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 春の時だった。ステイリーさんは学院を卒業して職についた。

 私と結婚するまでの間何もしないのは出来ない、と言って資金をためる為も含め彼は仕事に就いた

 私はというと、半分卒業状態。薬学は時間があればまだとっている。けど残りの時間は全て研修に使っていた。私は試験を突破して魔法治療医師の仮資格を持てる事になったのだった。

 魔法が頭についても医者は医者。研修は研修。つまり物凄く忙しくなっていた…
 勿論ステイリーさんもお仕事をしているから忙しくなっている。つまり…同じ土地にいても会える時間がぐっと減ってしまったわけである…
 

 頑張って夜通信しても、ちょっとだけ会う時間を作ったりと頑張ってもいた。けど時間が合わないのがどうにもならなくて数か月間なかなかゆっくり会えなくなっていて…少しだけの寂しさが募っていくのが止められなかった…
 

 日々の楽しみの通信出来る時間。それなのに私は眠気と戦っている。お布団に横になりながら段々生返事になっていくのを止めれない

『ルリアさん?もう寝ますか?』
「んー…もう少し声が…聴きたいです…」
『でも眠そうですよ?』
「眠いのですが…まだ足りないです…」
 足りない。ステイリーさんが凄く、足りない。疲れていてもそれでも自分の中の大事な部分を埋めておきたい
『また明日も通信しますから。寝て下さい』
 せめて声だけでももっと聴いていたいのに、それすらも時間が許さない
「本当は…毎日でも顔がみたい…のに……」
 寂しい。その言葉をつぶやいたか、呟いてないかで私は睡魔に負けた

 後日。夜に頑張って時間を作って一緒にお弁当を買って私の部屋でもぐもぐご飯を食べていた
 一緒に居れる時間が久しぶりに取れてなんだか嬉しいなー…とまったりしていたら相手が何かを言いたそうにそわそわしている感じがする
 もしかして…あれかな…?いや、でも寮の部屋では流石にしにくいし…明日も互いに忙しい事を考えると移動してって言うのも言いにくい…。うう…なんか折角の婚約者なのに相手に好きなようになかなかさせてあげれない…
「ルリアさん」
「は、はい!?」
 ど、どうしよう?いや、でも婚約者である以上求められたらやっぱり…
「その…同棲…とか考えてみますか?」
 

 …………
「ルリアさん?すみません。急すぎましたか?」
「い、いえ!何でも!」
 …わ、私何考えていたんだろう…。恥ずかしい…。え、でも待って。今のって…
「……同棲ですか!?」
「ええ。僕達大分すれ違いが多いですし…」
 ……同棲…一緒に暮らすって事だよね…。え、それなんか嬉しいかも…。毎日そうしたら顔を合わせれるし…
「ただ、通学とかは寮の方がなにかと便利ですしその辺はよく考えて下さいね」
「え、えと…」

 少し考えてみる。一緒に暮らす。朝も夜も…疲れている時も一緒になるって事で…

 私の中で一緒にいたいという欲とちょっとした不安がせめぎ合う

 
「…少し自信がないかもです…。私…嫌な一面とか見せちゃうかもしれないです…。さ、最近疲れていて…片付けとかたまに半端なままにしちゃったりとか…していて…。がっかりさせてしまうかも…」
 正直に話してみたら頭を軽くぽんってされた
「そんな事気にしてどうするのですか。僕達は結婚するんですよ?将来一緒になるのなら互いのそういう部分含めて共有出来ないと」
 …正論だ…
「ガッカリすると思われているのですか?」
「う…」
 私の発言はつまりそう言う事。自分が信じれない事は相手の気持ちも疑う事に繋がっている
「すみません…。ステイリーさんがそういう人でないのは分かっているのです。けど…なかなか自信が…追いついてなくて…」
 あ、なんか泣きそう。相手を信じているのに相手が信じてくれている自分を信じれていない
 しょげて俯いたら頭を優しくぽんぽんとされた
「大丈夫ですよ。ちゃんと、ダメな部分も含めて受け入れますから」
 涙がまた溢れてきそうになる。ステイリーさんの言葉はどうしてこう私の嬉しいって気持ちを一杯にしてくれるんだろう…
「私も、ステイリーさんの全部をちゃんと受け入れます…!」
「有難うございます」

 …同棲か…。いいなぁ…。通学とか食堂使うのは確かに不便になりそうだけど…それ以上に一緒に居たい。顔が合わせれない時間が長くてどうしても物足りない
 それにいつかは一緒に暮らすようなるのなら…今から一緒に暮らして互いに生活の仕方のすり合わせをしておいて損はない

 …否を言う理由はなかったけど一つだけどうしても気になる事があった。

「ステイリーさん…。一緒にはいたいです!とっても居たいです!ですがその…一ついいですか…?」
「何でもどうぞ」
「…その前にお父さんに会って貰えないですか…?あの、反対はされてはないとはいえ…やはり直接会ってお話したいって言ってましたし…ちゃんと…許可を貰ってからにしたい…です…」
 お父さんにわざわざその、そういう関係性の進展については言っていない。ただプロポーズされた事はちゃんと伝えてある
 その上でお父さんは好きにしていいとは言ってはいたけど一回きちんと話をする時間をとりたいと言っていた。一緒に暮らすって事はやっぱりそういう進展をするって言うと同義だし…
「あぁ…それは確かに必要ですよね」
 ステイリーさんも納得したように頷く
「す、すみません…」
「何も謝る事はないですよ。僕も一回きちんとした挨拶が必要だと思ってましたし」
 優しく頭をぽんぽんとしてくれる。それだけでもこんなに心地いい
「…夏休みにまとまったお休みとれますか?」
「…申請すれば多分大丈夫かと」
「…もし、取れたら…私の実家…来て貰っちゃダメ…ですか…?」
 これは前々から考えていたこと。一回私の田舎をきちんと見て欲しかった
「勿論、いいですよ。僕も一度行きたかったので是非」
「…有難うございます…!」
「いえ、将来暮らす場所ですし、ね」
 ステイリーさんは…本当決めてくれているんだな…。私の田舎に来る事を、私と結婚することを…
「はい…!私の…私たちの故郷になる場所‥知って欲しいです…!」
「ええ、教えてください」
 ぎゅっと抱きしめられる。私も抱き締め返す。

 迷う事なんてないのかもしれない。きっと一緒に居る事で喧嘩とかすることもあるのかもしれない。けど、それすら乗り越えていきたいって思うから


 お父さんに許可を貰えたら、ちゃんと返事をしよう。一緒にいたいって

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