top of page

※これは人のキャラを使ったSSです。SS募集企画にて提出したものです。ご理解下さいませ 


side 元囚人 


これは俺が捕らえられて、神サマに会って、そして看守さんに癒しの力を発動させて倒れた後のお話 

俺は倒れて暫く眠っていた 
その間、歌が何度も聞こえた 
眠っていた二日間、俺の傍に居てくれたのが分かった 


目が覚めても俺は暫く入院になった 
看守さんもお姉ちゃんも仕事がある。だから俺は必然的に一人になる時間が出来た 

「…ねぇ、天使様。お姉ちゃんに会わないの?」 

天使様は俺が目覚めてから看守さんにも、お姉ちゃんの前にも姿を現さない 

「…ありがとう。君は優しい子だ」 

そういってやさしく微笑む天使様。でもそうだね、とは言ってくれない 

「俺はな、もう死んでいるんだ。だから出来るだけ、必要な時以外は姿を出すべきじゃない。…分かるかな?」 

「…で、でも…お姉ちゃん寂しそうで…」 

そう、俺や看守さんの前では平気そうにしてるお姉ちゃん。でも知ってる。会いたい、と泣いている事を 

「…それでも、死者は戻らないから」 

困ったように、諭すように笑う 
もし俺が力を使えば?そうしたら何もかも上手くいくのだろうか? 

「君はそのまま、居れば良いんだ。お姉ちゃんもお兄ちゃんももう悲しませたくないよね?」 

…倒れた時、二人共凄く心配してくれて悲しんだ 
もう悲しませたくない…。俺はこくん、と頷いた 

「良い子だ。ほら、もうじき退院だろう?帰ったら二人と沢山楽しい事して思い出を作ると良いよ」 

「うん…」 

悲しませたくない 
それは本音。それでも 

天使様も一緒のが二人はもっと、幸せになれるのに… 

そう思う心が消えない 



-------------------------------------------------------------- 
side 死神の後輩 


これで良い 
もう出来るだけ彼女達には会わない 
まだ死神のナイフはあっちの手の内だ。また何があるか分からない 
いざという時は手を貸す。けど勘違いしてはいけない 
自分は死んだ存在だ 

それが今は死神となったおかげで声を交わせる、姿を見せれるようなってしまった 
力があるのは有難いが、人は本来死した人間には二度と会えない 
彼女に希望を持たせてはいけない 

いけない…それなのに… 

自分は会った、伝えた 
決して声になるはずがなかった言葉を彼女に 

これは自分への戒めだ 
必要以上に彼らに関わらない。せめて、彼らが大事にするあの子を見守る 
それだけが、今の自分に許された唯一の事だから 

-------------------------------------------------------------- 
side 看守 


退院してからあの子はあんな事なんてなかったかのように元気になった。入院中何かがあるかもしれないと気が気じゃなかったが結果は何事もなくこの子は退院できた 
今は平穏が訪れている。でもこの先また何かが起こる 
そんな予感は消えない 

でも今は、折角の平和な時間を大切にすごそうとも思う 
この子に心配はかけたくない 

「ねぇねぇ看守さん、どう?俺上手く出来た?」 

料理が大分上達してきたこの子は帰るなり作りたがった 
俺としてはもう少しゆっくりして欲しかったんだが…何もしないのもよくないのだろうし手伝いを申し出て共に料理を作っている 

「あぁ、もう俺なんかよりずっと上手いよ」 

「そうかな?へへ、美味しく出来てるといいな」 

「きっと大丈夫だ」 

例え失敗していてもその気持ちがあるだけで味は美味しく感じるものだ 
家族というのはこういうものなのか…と考え少し嬉しくなる 

「今日はね、お姉ちゃんも来るから絶対美味しくしたいんだ!」 

「そうなのか?」 

「うん、お姉ちゃん少し元気ない気がするから…」 

「そうか…?」 

あの時、彼に救ってもらったはずの彼女。あの後何を言うでもなくいつも通り日々を過ごしてるようにも感じたが… 

「そうだよー!もー、看守さん鈍感!」 

う… 
それは…そうかもしれない… 
女心というのはいつになっても未知のものだ 

子供というのは大人以上にそういうのを感じるのだろう 
でも彼女が空元気をしてるという事は…やはりあの人のことを思っているからなのだろうか… 
あれからあの人とは会ってない。あの時は危機的状況だったから助けてくれたが… 

「…願っても会えない人…か…」 

「え?」 

「いや、何でもない」 

あの人は亡くなっている。それが現実だ。だからやはり乗り越えるのは彼女自身でしかない 

「…ねぇ、看守さんはこの歌知ってる?」 

そういってこの子は歌を歌いだした 

『いつも貴方を思ってる。この声が遠くの貴方に届きますように』 

これは… 
そうか…。あの人はこの子の傍に居てくれたんだと理解できた 
その歌はあの人が好きでよく口ずさんでいた歌だ 
朧げながらに家族に教わった歌だと聞いた覚えがある 

「あぁ、知ってるよ」 

感づいたことは表に出さずただ、優しく返す 

「俺この曲ちゃんと覚えたい!歌ってみたいんだ」 

…珍しく我儘を言ってくれた… 
そんな小さなことに感動し、俺は要望通りに記憶を総動員してこの子に歌を教えながら料理を作ったのだった 


------------------------------------------------- 
side リーダー 


ふとした瞬間に出そうになるため息を飲み込む 
あの時、自分の無力を思い知らされた。けどあの人は言ってくれた 
力になれてる、大丈夫だって 

愛している…と 

泣きそうになるのをこらえて顔を上げる。人に心配をかけないよう顔をあげなくては 
特に健気でいい子のあの子には 
あの人が大事に思ってた現、看守 
その人が大事に思う元・囚人 
一人で生きてきた私達は今、こうやって一緒にいて、まるで家族のように過ごす 

それがいかに尊い事か 
だから自分の迷いは捨てなくてはいけない 

「こんばんは。お招き有難う」 

いつも通りの”お姉ちゃん”の顔をして中に入る 
いい匂いが出迎えてくれて顔が緩む 

「あ、いらっしゃい!お姉ちゃん!!待ってたよ!」 

「あら、もう元気なの?無理しちゃダメよ?」 

「もー、看守さんもお姉ちゃんもそればっかりなんだから。俺だって男だしもう大丈夫だよ!」 

今は可愛い姿でもこの子もいつかはひげが生えたりおじさんになるのかと思うと時の流れは残酷だ… 
だからせめて今は 

「そう?あ、そうそう、これお土産ね」 

可愛らしい服とリボンを差し出す 

「おい…。お前また給料そんなことに無駄遣いして…」 

「良いじゃないの、可愛い子は正義なのよ。それに良いじゃない、可愛いんだから」 

本当に今のうちだけの特権なんだから楽しまなくて何をしろというのか・・・!! 

「はぁ…全く…」 

慣れたのか何だかんだで二人は許してくれる 
悪戯をするように目の前の人に囁く 

「そ・れ・に。本当は嬉しいくせに」 

あ、真っ赤になった 
本当分かりやすいわね、この男 

「そ、そんな訳ないだろ…!!!」 

「どうかしらね?」 

ニヤリ、と笑って黙らせる 
普通なら即刻逮捕もの趣味だろうが自分としては新刊ネタとして美味しいのでむしろ増長しても構わない 

「何のお話?」 

「ん?看守さんは貴方が好きって事よ、ね?」 

「ぐ…ま、まぁそんなとこだ…」 

「そうなんだ!有難う、看守さん。俺も大好きだよ!」 

「あ、有難う…」 

仲良きことは、美しきかな 

「それで?お食事はどうなってるの?」 

「あ!いけない!火元見なきゃ!!」 

あの子が慌てて台所にかけよりそれを即あいつが追いかける火からおろすのは危ないから自分がやる、とか過保護っぷりに微笑ましくなる 

ここにはきちんと幸せがある 
自分もこの輪の中にいる 

だから、寂しくなんて…ない 



「ご馳走様でした!」 

この子はきちんと躾られてるな、というのが分かる 
日々の事柄でそういうのはにじみ出る。大人として手本となるよう自分もきちんと手を合わせる 

「ご馳走様でした。とても美味しかったわ」 

「へへ、良かった!俺頑張ったんだ」 

「あら、有難う」 

「お姉ちゃん今日は泊まっていける?」 

「勿論よ。お姉ちゃんと寝る?」 

「うん!」 

微妙にあいつが渋い顔をしたのを見逃さない 

「そんな顔しなくたっていつもは貴方が一緒に寝てるんでしょ?良いじゃない一晩くらい。それとも貴方も一緒に寝る?」 

「ば…!バカ言うな!誰が!」 

「え?看守さんも一緒に?…俺はそれ良いなって思うけど…」 

あ、揺らいでる揺らいでる 
本当にあの子には甘いわね 

「…え、えと…それは問題あるだろ…」 

「そうかしら?この子が居るんだし」 

「~~~…!兎に角!俺は片付けするから二人は風呂でも何でも入ってろ」 

「はいはい」 

「…ダメなんだ」 

こういうとこはまだ子供ね 

「えぇ、そうね。私も一応女だしね」 

手出しをお互い心配してるわけじゃない。けど男女が一緒に寝るというのはむやみにする事じゃない 

「…そっか…。…あ、そうだ!俺お姉ちゃんに歌を歌うね!」 

「あら、有難う。看守さんにでも教わったの?」 

「え、えーと…うん、そう…かな?そう…?」 

歯切れの悪い反応が気になったけど折角の提案を受け入れない理由はなかった 

「そうなの。じゃあどうぞ、聞かせて?」 

「う、うん…!下手かもしれないけど…」 

ちょっと照れて息を吸い込んだ 
そして聞こえた歌は 


『またその歌?好きね』 

『何となくな。この歌を歌ってると、俺にも家族が居たって思えるし』 

『ナニソレ、バカみたい』 

『そうか?俺達はちゃんと人の腹から産まれてきたのは事実だよ?』 

『生まれただけじゃない』 

『だから、今ここに居るんだ』 

あの場所で生きてきた人間は大体家族を亡くしたか捨てられたかの人達 
その中であいつは、そういって家族を恨むでもなく笑った 

「・・・・・・・・・・っ!!!!御免っ・・・・!!!」 

「お姉ちゃん!!?」 


耐え切れなかった 
きっと彼はあの子の傍に居る 

近くに、居てくれてる 

それが何より苦しい 
悲しい 
……愛しい 

存在を感じるたび、何かを思い出す度募る思い 
あの人は亡くなった 
けど、そこに居る 

愛してる 

そう伝えてくれた 


傍に居れるかもしれない 
もう一度、隣で笑い合えるかもしれない 

それはあまりに甘美な誘惑だ 
それに対して払わなくてはいけない対価が大きすぎる 
あんないい子を、優しい子供を犠牲になんてして良いわけがない 

頭で理屈を何度も何度も並べて理性を保つ 

「……ふっ…」 

たどりついたのは…無意識だったのか、あの人の最期の場所だった 
あの時、あいつは私を庇った 
死神に魂を狩られるはずだった私を… 

「…い…あい…た…い…」 

零れる涙と思い 
一人、自分の体を抱きしめる 

「…こんな時間にこんな場所にいたら危ないぞ」 

ぶっきらぼうな声は私の求める人ではい 

「…分かってるわ。御免」 

止まらない涙 
困った気配を感じた次には何かが私の頭にかかった 

「冷えないよう被ってろ。…帰るぞ」 

よく見たら上着らしい 
これはあれなのかしら?見ないから大丈夫って事? 

「…似合わないわね」 

「…うるさい。あの子が心配してる。いいから引きずってくからな」 

そういって手首を取られる 
引かれるまま前に歩く 

「…ごめんなさいね…」 

「いや…。俺も…ごめん」 

「・・・何が?」 

「…お前が落ち込んでるのに気づくのが遅かった」 

「…貴方にそんなの求めないわよ、いくらなんでも」 

「…悪かったな。…でも、俺達だってあの子の家族みたいなもので…他人というほどじゃないだろ」 

はっきり家族というにはこそばゆい 
そう、今の私達はあの子で繋がる何か、大切なものが生まれてる 
それは恋情では決してない。ないけど、それでも 

「…ありがと…」 

一人逃げた帰り道、今はこうして迎えに来て手を引いてくれる存在がいる 
それがどれだけ… 

それがわかっててどうして 
どうしてまだ心は、あの愛しい人を探すのだろうか… 

----------------------------------------------- 
side 死神の後輩 


彼女は無事帰ってきた 
あの子もあいつの言いつけをちゃんと守って家で大人しくしていて一安心する 
彼らにはもう何もあって欲しくない 
あの子は単純に、喜んで欲しくてした行動で、彼女にもそれは伝わっている 

彼女はあの子に謝って、そして何でもないように一緒に眠った 

眠る二人の横にそっと降り立つ 

無意識に彼女から零れる涙を拭う。でもそれすら出来ない体しか持たない自分 

「御免…」 

愛している 
そうどれだけ思っても伝えるべきではなかったのだろうか 

でも、頭で分かっていても 
もう一度あの時に戻れてもきっと自分は言ってしまうのかもしれない 
それがより彼女を苦しませると知ってしまっていても 

『君が幸せであるように願う』 

歌の続きを口ずさむ 

『今はただ、遠く離れた貴方に…会いたい』 

それがもう、許されない事でも 


それでも… 




------------------------------------------------------------------------ 
終わり

bottom of page