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side ルリア 


始まりは、お父さんから受け取った手紙だった 
私はそこに書かれていた内容に悩んでいた… 

「…困った困った…。…どうしよう…」 

そんな事をつぶやきながらラウンジ周辺をうろうろしていたら見慣れた人が軽食を食べてる姿が目に入った 
…こうなったらダメ元…!私は彼に悩みをぶつけてみることにした 

「…!ステイリーさん…そ、その…お願いが…。えと…その…大変申し訳ないですが… 
 わ、私のお父さんに会ってくれませんか!!!??」 


ステイリーさんは一瞬固まった 

「!!??い、いきなり何を言い出すんですかルリアさん…!!」 

「い、いえ…その…今度お父さんが薬と本を買いに近くまで来ると言ってまして… 
 それでその時会う約束したのですが…友達を紹介して欲しい、と…。エリザさんもリュンヌさんもクローシアさんも今忙しそうで頼みにくくて…それで…と 
 …駄目…です…よね…」 

いくら親しくしていても…流石に親に会うのは…やっぱりハードルが高いだろうし… 
友達…友達…他に誰を紹介すれば良いだろうか…? 
…女友達の少なさが恨めしい… 

「そ、そういうことですか… 
 僕で良いのでしたら別に構いませんが…。丁度レポートも論文も終わったところですし」 

そんな事を考えていたらまさかの肯定の言葉が返ってきた 

「本当ですか…!?ではお願いします…!来週末に学外で悪いのですが出てすぐの商店街で待ち合わせで大丈夫ですか…!?私先にお父さん迎えに行くので…!宜しくお願いしますね…!」 

「わ、わかりました…。あの、本当に僕でいいんですか…?」 

ステイリーさんは心配そうに尋ねてくる 

「は、はい…!大丈夫です…!友達としてステイリーさんの事も手紙に割と書いてますし…!」 

そこでふと私のお父さんの性格を思い出した 

「…あ…あの…お父さんその…無口な方と言いましょうか…。仕事以外の会話が苦手な方でして…。か、会話…うまく…続かなくても気にしないで大丈夫ですので…!…す、すみません…」 

…不安にさせてしまったかもしれない… 
でも他にどうして良いのかわからない 
ここは素直に好意に甘えよう 

そして当日、私は港まで出迎えに行ってお父さんと久しぶりの再会を果たしたのであった 

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side グレイ 


娘からの手紙で冬に帰省はしないと聞いた 
国に帰るまではいいかもしれないが田舎村では港から村まで下手すれば数日、上手くいっても二日はかかる道のりをその期間で帰るのは大変だろうし私もそれで良いと思う 
今回出てきたのは新しい薬と本をたまには遠出して手に入れようと思ったからだ 

いつも仕事しかしてないしたまには暫く休んだっていいと周りも賛成してくれたのに背を押され、どうせならと娘の居る場所の近くまで来たわけだ 

自分にはアールトルーナは絶対見えないし入れない 
なぜなら生まれつき魔法が使えない体質だからだ。なので娘には外に出てもらうことにはなったが…実に…どのくらいぶりなんだか 
本当に久々の再会だ 

「お、お父さん…!久しぶり…!」 

「…あぁ」 

…良かった、元気そうだ。手紙で友達が出来たと報告してきて以来明るくなったと感じてはいたが… 
少し大人っぽくなった気もする 
髪に光っている星が目立って印象的だ。…確か友達に貰ったと聞いた 
…しかし…本当…母親に似たものだ… 

「…え、えと…ね、友達、来てくれたんだ…!紹介するね」 

前に送った手紙で出来るなら紹介して欲しいと頼んだ 
…良かった…。ちゃんとそういう友達作れていたのか… 

「…そうか」 

来てくれる人が居るだけで自分としては満足した。その子には何か奢ってあげて…少し話を聞けたら上々だろう… 

「よく手紙で書いてる人。ステイリーさんって人だよ」 

……………………。 

………いや、思考停止してる場合じゃなくて…! 
男が来る…だと…!?な、何だって…!?これは実はあれなのか…!?これを機に…か、彼氏の紹介をするつもりなのか…!?お、落ち着け自分落ち着け自分…!!!この年頃ならおかしくない!おかしくない…が…心の準備が…! 
い、いや…もしかして娘を外に出した時点でそういう心構えをしなくてはいけなかったのか!? 

…落ちつけ。落ちつけ落ちつけ…!ここは男親としてどっしり構えてあげなくては…!! 
ス、ステイリーさん…彼か…ルリアの手紙に一番名前がよく出てくる… 

「…そうか…」 

内心で物凄い冷や汗をかきながら、あの子の先導についていく 

「うん、行こう…!」 

親の心子知らず… 
そんな内心に気付かないルリアは無邪気に、嬉しそうに前を歩く… 
い、いきなり…お義父さん…娘さんを僕に下さいとか言われたら…どうしようか… 
それはないと…思いたい… 



目的地についた頃には平静を装っていても胃が痛くなりそうだった… 
ルリアはやはりそんな私に気付かず嬉しそうにそこに居た人に駆け寄る 

「あ、居ました…!お待たせしましたステイリーさん…!紹介します!此方が私の父です」 

そこに居たのは普通そうな、紫のくせっ毛でモノクルをつけた青年だった 
…平服か…。いきなり嫁に下さいではないようだな…良かった…。…確か…ルリア曰く真面目で優しい人だったか… 
そしてルリアは…多分この人が…そうなのか…違うのか…。先ずは相手の出方を見るべきか… 
そうだとしても…ルリアの為ならちゃんと挨拶をしてやるべきなのだろう。が…上手くいくのかどうか… 

「…初めまして…。グレイと申します。…いつも娘がお世話になってます。本日はご足労頂き有難うございます…」 

…我ながらとっつきにくそうな挨拶だ…。私が原因で二人の関係がおかしくならないよう気をつけなくては…。どっちにしてもルリアがこっちで初めて作った大事な友人には変わりないのだから…! 

相手は立ち上がり頭を下げる 

「初めまして、ステイリー・ニグットと申します。こちらこそルリアさんにはいつもお世話になってます…。その、今日来たのが自分でさぞかし驚かれているとは思うんですけど、他が都合がつかなかっただけでそれ以上の他意はありませんので…!」 

…ちゃんと挨拶出来る相手でとりあえず一安心する 
…しかし…わざわざ言うのはどっちだ…?ダメだ分からない… 
一応言葉通りに取っておこう…精神衛生上の為にも。…ルリアはでも…多分…好意があるん…だよ…な…?だめだ、これも自信がない…。とりあえず様子見するか… 

「…そうですか」 

…何か会話をしなくては… 
とりあえずルリアと席についてメニューを開き水を置きに来た店員に注文を告げる 

「…ホットで…。ルリアも注文」 

「あ、う、うん…!…紅茶で…」 

先ずは何から聞くべきか…ダメだ、頭が真っ白になってる…! 

「…えと…娘と親しくして頂いて…有難うございます…」 

…とりあえず出だしとしてこの程度が無難…だろう… 

「あぁ、いえ、こちらこそ…友人が病院に入院しているんですけど、その友人がいつもルリアさんにお世話になっていて…。ルリアさんと知り合ったのもその友人の病室なんです…」 

人が良さそうに微笑みながら話してくれるのに安堵を覚える 
…えと…ルリアからの手紙で聞いてると言うべきなのか?いや、普通に返せば良いんだ 

「…そうなのですか。ご友人の回復をお祈りします…」 

「ありがとうございます…」 

…まずい、本当に何を話せば良いのか分からない…!! 

「あ、あのね!手紙にも書いたけどステイリーさんの魔法凄いんだよ!私も少しは出来るようなったし…あ、見る…!?ちょっとした映像出せるよ?」 

ルリアは言葉が途切れたのを心配したのか一生懸命私に話しかける 
魔法か…この子は確か魔力容量が少ないんだし…きっと魔法を使うのは疲れやすいだろう…。疲れさせてまでは… 

「いや、いい」 

「…そう…」 

そういってあからさまにルリアはしょげた 
…しまった。空気を重くした…。…話題を変えよう… 

「…学園生活…ルリアはどうです…上手くやってますか…?」 

…いや、三者面談じゃないんだから…!しかし他にどう聞けば…!? 

「……。え、あ、そう、ですね。学科も所属寮も違うので授業や寮での事はあまりわかりませんが…薬学も医学も頑張っているようですし魔法も前よりも使えるようになりましたし… 
 あと本の貸し出しとかもやってて結構評判なんですよ。親しい友人も出来ましたし…最近は料理も先生に教わったりしていて腕をあげ―――」 

「…そうなのですか…‥…」 

カップを持ったまま一瞬硬直した 

料理…!? 
その言い回しはまるでこの子の手料理を食べてるようじゃ… 
いや、幼い頃からやらせてしまっているんだ。味は問題ない。それは保障出来る 
いや、だから問題はそこじゃなくて…!友達に練習で作ってるとは聞いていたが… 

「あ、そうそう。食べて貰ってる一人がステイリーさんなんだ…!」 

…普通異性の手料理を練習の付き合いの為とはいえよく食べたりするのか…!?今どきの子供はそれが普通なのか…!?や、やはりこれは…隠したいだけで彼氏…なのか…!? 

「…そ、そう…か…」 

カップを置く時なったカチカチという音がやたら大きく響いた気がした… 


「…ちょっと、すみません…!」 

ルリアはそう言って席を立つ。しかしちょっとしてすぐ戻って来た 

「御免、お手洗いこのお店の故障してるって…!ちょっと先のお店行って来て…いい…?」 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・二人きり・・・・・・・・・か・・・・・・ 

「…あぁ。我慢しないで行ってきなさい」 

「うん…!ステイリーさん済みません…!」 

そう言ってあの子はぱたぱた走り去る 
……ど、どうする自分!? 

「……………ステイリーさんは…ルリアと…その…本当に親しいのですね…」 

いや、この言い回しじゃ駄目だ…!仲を疑ってるみたいじゃないか…! 
…それより本来の目的を果たそう、そうしよう、そうするべきだ。よし 


「その…其方から見たルリアの印象を…教えて頂けない…ですか…?」 

探ってる…つもりはないが…そう聞こえるだろうか…? 
ルリアが居ないうちに知りたい事を聞いておきたい 

「…………い、印象ですか…?印象… 
 …一所懸命で優しい人、ですかね。そして少し不器用で、放っておけない人…です」 

「…そうですか…」 

…いかに日頃あの子を見てなかったかわかるな…。放っとけない…か… 
…自分はルリアの印象すらあやふやで…どうしようもない 

「…有難うございます… 
 あの子からどう聞いているかわかりませんが…お恥ずかしながら…私は親としての務めを果たせていないのです… 
 見守って下さる存在が…居るというのは本当にありがたいです…。友達と遊ばせてもいなかったので…ちゃんと浮かずに…いれるのか心配でして… 

 …最初は…淡々と講義の内容についてしか報告してこなったのです…。それが貴方の名前が出るようなったら…少し明るい雰囲気になって…エリザさんと璃王さんの名前が出るようなったらもっと明るくなって…。…娘は貴方のおかげと言ってました…。本当に…有難うございます…」 

有難い…。有難いが…やはりこれは彼氏なのですか?と確認するべきなのか…!?しかし違ったら…。やはり向こうの報告を待つのが正解なのか…!? 

「そうだったんですね…。僕はただ、切欠を与えただけです。ルリアさんが変わったのはルリアさんの努力があってこそですから。病院でも慕われてますし、学院でも友だちを増やしていってますし…私も助けられてばかりです」 

…あの子が変わった…か 
自分を変えるのは自分しかいない。だから本当明るくなったのはルリアの努力の賜物なのだろう 

「あと…こんなことを言うのは不躾かもしれませんが、手紙ではなく友だちにでもなく、ルリアさんに直接聞いてみてはどうでしょうか。…親としての勤めを果たすのは、今からでも遅くないはずです」 

さっきの自分の言葉に何か感じるものがあったのか、ルリアの為の言葉が彼からこぼれる 
…直接…か… 

「…それは…なかなか難しいのですよ…。…ルリアには長年放ってしまった負い目もありますし…あの子は…亡くなった彼女に…」 

…妻に…似すぎていて…まだ、正面から見れない… 
情けない話だ。けど…自分のたった一人の相手を医者である自分が病に気付けず、手遅れにしてしまった。未だに消えない後悔と自責の気持ち 
これはきっと一生拭えない 

そしてその彼女を鮮明に思い出させるルリアの姿。性格までルリアは覚えないはずの彼女を思い出させる 
…それが…辛い。自分勝手な感情だ 

それで子供を放置してきてどうしていいか分からなくなってる自業自得の状況である… 
あの子が寂しかったのに今更気付いてもどうにも出来ない 

「…いえ、何でもありません… 
 出来うる範囲では…娘も歩み寄ろうとしてくれてますし…努力はします…。有難うございます…。しかし私はあの子の事…知らな過ぎるのです… 
 …誕生日に何を贈れば喜ぶのかも分からず何も出来ない情けない親でして…ね」 

イブの日なんてもう過ぎたのは分かってる 
本当何もかも今更すぎて何も出来ない 
ならせめてちゃんと大丈夫なのか友達の視線から知りたい 

「ならばそれを聞けばいいんです。好きな食べ物、好きな本、好きな場所…最初はそういうことでいいんです。会話をしなければ、相手を知ることなんて出来ないんですよ? 
 彼女が今まで何を思って生きてきたのかも、親ならば聴いてあげて、受け止めてあげるべきです。お父さんにはお父さんの抱えている想いがあるんでしょうが…、ルリアさんはルリアさんなんです。少しずつでいいのでちゃんと…見てあげて下さい」 

…あの子の為に必死になってくれる存在をあの子は手に入れたのか…。そうか… 
それを知れただけでも今日彼に会った甲斐はあった 

…というか地味に今お父さんと言われた気がしてきた… 
普通友達のお父さんをお父さんと…呼ぶ人は呼ぶな、うん 
きっとそうだ。そうに決まってる。というかそうだと思っておく 
…精神衛生上置いておこう 

それにしても…いくらお人よしでも普通親子関係にまでここまで一生懸命言う友達もそうはいないだろう…。特別、なんだろうな…きっと… 


「…ステイリーさんは…ルリアを好いて下さっているのですね… 
 …聞く…ですか…。そういうのも…今更と…ルリアに言われてしまいそうですね… 
 子供の成長は…速いものですね…。いつの間にか…特別な相手を作ってしまう…」 

ルリアもその内…嫁に行ってしまうかもしれないのか… 
その特別が今は仮に友達であれ…それが強い絆になったりしたら…関係性も変わるのかもしれない 
…今は…どっちかは置いておこう… 

「す…?!い、いや、えっと…! 
 あの、違いますからね…?!ルリアさんとはお付き合いしてるとかそういう関係では…!」 

…しまった 
どっちかはまだ確認してないうちに先走った。いや、発言自体は無意識に言ってしまった感じではあったが… 
いや、大丈夫だ。普通に返せば良いんだ 

「…そうですか…。いえ、人としてという意味でしたが…」 

うん、これも嘘じゃない。半分はそのつもりだった 

…それにしても…ここまで動揺を示したりあの子に理解を示したり…只の友人にしては深い仲…だよな…? 
いや。待て、仮に本当に付き合ってない関係だとしたら…? 
か、考えないようしてはいたが…これだけは…どうしても…聞きたい…! 

「…その…ルリアにはでは…別に恋人とか…それに近い存在が…いたりは… 
 いえ、その…ステイリーさんに聞くことでないのは分かっています…!いますが…例えば…その…璃王さんとか…ヴェルノ王子殿下とか…」 

前者の彼は彼女がいるとは聞いているが…頼むから王子は違っていてくれ…!でないとどうして良いのか分からない…!王子がしかし只の一市民と友人になるのか…!?本当違っていて欲しいが…それだけは確認したい…!心構えが…! 

「こ、恋人ですか…?!えと…少なくとも璃王…君は私の友人でもあるんですが、最近以前から好きだった方と付き合いだしましたし、ヴェルノ君は同郷ということでルリアさんと親しくしてるみたいですが、彼はフローリアさんという方が好きだと言ってました、はい」 

「…そうですか…」 

良かった…。流石に王子相手では応援しようがなかった…。…というか本当ステイリーさんはどっちなんだ…? 
人としてかはそれ以上かは置いておいて好いているのは分かったが… 

なんて考えていたらルリアが戻ってきた 


「お待たせしました…!…え、えと…すみません遅くなって…」 

「いや、別に…」 

ふと頭にさっきの彼の言葉がよみがえる 
…聞く…聞く…どうやって…!?…そうだ、まずは… 

「ルリア、好きなの頼みなさい」 

そう言ってメニューを渡す 
これで好きな食べ物位把握出来るのだろうか…? 
…というか自分はこの子の好物すら知らないんだな… 

「…?何で?」 

「…別に…。代金は払うから…」 

「え!?い、良いよ!そんなの!ここまで来るのにお金使ってるでしょ!?それより薬代とか…必要なのに使ってよ…!」 

「…そうか…」 

やはり…こういう小さなことでも甘えては来ないか… 
それも今までの関係を思えば仕方ないか… 

「あ…ステイリーさんは好きなの頼んで良いですよ!?きて貰ったお礼に何でもおごりますから…!」 

「いえ、僕も大丈夫です。自分で払いますから 
 あぁ、そういえばここ、苺のロールケーキが有名らしくて友人に買ってきてくれと頼まれたんですが…せっかくなので食べませんか?」 

「いえ、其方の会計は私が持ちますから」 

それが普通だし、話を聞いてもらったんだ…。それ位はしないと気が済まない 
苺…。そういえばよく買ってきてた覚えがあるな… 

「ルリア、頼むなら…」 

「え、えと…うん。じゃあ…食べる…!で、でも自分で私は出すから…!」 

食べはするらしいがやはり甘えては来ない 

「…それ位は出せる。良いから食べなさい… 
 苺のロールケーキ二つとお土産に…一つで良いのですか…?」 

手を上げ店員を呼ぶ 

「え?!いや、本当に…!あ、お土産は一つで大丈夫です。すみません、ありがとうございます。…お土産代は自分で出しますので」 

確かにお土産は気にさせるか… 

「…そうですか。では…」 

注文を告げつつルリアの様子を伺うと嬉しそうにしている 
…ケーキは思った以上に効果があったらしい 

「え、えと…どんな…お話二人でしてたの…?」 

流石に正直には言えないな… 

「…ルリアがちゃんと色々頑張ってると…教わった」 

「そ、そうかな?そうかな?ステイリーさん…有難うございます…!」 

そう照れるように、嬉しそうにするわが子 
眩しそうに彼を見るまなざし。それはいつかの、妻が私に向けていたまなざしを思い出させた 
…やっぱりルリアはこの人が特別なんだろうな… 

…もうこれ以上は彼を疲れさせるか… 

「…私は行きます。…ルリア、あと二日はいるから。…これ宿の場所…」 

「え…?もう良いの?」 

「あぁ…」 

心配いらないと分かったし… 
成果は上々だ 

「ではステイリーさん、有難うございました…」 

「あ、はい。こちらこそありがとうございました。お話し出来て良かったです」 

彼は頭を下げつつ見送る 
そうして私は全員分の会計をして出て行った 

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side ルリア 

「…気を使わせてしまいましたかね。せっかく久しぶりに会ったというのにすみません。でも心配していたよりも話してくれて良かったです」 

ステイリーさんの口から意外すぎる言葉が出てきた 

「…話して…!?あ、いえその…あまり…話さないのがいつもで… 
 す、すみません…実はそんなに私達…その…お話しないので…。…ステイリーさんにはお話…してたんですか…?」 

…お父さんはいつもあんなで話自体を拒否する事も珍しくない 
…まぁ今日は話をしに来たんだろうから話すんだろうけど… 

「そうですか。…男同士なので話しやすかったのかもしれませんね。ルリアさんの事、随分と心配しておられましたよ」 

「…心配…ですか…。私…そんなに頼りないですかね…?」 

離れて暮らして、勉強をちゃんとして、バイトもして 
それでもまだ不安にさせるくらいには私は信頼されないのだろうか…? 

そして…お父さんは…まだ…私と話すの…辛いのかな…? 
…お母さんに似てるのは…どうにも出来ないのに… 

「頼りないとかではなく子を心配しない親はいないんですよ、ルリアさん。娘なら尚更です。うちの親も妹の心配ばかりしてますし。 …ルリアさんの事を知らなすぎて情けない親だと言っておられましたよ」 

…妹さん…そういえば居るって聞いたことがある… 
心配か…そうなのかな…? 

「…心配…ですか…。知らない…そうですね…。私も…お父さんが何を願ってるのか…知らないです… 
 あ、す、すみません…!暗い話題にするつもりでは…!ケ、ケーキ!来ましたし食べましょう!」 

「いえ、大丈夫ですよ。こちらこそ事情を良く知りもしないのにお父さんにずけずけと物を言ってしまって…。またルリアさんからも謝っといてくださいませんか…?」 

「あ、い、いえ…!…伝えて…おきますね…!…頑張って…話してみます…!例え…」 

それを今でも相手が望まなくても…私は話したい…。心配…されてるならなおさら… 
私が相手を追い詰めていたとしても…家族なんだから関係をこのままにしたくない 

「…色々言ってくれたみたいで…その…有難うございました…。今日は本当付き合ってくれて…嬉しかったです…!」 

「はい。きっと言葉は少なくとも、その裏にはルリアさんへの気持ちが隠れていると思いますので頑張ってください。お役に立てたようでなによりです」 

気持ちが…あるか… 
不思議だな… 
ステイリーさんが言うと…なんとか出来るように感じる… 

「…はい…!頑張ります…!」 

ケーキを味わいつつ、ちゃんと頑張ろうと心に決めた 


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side  グレイ 

宿にてゆっくりしていたらルリアがやってきた 
あの後彼とは何を話したのやら 

「…えと…薬…買えた…?」 

「あぁ…」 

…会話が続かない… 
どうにもこの口下手がいけないとは分かっているんだが… 

「…ステイリーさんが…ずけずけ言ってしまって申し訳なかったと…」 

「…そうか…」 

別に気にしないのに…真面目な人だな… 

「…えと…お父さん…心配…してくれてるって…その…。何でもない…」 

「…そうか…」 

そこまでこの子に伝えたのか… 
なんと言うか…少し気恥ずかしいものがある… 

「…ケーキ美味しかった…」 

「…そうか、良かった…」 

誕生日に贈れなかった償いになっただろうか…?いや、それを聞くのは傲慢だな… 

「…良い人だな…」 

…そして本当どっちなんだろうか… 

「…うんっ…!」 

ルリアは彼をほめられて心底嬉しそうにした 
…少し、寂しい気もした。けど子供が成長するのを…素直に喜ぶ事にする

 

 

 

乗り物の時間を覚え違えていた為急遽の出発となった 
ルリアと次会えるのは夏だろうか…。と街中の最後の散策をちょっとだけしながら考えていたらステイリーさんにばったり会った 

「…先日はどうも… 
 ステイリーさん、娘に宜しくお願いします…。あの子には…我儘を言わせてあげれなかったので…来て欲しいって言える仲の相手がいて安心しました…」 

「はい…。ルリアさんの友人は良い子たちばかりなので安心してください 
 これからお帰りですか?道中お気をつけて下さいね」 

…良い人…なのなら良いのだが… 
手紙で書かれていたラウンジを荒らした友達の話とかどこまで本当なんだか… 
まぁそれと人間性は関係ないか… 

そしてこの人が多分あの子にとっての最もいい人なんだろうな… 

「…えぇ、もう帰らないと船に遅れますので…。久々に…あの子と会話しましたよ… 
貴方のおかげです。…本当に有難うございました…。 
 それではあの子のこと…」 

宜しくといったらやはり誤解されるだろうか…。いや、でも… 
うん、普通にしよう 

「あの子と…今後も仲良くしてやって下さい。では…」 

見送ってくれる彼にもう一度頭を下げて先に進む 

…いつかちゃんとした挨拶で彼と会う日は本当来るのだろうか…? 
お互いがお互い思い合う関係ならば…心構えがその内必要になりそうだな… 

それは少し寂しいけど、それでもルリアが選ぶのだから 
その時は、この時本当はどっちだったのか尋ねよう、そう決めた日であった

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