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 優しい愛を望む人、優しい世界を望む人、愛のある世界を目指す人 

 望むのは自由だし目指すのだって構わない。けど、それは私には違う世界なだけ 



 自我が出来るようなってから貰った親の愛はまずは毒に徐々にならしつつ、剣を握るのに慣れる事だった 
 この国は貧しい。どれだけ耕しても実る食物はほんの少し。鉱石だっていいのが取れる訳でもない。土地になにもない祝福無き場所。そんな場所で生きるには戦うしかなかった。 



 私がもう少し小さな頃、他国の学校に潜入した事がある。その場にあったのは物語だけで聞いていた温かな場所。友人と言ってくれた存在もいた。招待されたその家は暖かい場所と言えるようなところだった 

 私がそんな場所で感じた事は、ああ、なんて退屈で危機感のない場所なのだろうか…。それだけだった 
 友人と呼んでくれた存在、暖かかった場所、それ全てが戦火に巻き込まれる可能性を知った上で私は情報を持って帰りそのまま報告した。そして、その戦場に立ったのだった 


 それはきっと、親なりの愛だったのだろう。情に流されて死ぬことのないように。無駄な心配だったとは思うがまぁ親と言うのはきっとそういうものなのだろう。 
 …これを愛だというときっともっと平穏な場所で生きている人は理解が出来ないだろう。でも、この場に生きていく私に向けた愛なのかもしれない。でもそこにあるのは普通の愛じゃないくらいは知っている。両親、特に母親は私を戦闘させて手柄をたてさせる人形にしたいみたいだし 


 そんな心を満たすような愛じゃない愛(という名の教育)しか知らない自分が手にしたのは、愛し合おうという剣だった 

 〝愛″の形は人それぞれ。 
 人ですら形が違うのだから武器じゃそりゃあもうごそっと違っていてしょうがない 
 まず手にして初っ端からの台詞が 


「これから、そしてその先も、ああ、ああ、心から、愛しているよ」 


 これだ。愛とは一目で生まれるらしい。武器だから主人が特別と受け取ればいいのだろうか?それとも愛という俗物は初めからうまれるようなものなのだろうか? 
「そう、ありがとう…。愛されるって、まだ分からないけど…貴方が居てくれたらいつか分かるかもしれないわね」 
 まぁ所詮感情とういうのは思い込みから来るもの。愛していると言われ続けていたらいつかそう錯覚する日は来るかもしれない…多分 
「今は言葉だけ。心からの愛はいつかきっと。それはどうか、君に芽生えた時に」 
 ……待って、これは本当に心からの愛情とやらを手にしないといけない流れなのだろうか…? 分かる気がしない自分の背中に汗が流れる。この武器が気に入った。これがいいと思った。が本当に認められるにはまさか、こんなかなりの困難が待ち受けているとは… 
「そう。…心から……私にも、分かるかは分からないけど、試してみるわ」 
 こう答えるのが今の精一杯だった。武器を愛する…愛情かけて大事にはしているけど……物語の中のような愛情なんて理解が及ばな過ぎてどうしたらいいのか全くわからない 
「簡単さ。殺(あい)すれば分かる。それが至上。唯一の在り方だよ」 
 ……あいすれば分かる? 

 アネモネから俗に言う甘さとかそんな雰囲気を感じない。柔らかいものじゃなく、もっと鋭い殺意に近いものを感じた 
「……ねぇ、貴方の言う愛するってどういうことなの? 俗物的な恋とか愛と違うように聞こえてくるわ」 
「?……鮮血と共に、見るだろう?君も。胸に咲く赤いアネモネ。愛の印」 
 ……どう考えても鮮血という言葉は愛に相応しい単語に聞こえない 
 感情的に穏やかな愛を知らない自分でも知識がない訳じゃない。自分が知らないだけで普通の愛し合うのに鮮血なんて流れる機会があるのだろうか? 
「…鮮血…。キスマークなんて可愛い事言ってる訳じゃなさそうよね…。その胸にアネモネって血が出てるって意味でいいのかしら?」 
「キスマークだなんて甘ったるい愛じゃない。手に入れるなら仕留めなきゃ。愛して、愛して、あいして、殺(あい)して、……殺してあげなきゃ」 
 それが、愛。いつか君にも」 

 ……ころす 
 ああ、そうだ。彼は武器だ。愛の表現が自分達人間みたいな生をうむ意味な訳がないじゃないか 

 相手は武器。人と違う。けど…… 
 私だって普通じゃない。普通の愛を知らない。戦う事しか知らない。そんな私だからか…。いつか、殺される。そう聞いてむしろ、心を掴まれた気がした 
 そして、安心した。分からないものを理解する必要なんてなかったと分かって 

「……いいわね、そういうのならわかるわ。戦いの中の時だけ、相手と本気でぶつかれる。知り合える。甘い愛よりそっちのが分かるわ、私。あの時の胸の高鳴りを愛と呼べるのなら…私も人を愛している人になるのかしら」 
 戦いの中でだけ感じれる充足感。戦う相手に感じるあの感情 
 あれを愛と言わないなんて誰が決めれるのだろうか?むしろ甘ったるい穏やかな感情よりずっと、ずっと理解出来る 
「でもとりあえず、まだ私貴方に切られる意味でやられる気はないからね」 
「ふ、ふふ、ふ、ああ、良かった。君も、わかってくれた。そう、君も人を愛している。同じように、僕は君を愛している。愛したい。だから…それまでは、他の人を愛そう。君が最期になったら、その時は、心からの愛を贈るから」 

 狂気とも呼べるその言葉に、ぞくっと来た。でもそれは恐怖じゃなくむしろ私の心を強く惹きつけるものだった 
「そう、それなら…いいわ。人を愛していきましょう。でも弱い人間つまらないから嫌よ? そして最後は…貴方に見送って貰えるのね。いいわ、私の最後は貴方にあげる。きちんと愛してね」 
「ああ、愛するよ。僕を使って人を殺してくれる限り。そして、最後に君を愛させてくれる限り。手放さないで。僕の愛は此処にある。君の傍に、何時も」 
「ええ、私は戦う事が私の存在意義なの。だから力尽きる時まで、貴方は私の物よ。最後までよろしくね」 
「ああ、最後は必ず僕が。もう何処にも行かせない。愛して、愛されて、向かおう」 
「えぇ。どこにも行かないわ」 
 死ぬときは愛されて終われて、一人じゃないって思えれるのは悪くない。 
  
 私は傭兵以外の生き方を知らない。戦う為だけに生きて死ぬ。それでいい 
 年を取って戦えなくなる自分の姿なんて想像も出来ない。そんなのは耐えれない 
 ならいっそ、この狂気にまみれた武器を手に、いつか殺して貰うまで戦って、愛しあって生きればいい 


 殺す事、それが彼にとっての愛なら私もそれがいい。 
 そしてきっと、普通の人が抱くのとは違う愛をもって死んでいくんだ 
 それでいい。それがいい 

 私と彼が作る愛の形は、きっと血塗られたもの。それが酷く、私には甘美に感じられた 




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 新しい主、僕の新しく愛する女性、白 
 彼女は愛を知れるか不安そうにしていたけど、他人と愛しあうあの感覚を理解してくれていた。だから大丈夫。彼女は愛を知っている 
 今までは僕が愛を囁くとそれに耐え切れず手放した主ばかりだった。けど、白は違う。白はそれを知って、それでも大事に大事にしてくれる。 

 彼女と立った戦場はとても素晴らしい愛が咲き乱れた。最初は意思をもつ武器という特性に戸惑う気配もあった。けど勘がいいのか段々上手く使うようなってくれた 
 彼女を血で染めげるのは僕だけでいい。彼女が危ない時は自分も動いて白のまま、綺麗でいさせる 

 あぁ、美しい赤い花が咲き乱れる場所でも白い彼女はなんて美しいのだろうか 
 そのままで、綺麗な白のままでいてほしい 
 いつか、僕がその胸に花を咲かせるその時までどうか 

 僕の綺麗な白。愛する白。いつか、その胸に愛を捧げる日を楽しみに待っているよ 
 今は、共に人を愛そう 
















 ・・・・・・・・違う、愛とは、モット・・・・・・・・・・・・・・・ 



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 いくばくかの時間を過ごして、いくばくかの戦闘を共にこなした 
 意思を持つ武器なだけに最初は戸惑う場面もあったけど慣れてくれば息を合わせて戦える相棒でとても心強い 
 街中に出る時も一緒についてくるから下手なナンパにあわなくなったのも助かっている 
 アネモネをくれたりするけどどうしても花に興味がわかなくて、わりと枯らしてしまっているのは…ご愛嬌だ 

 今日も今日とて他人と愛(殺)しあった後。多くの人といるのが面倒で少し離れた場所で二人で休憩していた時。 
 アネモネは私に、とバレッタを差し出した 

「君を愛する人が僕だけになりますように」 
 そう言って差し出したそれは、アネモネの花がついた髪飾り 
「…この国の中で愛をそんな言うのは貴方くらいよ。安心しなさい」 
 そう言いながらもそれを受け取る。今日はわりと白いまま戦いが終われて気分がよかったのもあってなんだか嬉しく感じる 
 頭の後ろにつけてみる。当然自分からは見えない 
「どう?変じゃないかしら」 
 日頃あまり飾りをつけないから上手くつけれなくて斜めになってそうな気がしてくる 

「うん、似合う」 
「…そう」 
 アネモネはこう、たまに大型犬みたいな懐き方してくる。他所の男がやってもそれは多分気持ち悪いだけ。けど彼は私の武器で、私は主で。大事にしあうのは当然で 
 嫌だと思わない。相手が人でないから素直に受け取れるなんて私はなんてひねくれているのやら 
「白、愛しているよ。今日も、これからもずっと」 
「……えぇ、知ってるわ」 


 何度も何度も言われた言葉。何度も殺したいって言われているはずの言葉 
 なのに、なんでか気持が少し落ち着かなくなるのはどうしてだろうか 
 命の危険を感じているから? でもそれ位の方が私を惹き寄せる。ただの優しい愛とやらよりずっとずっと 

 私が今、惹かれているのは、剣に? それとも? 
 それはいつか、胸にアネモネを咲かせて貰う時に分かるのだろうか?   
  

 その時に私は、彼を愛していると言えるのだろうか? 
 そしてその愛は、主として? それとも? 

 今わかるのは、これはきっと私が愛を知る道のりだってことくらいだった

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