top of page

*アテンション*

この話はもしかしたらこんなこともあったかもしれないね。位にかるーく受けとってくださいませ

​主役はステルリでなくその息子でございます。

――――――――――――――――――――――――――――――――
 僕が望んだのはこんな事じゃなかった 

 ただ、僕は…子供だったんだ。多分、それだけだった 
 でも、その幼稚さが、愚かさが 
 あんな事を招いた 

 言い訳もきかない。それなのに誰も僕を責めなかった 
 ただ、無事でよかったと…泣いて喜ばれるだけだった 

 よくない 

 だって、僕のせいで 


            お父さんが死んでしまったのに……… 




 本をめくる音と自分がペンを動かす音だけが響く 
 ここの図書館のこの部屋は両親の思い出の場所らしい 
 よく二人でこもっては徹夜で勉強したり、仮眠をとったりしていたと聞いた 

 魔導学院に入ってもう何年経ったのだろうか? 
 二人の思い出の場所だというここの部屋は、もうすっかり僕の居心地いい場所になっている 

 僕は手を休めて映像魔道具を使いかつての父の姿を眺めた 
 昔の学園祭のその姿 
 もう姿が記憶ではおぼろげの父は、星の大魔法を見事に使いこなしていた 

 次に眺めるのは母の姿 
 どうみても魔法素人で見てておっかなびっくりする… 
 大きな姿を映すだけでも補助を必要として技術もまだまだ。当時は規模を知らずに出たと母は恥ずかしそうに言っていた 
 それでも一生懸命で人を楽しませようとしているのは伝わった 

 どう贔屓目に見ても凄い魔法なんかじゃなかった。それでも、見る人の心を和ませる、母らしい魔法だ 


 僕は映像を切ってまた気合を入れなおす 

 僕はお父さんを取り戻す 
 その決意を新たに固めるのだった 



 育ちは田舎。祖父と両親が家族。後に妹が生まれた 
 僕の国は田舎に住む人は魔法の才能がなく、大体貧乏な一生を過ごす 
 両親が若い頃会ったという王子の改革によって多少は緩和されたけど長年の仕組みはそう簡単に全ては変わらない 
 うちは田舎だけど例外の裕福だ。家が医者と学校をしているからだ 
 母と祖父が医者を、父が魔法と勉強を教えていた 

 母は例外に漏れず魔法の才能が低い。魔力が少ない 
 それを補助道具や自分の技術で補って人を救っている 
 対して父は魔法の才に恵まれた人だった 

 大きな魔法も、凄い魔法も、子供だった自分には眩しく映った 
 何故才能のある父が田舎にいるかというと母にほれ込んだかららしい 
 祖父もわざわざ田舎で医者をしている理由が祖母にほれ込んだからと聞いた時、似たもの同士…と思わずにいられなかった。
 魔法が田舎にあるだけで凄いという感覚がなかった自分は父のような魔法を夢に見た 
 兎に角凄くて、派手で…子供が憧れるヒーローなんてそんなものだ

 妹が魔法を使い出すまでは気付かずに済んでいた 
 でも分かってしまった 
 自分は父のような才能がない。むしろ母のようだ、と 

 子供だった僕は癇癪を起した 
 どうして父みたく、妹みたく自分を産んでくれなかったんだ、と 
 残酷な言葉を母に投げつけた 

 自分がどれだけ頑張っても出来なかった魔法をあっさり妹が成功させてしまった時 
 限界が来て家出をした 

 あの時、誰かの制止を聞いていれば 
 父のたしなめる言葉をもっと素直に受け止めていれば 
 母の気持ちをもっと考えてあげられていれば 

   結果は変わっていたかもしれないのに 


 その日、その時 
 雷雨に見舞われた。ぼくは山の中に逃げ込んで一人、寒さに震えていた 
 何か危険な動物に見つかってしまうとか、このまま寒くて死んじゃうとか考え怖くなりお父さんを必死で呼んでいた 

 父は来た 
 僕は泣きついて素直に抱っこされて帰ろうとしていた 


   悲劇は起きた 


 土砂崩れが起こり、お父さんが魔法でそれを食い止めた 
 やっぱりお父さんは凄い、そんなことを能天気に考えたけど次の瞬間背に見えた山小屋が崩れて落ちてくるのを見て叫ぶしか出来なかった 

 お父さんは僕を庇った 
 怪我をした 
 血がたくさん出ていた 

 お父さん、早く魔法で何とかしないと 
 そう言ってもお父さんは首をゆるく振るだけだった 
 土砂崩れを支えた代償にお父さんの魔力が底をついていたのだった 
 そんなの嘘だと思った。だってお父さんは何より凄くて、強いのに 
 泣いてわめく僕にお父さんは小さく、ゆっくり呟いた 

 

『お母さんと妹を守れ。男の子なんだから』…と 

 その言葉が最後だった 


 お母さんとお祖父ちゃんが着いた時には遅かった 
 お父さんはもう…冷たくなっていた…… 


 お母さんはただただ僕を抱きしめて震えていた 
 葬式の時も僕達の手を繋いで離さないでいて 
 お父さんがもう目覚めないのを理解出来てない妹はひたすらきょとんとしていて 

 僕達の手をお祖父ちゃんが握ってようやく 
 お母さんはお父さんに触れて、膝をついてただ、ただ、泣き崩れた 

 その日、お母さんはお墓の前から帰ってこなかった 


 その日の事を、僕は後悔した 
 お母さんは必死で僕と妹を育ててくれた。再婚の話もあったらしいけど全て断っていた 
 お父さんが居なくなった分一生懸命僕達と仕事もあるのにいようとしてくれた 
 ご飯も作ってくれていた 
 僕に対しても、誰に対しても一切不満なんて零さずに 

 ゆっくり、少しずつ時間が流れる中で、お母さんは心を疲弊させていた 
 僕たちを育てるという義務感から気張っているよう見えても、お母さんにとってお父さんは本当に大切なたった一人だった 
 一人になるとずっと泣いているのを知った時、僕は決意した 

 この運命を変えてみせよう、と 



 あの日以来妹は小さかったのに覚えているのか、魔法の才能があるのに学ぼうと、伸ばそうとしなかった 
 僕は何度も勉強していいと言ったけど、母を手伝うのに忙しいと取り合わなかった 
 父を亡くしたのも、母を塞ぎこませたのも、折角の妹の才能を潰したのも自分なら 
 自分がその責任を取らなくては 

 沢山の人の知恵を借りた 
 沢山の人の助けを貰った 
 魔力が足りない分は補助道具で補う為アイテム収拾するのに時間がかかったけどそれでも用意できた 
 …魔法の力が弱くたってこうして出来ることがちゃんとあるのに 
 母みたく使い方によっては沢山の人を救えるとどうしてあの時の自分は気付けなかったのか 

 長い時間をかけ、ようやく完成したこの魔法 
 チャンスは一回。失敗は許されない 
 そもそも時間をやり直す事自体いけないことだとわかっている 
 それでも、自分はどうしても過去の贖罪がしたかった 


「…お父さん…今度こそ……!!」 

12.png


 そして僕は過去にとんだ 




 自分の故郷に着いて思ったのは…今も昔も変わらないんだな… 
 という感想だった 
 田舎では劇的な変化なんて早々起こらない 
 ちゃんと過去に来ているのか不安になってここ十年で変わった建物を考えていたら 
 子供が僕にぶつかった 

「と、御免。大丈夫です…」 
 言葉がつまった 
 その姿は見間違えるわけがなく…『僕』だった 

「御免なさいでした!」 

 そう言って過去の僕は走っていった… 



 さて、過去の確証を得たところで現在家の前である 
 …なんて言うかは決めてある。兎に角未来から来たなんて言うのは得策ではない 
 ここが父がいる世界だからこそ使える言い訳があるんだ…が…いざとなると緊張してなかなか扉を開けれない 

 迷っていたら扉が開いて患者の一人が出てきた 

 傍にはお母さん 
 今よりずっと若い姿だ… 

 今でも患者さんにも僕達にも笑いかけてはくれる 
 それでも、それはやはりムリをしていてどこか虚ろだった 
 けど、『今』見える彼女の表情は違う。生き生きしていて、心の底から幸せそうに笑っていた… 

「…こんにちは?患者さんですか?」 
 そう言って笑ったお母さん 
 思わず泣きそうになって踏みとどまる 
 僕にはやるべき事があるんだから 

「…いえ…その…僕は、ここの先生に魔法を教えてもらいたくて来ました!」 

 まっすぐ前を見つめ、そう宣言した 




 突然だが警戒心という言葉を説明しよう 
 端的に言えば用心深い気持ちという事である 

 初対面で知らない人に声をかけられたらとりあえず相手を警戒するのは仕方ない事だろうし、僕もある程度は覚悟していた 

 覚悟…していたのに… 

「ねーねー?おにーちゃんはどんなまほーつかうの~?」 
「お父さんってそんなにゆーめいなの!?」 
「ほらほら、二人共。あんまり質問攻めにするとお兄ちゃん困っちゃうよ?あら、お兄ちゃん皮むき上手ね」 
「…家の手伝いくらいするので…」 
「へぇ、偉いね」 

 …ああ、昔お父さんが言ってた気がする… 
 お母さんは昔っから警戒心が薄くて色々困ってたと… 

 何であんな初対面であんな事言った人間のいう事を間に受けて泊まる場所大丈夫?と気にされそのまま家にあげられてその上夕飯の支度の手伝いまでしてるのだろうか…? 

 さっきまで母さんが仕事だったからその手伝いまでしてたわけなんだけど… 
 父さん…!!母さん本当に警戒心ないですね!! 
 僕としてはありがたいけど…一人にしないでおいて正解だった… 
 あ…でも妹もわりと天然だし…お祖父さんに期待するしかない…!! 

「お父さんは子供を送ってからだからもうすぐ帰るからね。そうしたら貴方の事紹介しなきゃ」 
 楽しそうに料理をするお母さん 
 妹と『僕』が興味津々に覗き込むけどお母さんは包丁が危ないから、と遠ざけようとする 

 

「ね、こっちは良いから二人を見ててくれない?」 
「…はい…」 
 自分との対面はなかなか…緊張する… 
 幼い、愚かな時代の自分… 

「お兄ちゃんは凄い魔法使えるの?どーん!とかばーん!とか!」 
 …あぁ…そうだ…当時の自分は兎に角派手な魔法が使いたかったんだ… 
「…そういうのはムリだよ」 
 明らかに僕はがっかりした 
「でもね、派手でどーんとか…バーンとかしてなくたって…魔法は使い方一つなんだ…」 
 諭すように言ってみる 
 自分相手なのにどう言えば聞き入れるのかが分からない 
「???あ、そうか!それが出来ないからお父さんに教わるんだ?お父さんは凄いんだよ!」 
 無邪気な言葉で父の自慢をする 
 あぁ…本当…我ながら自分が憎ったらしい…。お前のその幼さが、短絡思考が、父を殺すのに… 
「うんうん、ぱぱはすごいー」 
 …妹、リリアは可愛い… 
 全く自分も…才能で負けてるだけで、こんな可愛い妹に嫉妬するなんて兄の風上にもおけない… 
 扉が開く音がした 

「あれ?誰か来てるのか?」 


心臓が大きくなった 
「ぱぱー、おかえりなさーい!」 
リリアが真っ先に抱きつきにいって抱っこをされる 
キャッキャと無邪気に楽しそうだ 
「あ、お帰りなさい…!ステイリーさん!」 
そう言って母が出迎える 
「ただ今帰りました、ルリア」 
そう言って父は妹を抱っこしたまま母を抱きかかえ軽く寄り添う 

10.png

 …父さんだ…。本物だ… 
 僕は…ここまで来れたんだ……! 

 …あぁ…そうだ。そうだった… 
 両親はこうだった。いつだって仲が良くて、幸せそうで… 

「…お帰り…」 
「うん、アステルもただ今」 
 そう言って父さんは『僕』の頭をぽんぽんとした 
 『僕』は…あ、そうだ 
 妹に自分の場所を取られたみたいでむすくれていたんだっけ…? 
 でもお兄ちゃんだからで我慢していたような…? 

「…で…えと…君は?」 
 あ、しまった。思わず考えに浸っていた 
 僕は初対面で家にいる怪しい人だった 
「あ、あのねステイリーさん。この子ステイリーさんの授業受けたいんだって。宿とかどうするのか聞いたらまだ決まってないみたいだからうちにおこうと思って」 
 …お母さん…あなたいつか誰かに騙されます…!!それ…!! 
 流石に追い出されるかな?と父さんを見ると何か考えている顔だった 
「あ、あの…我ながら怪しい奴だとは思うのですが…と…ス、ステイリー先生に魔法を教われたらと思いまして…」 
「…君、名前は?」 
「アス…ターです」 
 うっかり本名を名乗りそうになった 
 危ない危ない 
「…アスターか…。この子につける名前の候補だった名前だな」 
 そう言って父さんは僕をマジマジ見る 
「ちょっとアステルに似てるな」 
「そ、そうですかね…?」 
似てるどころか同一人物ですから 
「そーぅ?お父さんに似てると思うけど」 
 う…!余計な事を…!! 
「ま、まぁ…世には三人似た人がいるっていいますし…」 
「…うん、分かった。じゃあ暫く?宜しく、アスター」 
 父さん!?貴方までーーーー!?!??? 

 い、いや…目的の為には絶対このほうが良いのだけど…けど… 
 両親が…お人よし過ぎて…僕は心配です… 


 母の料理は美味しかった 
 お祖父ちゃんが何か言いたげにしてたけどそうか…の一言で終わりとなり、関門くぐりを果たしつつ 
 家族揃っての暖かい食事だった 
 お母さんがリリアの食べ溢しをふいたり、お父さんに『僕』が今日の授業について聞いたり 
 皆して僕に質問したり 
 和やかで、楽しかった 

 ご飯の後はお母さんが『僕』とリリアに本を読み聞かせていた 
 お父さんが僕にコーヒーをいれてくれた 
 飲んでみたら、小さな頃はミルクと砂糖がないと飲めなかった味が飲めるようなっていたのに吃驚した 

 ここは、田舎の割りに日常が忙しくて大変な事が多い印象だったけど 
 父さんが居たころは…こんなに幸せに満ちていたんだ… 

 そう思ったらツンときて涙が出そうになってそれを誤魔化した 

 夜、折角だからと父さんにお酒を一杯勧められて飲んでいた 
 お母さんは呆れて程ほどにと言って先に寝てしまった 


 二人の氷の音が響く 
「あの…いきなりなのに…居候までしちゃって…」 
「いいよ、何となくだけどアスターの事は放っておけないと思ったからね」 
 うーん…この国の成人の歳は越えてるんだけど、父さんより年下だから子供扱いは仕方ないのかな…? 
「どの位いるか知らないけど、アスターの期待に応えられる先生になれたらって思うよ」 
 魔法は口実だけど、本当に学んでも良いかもしれない 
「頑張ります…」 
「…アステルともね、いつかこうして飲むのが夢なんだ。まだ先だけどね」 

 胸が痛んだ 
 僕がその年になる時にはもう…いや、多分もうじき、それは起こる 

 何としてもそれを止めなくては 
 僕はその為に来たんだから 



 とりあえず父さんの子供向け講義を受けてみた 
 自分が受けた授業は流石にもう記憶がおぼろげだったけど、魔導学院で勉強してきただけあって未来から来た僕にも為になって分かりやすい授業だった 
 今日は治癒魔法の授業だ 

 『僕』も一応皆と魔法を練習する。こうして見ると他の子供達と比べて比較的安定して魔法が出せているように見える 
 問題は… 

「ねーねー、ぱぱこう?」 
 『僕』や他の子達が苦労しているなか、最年少のリリアがあっさり成功させているところか… 
 妹は本当天才なんだなぁ… 
 うん、帰ったら本当魔法勉強させよう。こんな才能埋もれさすなんて勿体ない 
「どれどれ…うん、そうだね。よく出来たね」 
 そう言って頭を撫でられリリアは幸せそうだ 
 『僕』を見たら兄なのにお前は出来ないんだ?みたく周りに見られるのが嫌だった自分はやはりむすくれた顔をしていた 

「治癒なんてつまらないよー。お父さん攻撃魔法教えて!」 
 なんてことを!父さんは攻撃魔法とか嫌がる人だったと学院の先生に聞いたのに! 
 僕は…こんな言葉を言っていたのか… 
 父さんは苦笑いして言った 
「治癒の方が役にたつよ?」 
 そうそう! 
「そんなの地味だしつまらない!」 
 あぁ…なんて子供なんだ自分は…!! 
 僕は『僕』に向かって言ってやった 
「アステル!治癒は確かに見た目が派手とかじゃない。けど大切な魔法なんだ!」 
「…知らない!」 
「にーちゃん…?いたいいたいしてるの?」 
よく分かってないリリアは『僕』に覚えたての魔法を使おうとしていた 
「いらない!リリアだけ治癒やってればいいじゃないか!」 
「アステル!」 

 僕は『僕』を叩いた 
 イラついたあまりの行動だった 
 泣きそうになってたリリアはそれですっかり固まってしまった 

「…ぶった…ぶったー!!お父さーん」 
 …しまった。子供だらけの場所で 
 あ、妹も怯えて逃げちゃってる! 
「よしよし。大丈夫」 
 父さんに叱られる。ちょっと身構えた 
「…アステルはまだ子供だ。いつか自分から学びたいって思う時まで待つつもりだから
」 
 でも父さんはどこまでも優しい人だった

「…学びたいと思った時に必ず学べるとは限らないじゃないですか…!!」 

 優しい父がこれから自分のせいで死ぬと言うのに。この自分はそれを知らない。それがもどかしい 
 ひがむあまり周りの声が届いてない子供の自分が…見てて苦しくて仕方ない 


「僕は…僕の父は…僕が小さな時僕のせいでなくなった…!!母も…それ以来ずっとムリをして…ずっと塞ぎこんでいて…」 
 まだ、この『僕』はお父さんから学ぶ事が出来るのに…!! 
 その事ももどかしい 
 当たり前のように明日も同じような日が来る保障なんてどこにもない事を知らない… 

「…そうか…」 

 叩かれるのを覚悟して俯いたら、頭に感じたのは優しく撫でる感触だった 
「…それは、辛かったな…」 
 泣きそうになる僕に父さんはさらに続けた 
「…僕も昔、そうやって自分を責めていた。だから自分を責める気持ちが痛いほど分かるよ」 
 手が優しくて、胸が苦しくて 
 でも、自分が目に入って何とか泣くのをこらえた 
 僕はしゃがんで『僕』と向き合う 

「…ヒーリング…」 
 ちょっとビクっとされたけど回復をした 
「…ゴメンな。けど…君には間違えて欲しくないんだ…」 
「…痛くない…」 
「…うん、今のが治癒の力だよ」 
父さんも僕の言葉に感じるものがあったのか『僕』を説得する 
「…アステル、アステルが派手な魔法を使いたいのはわかった。けどね、治癒は人を救う、大切な人を助けることが出来る素晴らしい魔法なんだよ」 

「…ちょっとだけ…なら…」 

 当時の自分の反抗期を思えば上出来な反応だった

 あの日がじわじわ近づいてきた 
 『僕』は相変わらず反抗期まっしぐらだし、リリアも幼すぎて自分が凄いという事の実感がないまま魔法を使ってしまうし 
 兎に角あの日に家出をさせてはいけない 
 妹を『僕』に近づけないとか…『僕』をいっそ眠らせるとか… 
 なんて危険思考を考えつつ、僕がいる時点で歴史が変わっているせいなのか 

 気をつけていたのに、それは起こってしまった 

 


 父の命日だから間違えるわけがなかった日付 
 それが前にずれ込んだ 
 どうして?と何度も自問したけど現状は変わらない 
 兎に角僕は雨の中、自分を探した 
 父さんが助ける前に僕が助ければあるいは…そんな望みをかけた 

 家出、雷雨 
 気付いた瞬間には飛び出していたし、僕の方が絶対先に自分を発見できるハズだ 
 あの小屋の近く。それだけは間違いない 

「アステル!どこにいる!?アステル!?」 
 必死で探した。自分は『僕』にあまり良い態度を取れなかったから拒絶される可能性もあったけどこの状況でまで意地をはるとは…思いたくない… 

 地鳴りがした 
 背筋が凍る 

 落ち着け。これが来るのは分かっていたんだ。魔力を増強する薬を飲み込み土を魔法で留める 
 これさえ、自力で何とか出来れば父の魔力が残る…! 

 しかしやはり歴史は少し、意地悪に変わっていて 
 自分の魔力だけじゃ支えきれず村にまであふれ出しそうになる。まずい。この歴史が変わったら 
 僕たちの家まで壊れてしまうかもしれない。そうしたらあの場にいる家族が危ない 

「何で…!何で僕は…こうも…!!」 
 力が足りない。分かった上で準備までしてきたのに…どうして、こうも… 
「大丈夫、落ち着いてアスター」 
「父さ…!!」 

 思わず呼びかけて口を閉ざす 
 父さんはそれに構わず僕の魔法に魔力を上乗せする 
「…かなり大規模だ。一人じゃムリだよ」 
 …これも歴史の変化…?僕の知る歴史は父さんだけで何とかなったのに 
「大丈夫、僕達なら出来る。呼吸を合わせて。出来るね?」 
 こんな状況なのに心が震えた 
 僕は、父さんと一緒に魔法を使ってるんだ… 
「はい…!」 
 二人で一緒に詠唱をして今にも崩れそうな土砂を必死で食い止めた 
 体から力が抜けてへたり込む 

 

 魔力切れだ 

「…僕はこのままアステルを探す。君は家に帰って。ルリアさんとリリアを頼むよ」 
 …その言葉は、嫌という程覚えがある 
 あの時、父さんが言った最後の…… 


「待っ…!!待って下さい…!!そのまま行けば貴方は…貴方が死んでしまう…!!」 

 兎に角無我夢中だった 
 いっそ、自分という存在を諦めれば父は生きれるんじゃないか?とまで考える 
 そうだ、家族皆に対して償う時は今ではないのか? 

 でも父さんは首を振った 
「それでも、僕は行くよ。…大切な息子なんだ」 
「待っ…!!」 
 何としても食い止めたくて手を伸ばしたけど届かない。体に力が入らない 
 持ってきたはずの回復薬も落としたのか見つからない 
「父さん…!!お父さんー!!」 
 必死で声を絞り出し、動かない体に必死に動けと命令を下す 
 しかし主に引篭りで体力作りを疎かにした代償でなかなか動けない 
 悔しさで目の前がにじむ 

 また、ここまで来て…自分は……繰り返してしまうのか… 




--------------------------------------- 

 地面が大きく揺れて足元がくずれた 
 必死に木にしがみついてとにかく泣くしかできない 
「おとうさーん…おとうさーん…」 
 お父さんはヒーローだから、凄いから、きっと助けてくれる 
 守ってくれる 

 だから早く助けて 
 そればかり考えて今にも倒れそうな木にただただ動けずしがみつく 

「アステル!どこだ!?アステル!!」 
 お父さんの声だ!助かったんだ! 
「おとうさーーーん!!!」 
 声の限りで叫んだら気付いて貰えて足場が悪いなかを必死に父さんは来てくれた 
「アステル!怪我は?」 
 首を振る 
「そうか…良かった…。兎に角急いでここを離れないと…!」 
 お父さんは必死に僕を抱きしめてすべり落ちるように動き始めた 

 その時、まるでスローモーションのように父さんの背中の景色が見えた 
 小屋が、壊れてこっちに向かってきた 

「お父さん…!!!」 

 必死に指をさして危険を訴えた 
 父さんはすぐそれに気付いた 
 そして、僕を庇うように倒れこんだ 


 いくつかの衝撃の後、目を開くと、僕の顔に温かいものがたれてきた 
 これは、血だ 
 父さんが、あのお父さんが血を流している 

「おとうさん…!!!ねえ!お父さん!!」 
 必死にゆすって呼んだ 
 父さんは眉をしかめて目を僅かに開いてくれた 
「お父さん…!怪我、けがしてる…!!はやく治さないと…!!」 
 お父さんは何でも出来るから 
 きっと治ると思った 
 でも、父さんは首を静かに振っただけだった 
「…もう、魔力が尽きたんだ…。ゴメンな」 
 そんなの、嘘だ 
 父さんが!?どうして? 

 

「…アステル…お母さんと妹を守れ。男の子なんだから」 

 それを何とか呟いて、父さんは…僕に倒れこんだ 
 僕を守るように、庇うように 
「お父さん…お父さん…!!」 
 何度ゆすっても起きてくれない 
 血が止まらない 

 このままじゃいけない 
 それが分かってて何一つ出来る事が…… 

「あ…あ……と…さ…うわあああああ!!!」 

 無意識だった 
 僕は今まで真面目に治癒の練習をしてなかった 

 お父さんの使う魔法が凄くて、お母さんは別に凄くないなんて思ってたから 
 ただ、お父さんがああ言ったから少しかじっただけだった 

 どうして真面目にやらなかったのか 
 どうして、今必要になる力をきちんと練習しなかったのか 

 必死で必死で治癒魔法の使い方を思い出して魔法を使う 
「癒しの光よ…」
 でも、上手く発動しない 
 でも諦めなかった 
 何度も、何度も使って 

 


「アステル!そうじゃない!力の流れをちゃんと感じるんだ!」 

 最近うちにいるお兄ちゃんの声が響いた 
 何故か僕に冷たくて苦手なお兄ちゃん 
 でも、何故かすんなり言葉が自分の中に入った 

「癒しの光よ…」 

 力の流れを 
 きちんと魔法の力が自分の中を循環した気がして 

   目の前が光った 


「…できた…?」 
 父さんから血は止まった 
「御免」 
 お兄ちゃんは必死にお父さんを抱き上げて、お母さんがよくするみたいに色々調べた 
「…生きてる…」 
 お兄ちゃんから涙が溢れてきた 
「…変えれたんだ……」 
 そう言って僕を抱きしめた 
「お前は…よくやったよ…!!頑張った…!!」 
「…お父さん…大丈夫…?」 
「うん…。後はお母さんとお祖父ちゃんが見てくれれば大丈夫だよ…」 
「…良かった…」 

 そう言ってただ、泣いた 
 何でだか分からない 
 けど、失敗していたら大きなものを失っていた気がした 

「さ、今は泣いてる暇はない…。二人で山を下ろう」 
 お兄ちゃんは力がないのか、苦しそうにお父さんを背に負ぶった 
「ぼ、ぼく…先に行ってだれかよんでくる…!!」 
「大丈夫なのか…?」 
「大丈夫!」 

 そう言って山を怪我しないよう気をつけて下った 
 大人に助けを叫んで二人が助けられたのはすぐだった 



------------------------ 


 看病疲れでそのまま寝てしまったお母さんをちゃんとベッドに運んできて、改めて眠るお父さんを眺めた 
 きちんと息をして、体温がある 

 そんな事だけでも改めて泣きそうになる 

 時間を上書きしたのだからこれから自分はどうなるのだろうか? 
 今の僕は消えてここの『僕』が改めて時間を重ねていくのだろうか? 

 それとも平行世界を作っただけで、自分の世界は戻ってもそのままなのだろうか? 

 なんであれ、ここにいる父さんは守れた 
 それが兎に角嬉しかった 

「…お世話になりました…」 
 頭を下げ部屋からそっと出た 
「…行っちゃうんですか…?」 
 『僕』がまだ寝てなかったのか心配そうにそう言った 
「…お前は長男なんだから、ちゃんと家族を守るんだぞ?」 
 頭を撫でつつそれは、自分にも言う 
 これから帰ってどうなるか分からない。けど出来る限りで家族を守りたい 
「…お兄ちゃんは…なにものだったの…?僕にそっくりって皆言ってた…」 
「…偶々だよ。ただの…旅人だよ」 
 頭を撫でる手を離してもう一度だけ自分と向かい合った 

「じゃあね」 
「…また…会えるの!?」 
「…どうだろうな?でも、お別れじゃないよ」 
「じゃ…また…!!」 
 僕は振り向かず手を振って扉を出た 

 心配しなくても君は僕だ 
 でも、きっともっと立派な僕になれる…ってそれは願望か 

「僕も、もっと頑張らないとな…」 

 あの時死ぬほど悔やんだ自分はその時の自分が越えた 
 ならこれからは今の自分が自分を越えて、今度こそ後悔しないよう生きていかないと 


 魔法の用意を丹念にして、慎重に発動を開始する 
 これで失敗したら恥ずかしいなんてものじゃない 

 帰る世界がどんな形をしてるか分からないけど、きっと、大丈夫だって何故か確信できていた 




 帰ってから僕は、一週間以上熱を出した 
 時空移動が体に負担だったのも勿論だけど、もう一つの人生を歩んできた記憶が一気に体に流れてきたからだ 
 タイムパラドックスがどうなるのかの懸念は解消された。僕は『僕』と同じ存在になった 
 時間は上書きされたらしい 

 

「ほら、また会えた……」

 『僕』が僕と会えて吃驚しているのを感じたのだった。


 何とか起きれるようになって周りに話を聞いてみても、僕が時空移動した事自体がなくなってていた 

 あれからお父さんがいる世界で一緒に過ごしてきた経験すべてが正史になるらしい。ちゃんと自分がやってきたという感覚がする 
 同時にいなかった時間の自分もちゃんと覚えていてややこしい事この上ない 

 僕のやったことが良い事か、悪い事かは分からない 
 それでも歴史を変えれた。その事実がもう全てだった 


 熱が下がって記憶に折り合いをつけれるまで落ち着いたら真っ先に家に帰った 
 どうしても、家族に会いたかった 



 家までの道が少し前に過去で歩いたばかりという違和感と戦いつつ 
 今度は『僕』にぶつからず家の前まで来た 

 父さんが亡くなった時間だと教室に使ってた出入り口はもう使われてなかったけど、そこから元気に当時の自分と同じ年くらいの子供が走って出て行く 

「じゃあねー!先生!!」 
「ちゃんと前見て気をつけて帰るんだよ」 
「はーい!!」 

 …父だ 
 重なった記憶の通り過去の父より年をとった父の姿がそこにあった 
「…アステル?」 
「…ちょっと、帰ってみた。ただ今、父さん…」 
「…うん。お帰り、アステル。母さんもきっと喜ぶ」 
 …妹は…あ、そうか…妹も魔導学院に入ったんだっけ…。一緒に帰ってくれば良かったか… 

「そうだね。何か手伝う事あるならやるよ」 
「いいよ。長旅で疲れただろうからまずは休んでおきな」 
「…うん……」 
 …取り戻したんだ…本当に… 
 あの日、あの時自分の失敗で失った存在を…こうして… 
 目の端にうかんだ涙を誤魔化して、家に入った 

「…ただ今…」 

 僕はただ、この家に帰ってきたかっただけだったんだ 



 お母さんは父さんのいない時間よりなんだか綺麗な感じがした 
 嬉しそうに、幸せそうに笑ってくれて本当に嬉しかった 

 ご飯も相変わらず美味しくて、それだけで幸せだった 



 夜中。帰ってきたばかりだけど明日か明後日には帰ろうかな…と考えつつ水を飲んでたら父さんが起きてきた 
「眠れないのか?」 
「あ、いや…何となく」 
「そうか…。なんなら酒でも飲むか?」 
 そう言えば僕が成人した時に一緒に飲むっていう言葉は果たしたんだっけか… 
「…そうだね、飲もうか」 
 
 二人で席を並べてゆっくり酒を飲む 
 父さんは真面目だけど割りとお酒好きだよな…とちょっと思う。別に良いけど 
「アステル…」 
「うん…?」 
 勉強漬けであまり飲まないほうの僕は父より酔いが回るのがはやく少し頭が呆けてきた 
「助けてくれて、ありがとうな」 
「…うん………うん?何が…?」 
危ない。僕にとっては最近の事でも父にはずっと前の事だからあの事な訳ないし… 

 

「…アスターに言った方が良いかな?」 
 …絶句した 
 今まで…言われた記憶はないのに… 



「どうして…」 
「…過去で会った時点で気付いていたよ。お前、僕にそっくりだから」  
 …あの時、あまりに両親がお人よし過ぎて心配になったけど… 
 違った。お人よしだけど…単に僕だって…気付かれていたんだ… 
「…え!?…まさか…もしかして母さんも!?」 
 母さんはかなりの天然だ。父さんならまだしも…!! 
「話したことはないけど分かってたんじゃないかな…?母親だしな」 
 …そうだったんだ… 
 …それもそうか… 
「今日アステルの姿を見て確信したよ。あの時の姿そのままなんだし」 
 ちょっと面白そうに笑われた 
 う…確かに変装しなかったしな… 

「…お前が来てくれなかったら死んでいたんだろ?…ありがとう」 
「…違う…。あの時はそもそも…僕のせいで…」  
「違う。あれは不幸な事故だった。子供だったんだアステルは。それを誰も責めたりしないさ」 
「…でも…僕は…僕を…許せなかった…」 
「…うん。でも、もう大丈夫だろう?」 
 父さんはグラスを置いて、優しく僕の頭を撫でてくれた 

「…もういいんだ。お前は十分よくやったよ」 
 酒のせいなのか、もう涙はこらえれなかった 
「父さん…僕は…ただ…貴方に…会いたかった…」 

「うん」 

11.png

 後はただ、無言で父親に甘えた 
 もう子供の時間はこれで終わりだから 
 最後に思いっきり甘えれるだけ甘えた 



「折角帰って来たんだからもっとゆっくりすれば良いのに…」 
 母さんはそう言ってご不満顔だ 
 両親は揃って僕を見送ってくれてる 
 ちょっと恥ずかしいけど素直に受け入れる 
「母さん、僕は貴方の後を継ぐんだからもっと勉強しなきゃいけないんだよ」 
「…疲れたらいつでも帰ってきて良いんだからね?」 
「…うん、大丈夫。必ず、帰るから」 
「次はお嫁さん連れてきて良いからね?」 
 何を言うんだか 
「そ、それは…まぁいつか…」 
「もぅ…!楽しみにしてるわね」 
「重大任務を背負ったみたいだな」 
 …そうですね 
 勉強にしか目を向けずに彼女なんて作る余裕欠片もなかったし…恋愛…まだピンとこない… 

「…行ってきます、父さん、母さん」 
「行ってらっしゃい、アステル」 
「気をつけてな」 
 そう言って一度振り向いて先に進んだ 


 今度は同じ失敗をしないために、後悔しない為に 
 あの後の自分は母を継いで医者になるべくの勉強をする選択をしていた 

 なら、もうやり直しなんてしなくて済むよう精一杯やるだけだ 

 

 よく晴れた空の下、僕は今度はただ、前だけ見て先に歩き始めた

bottom of page