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【リース】 
かねてからリースはずっと悩んでいることがあった。実に一年も悩んでしまった事すら悩みになってしまう位煮詰まる程抱え込んでいた 
しかし、いい加減自分も腹をくくるべきなのかどうか。それとも今更なのか 
本当は動くべきと頭で理解していてる。だが行動出来るかが別すぎるのだ 

リースは最終的に、困った時の最終手段。人に相談しよう…とようやく腰をあげたのだった。 
相談相手は信頼している友人のアゲハ先生。彼女なら当たり障りない対応でなく、的確にちゃんとアドバイスをくれるだろうと信じている 
勿論奢る、と前置きして相談に乗って欲しいと仕事後、酒場に誘い人に聞かれないよう奥まった場所で切り出すのだった 
「アゲハ。いきなり御免ね」 
まずはそこから礼儀として 
「…実は…結構重い話なんだけど……相談があるんだ」 
何から口にしようか悩んでまずは軽めのお酒を一口喉に通した 


【アゲハ】 
何やら少し思いつめた様子で、友人であるリース先生に相談があると誘われた。 
落ち着いた雰囲気が魅力の時折訪れるバーの、静かで奥まった席に落ち着く。 

「そんなに畏まらないで。お酒のお誘いならいつでも歓迎してるじゃない。 
 何だか随分深刻そうだけど、恋愛以外の相談でも頼りになる女部門で 
 モンドセレクション金賞受賞したくらいだから、何でも話してよ。」 

本人的にはこれでも大分自重しているつもりであるが、 
軽口を叩きつつ続きを促す。 
少し手持無沙汰でドライフルーツのレモンを口に運んだ。 


【リース】 
彼女の軽い口調に気が少し楽になって笑みが軽くこぼれた 
「いやね、私だって野暮はしたくないし。まぁたまには付き合って貰いたいとは思うけどね」 
暗にラストダンスを踊った相手との関係を示唆しつつこっちも軽口で返す自分もつまみのチーズに手を出して飲み込む 
「野暮だなんて思う方が野暮なくらいよ。 
 自分は自分で勝手に楽しく生きてるもの。要領は良い方なのよ♪」 
そう言ってくれた彼女は自分が切り出してくれるのを待ってくれる。実にありがたい限りだ 

一息吐いて決意。緊張しつつ言葉を紡ぐ 
「実はね…、私には生き別れの弟がいるんだよ…。そしてその相手は今近くにいるんだけど…相手は私が姉と知らないんだ…」 
これだけ言えば【誰】が弟なのかきっと彼女には一発でわかるだろう…何しろ分かりやす過ぎる行動をとってる自覚はあるから 

【アゲハ】 
「それって例のイケメン燕君のことよね?」 

あまりちゃんと相対したことはないが、云われてみれば血が繋がっていても 
それほど不自然ではない程度には似ているようにも思える。 
他者と進んで関わろうとしない彼女が、妙に世話を焼いていると思ったら、 
そういう事情だったのかと腑に落ちた。 
彼女は元は異世界の住人であったという。 
であれば当然弟の彼も異世界出身で、どういう事情で此方に来たかは分からないにせよ、 
誰かの後ろ盾…というか支援が無ければ普通に生活するにもかなり大変だった事が伺える。 

「生き別れた姉…リース先生を探しにやってきたの?それとも偶然?」 

前者であればまぁ事情を打ち明けやすいだろうが、 
後者であれば少し厄介かもしれない。 
偶々訪れた異世界で、いきなり姉だと打ち明けられても、 
恐らく一緒に居た時の面影はあまり残っていないだろう。 
俄かには信じがたいし、かえって彼女に不信感を抱くかもしれない。 


【リース】 
また燕言われた… 
ヘリオが来たばかりの頃、自分にしては世話を焼きすぎなくらいやいて寮に入れるまで一緒に暮らした。その時燕君?と言われ冗談だと分かっていてもクリティカルダメージをくらったものだ… 
「そうだね、アゲハ曰くの燕君だね。……あの子がこっちに来たのは…偶然かな」 
自分がいるからここに引き寄せられたのかも、と考えもするけど少なくとも自分を探すためにこの世界に来たわけではない 

「ただ、あの子は姉を探してはいる。この世界にいると夢にも思ってないだけで」 
常識で考えたら全く知らない場所に来ただけでも信じれない。その上まさか身内がいるなんて考えれるものじゃないだろう 


【アゲハ】 
あちゃー…と思いつつも、まぁ現実はそう都合よくはいかないだろうなと思う。 
自分にも似た年頃の弟がいるが、パピヨン姉弟であったならば、 
恐らくすぐに自分たちが血縁者であることは分かるだろう。 
何しろ、サキュバスと人間の混血というのは他にいないのではないかと思えるほど希少である。 
特に女である自分には、悪魔の持つものと似た羽と角がある。 
実は小さくて髪に隠れているだけで、弟にもコブの様な角があったりする。 
しかし普通の人間となると、そうはいくまい。 
寧ろリースが彼を弟だと見抜けたことは幸運なのではないだろうか。 

「それはまた難しいわねぇ…。かといって放っておけば、 
 姉を探しに別の所へ行ってしまうかもしれないしねぇ。 
 そんなのあったら苦労しないとは思うけど、やっぱり特別な身体的特徴とか、 
 個人を特定出来るような思い出の品とかは持ってないのよねぇ?」 

念のために聞いてみる。だが答えは自分でも分かっている。 
しかし複雑な事情でこうなったのなら、 
もしかしたらそれをすべて打ち明ければ信じるに足りるのかもしれない。 
なんにせよかなりデリケートな案件だ。 


【リース】 
姉を探しに…それが現状大いにあり得そうなので言わなくては、とは思っている 
思ってはいるのだが… 
「そうなんだよね…。 
 個人を特定出来る特徴は…ないかな。弟が生まれてちょっとで離れちゃっててね…。あの子は私の特徴を知ってるかどうかすら…。ヘリオから少し話を聞いてみたけど…こっちに来るほんのちょっと前に私の存在を知ったみたいだし… 
 私は…昔と外見が変わったから我ながら両親の面影があるとも思えないし…」 
せいぜい相手と少しは似ていると言えるのは髪の色くらい。だから何だと言う話だ 
自分が姉だと言うのは自分しか信じれない 
最近までは相手が自分を男を認識してたので本当にそれ以前の話でもあったし‥‥ 


【アゲハ】 
「ふむー。弟君がお姉さんであるリース先生のことをどのくらい 
 把握しているかというのが重要になってすくるのかしらね? 
 でも態々異世界に飛ばされて普通に生活するのも困難な状態でも 
 姉を探したいという気持ちがある訳だから、 
 思い切って全部打ち明けても受け止められるんじゃないかしら 
 …と私は思ったりするけど。」 

複雑な境遇で、偶然全く縁のなかった世界にやってきて、 
ざっと見た印象でしかないが擦れた様子もなく 
非常に好青年然とした青年であった。 
芯のない人間であったら、ああはならないだろう。 


【リース】 
「…存在を知ってるレベルだと私は認識している… 
 そう…そうなんだよね…。あの子の為にも言ってあげないと、って思ってはいるんだ…。けど…」 
その続きを言うのに少し勇気がいって、いつもはあまり飲まない酒をぐいっといった 
「…正直…信じて貰えるかは自信ないし…言って信じて貰えれなかったら…きつい…」 
例え生き別れでも、もうたった一人の身内だ。それに長年一方的でも気にかけていた特別な存在でもある 
その相手に拒否されたら…正直耐えるのが辛い。探してはいてもそれがどういう感情でなのか…分からないから怖い。親族に甘えたいだけならそれでもいいのだけど、ヘリオの場合事情が複雑すぎる。姉に相手が何を求めているのかが分からない。自分は良い姉になれる自信もない。今まで隠してきた相手から実は…なんて言われたら普通怒る。傷つけるのが怖い。傷つくのが怖い。信じて貰えなかったら…悲しい 
そんな人間らしい感情でうまく動けないのである 
(いい年して…)とは思っても特別が少ないリースには一大事なのであった 


【アゲハ】 
言葉に詰まってしまう…。 
まぁ確かにたった一人の肉親と、こうして再開できたという奇跡が起こったのに、 
急転直下するように不信感を露にされたら辛いだろう。 
ちょっと違うルートを模索した方が良いだろうか。 

「所で、リース先生はどうして相手が弟君だと分かったの? 
 お姉さんだから記憶はリース先生の方が多く持っているでしょうけど、 
 それでも普通、異世界に居て偶々出会った青年を弟だと確信するのは 
 難しいように思うけど?」 

もしかしたらそこに、活路を見いだせる可能性はないか? 
あるかどうかは微妙だが、まぁ色々戦略を練る事は無駄にはならない筈だ。 


【リース】 
相手は流石に言葉につまったようだ 
それもしょうがないだろう。精神の問題とは言え言えない理由には自分には十二分すぎる 

「あぁ、成程。確かにそこ気になるよね。うん…それがね…」 
隠す必要もないので自分がどうしてヘリオを知っているのかの経緯を語る 
こっちに来て暫くして生き別れのヘリオがちゃんと幸せになれるのか心配になって、人の紹介で占い師を訪ねた事。相手はありとあらゆる場所、時空をのぞかせてくれる遠見の魔法使いな事。 
占い師にヘリオの様子を度たび見せて貰っていたこと 
そしてその人のもう一つの能力が可能性の高い未来の予知。そしてヘリオが来る未来を教えてくれたこと。だから自分が迎えに行けた事… 

「…ヘリオにもその占い師を紹介してみたけど‥あの人は相手に必要だと思う物しか見せないんだ…。前に姉の事を聞かせてみて…それで私だとばれるならそれでもって思ったんだけど…あの人は私を教えなかった…。多分自力でどうにかしろって事だと思う」 
私の覚悟がないのも原因なのかもしれない。そういったものをあの人は感じて見せるものはちゃんと選ぶから 


【アゲハ】 
凄腕の占い師…。 
しかし何にでも手を貸して、見せてくれるわけではないようだ。 
だが逆に考えれば、自分でどうにかする余地があるから、 
弟のことを見せ、且つそれ以上の事はしないのだとも考えられる。 

「うーん、突き離すような言い方になっちゃって悪いけど、 
 これはもう先生が腹をくくるしかなさそうね。 
 確かに確実に成功する…なんて状況じゃないけど、 
 それはどんなことに挑戦する場合にも言える事よ。 
 折角再会できたのにそのままにして、またお別れしちゃうのと、 
 思い切って打ち明けて信じてもらえなかった場合、 
 天秤にかけたらどうなるかしら? 
 私はやらずに後悔するより、やって失敗した方が良いかな。 
 可能性はあったのに怖気づいて身を引くのは、柄じゃないしねー。」 

同じ年頃で、同じ生徒である弟に様子を探ってもらうとか、 
そういう小賢しい事は却ってよくないだろう。 
これは彼女が弟を信じて、自分で決断しなければいけない事なのだ。 


【リース】 
やっぱりそうなるか…と納得しつつ俯く 
相手が姉を探している理由は…身内恋しさなのかそれとも…何を望んでなのか…とか色々考え悩んで 
それでも結局言わないと後悔する。それだけは事実として確かにあるのは分かっている 
「…うん。そうだね。それは…正しい。とても正しいよ…」 
ただ自分は彼女のように前向きに自分の望むままに行動するという強さを持てない 

「ヘリオは…信じてくれると思う…?」 
酒をまた煽って自分の弱さをさらすようにぽつりとつぶやいた 


【アゲハ】 
酷くしおらしい様子に、彼女の本質的な女性らしさを感じた。 

「この際だからはっきり云うわ。私は”思う”。」 

とりあえず簡潔に断言した。 

「まぁね、込み入った事情については私も知らないわ。 
 でも普通に考えて、殆ど記憶も残っていないレベルの幼い頃に生き別れた姉を、 
 大した手がかりも無しに探すって、中々できる事じゃないわ。 
 そもそも、どこかでリース先生が生きてるかどうかさえ 
 弟君にとっては分からなかった訳でしょ? 
 生き別れたお姉さんが心配で、会いたい…以外の動機で 
 そこまでできるとは私には思えないのよ。 
 それにいきなり見ず知らず、悪い人かもしれない異邦人である彼を、 
 迎えに来てお世話してくれるなんて、普通あり得ないわ。 
 それこそ何か…特別な事情でもなければね。私の男を見る目、信じられない?」 

緊張した空気を飲み込むように、ゆっくりとグラスを傾けた。 


【リース】 
”思う” それは何て強い言葉な事か 
彼女の男を見る目は確かだと思えるしヘリオの性格を今まで傍で見てきた以上真剣に話せば信じて貰える可能性の方が高いのは明らかだ 
「ん…。アゲハの目は信じてる…」 

呟きながら酒をまた煽る。そこまで強くないお酒にしたはずだけど、魔法を使わず飲み続けているせいかのか酔いが大分回ってる気がする 
今は酔わないと言葉を続けれない 

「事情か…。それは仕方ないよ…。だってヘリオにはもう私…というか会った事もない姉しかいないんだからさぁ… 
 両親がさ…何をしたかまでは知らないけど…処刑されることになってたみたいで…ヘリオもまき沿い…連座制…なりそうになってて…… 
 あぁ、それで…周りが逃がしてくれて…それでこっちに来たって話なんだし…」 
来たばかりの彼には何をして生きるべきなのか。今までの全てがなくたった人に何かが必要だった。だから姉を探すしかすがる物がなかったとも言える 
分かってたならさっさと言えと言う話だろうけど、いきなり異世界で姉なんて名乗った相手を誰が信じるものか 
自分なら絶対に信じない 
タイミングを探してそのまま逃したという事なのだろう。現状は 


【アゲハ】 
時々翳る彼女の表情を見ていて、かなり重い何かを抱えているのだとは思ったが、 
氷山の一角であろう要素を聞いただけでこれなのだから、 
実際はもっと闇が深いのだろう。 

「うん。気持ちは分からなくはないんだけど…。 
 どうもさっきから聞いていると、怖いから必死で彼が信じてくれない 
 根拠を探しているように見えちゃうんだけど、どうかしら? 
 逃げるにあたって肉親を頼りたくなるのは当然だと思うわ。 
 でも、どこにいるかも、そもそも生きているかも確証を持てない相手を 
 探してまで頼ろうとは、私なら思わない。 
 一人で生きていくことも、あの年ならできない訳じゃないもの。」 

簡単ではないのは確かだが、 
だからと云って生き別れた姉を探すよりは現実的な方針だと思う。 


【リース】 
アゲハの指摘は…言われてみたら確かにその通りだと思った 
言ってあげたいというより言うのが怖い方が勝っている。このままがよくないのは分かっているのに 

また酒をあおる。顔が熱くてたまらない 
「…確かに……私は…怖いよ…。その通りだね… 
 ヘリオは確かに…もう一人でも生きれるだけの力…あるよね…。ヘリオは…それでも…どんな理由でも探して…頑張っていて… 
 自分が情けないよ…。弟は一人でも歩いているのに…手を伸ばせば届くのに……自分は分かってて…資金の援助しか出来てない…。情けない姉だよ…」 
実際ここに来たばかりの頃、彼の折れそうな心を支えたのは自分じゃなかった。偶々近くにいたルリア君の方だった。ヘリオは彼女に依存しかけて、でも失恋(?)して…それをちゃんと乗り越えて頑張れている 
なんか色々ごちゃごちゃ考えて足が止まってる自分とは大違いで… 

「自分が弱くて嫌になる…」 
酒のせいもあるのか目の前が少しにじむのを感じた 
それを見られるのが嫌で顔を伏せた 


【アゲハ】 
思いの外追い詰めるような口ぶりになってしまったであろうか。 
でもこの場合、同調しているだけでは決して話は進まない。 

「まぁまぁ、別に弱くていいじゃない。 
 逞しい女子も、か弱い女子もちゃんと需要はあるものよ。 
 それに相手が私なら、それこそ気を遣う必要も、強がることもないんだし? 
 ここで思い切りデトックスして、弟君の前で気丈に出来ればそれでOKってことで。 
 リース先生が強くても弱くても、アゲハ=パピヨンは決してブレない女。 
 無いと思うけど万が一うまくいかなかったら、全部私が受け止めるから、 
 保険かかってると思って少しでも心を軽くして向き合ってくると良いわ。」 

暗い顔は見られたくないだろうと、グラスに手を伸ばす。 

「上手くいったら3人で祝勝会ね! 
 弟君がお酒が飲めないのが残念だわ~。 
 私の事もしっかり、紹介しておいてよね☆」 

もう気になる女子とか居るだろうか。 
その辺りもぬかりなく確認しておかなければ。 
先生も気持ちの切り替えが、上手くできると良いが…どうだろう。 


【リース】 
アゲハらしい言葉に心が軽くなるのを感じる 
失敗しても慰めてくれるのなら、なんて思うだけでも気が軽くなるなんて単純なものだ。人と言うのは元より考えこみすぎるだけで単純なのだろうけど 
目を軽くこすって顔を上げた 
「有難う。まぁ‥私にか弱いなんてキャラじゃないからね…がんばるよ… 
 本当失敗したら…その胸で慰めてもらおうかにゃ…」 
気分がとても高揚している 
なんかおかしな言葉が出た気もするけどそれも気にならない 
「へりゅおは…こきょーで飲めるとしにゃんだし…皆でのませちゃおーかねぇー…」 
普段はそんな飲み方しないのに開いたグラスに酒をいれて一気に飲む 
もう魔法を使う事なんて考えれない 

「よーぅし!じゃあきょうはのもうーかぁ!いっぱいのんでーそれでー…今からへりおに会いに行ってもいけそうだよねぇ…」 
気分がやたらふわふわして気持ちいい。相談してよかった。今ならなんでもできる気がする 
そうだ。動くなら今だ。立ち上がろうとしたら世界が回ってふらついた 
「あれ…?地震…?」 
顔がやたら熱い… 


【アゲハ】 
いつにないテンションで酔っ払っているようだが、 
気持ちは纏まったようで安堵した。 

「飲酒可キャラだ…と…。これは飲ませるしかないわねー。 
 弟君くらいのイケメンなら合コンに誘ったら、女性陣も喜びそう♪ 
 そんな泥酔状態で行ったら、 
 違う意味で信じてもらえなくなりそうだけど平気なのかな?かな? 
 とりあえず酔い覚ましに一休みしましょ…おっと…!」 

ふらりと体勢を崩すリースを、慌てて支えようと立ち上がった 


【リース】 
一回決めてしまうと気持ちはすっと前向きになる 
困った時頼るべきはやはり友人である。地面が揺れてアゲハに支えてもらいつつゆっくりまた座り込む 
「あー…これが酔ってるって事なんだねぇ…。結構気持ちいい…… 
 うーん…へりおにごうこん…ごうこん…そうだねーあの子にゃ‥いい人見つけて欲しいって思うしねぇ~。我が弟ながら顔も中身も良い子だからぜぇーったいもてるよー、うん~…………」 
酔ってると理解出来ててもどうにかしようとは今日は思えない 
明日辛くなったら薬を飲まないとな、とどこか冷静な部分が考える 
体が弱い自分は泥酔するわけにいかないのだけど、なんかどうでもよくなってる 

「アゲハ、私がんばりゅから…」 
家族らしい家族を持つのはある意味諦めていた希望 
手を伸ばせば届くのなら、届いて欲しい 

意識が遠くなりつつ、今日は徹底的に甘えてみようと素直に眠気に身を任せて寝転がった 


【アゲハ】 
何とか元の席に腰を落ち着けてくれたが、これで帰るのは厳しい。 
復旧を待つより、弟に応援を要請した方が良いかもしれない。 

「ふふ…リース先生ったら、意外と姉バカなのねぇ。 
 まぁ大丈夫よ。いつも頑張ってるじゃない。」 

同じ弟を持つ姉として、よく理解できる心情である。 


【リース】 
その夜は、結局ピーリス君に運んで貰って帰ったらしい。正直あまり覚えていない 
後日謝りに行ってみたけどいつもお疲れ様です…とむしろ心配されてしまった… 

そして更に後日 
大事な話があるとヘリオを呼び出した。場所は迷ったけど人目につきたくなかったから医務室にした 
誰も入って来ないよう人が居ないという札をかけ鍵も一応かけておく。外から見えないようカーテンもしっかり引いておいた 
ヘリオはそこまで私がしたのに緊張気味に椅子でそわそわしている 
ここからの発言次第で今までの関係が全て壊れる。それが怖くてたまらない 
ダメだった時は本当アゲハに泣きつこう…。今も逃げたい気持ちと戦いながらヘリオに紅茶を出した 
「砂糖はどうする?」 
「一個で…」 
素直に一つ入れてスプーンでかき混ぜて出す。その目線はどうしたのかな?と聞いてきているけど私が言い出すのを待ってくれてる。うん、本当あの両親からよく良い子に育ってくれたものだ… 

私はそう思いながら一呼吸吐いて本題に入る事にした 
「あのね、ヘリオ。これから言う事はきっと信じがたいと思う。認めれない言葉かもしれないし疑われても…怒られてもしょうがいないって思う。けど…私は真剣に話す。だから…聞く耳は持ってほしい…」 
そう言うと弟は背筋を伸ばしてはい、としっかり頷いてくれた 
私の信頼度が高くて何よりだ。嬉しいものだな… 
「まずは御免。…私は、最初ヘリオを偶々拾った訳じゃない。こっちに来るって知っていた」 
彼の体がこわばったのを感じた 
「…先生がまさか俺をこっちに召喚した…とか…?」 
私は首を振る 
「ううん。なんでヘリオがこっちに来てしまったのか…それは分からない。知ってた理由はね、この世界には可能性の高い未来を見る事が出来る人がいる。あの占い師ね。その人に教えても貰ったからだよ」 
ヘリオは少し考え納得するよう頷いた 
「…ちょっと混乱したけど…まぁあの人なら分かっても不思議はないです。それで…分かった上で…私を…?どうして…ですか?」 
こわごわと本題を尋ねてくれる 
多分もう相手も私が他人にこんな世話をやいたり関わったりする性格じゃないと分かっている頃だ。だからこそ、偶々拾って偶々同じ異世界人だから他人ごとじゃないから手を貸していたという私の言い訳の前提が崩れた事になった今、普通の疑問である 

私は震えそうになる手をきつく握りしめ、言葉を吐き出す 

「それはね…信じて貰えるか分からない。けど…私がヘリオのお姉さんだからだよ…」 

暫しの沈黙。ヘリオは目を大きく見開いて理解が追いつかないのか暫く固まる 
「え…えと…?先生…?」 
やはりすんなり納得にはならないだろう。それは想定の上だ 
「…私は昔と外見も、声も、何もかもが変わった。…だから証拠はない。 
 …私はこっちの世界になんでか来て…落ち着いてからはヘリオが気になってたまにあの人に様子を見せて貰っていた…。元気そうに生きていて…嬉しかったよ…」 
あのまま何もなければきっと自分たちの線は交わる事はなかった。なのに… 
「…ねえ…さん…?先生が…?」 
「…うん。御免ね…」 
姉っぽくないとか、なんだか色々。彼に今まで言えなかったことや本当にたくさんの事を含めて謝る 

ヘリオは流石に頭を抱えて蹲った 
葛藤するのも無理はない。ののしられる覚悟をしつつも反応が怖くて心臓の音がやたら静かな部屋の中響いて聞こえた 

「…先生……本当の…名前…言えます?」 
あぁ、成程。彼の姉の真実の名前はこの世界に知ってる人はいないって事か 
確かにある程度の証拠にはなりそうだ 
「…シャルロッテ・スチュワート。でももう捨てた名前だから本名とは自分では思ってないかな」 
我ながら似合わない名前に苦笑いする 
「……本当に…そうなんですね…」 
やっとで事実を飲み込めたのかまたヘリオは蹲る 
「…うん。言わないとって…ずっと思ってた。最初は…いきなりじゃ信じて貰えないと思って…それからは……言い出すタイミングを逃して…。知らない世界に放り込まれて辛い時…言ってあげれなくて御免…」 
ヘリオは頭をぶんぶんと振った 
「違う。確かに俺は…最初いきなり言われたら信じなかったです…。都合が良すぎるから…」 
その言葉は少し、私の気持ちを軽くしてくれた 
「今までの…先生が俺の事見てくれていて…世話をやいてくれた時間があるから…だから信じれるんです。先生はそんな嘘をつく人じゃないって分かるようなったから…」 
泣きそうな顔でヘリオは目線を下に向ける 
「…信じてくれて嬉しいよ」 

二人して何を話すべきか分からなくなったのか沈黙が場を支配した 
何を伝えるべきか迷って、それで自分が伝えたかった言葉をそっと音にしてみる 
「ヘリオ、君が…無事に生きてこっちに来てくれて良かったと思うよ。詳しくは知らない。けど…大変な状況だったんだし…」 
自分が知っているのは彼は親の業の深さを知って、そして連座制に基づき処刑されるところだった。それだけだ 
ヘリオは首をまた振る 
「ちが…。俺は…こんな…平和に生きていてなんて…そんなの…!」 
「良いんだよ」 
はっきり言い切る。ヘリオにとっては真実を知るまでは大事な親だった。見限ってもう感情が残ってない自分とは違う。だから相手は辛い 
「だって、それを仲間に望まれたんだよね?私ももしもヘリオがあのまま犠牲になるのなら…あっちの世界に助けに行ったかもしれない」 
「どうして…そんな…」 
「ヘリオに罪はない」 
「違う!俺は気付けなかった!それが罪で…両親が逃げようとしたのも止めた!親と共に処刑されるべきだと…一緒に死ぬつもりで…でも結局…」 
「うん。それで結果君は生きてる。それの何が悪いの?」 
「え…?」 
「気付けなかった。それ自体に罪があるかどうかは…分からない。あの国の法律では罪だった。ならあの国では悪い事だった。だとしても…罪を行ったのはあの親で私や君じゃない。そして今いるのはあの国じゃない」 
「そんなの…屁理屈なんじゃ…?」 
「ヘリオがそう言うなら私だって一緒に処刑されないといけないよ?けど私はそんな気はさらさらないけど?」 
自分はこっちに来てから好きに、望むままに生きると言う事を学んだ。自分勝手だけど今までの分自分の時間を生きようって。我儘を自分は覚えてそして今は幸せになれている。だから間違ってるなんて思わない。何よりも自分が 
「姉さんは!…貴方は…俺が生まれたから…売られたって…」 
「そうだね。結果としてそうだった。嫁にいかすよりそっちのが美味しかったんだろうね」 
「…なんで…恨まずこんな…優しく出来るのか…分からない…」 
「…君に罪はない。それだけだよ。生まれて来た事も…生きている事も何も落ち度なんてない。ヘリオはちゃんとまっすぐな良い子になった。私にとって気に掛けるべき家族はあの施設にいた時も君だけだったよ。小さな…赤ちゃんのヘリオを見た時からずっと、姉としてこの子は守ってあげないとって…割と思っていたんだからね?これでも」 
苦笑いをしたらヘリオは顔を真っ赤にして俯いて目をこする。見ない振りして少し落ち着くのを待った 

「…俺は…恵まれ過ぎてる…」 
「人徳の結果と受け取っておきなよ」 
「…逆に辛いなんて…贅沢ですか…?」 
「いいや、普通だよ。その辛さを無視出来ないならしない方がいい。けど…」 
一息吐いて言葉を選ぶ。自分の心に出来るだけ素直に 

「私は、ヘリオに幸せになって貰いたいと思ってる」 

そうつぶやいた言葉がどう相手に響いたか分からない。けど… 
「ありがとうございます…」 
そう言ってくれた言葉を今は受け取っておきたいと思った 



そして後日 
私はまたアゲハと報告がてらに一緒に飲んでいた 
「…とまぁ…信じては貰えたかな。今のところ少しぎくしゃくはしているけど…」 


【アゲハ】 
ずっと悩んでいたことに、漸く決着がついたようだった。先日は珍しく酷く酔い、非常にレアな姿を拝めたが、流石に今日は大丈夫だろう。 
「良かったじゃない!まぁ今はぎこちないのも仕方ないけど、 
 いずれ緩やかに自然体になると思うわ。ずっと離れ離れだったしね。 
 所で祝勝会の話覚えてる?折角だからピー君も呼びましょうか。 
 きっといいお友達になれると思うわ。うんうん。 
 恋は勿論大事だけど、友情も同じくらい大事よね。 
 まぁ2人は同性だから多分関係ないけど(笑)、 
 友情から恋が芽生えるケースなんて五万とあるし♪」 
此れから此処で生活するなら、友達は多いに越したことはない。序に今一つパッとしない弟も、ヘリオ君のイケメンパワーに肖れたら上々だ。 




【リース】 
アゲハの言葉にくすりと笑って返す 
「そうだね。いつかは…自然になれたらいいけど。 
 って本当にやるんだ?私は別にいいけどヘリオ来てくれるかな…」 
まだまだギクシャク気味の関係でのってくれるのかどうか…ちょっと不安になる 
「でもまぁ、ヘリオがピーリス君とも仲良くなってくれたら嬉しいな。友情も確かに大事だよね。結構実感するよ」 
今、隣にいてくれる存在に自分が助けられて救われているように、人には人がやはり必要なのだと素直に感じる 
二人が関係ないのに多分が付いていたのは軽く流していつかあの子にもそういう存在がちゃんと出来てくれたら嬉しいな。そう思った 

「食事ご馳走するって釣っても来ないの? 
 なんだったら、今まで何度か食事を提供してきた私を立てる体で、 
 お礼言いなさいっていえば流石に来るでしょ。」 
手段を問わないところが彼女らしくて笑みがこぼれる 

「そうだねお礼言いたいって言っていたしそう言えば来ると思うよ」 
折角なのだしヘリオにも自分の友人をちゃんと知ってもらいたい 
まぁアゲハのキャラに色々戸惑う可能性もあるけど大丈夫な可能性も高いし 


「アゲハ、有難う。今までも、これからも」 
今までの沢山の感謝をこめて伝えた 

【アゲハ】 
改めて感謝されると少しくすぐったい。 
普段、こう素直に自分と相対してくれる人は限られている。 

「良いのよ。いずれ何かの形で返してもらうから♪」 

人間関係は大体持ちつ持たれつだ。友人の役に立てたのなら、自分も嬉しい。 
態々何かを返さなくたって、本当はもう十分なのだ。 


【リース】 
こっちに来てから今日まで、本当に彼女には色々お世話になってると思う 
大事に思う数少ない人の内の一人。もしも何かあった時は今度は自分が何を賭けてでも助けたいと思う人 
(出来ないと思うけど、仮に旦那が出来たとしてもアゲハの方優先しそうだな…私は) 
なんて思う位に大事に思っている 

「じゃあまずは今日のおごりからだね」 
そう言って今度は軽く吞み、酔いそうになる前に魔法も忘れない 
あれ程酔うのはあの時だけで十分だ 

「じゃあ改めて、祝杯に乾杯」 
これから弟とどうなるかもわからない。けど、自分には困った時頼れる友人がいる。だから何があっても進んでいけれる 
前よりも気持ちが軽いせいか、いつもより心から笑えた気がした 夜だった
 

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