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ここは滝井戸市 
故あり今はここに住まう人間だった異形が多く住む町。異能者は彼らを捕獲するのが役割 
当然異形はそれに抵抗して戦う 
戦いが日常の町だった 

そんな中、いつものように異能と異形との捕獲と抵抗の戦いの一幕があった 
戦いは引き分けに終わり、異能者が相手と話したいとの提案を異形の者は受け入れた 
二人は異形者が経営しているというお店に入る事になった 

異能の者は若そうな青年。異形の者は中学生程度に見える少女 
二人は共に店内に入り少女は相手に何を出そうか思案した 
「話するんだし強いのじゃダメよね。サワーじゃ軽すぎる?」 
その言葉に青年は目をきょとんとさせた。少女なのにお酒を…? そう思ったけど考えなおした。彼女はこんな幼い身でも体が変質してしまった人なのだ。きっと何かがあって一人でも生きていけるよう仕事しているのだろう 
彼女に普通の常識を当てはめどうこう言うのは失礼だ 
「いや、俺は残念ながら未成年だからジュースとかそういうのがいいかな」 
そう言ったら今度は彼女がきょとんとした 
「あら、貴方私より年下だったのね。高校生?」 
耳を疑った。けど異形体については未だにはっきりとした事が分かってない。もしかしたら生来の童顔なのかもしれないし。 
「年上でしたか…。失礼しました」 
言葉遣いをとりあえずなおす。いくら敵対関係でも人と人として話すのだからきちんとした対応は必要である 
「別に普通でもいいけどね」 
「いえいえ、年上と分かったからには…。あ、そうですね。まずは自己紹介からですね。俺の名前は如月帝と申します。19なので高校は卒業してます。異能として戦うのが生業です」 
と丁寧にお辞儀をする 
「ご丁寧にどうも。私は常世野蛍よ。で、ジンジャエールで良い?」 
「あ、ジンジャーはちょっと…どうせなら甘いので…ソーダとか」 
「了解。アイスもつけておくわね」 
「ありがとうございます」 
あからさまな子供扱いにも反応せずさらっと流す。若干味覚は子供っぽいらしい?けど戦う事を生業にした以上はなめてかからない方がいいかも、と少し蛍は警戒する 

「どうぞ」 
彼の前にメロンクリームソーダを出す 
警戒されるかと思いきや素直にそのまま口にする 
「美味しいですね。疲れていたので身に沁みます」 
「そう…。何か変なの入れられるとか思わなかったの?」 
「話したいってこっちが言ったのですよ? ここまで来た時点でもう腹くくってます。何があっても自己責任ですしね」 
「…そう」 
やりやすいようなにくいような。ちょっと不思議な子だと感じた 
「えと…常世野さん。えとまず何からお話しましょうか」 
「…なんか堅苦しいわね。別に蛍でもいいわよ?私も帝君って呼ぶし」 
「そうですか? なら…蛍さん?」 
「ええ。そうね…私もいざ話すとなると何から話せばいいのか分からないわね」 
「ですよね…」 
お互い知りたい事は多い筈なのに切り口を上手く見付けれない。帝はこの現状を変えたいと思っている。その為にもこの時間は無駄に出来ない 
「この街の現状とか…どうやって皆生活しているとか…」 
「まぁそこが無難よね。その代わりこっちもそっちの組織について聞くからね?」 
「当然ですね。俺は下っ端なのであまり有益な情報は持ってないですがそれでよろしければ」 
「…呆れた。自分の組織をあっさり売るの?」 
「売れる程情報を持ってないのも事実です。それに…俺は今のこのただ『人』を捕獲してそれだけの現状に腹がたっているんですよ…。異能の人達にそう感じてる人は多いですよ」 
「…そうなの。貴方たちは勝手に入り込んで勝手に捕まえるだけの存在かと思ったけど一枚岩じゃないって事ね」 
「そうですね…」 
客商売をしている自分は相手がどういう人かを見ぬけるだけの目があると自負している 
彼は少なくとも嘘をついていない。戦った時の感覚、その後の言動。彼は信頼出来る人だと思う事にした 
「そうね、今この街は…」 
話そうとした、まさにその時。帝からノイズ交じりの音が響いてきた 

「こちら作戦本部! 
 聞こえるか諸君、緊急事態だ! 
 死に……ければ、今すぐ滝井……から撤退……!! 
 ……ッションは……中止……!!!!」 

…一体何があったのだろうか? 
帝も信じれない顔をして慌てて無線を手にしてどういう事か聞いてみてみたが返答がない 
蛍は不安を感じどうするべきか考えていた。その時 
店の外から、とんでもなく不気味な咆哮が聞こえた。それは次第に大きくなり、あまつさえ地響きが加わった…!!!蛍は一番近くの窓に駆け寄り、大きく開け放つ。 
「ちょっと、何あれぇえええ!帝君も見てよ!」 
そこにはとてもじゃないけど異形にすら見えない未知の巨大な生物 
目に入ったものが一瞬信じられなかった。あまりの大きさに度肝を抜かれた。 
だが―― 
破壊されて行く家並み、慌てて逃げ惑う人々 
…蹂躙される街を眺めているうちに、ふつふつと怒りが湧きあがる。 
蛍の周りに、燐光纏う人魂のような焔が幾つも出現した。 
帝はそんな姿に少し吃驚しつつすぐ気を取り直した 

普通の事態じゃない。そしてあれを放置してはいけない。そう直感した 
「俺はあいつの元に向かいます!蛍さんは安全な場所に避難して下さい!」 
そんな場所あるかは分からないけど遠ざかればまた違うだろうと思った 
けど 
「なめないで。私もあれを放置は出来ない、行くわ」 
と言い切る 
彼女だってこんな場所で生きてきた人。自分と引き分けに成程戦う能力がある人。迷う時間が惜しく 
即断した 
「分かりました!手を。俺の能力で移動します!」 
彼の能力は体が触れ合っていれば多少人数が増えても移動は出来る 
彼女は帝を信じて即手を繋いだ 
帝はそれに感謝をして即、あの巨体の近場をイメージして影から影へ移動する 
あれだけの巨体だ。奴から近場の影を探すまでもなく近距離の、謎の生物が自ら作り出した陰に移動した 

その場には既に何人もの異能者やそれに異形の者まで 
「無理しないで下さいね!」 
今は互いにあの存在を止める時だ。そう言って武器を構えた 


そして戦いの火ぶたは切って落とされた 
あの存在が何かは分からない。もしかしたら異形や自分みたいな異能の者のなれの果ての可能性もある 
それでも、街を壊そうと暴れる巨体を何もせず放置するのは愚策でしかない 
自分の行いが正しくても、間違っていても今はあの存在を止める。そう決意して武器を繰り出す 

ふと、周りを見てみたら異能、異形共に戦う姿。知らず胸が熱くなる 
同じ人間同士こうやって手をとれるのなら、捕獲じゃなくて何か他の方法で今を変える手段があるのかもしれない 
それを考える為にも今は目の前の問題を片付けないと 
気合いを入れなおした途端、蛍の頭上に巨体の存在が暴れた際崩れた建物の瓦礫が落ちるのが見えた 
「危ない!」 
駆け寄り彼女と手を繋ぎ即影で移動する。今度は建物が近くない場所に 
「危険があったらすぐまた移動しますので蛍さんは攻撃に集中して下さい」 
冷や汗を隠し、何でもないよう告げ武器を構え直し、また攻撃を再開するのだった 

「あ、ありがと……」 
蛍にとっても瞬く間の出来事だった。もしあの瓦礫の下敷きになっていたら…そう思うとゾッとする。 
(――なかなか頼りになる子じゃない?) 
吊り橋効果なのか一寸かっこよ…いや、そんなことを考えている場合ではないと首を振った 
それよりも見よ。幸い他に人はいなかったが、瓦礫の下の花を、怪我を負った子犬を。 
「一寸の虫にも五分の魂ってね…!」 
小柄な蛍の身体の痣が発光し出す。 
デカいヤツの目…は狙わなかった。ここからではとても届かない。 
それは自分より火力のある誰かが、あるいは機転のきく誰かが、やってくれるはずだ。 
人魂はいったん収束し、次に細長い火柱に変化して、巨大な生命体の足の突起物に向かっていった。 
(――おできが痛そうだもの!) 
帝は彼女の心情には全く気付かず、彼女からの攻撃に目を思わずぱちくりさせた。引き分けになったのは…単に運がよかっただけな気すらしてくる 
越境者がこっちに向けて攻撃の仕草をしたからまた駆け寄り手を取り移動をする 
相手も信頼してくれたのか抵抗なく手を預けてくれるのが嬉しかった 


今度は攻撃の巻き添えにならない程度の距離に出た 
ふと、思った事が口から滑る 
「そうだ、蛍さん。落ち着いたらこの街、案内して下さいね。貴方と一緒にこの場所を見たいんです。今度は奢りますから」 
そんな発言を残してまた攻撃に向かう 
帝は単に、自分と話そうとしてくれた相手とこの場所を見たいだけ…なのかもしれない 
そして今のセリフが…(あれ?死亡フラグたてた?)と思わなくもなかった 

蛍はそんな発言を残されそれに加え尊敬の眼差し(?)を向けられて面映ゆくなる。 
実は蛍の炎の〝威力〟はそこまでではない。見かけは派手でも…要はハッタリなのだ。 
さっきの攻撃も〝おできにお灸を据える〟くらいできたかどうか。 
ただ、怒りのボルテージが上がるほどに威力が増すのも、また確かなのである。 
「落ち着いたら…」 
帝が残した言葉を反芻し、落ち着く日なんて来るのだろうかと考える。 
しかしふと、この子がもしこの世からいなくなったら、自分は〝怒る〟と思った。 
「帝、アタシは約束を守らない男は嫌いだからね」 
――皆で生きて帰ろう、異形も異能も〝境界〟のない場所へ。 
蛍は打ち上げ花火のように炎を飛ばし、例え威力がなくても、味方を鼓舞する一助になれば、と願った。 


そして戦って、戦って… 
何時間経ったのか緊張の連続で分からなくなっていた頃… 
歪んだ咆哮が滝井戸全体を震わせた。 
そして巨体は倒れた 

暫く誰もが起き上がるかも?と警戒していたけど、それなりに時間がたっても動く気配はない。誰かが勝った…?と呟いたのを切っ掛けに割れんかばかりの歓声があがった 
自分も嬉しさがこみあげてきて、やった!と声を上げる 

「蛍さん!やりましたよ!」 
手を取って喜びを示す。蛍はそれにちょっと戸惑い、戸惑った自分に更に戸惑った 
「え、あ、そう…ね」 
その反応にまずったかな?と思い帝はすぐ手を離した。 
「あ、流石に疲れましたか?お店の方に移動して休みましょうか?」 
「いやいや。ちょっと実感わいてないだけ。大丈夫。帝だって疲れてるでしょ?休むにしても移動はまだいいわ」 
「そうですね」 
流石に疲れてないなんて言えない帝は肩をすくめてそのまま地面に座った 
周りの沢山の異形と異能達は共に手を取り合い、喜びを表現している 
歓声が耳に心地いい 

「帝…。約束、忘れるんじゃないわよ?」 
「はい。絶対」 
そう言って帝は小指を差し出した 
「なかなか可愛い事しようとするのね」 
そう言いながら蛍も小指を絡める 
「いいじゃないですか。俺の方が子供なんですしおかしくないですよ」 
「変な理屈」 
そう言いながらも絡んだ指はまだ、離れそうになかった 



それから異能側に何があったのか、捕獲ミッションは中止になった 
どの道あれだけ共闘によって絆が出来てしまった同士、もう異形を捕獲出来る心情の異能者はそうそういないであろう 
復興作業に帝は尽力した。こういう方が自分に合ってるとつくづく感じる 
「よく励むわね」 
「蛍さん!こんにちは」 
「こんにちは。約束だから来ただけよ?」 
「はい。知ってますよ?」 
帝は別段変な勘違いしていないアピールをまっとうにしただけなのに蛍の方がちょっと不機嫌そうな顔をした 
「で?今日はどこ行きたいの?」 
「んー…あ、遊園地も見たいです。あー…でも遊べるならちゃんと休暇の日に一日かけていきたいですよね」 
「あら、お誘い?ませてるのね」 
「どうせ行くなら女性とでしょう!男同士も気楽でいいのですがね」 
からかうような言葉をかけてもさらっと流されてしまう。天然なのか素なのか掴みにくい 
「それに約束ですから。この街を回るのは蛍さんと一緒だって」 
「別に帝がそこまでこだわらなくたって…」 
なにか面白くなくてちょっと突き放すよ言ってみた。けれど 

「他の人じゃ意味ないですよ」 

その発言にまたちょっと相手が格好良く見えてしまった気がした 
「あの時約束したのは蛍さんだけですからね。さて、じゃあ今日はあっちの方行ってみましょうか!はい」 
影で移動する気満々の帝は躊躇なく手を差し出す 

「全く…。大した子よ、あなたは」 
蛍もそれに逆らわず手を繋ぐ 

ぎゅっと握りあう手に何の感情があるのか、まだ互いに分からない 




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