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 ある日の青海家にて。 
 亜金は髪をきちっと結い上げて満足げに鏡から離れた。やはり同居人に男の子がいるというのは女子にとっては大きな事で、何となく、気合いを入れて身だしなみを整えてしまう 

 無意識に意識しているのには気付かないまま、可愛いなんて思ってくれたら嬉しいなんて心の奥で願ってしまったりもする気持にも気付かないまま 


 宇尾に会った時、自慢の金の髪をかきあげつつ挨拶してみて言われたのは 

「おい亜金、寝癖がついてるぞ。ふっ、あんたそんなのにも気がつかないの。」 

 これだった 
 顔が一気に熱くなった。寝癖なんて、直したはずなのにまだ残っていたなんて…!そしてそれを馬鹿にされたと思い気持ちが一気に爆発するように沸騰した 
「なっ…! 私でも寝ぼける事位あるのですのよ! 宇尾のばーかばーか!!!」 
 思わず照れ隠しにぽかぽか殴りかかる 
「いーーーだ!! 乙女に対して無神経ですの!」 
 かなり八つ当たりに近いが気合い入れて整えた身だしなみについて言われて、どうあがいても気持ちがおさまりがつかないのである。 
「ふん。折角、俺が親切に教えてあげたのに何だよ。そういう亜金の方がバカなんじゃないの? 
 そんな攻撃効かねーよ!べーーだ。」 
 宇尾もそれをかわすように受け流してべーとしてくる。亜金はそれに対して増々顔を真っ赤にしていった。 
「言い方ってものがあるんですのー!! ばかばかー!! 宇尾のがばかですものーだっ!! これは手加減してあげてるだけですものー!!! ばかー!!」 
「へー、じゃ本気でこいよ。まぁ、弱い亜金には俺に勝つのは無理かもだけどね。」 
「む。私がその気になれば宇尾なんてこてんぱですことよ! でも私は淑女ですの! なので本気で殴ったりはしませんの!」 
 これだけ寝癖の指摘一つで突っかかっておいて淑女も何もないだろうが全力で横に置いておくしかない。 

「ふん、俺の方が強いし。てか、亜金は淑女というよりは騒がしいおバカ娘だろ。いつもポカポカと俺を殴ってくるくせにね。」 
 普通に考えれば全く持って宇尾の言う通りであろう。けどおバカと言われるのはやはり頭にくるのが亜金だった。 
「む、私が本気出せば宇尾なんて三十秒ですもの! というか失礼ですわー!殴らせてるのは宇尾のせいじゃないですのー!ばかばかー!」 
「ふん、亜金の本気なんて全然怖くないもんね。べーだ。バカなのは亜金の方でしょ。俺が本気を出せば亜金なんて…。まぁ、でも俺の方が大人だし主人を困らせたくないから手を抜いてあげてるんだよ。俺に感謝して欲しいぐらいだよ。」 
「あらまぁ、私だって宇尾の本気なんて怖くなんてないのですことよ! 奇遇です事ね! 
 主様に心配かけないなんて基本で威張る事じゃないですのよ? 感謝なんてする余地がございませんわ」 
「へぇー、本当に亜金は意地っ張りだな。それじゃ、男にモテないんじゃない?ってか、こんな高飛車な奴になんて来ないか。ぷぷ、可哀想そうな奴。」 
 心がズキンと、痛む音がした。高飛車なのは自覚があるが宇尾にそう言われるのが嫌でしょうがない。目に涙がたまる。 

「宇尾にだけは言われたくないですわ! 意地っ張りで意地悪が追加じゃないですの!わ、私はちゃーんともてますわよ!失礼ですわね!!(嘘) 
 宇尾こそもてないでしょうね、絶対に! 意地悪ばっかりですものね、ほーほほほ」 
 もうこうなったら意地とやけくそだった 
「ふん、俺も亜金にだけは言われたくないね。あとごめんだけど俺亜金よりもてるし。一昨日だって遊びに誘われたしね。あーあ、亜金と喧嘩するより他の子と遊んでこようかな。それにこんな高飛車な女よりも可愛い子はいるしね。」 
 宇尾の頬ペチンと叩いた。 
「……勝手に行けば良いではないですの!? どーぞ! 可愛い子といってらっしゃいませ!!!」 
 宇尾も宇尾で頬を叩かれ怒りが込み上げたが流石にそこはぐっと押さえ込む 
「あぁ、そうするよ。じゃあね」 
「どうぞご勝手に!」 

 そして亜金は金魚に戻って水槽の水草にすいーともぐっていったのだった。

 

 

  宇尾が外に出て、暫く経った頃、彼は少しずつ冷静になってきていた 
「…はぁ、ちょっとやりすぎたかな。う〜ん、どうしよう。」 
 宇尾は自分の行動をやりすぎたなと反省し、他の子とは遊ばずブラブラと、亜金が喜ぶようなものを探しに行っていた。 
「りんどに相談しても良かったけどこういうのは自分で探さないとね。何がいいかな…?」 

 歩いているうちに見つけたのは黄色い小さな花。 
 彼女を思い起こさせる色味だった。 
 (あ、この花綺麗だな。…悔しいけど、あいつに似合いそうだなって一瞬思っちゃった。はぁぁ…、なんで近くにいないと途方に寂しくなるんだろう。それなら喧嘩なんてしなければいいんだけどついからかっちゃうんだよな。) 
 宇尾はため息をつきつつうなだれた。つい、やってしまう。分かっていても。 
  
 (…うん。この花、摘んで帰ろうっと。そしてまぁ、俺も少しは悪い所があるし…謝ってやるか。よし、お腹も空いてきたしの帰ろうかな。あいつ今頃何してるかな) 



 ……一方、亜金は暫く一人で水槽の中でいじいじしていた。 
(宇尾のバカ…ばかばかばーかばぁあああああか!!) 
 強く胸が痛むのはどういう訳なのか。目を閉じてごろごろする。 

(ふんだふんだ!大人しくてかよわーいことキャッキャしてればいいのですわ!その方がお似合いです事よ!……ばか……) 
 暫くそのままふよふよ泳いでいたが、やはり退屈になってきてしまう 
 (…退屈ですわ…。宇尾は今頃… 
 考えたってしょうがないですもの!あーもう!やめですわ!ちょっとお散歩して気を晴らしますしょう!) 


 とりあえず人型になって外へ出る。 
 最初にいたおっちゃんがいたかつての場所覗いてみた。話を聞いてほしくて。でも誰もいなくて増々寂しくなってしまった 

 (はぁ…。なんだか帰る気分じゃありませんわ…。宇尾がその内お嫁さん連れて来たらどうしましょう…。私の居場所なんてきっとなくなって…) 
 その先の未来を想像してじわじわ涙が出てくる。そしてむかむかもしてくる。 

「宇尾のバカー!! ですわー!!!!」 
 そうやってこぶしを盛大にあげた。 
  
 宙を切るはずだった拳は誰かにキャッチされた。 
「おっと、凄い力。バカで悪かったな。」

 宇尾はでも、その手を何となく握ってみた

「てか、お前って俺より手が小さいんだ。それになんか細いし…」 
 なんか、言われている気がするが、そこにいたのは紛れもなく喧嘩していた相手だった 
 亜金は意味が分からなくて口をパクパクさせる 
「… …はぁ、まぁ俺にも非があったし、そのごめん。俺言い過ぎた。ついムキになっちゃって。 
 …っ、こ、これやるよ。そのお詫び。」 
 そう言って、宇尾は少し照れながらも摘んできた黄色い花を目の前に差し出した。 

 しかし亜金は理解が追いついていなかった 
「え!? ちょ、う、宇尾!? 貴方一緒に遊んでいる子はどうしたのですの!? おいてけぼりにまさかしてますの!? それは最低ですわよ!? え? お花? えええ? いや、それよりも…相手のとこに行ってあげればいいじゃないですの、馬鹿!」 
 亜金は本気で他所の子といると思いこんでいる。故にその相手を放って自分と話していてはいけないと真面目に考えた 
「はぁー…。ちゃんと相手には断りを入れておいたよ。あの言葉はついムキになって言っただけで最初から別に誰かと遊ぶつもりはなかったしね。どうこれで納得した? 
 あと勘違いしてそうだから言っとくけど遊びに誘われたの男友達だから。何、俺が可愛い子と遊んでいるとでも思った?」 
「……ちょっと待ってですわ」 
 亜金は理解するのにしばし頭整理の時間が必要だった 

「まぁなんか分かった気もしますが… 
 なんか腹がたつのはしょうがないですわよね?私。したがって一回殴られなさい」 
 笑顔で握りこぶしを作り拳をぽきぽき鳴らした。 
「ふっ、やぁ俺一言も女の子とは遊ぶとは言ってないし。勝手に勘違いしたの亜金だからね。えー、まじか。うーん、嫌だけどしょうがない、これをやってみるか。 
うっ…、亜金お姉ちゃん僕を殴るの?」 
 涙目をしながら可愛い声で言われて…亜金は白い目になった 
「………すー…はぁ!!」 
 力の限りのチョップをお見舞いした。あれで許せたらそっちの方が吃驚する 
「とりあえず色々言いたいですがこれだけは。気色悪いですわ、宇尾」 
「イッテ。ちぇ〜、友達に涙目で可愛い子の振りをしたら大体許されるぞって言われたから試し半分でやってみたのに。これやっぱり嘘だな。あーあ、やって損した」 
「…どこから聞いたか知りませんがそういうのをやって許されるのはご主人様みたいな可愛い人くらいですわよ、宇尾…」 
 と可哀想なものを見る目で相手を見ておいた 
「確かに冷静に考えたらそうだよな。まぁ、そんな目で見てくる亜金には絶対にこういうのは似合わなそうだ。だって、生意気だし高飛車だから可愛くないしな。その顔ムカつく。バーカ」 
 額に軽くでこピンされてちょっと睨んでおいた 

「…あと勝手に勘違いって…あれが男だと思う方が不健全というか…貴方まさか…男のが可愛いっていいたいんですの?」 
 流石にそれは…と全力で引いた 
「ま、まぁ人の趣味をどうこう言うつもりはないですわよ?いくら私でも…」 
「はぁ…!? まさか俺だって健全な男だしさすがに男のことは可愛いとは思わねーよ。勝手に勘違いして引かないでくれる? てか、早くこの花受け取るか受け取らないか決めて。いらないんだったら別の誰かに渡してくるし。」 
「……宇尾、それじゃ落第点ですわよ。女の子に花を贈るのにムードも何もなく他の子にあげる宣言なんて。 
 まぁ宇尾はお・こ・さ・まですからしょうがないですわね。私が折れてあげますわ」 
 手から花を奪い取る。黄色くて可愛らしくて、これを魚が選んで摘んだのかと思うとちょっと笑えて許せる気がしてきた 
「花に罪はないですものね。可愛いお花じゃないですの」
「なんだよ。それじゃ、『麗しいお姫様、どうかこの花を受け取りください』みたいな胡散臭い言葉でもかければ良いのか。そういう、亜金も大概お子様だけどな。ふっ、なんだよ。最初から素直に受け取れよな。そりゃそうだろ、お前をイメージした黄色の花を摘んできたし。変な色の花を取ってくるわけないだろ。 
 …りんどが心配しそうだし、帰るか」 
「まぁ…そんな胡散臭い言葉言われたらまず熱を測ってあげまないとですわね」 
 自分のイメージと言われて改めて花を見て、まんざらでもない気持ちがしてきて顔にやけてくる 
「そうですわね、本当ご主人様が心配しますしこの辺にしておいてあげますわ。それに私も大人げなかったですしね。…悪かったですわ」 
 宇尾は照れるようにそっぽを向いて歩きだす 
「ほら、早く来ないと置いて行くぞ」 
「ここで置いて行こうとします? まったくー!」 
てってと後ろから小走りでついていく。胸に大事そうに花を抱えながら。 
「ふっ、ほんと素直じゃないやつ。」 
 宇尾はそう小声でつぶやき、小走りでついてくる彼女を少し待つ。 

 そうして、2人は共に主人の待つ家へと帰ったとさ。 



めでたし、めでたし。 




後日〜 


「宇尾〜!この間皆で遊びに行くのなんで断ったんだよ。せっかく可愛い子も偶然来てたのにさ。 
みんなお前目当てだったぜ。くっそー、お前生意気なくせになんでモテるんだよ!」 

「知らないよ。そんなの俺に聞くな。それに俺は用事が入らなければ遊びに行くって事前に言っただろ。ちゃんと人の話は聞いとけ。」 

「でもさ〜、おかしくない?お前はモテて、俺がモテないって!」 

「お前のその行動と言葉をもう一度改めて見直せ。モテたい、モテたいばっか言ってたら女子も流石に引くだろ。」 

「はっ!確かに。宇尾、天才だな!」 

「お前がバカなだけだろ。」 

「それにしても宇尾さ、好きな奴いるの?この間も告られたけど断ったじゃん。」 

「そういうの興味ねーよ。それに今はそんなことよりもあいつをからかったりするのが楽しいんだ。」 

「?あいつって誰!何、女子?それも可愛い系か?なぁなぁ、詳しく教えてくれよ!」 

「はぁ、言うわけないだろ。ふっ、秘密。」 

「わぁーー!!めちゃくちゃきになるんだけど!」 


こうして今日も案外仲の良い友人と話す宇尾であった。

​※相方さん寄贈画像。感謝です

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