…つまり思い人って片思いなのか?出ないって事は脈なし…?チャンスあり…? 

そう思った瞬間後光がさした気がした 
無理矢理奪うのは流石に嫌だけど、片思いなだけなら相手に振り向いて貰う努力をしても…問題ないんじゃないか…? 
これはチャンスだ。なら行動あるのみである 

「なら、俺まだ知り合いルリアさんしかいないし…俺に色々教える為と思って出てくれないかな…?後夜祭は興味あるけど一人になるとほら、やっぱ寂しいしさ」 

「…それは……すみません…。リース先生に頼んでください…。私は…出たくないんです…」 

そう俯かれると言葉を上手く続けれない 

「ルリアちゃん後夜祭出ないの?俺も出る予定なんだけどさ、退院したばっかだし何かあっても困るからルリアちゃん一緒についててくれないかな?って思ってたんだけど無理?」 

…人が断われてたってのに… 
無意識にちょっとジト目になった程度は許してほしい 

「…?え…でももう大丈夫なのでは…?ひょっとして具合悪くなったりとかしてるのですか!?」 

「ほら、人ごみとか緊張とかで気分悪くなるかもしれないじゃん?」 

彼女は悩む仕草をした 

「…分かりました。看護師として必要なら行きます。その代わり!…無茶しないでくださいね?」 

「もちろん!」 

…彼女は自分が行きたくないという感情より人の為を取れる人なんだな… 
そう感じてまた、いいなぁ…と感じる 

…理由はどうあれルスさんの看護で来るというなら話す機会はあるはずだ。うん、むしろ有難う、ルスさん! 
どさくさに紛れて踊れるかもしれない…。有難う、ダンスを仕込んでくれた騎士団の先輩方…! 

「…じゃあついでに俺にも少しは構ってくれると嬉しい。じゃあ俺は行くね。邪魔して御免。ではお二人とも、歓迎会でか後夜祭でお会いしましょう」 

「え?あの…で、では…」 

「おーまたなー」 

二人に背を向け小走りで歩きだした 
先ずは後夜祭がどういうものかしっかり調べておかないと 
情報は何より必要だ。どんな戦にもそれは言える 

とりあえず現状の知り合いで俺の唯一頼れる存在、リース先生に情報収集しようと心に決めるのだった 




家で自分で出来る事と言ったら簡単な料理(男飯だねと言われた)に掃除程度。でもそれだけでも役にたとうとやっておいて先生が家に帰ってくるなり後夜祭の事を詳しく聞きたいと言ってみた 

「後夜祭?出るんだ?可愛い子でも見つけた?」 

先生がお茶を淹れてくれながら穏やかにいう 
…忠告された身としてちょっと口ごもる 

「えと…まぁ…」 

「…ルリア君?ふられると思うけど頑張るの?」 

…やっぱりわかるか…。素直に頷いてみた 

「…片思いなら、一度位ぶつかってもまぁ…良いんじゃないかと…」 

「…片思い…ねぇ…」 

とちょっと苦笑いされる。…なんというか格好いい人だなぁ…。と言うか…改めて聞いてないけど…男でいいのかな…?何となく女な気もしない訳じゃないんだけど…聞きそびれてそのままになってしまってる 
コーヒーが手渡されて素直に受け取る 

「…よくない事って分かってますけどね…」 

「…ま、よくないって分かってて玉砕する覚悟があるなら相手の迷惑にならない範囲でね 
彼女も今ちょっとデリケートな時期だし…あまり押さない方がいいと思うけどね」 

デリケート…。あの落ち込み具合の事なんだろうか…。…これはやっぱり思い人とうまく行ってない時に割り込もうとしてるという微妙な行為なんだろうけど… 

ちょっと俯いた俺に先生は軽く息を吐いてちょっと困った笑顔を向けてくれた 

「で、つまり後夜祭の話を聞きたい訳だね?」 

「…そうです」 

「そうだねー…まず何から話したものだか…」 

先生は何だかんだで色々教えてくれた 
今までのペアの結婚率とか伝説のペアの事とか雰囲気とか…色々 

「折角なんだから知り合いとか友人も増やせるなら増やしておいで」 

「…出来たら…そうします」 

ちょっと俯いた 
人見知りではないつもりだけど色々あった事はまだ自分の中で消化しきれてない 
一人にはなりたくない。けど他の人と新しく交流を重ねてくだけの余裕がまだ出来てない 
…自分は何をしているのかと思うとますます俯いていってしまう 

「あとは…そうか、服ないよね」 

「う…それは確かに…」 

その声で我に返った 
曲がりなりにもダンスの申し込みなんだ。平服じゃ失礼なんてものじゃない…!でもフォーマルな服なんて… 

「私の服で悪いけどそれで良ければ貸してあげる。ま、程々にね?」 

「…有難うございます…」 

綺麗に笑う先生に若干みとれる 
これは…もてそうな先生だな…。そんな先生を現状独占状態なのが勿体なく感じてきてしまった 




当日、帽子をしっかり直して襟元を正し会場に向かった 
そこにはあのルスって人と歓迎会で服飾魔法を披露してた元気そうな女性と話しているルリアさんがいた 
それから彼女は一人になり椅子に座った 
…ドレス、凄く似合ってて…可愛いなぁ… 

「あー…」 

軽くせき込んで声を確認。よし、震えてない…! 

「あ、居たルリアさん…!ドレス、似合ってる。とても綺麗だ…」 

言えた!噛んでない。上出来上出来 
でも彼女はあまり嬉しそうじゃなく困った顔をされた… 
う…やはり思い人がいるからだろうか… 

「あ…有難うございます…」 

「貴方の髪の色によく合っててルリアさんらしい可愛らしさがとっても引き出されてて…うん、女神か妖精みたいだ」 

「…そ、それは…言いすぎですよ…。え、えと…」 

あ、困らせ過ぎた 
女性は褒めるものと教わり育った経験はなかなか役にたってくれない… 

「あ、そうだ飲み物とってくる。ジュースが良いかな?看護で来てるんだし酔ったらいざという時に困るよね?」 

何度かやんわり断られたけどめげずにいたらとりあえず居るだけは許して貰えた 
…うーん…逆効果になってるのだろうか…? 
でもこの機会を逃すと本当次はない気がしてならない予感がした… 



暫くぽつぽつと学院についてとか寮についてとか話を聞かせて貰って言葉が何度も途切れつつもまったり一緒にいた 
途中彼女の同郷という主従の二人組とも話してお姫様とはダンスも踊ってもらった 
ルリアさんは友人に何度か話しかけられていたけど少し話すだけで本当に誰とも踊ろうとしない 

「あのさ…。ラストとまで言わない。せめて一曲、踊ってくれない…?」 

ものは試し。言うだけ言ってみる 

「…御免なさい…。どうしても…踊りたくないんです…」 

「そう…」 

「…私…少し外にいます。一人にして下さい…」 

「…分かった」 

これ以上は今は無理だって分かった 
でもラストダンス、その時間が終わっても彼女が一人だったら…それはそれでまたチャンスだと思う自分はちょっとズルイのかもしれない 

…自分は間違ってるのかもしれない。けど、うまく止めれない 

今は、大人しく待とう。彼女の気持ちが落ち着かないときっと駄目だというのは良く分かったし 



そんなこんなでラストダンスの時間近く、扉の開閉音が聞こえたと思ったらルリアさんが会場内を走っていた 
男の人に追いかけられながら… 

「待ってくださいルリアさん…!」 

「いや…!!もう、もうやめて…!!私…これ以上痛くなるの耐えれないんです…!ステイリーさんだって…私が弱いって知ってるじゃないですか…!」 

何かよくない雰囲気を感じ思わず介入しようとした。けどその直前、彼女が抱きしめられて硬直してしまった 

「……今まで辛い思いばかりさせてきてすみませんでした……、貴方の想いに甘え続けて、自分の都合で突き放してしまってすみませんでした……!それでも貴方が傍にいてくれたこと、貴方はそんなことないと言うでしょうが……僕にとっては支えで、救いでした。どんなに感謝してもしたりません……………ルスが元気になった今、僕はもう……貴方が傍にいなくてもきっと大丈夫です」 

闇のような髪色を持つ青年は突然そんな事を言いだす 
これはもしやこの人が… 

「………ですがもし出来ることなら、これからも隣に貴方がいて欲しいんです。支えてもらうばかりでなく…これからは僕も、貴方が辛い時に支えられるようになりますから 

————僕は、ルリアさんのことが好きです」 

…確定だった… 
そして彼女の返答も当然のように受け入れであった 
周りなんて見えちゃいなかったんだろう…。周りからの拍手と祝いの言葉に二人は逃げ出した… 





「…両想いだった訳か…」 

どういう理由でうまくいってなかったのか知らないけどあんな情熱的な告白に、周りのあたたかな反応 
その思い人とは去年ラストダンスを踊った仲とまでは先生に聞いてたけど…入りこめる余地なんてなかった… 

思わずテラスに出てたそがれていたら…二人が幸せそうに踊ってる姿が見えてしまった… 
髪によく分からないけど光る物をつけて、キスをしていた… 
…幸せそうだなぁ… 

分かってた事ではあったけど、ちょっとやさぐれて 
すり寄ってくれた相棒を撫でつつ外に出てその足でそのまま先生の元に向かった 



医務室は先生以外誰もいなくて俺の顔を見るなりふっと笑ってくれた 
…やっぱり恰好良いなぁ… 

「お疲れ」 

「いえ…」 

「…飲み物飲む?」 

「…頂きます…」 

そうして先生は俺に…どうみてもワインみたいなものをついで渡してきた 

「あの…これは…」 

「ぶどうジュースだよ?」 

いいね?と言わんかごとくの迫力で言いきられる 

「ぶどうジュースだから飲んで良いんだよ?」 

…そういう事にしろって事らしい… 
元の世界ではまぁ一応飲める年にはなってたけど…飲んだ事ないのになぁ… 

「い、頂きます…」 

ちょっと辛くてむせたら背をさすってくれた 

「あ、飲まないクチ?だったら本当にジュースにしようか」 

「い、いえ…この一杯は頂きます…」 

ちょっとやけになりたかった 

「無理しないようにね?」 

一気にぐいっと煽って飲み干す 
分かってて行動しようとしたのは自分だ。…と言うか自分の問題もろもろ解決してないのに何してるんだか… 

多分、だけど現実逃避をしたかったのもあるのかもしれない…。寂しくて、仕方なくて 
自分を愛してくれる人が単に欲しくて… 

「うぅ~……せんせーぃ…俺…しんどいです…」 

「うん、それが普通だよ。いきなり故郷を心構えなく離れて辛くない方がおかしい」 

「…うん…」 

相棒がきゅうって鳴いて俺にまたすりついてくれる 
こいつが居てくれて…本当に良かった… 

「今は、辛いけど…その内良い思い出になれるよ。きっとね」 

ありきたりな言葉だけど、優しく言われるからちょっと染みて泣けてきそうになった 

「恋愛がしたいなら今度私の友達の恋愛至上主義の先生紹介しようか?フリ―の良い相手見つかるかもよ?」 

「…暫くは良いです…。俺…姉さん…探します…」 

「…お姉さん…を…?」 

「生き別れなんですけどね…。俺…本当は…探すつもりで…。でも…怖いんです…。恨まれてそうで…」 

彼女が俺が物心つく前に家から体のいいやっかい払いで出されたのは俺が、家の跡継ぎになれる男が生まれたからだ… 
だったら恨まれていたって仕方ない。ただ…身内だからって…今更例え会えても…好かれる訳がないんだ… 

そんな事を考えて俯いたら頭を優しくなでられる感触がした 

「そんな事ないよ」 

確信持った言い回しだった。この人は何かを知ってるのだろうか…? 

「でも…俺…そういうのから逃げようとしてて…」 

「分かってる。ちゃんとわかってるから…きっと。君の姉さんは…分かってるよ」 

「…そうでしょうか…?」 

「そうだよ」 

そんな都合のいい話があるのだろうか?姉さんは全てを許してくれるなんて… 
慣れない酒のせいか眠気が段々落ちてきた 

「お休み…私の大事な……」 


最後まで聞き取れなかったけど、その声に慈愛を感じて…心が大分落ちついた気がした… 


side リース 

寝付いた相手をそのままベッドに運んだ 
翌日二日酔いにならないようアルコールを魔法で抜いておく 

恨まれてる…か…。まさかそう考えてたとは… 
別にそんなの感じた事なんてない。ヘリオは何も悪くない。恨むなんてお角違いだ 

自分がヘリオの姉だから言い切れる 
相手に対してどうしていいか分からない部分は確かにある。 

自分が…彼の姉と名乗り出ない事そのものに自分の躊躇が見え隠れする 
まだ、姉が自分と堂々と言える気がしない 
そもそも男と勘違いもされてそうだし… 

彼が迷って道をうろうろするように、自分もそうなのかもしれない。そういう部分は似てるのかな?と思うとちょっと嬉しい気もした 
長い時間互いを知らなかった事実。距離は簡単に埋まらない。けどまだ時間はあるから 

「私もどうしたものだかなぁ…」 

前髪を弄って今の姿じゃ顔も、声も、目の色も、何も似てない弟を見つめ、今出来ることとして、優しく頭を撫でてやるのだった 



side ヘリオ 

なんだか大分すっきりした。 
リース先生は知り合いの占い師に頼めばお姉さんを探せるよ?と言い出した 
その占い師は姉さんの現在の生存だけを教えてくれた 

占い師は言ってくれた 

『互いにまだ身内として会う覚悟がない。これ以上は教えれない。あとは貴方が道を進んでいけばいい』 

と 
この学校には人探しの魔法があるらしい。自力で力をつける内に自信もつくだろう、と 
姉はそんな自分をちゃんと安全な場所で待っててくれる…と 

それで十分だった 
何もかもをなくした自分に出来た目の前の目標 

誰かにすがるとか、目をそらすんじゃなくて自分の足で歩いて行かなくては 




後日、ルリアさんにばったり出くわした 

彼女は俯いていたのが嘘のようにしっかり前を向いていた 
星が光る髪飾りがついていて印象的だ。…それもまた、似合うと感じてちょっと悔しかった 

「あ、あの…その…」 

「…よかったね。俺見てたよあの告白」 

彼女は羞恥で真っ赤になって手で持ってた本で顔を隠した 

「…俺は大丈夫だよ。気にしないで」 

「…ごめんなさい…」 

「…いや。…色々…有難う。今後も友達でいてくれたら嬉しい」 

「そ、それは勿論…!望んで下さるのなら…!」 

気合を入れるようにガッツポーズをとる彼女はここ数日見てた姿より本当に明るくなってた 
…可愛いと感じる程度はまぁ仕方ないだろう…。彼女は本当贔屓目なくても可愛いし 

「色々…ごめん」 

「いいえ…。私も…」 

…ばつが悪い。けど心が痛いのはすがった感情が大半だったけど、それでもちゃんと、好きだったからだと思いたい 

「…ううん。…あまり仲良くすると彼氏さんに悪いしね。普通に。じゃあ俺色々学校見たいから行くね」 

「は、はい…!と、図書館は詳しいので必要なら御案内出来るので…!」 

「そう?じゃあ行きたくなった時宜しく。じゃあね」 

「は、はい…!」 


…上手く言えた。多少は恰好つけたけど…多少だしまぁ…許容して欲しい 
相棒を軽く撫でて、今度は現実逃避含めじゃなくて、ちゃんと好きになれる人を探さないとなぁ…と前向きに考える 


天気は晴れ。俺はこの世界に今は、一人で立ってる。けど、何もかもこれからだ 

「とりあえず、人探しに役立つ魔法の講義を調べるか…」 

と先ずは当面の目標に一歩足を進めるのだった 

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