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アテンション

・これは拝啓、海の見える街から、まほうつかいの独り立ち村のキャラを使ったSSです

・内容はロボスさんの中の人との共著になっております。お手伝いありがとうございました。他のキャラの中の方々も内容チェックありがとうございました。

・事件がおきていますがそれは海の見える街からは離れており、街は巻き込まれたり関係しません。

・これにはR15以上の表現があり、R18にも抵触してます。ご注意下さい。

以上。ムリそうだなって思ったらバックお願いします。




『その人は、貴女の初恋の人?』 

 とある日のデートの時に言われた言葉。 
 私の過去について色々話していた時に言われた言葉だ。 

 

「まさか」 

 

 私は即、真顔でそう答えた。仮にだ、仮に好きだったとしても初恋ではない。断じてない。 
 私の初恋はどこの誰かも知らないし分からない。そんな相手。 
 とっても大きくて強かった人。 
 幼い私はあの人の事が確かに好きだったと…思う。子供の頃をカウントしちゃダメだと言われても、あの男に対して恋していたとは言い難い。 
 まだ相手を微妙に許し切れてない私は、初恋という言葉に真顔になりすぎて、相手の声が固めだったのに気づく余裕がなかった。 
 まぁ互いにそれなりの年だし? 相手の顔と性格踏まえて相手に私が初恋かどうかは期待してないさ。 

 

 お話を締めた後、顔を引き寄せられる。ち、近いぞ……。 
 顔に自然と熱が集まる。 

 互いが互いの物だね? と訪ねられればまぁ、うん。と肯定を示す。 
 続いた言葉はなんともまぁ、情熱的な言葉。 

 

 あー、そういや軍人だもんね……。万が一の覚悟も私は必要なんだよな……。 
 でも、必ず還るなんて……くすぐったくて嬉しい。 

「私は、じゃあちゃんと待ってるよ。貴方の帰る場所になれるよう待ってる」 
 万が一があったとして。私は絶対後追いはしないと思っている。 
 そんな事しても誰も幸せになれない。 
 でも、待つことは多分やめれない気がする。好きな気持ちがずっと、ずっと続いてしまって忘れれなくなりそうな気がする。 

 

 相手が少し起き上がり、唇が重なった。 
 優しくて、熱い。 
 また私は相手に恋を重ねていっていたんだ…… 
  
  

 しかしどれだけ好きでも、相手を思っていても、現実は世知辛い。 
 実際問題会える回数が少ないのはどうしようもない。 
 仕事と私どっちが大事? なんて寝ぼけた事言うつもりもない。 
 ただ、会えない時間に寂しいと感じるのはどうしようもない訳で。 

 

 会えない間は手紙を送りあい、次に会える時を心待ちにして何度も文字をなぞって我慢している。 

 その分会えた時は嬉しくて、離れがたくなる。 
 あまり会えなくても気持ちはちゃんと、続いている。心の底からあの人が好き。大好き。 
 ロボスさんは私のたった一人の人。 

 

 

 でも、思う。感じるんだ。 
 前々から少しずつ、それは形を作っていっていた。 

 好きだって言ったのは相手のが先。 
 でも、それでも……ここまで好きなのは私の方だけなんじゃないかって…… 

 

 

 

 ある日のデートの時。そろそろ冬も超えて来て春めいてきた頃。 
「ねえねえ、今日はどうする?」 
 真冬だと寒いし引きこもり―! でもよかったけどあったかくなり始めた今ならたまには外でデートもいいよなーって感じるようになってきた。 
「モニカさんはどうしたいですか?」 
「え? 私は……まぁ二人で話せるならなんでも?」 
「同じですよ。モニカさんのしたい事に付き合いますよ」 
 ……デートのネタ切れには早いんじゃないかい? イケメンさんよぅ。 

 

「どこか行きたい場所ありますか?」 
 逆に聞かれたなぁ。 
「いや、これといってはないんだけどね。このままだと前を同じになるよってだけ」 
「構いませんよ」 
 ……何かしら、言っていいんだがなぁ…。本当にないとか…あったりするのか? この人。 
 こういうやりとりは初めてじゃない。いつもいつも、私のことばかり優先しようとしてくる。……それがなんだかおもしろくない。喜んでいい事の筈なのに、なんか私には面白くない……。 

 

 

 結局少しだけ歩いてそれから家に来てしまった。まぁいいんだが。 
 私はソファーに座って隣の相手をじーっと。じーぃいいいいいっと見つめる。 
 どうすれば欲しいのを得れるか考えている。 
「あの……モニカさん?」 
 戸惑うような反応。……この人って本当経験値高いよな。見方があれとはいえ、照れたりとかしないのかな……。一応恋人なんだぞ? 私は……。 

 

「ねぇ、何かして欲しい事とかないの?」 
「え……」 
 暫し相手は考える。迷う位ないんかい! 
「あー……愚痴聞いてほしいとかさ、疲れているから甘えたいとかさ」 

 ふと考えると、私はああしたいって意見をよく言う。けど相手の意見を聞いた覚えがろくにない。 
 もっと外で遊びたいとか。恋人らしくしてほしいとか、なんかさ…人と人が付き合っていくと何かしら起こりそうな我儘を聞いた覚えがないんだよ。 
  
「愚痴とかは特には。じゃあ……膝とかまた借りて良いのなら……」 
「……ロボスさんってそういう欲には忠実だよね」 
 一つため息をついて半目。でもまぁいいか、ってどうぞって膝をたたく。相手はちょっと苦笑いしてそれでも横になる。 
「でもどうしたんです? 急に」 
「いや……付き合ってそれなりになってきたしさ。あまり会えてなくてもそれなりにまぁ…不満というかこうしたい! とか出てくるんじゃないかって」 
「不満なんてないですよ。大丈夫です」 

 

 優しい言葉。甘い態度。 
 いつだって気遣ってくれる人。 

 ……そこに不満がある訳がない。 

 ただ、私には……この人の本質が見えないまま。 

 

 ただ可愛がって貰って、優しくしてもらって。 
 甘さを甘受するだけのが恋人なのかな? 

 怒ったり、喧嘩したりとか…… 
 そうでなくても余裕がない姿も何も、見たことがない。 
 愚痴とか不満一つすら私には零してくれない。 


 それに、相手が気にしているはずの……鱗の問題だって。 


 何もかも隠されているだけ? 
 相手だって人間だ。何も抱えてないなんてないはずなのに。 
 私はただ、ここに居ればいいだけなわけ? …なんかそれもやもやするんだけど……。

 

「ねぇ、そろそろ見せる気にならないの?」 
 ちょっと緊張しつつも聞いてみた。何を、と言わなくても通じると思っている。顔までの鱗についてもいまだに私は知らないまま。 

 

「……見る必要はないですよ」 

 

 

 ……。そう、来るかよ。 
 思いっきり立ち上がって相手を床に落としてやった。 
「? モニカさん?」 
 流石反射神経いいな。相手は頭はしっかり守って落ちて即顔を上げる。 

「……ロボスさん。貴方にとって私はお人形なの?」 
 全力のジト目で相手をにらみつける。 
「え? そんな事……」 
「ないって言えるの!? ただ気に入った人形を可愛がってるだけとどう違うのさ! ただただ相手を甘やかして、自分が可愛がれればいいだけなら人形買ってよ!」 
「モニカさん、ちょっ、待って。落ち着いて下さい」 
 ……これだけ一方的に八つ当たっても怒ってもくれない。ただ、優しくなだめようとするだけ。優しい人だって知ってるさ。知っているけどね!! 

 

 でも……私に見せる本音とか、弱音とか……気持ちとかさ。そういうのがないみたいじゃない……。
 そう思うだけで、胸が痛くて涙がにじむ。 

 

「……ロボスさんの大バカ!! 今日は帰って! 出てって!!! 知らない!!!」 
 クッションで相手をぼすぼす叩いて追い払うように追い立てる。 
「ちょ、落ち着いて! だから落ち着いて下さいって!」 
「帰れ!!!!!」 
 無理やり扉の外に追い出して、部屋の鍵をかけて隅っこに丸まった。 

 

17.png

 何度か声をかけられても全部耳をふさいで無視した。 
 気持ちがぐちゃぐちゃで、距離があるのが寂しくて悲しくて。 
 暫くして静かになって、その後寂しくなって窓からこっそり何度もこっちを振り返りながら帰る背中を見つからないように見送った。 

 

 ……何してんだろ、自分……。 

 

 

 

 手紙が来たのはそれからすぐ。 
 会って話がしたい。その旨を伝える言葉。 
 私だって、会いたい。でも、気持ちが上手くまとまらない。 
 私は欲張りなのかな? ただ、素直に甘えていればそれでいいのかな? 

 ……それで私は納得できるの……? 


「……あいたい」 

 

 文字を指でなぞっていたら、唇から勝手に言葉が零れた。 
 納得出来る、出来ないは置いておいて……このまま拗れたくない。 
 ほんの少しの時間になってでも、一回会ってお話をしないと。 

 

『私も、会いたいです。

 夜でもいいので時間作れる時はありませんか?』 

 

 そんな短い手紙を書いた。 

 

 ごめんね、とかそういう言葉は全部、全部会って伝えよう。 
 追い出したのはやりすぎた。うん。 

 

 手紙を出して、少しした頃だった。 
 人通りがある道を私は意識的に歩く。自分の立場や危なさを理解しているから。今回もそうだった。 
 でも、気持ちがへこんでいたから油断していたんだと思う。 

 何かの気配を感じた次には、ふっと意識が闇に落ちたのだった…… 

 

 

 


 気づいた時には檻の中。 
 今まで自分が何をしていたのかゆっくり思い出していく。 

 そうだ、私は少し外を歩いていて……。 
 そうして全然知らない場所にいる。あぁ、こりゃあ多分誘拐だな。 

 伊達に経験値は積んでない。内心のため息は出るし恐怖だって皆無でもない。が、比較的冷静だ。どういう状況下にいるのかまずは掴もうと体をゆっくり起こした。 

 

「起きたかい?」 
 そこにいたのは中年の男性。 
 手には可愛らしいお人形を持っている。 
「……あの、ここは一体…?」 
 か弱い振りをして、怯えたように声を出す。こういう時はとりあえずか弱そうにしておくのだ。

「海の上だよ」 
 海? 確かに地面の上というより動いているものの中に居る感覚がある。 

 

 男は手から光を出して、空中に浮かせた。
 え? 魔法使い?
「聞こえるかい? ヒルトン。君の娘を預かっている者だよ」
『聞こえる。モニカは無事なのか? 声を聴かせて欲しい』
 お父さんの、声……だ。
「ちゃんと無事だよ。今はまだ、ね」
 
 声をどうぞ、と言わんかごとくに私の前に光を差し出す。

「お父さん!」

『モニカ! 聞こえるかい?』
「聞こえるわ。今のとこは怪我はありませんわ」
 向こうから少し、安堵の息が漏れ聞こえた。
 ……お父さん、また心配かけて御免ね。

 

『要求は?』
 お父さんも私の誘拐には慣れたのか、冷静に相手と話を続ける。

「君の娘の命だ」 

 

 ……は? 

 

「君のせいで私の仕事は失敗だ。愛しい娘は君のせいでいなくなった。だからね、仕返しをするんだ。 
 君にも娘を失ってもらう。死んでもらう」 
 ……逆恨み系かよ。うちのお父さんはそこまで強引な仕事はしていない。互いに利益をきちんともたらし、横取りとかそういうのも絶対にしてないって聞いている。 
 真っ当な商売相手にはとても信頼されているし頼りにされている。 
 そうじゃなくてこう言うのなら、相手は真っ当じゃない可能性が高い。いや、人を誘拐して逆恨みする時点で真っ当じゃないか。 
「そ、そんなの困りますわ……!」 
 相手はにたっと笑う。うおぅ、気持ち悪い。 
「君はあと少しの命だ。恨むのならお父さんを恨むがいいよ」 
 ぶちっと私は切れた。

「だーーーれーーが!!! お父さんを恨むかってーんだ!!!!
 悪いのは悪い事しているあんたでしょうが!!」 

 怒りで足元をドン! と強く蹴った。 
 私は確かに金を得た父の影響でこういう目には何度かあった。けど、それは父さんが悪いんじゃない。悪い事する人が悪いんだっての!! 

 

「おやおや、いきがいいお嬢さんだ」
『待て、いくら欲しいんだ! 金ならいくらでも出す!』
「残念。もう金は要らないんだ。どこかにこそこそ連絡飛ばしたらしいけど、のろまな軍隊が出る前に私は君の娘と死ぬ。
 せいぜい、苦しむがいい」

 そう言って犯人は私を一目見て、にっこり笑った。
 背筋がゾクッと来た。
「心配いらないよ。君は悪くない。だからあっちで私の娘と友達になってくれて構わない」
「いらないわよ!」
「互いにあと少しの人生。最後の船旅に出よう」
 そう言って男は部屋から出て行った。 

 

 

 ……いや、これ結構真面目に怖いんだが…。いや、そんな事考えてる場合じゃなくて。
 兎に角逃げることを考えないと。 
 これぼうっとしていたらまずい気がしてならない。 

 

 檻の中には椅子。まぁまず開かないだろうけど扉に念のため手をかけてみた。やはりびくとも動かない。鍵のタイプは何かみたけどそれっぽいのがなくてわからない。 
 うぐ。簡易的な鍵ならヘアピンでいけるかなーって思ったんだけど……。 
 椅子を持ち上げてみて、思いっきり叩きつけてみた。 
 でも、そこで異変は起きた。 

 

 バチ! 

 

 と音を立てて椅子がはじき返されたんだ 
「わぁ!?」 
 椅子が転がり落ちる。 
 え? 何今の……? 

 椅子をもう一回持ち上げてそうっと檻に触れてみる。何もない。 
 次は手でそうっと。 
 ……平気みたい。手でつかむのは…出来るみたい。 
 手を出そうとした時、軽い電流が走った。 
「っ!」 
 慌てて手を引っ込めた。 

 

 何? 今の……。 
 普通じゃない。これじゃあまるで…… 

「魔法……?」 

 

 ちょっと。それは……私は手も足も出ないぞ…? 
 え、待って。死んでもらうって言われたよね? 私。 
 もしかしてこのまま海に沈める……とか……? 

 

 逃げれない。そして相手の目当てが金じゃない。心中すらするつもりだ。
 そう言った相手は交渉が困難を極める。 
 ゾクッとなった。自分がどれだけ危ない状況下にいるのか理解が追い付いた。 

 

 どうしよう。どうしよう。 
 助けを求めても船の上じゃ…いや、待て。他の乗組員は? 
 運転している人とか……。そう言った相手に交渉出来ない? 
 でもそれすら甘い考えだった。 
 私の様子を見に来たのも人型の影みたいな存在で、ふわふわ浮いていた。 
 魔法で、一人で、この船に乗り込んで動かしているとしたら。 
 他の存在は期待出来ない。 

 なんで魔法使いがこんな事しているんだよ!! あーもう! 

 

 今こそ本当海祭りの時のトールさん、魔法使いさんのあの爆破魔法が欲しい!! 檻壊したいーー!! 

 私はそんなないものねだりを始めるのだった……。
    
 

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 海運王ヒルトンと、今回緊急で組まれた特捜部が巡洋艇の船内で額を寄せ合っている。

「後どれくらいで追いつく?」

「貨物船のくせに思ったより速度が出てるな……」

「相手に視認されないギリギリまで近づくんだ」

「刺激して自暴自棄になられては……。 ジャックされた船の積み荷は……火薬なんですから」

 

 前夜とある貨物船の乗務員全員が、酩酊状態で港で発見された。

 その後、意識が戻った一人の証言により、無人であるはずの船倉に、ヒルトンの一粒種モニカが囚われていることがわかった。

 モニカが行方知れずになったすぐ後に、ヒルトンは捜索願を出していたのだが、人相風体がよく似た娘が海の方へ向かう目撃証言があった。 その姿が、囚われていた女性と一致したのだ。 ​

 

 船舶盗難ならびに誘拐事件として海軍特捜部が組まれ、軍内部の魔法使いの一人によりルート探知に成功。失踪した貨物船を巡洋艇で追いかけることになる。

 その際勇敢にも、民間人であるヒルトンも一緒に乗り組んだ。

 

 ──作戦が決まった。巡洋艇の船長、特捜部のリーダーが口を開く。

 

「……その先は、選抜隊五名に委ねる。 隊長はウロボロス…行ってくれるね?」

「はい! 任命されなければ志願しようと思っていました!」

 直後、ロボスとモニカの父の目が合った。

「お願いします…娘を……娘を!!!」

「……必ず!」

 ロボスは決意を込めて、力強く敬礼した。

 

 ──必ず助ける。

 

 あの日、モニカがどうして怒ったのかわからなかった。

 とにかく仲直りの切っ掛けが欲しくて、手紙を書いた。

 そうしたら返事は、たったの二行で。

 

 それから考えた。行間にどんな想いが込められているのかを。

 考えに考え抜いて、ようやく朧げに見えてきたものがある。

 「必要はない」……モニカが最も反応したのは、この言葉だった。

 

 必ず助ける。そして伝えなければならない。本当の気持ちを。

 

 ……もしも運命がその猶予を与えてくれなかったら?

 とにかく自分の命を削ってでも、彼女を奪還しなければ。

 ──和解よりも。自分の気持ちよりも。 己の命さえ──モニカ自身より大切なものなんて、ない。

 

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 私は一通りあれこれやって、少し疲れて座り込んでいる。

 ……そういや昔、初めて誘拐された時も船だったな。

 あの時は、大きなお兄さんに助けてもらった。そうしてそれが初恋になった。

 今は…? 私は誰かに助けてもらえるのかな? 私の心には一人だけが浮かんでくる。

 ……ロボスさん。 
 あの人はもう知っているのかな? 
 海軍の軍人さん……。船の上の事件なら耳に入る? 

 助けに、来てくれるだろうか……? あんな不条理に喧嘩吹っ掛けて、一方的に怒った彼女に呆れてないだろうか? 

 

 思い出してくるのは甘く、優しくしてくれた時間。 
 あまり会えなくても、それでも私たちは時間をかけて色々積み重ねてきた。 

 

 相手は、私の事……大事にしてくれていただけなのに。 
 あんな、変な風に突っかかってそのままなんて嫌だ。 

 私はただ、もっと……近くにいきたかった。それだけだったのに。 
 知りたくて。欲張りになって……もっと相手が欲しくなった。 
 単に相手の弱さごと知りたくなったんだ。自分は。 
  
 目に涙が浮かぶ。あー……もう。これ本当にどうしよう……。 
 帰る場所になるって言ったのに。待ってるっていったのに。 


 大きな音がして船が揺れた。 
「何!?」 
 地面が斜めになって檻に体を打ち付けてしまう。 
「…ったぁ」 
 ……水がどんどん入ってくる。まさか、本当にこの船沈めるつもりなの…? 
 私は檻から出れなくて……そのまま……? 

 

 死の恐怖が一気に沸いた。 
 これは本当にまずい。 
「ちょっと! 誰かいないの!? 誰か!!!」 
 檻をガタガタ揺らしてみても駄目。手を出そうとしてみた。でもはじかれる。手が痛くなっただけ。 
  
  

 やだ、私……死ぬの? 本当に? 

「……いや、だよ。いや……。…けて……」 
 水はどんどん入ってきて、足元を濡らす。 

 

「助けて!!! ロボスさん!! 助けて!!!」 

 

 このまま、死ぬのは いやだ!! 

 そう思った時、扉の外から何かの声と音がした。 

 人…? 

 バン! と音がして扉が壊されるように開いた。 
 そこに、そこにいたのは……。 


「モニカさん!!!」 

 まさに、助けを求めたその人だった。 

18.png

「ロボスさん!?」 
 ロボスさんは久しぶりに見る軍服姿で、手が強そうな爪がある鱗状態で、水をけりながら私の方に走ってくる。 
「無事ですか!?」 
「い、今のところは。でも水が…!」 
「今助けます! 少し下がって」」 
「はい!」 
 私は急いで少し下がった。ロボスさんは急いで檻を掴み、壊そうと試みる。 
 けど、その檻はびくともしなかった。 

「それ、多分魔法がかかってると思う。椅子を中から投げたらはじかれたし手を出そうとしたらはじかれる」 
「魔法!? くそっ…! どんな魔法かわかりますか?」 
「御免、気づいたらこの状況だったし魔法は何もわからない」 
 そう言っている間にも水はどんどん増えていく。 
 足元だった水位はあっという間にふくらはぎを超え、更に大きな衝撃がした。 

 

「きゃあ!?」 
 衝撃で床に倒れる。少し水を飲みかけてなんとかこらえた。しょっぱ!

 急いで頭を起こす。 
「モニカさん!」 
 ロボスさんが手を入れようとする。けどやはりはじかれて入れれない。 
「くそっ…!」 

 

「船が沈むぞー! 各自退避だ!!!」 

 

 他の海軍の人もいるのか、そんな声が響きわたった。 
 衝撃は何度も繰り返され、もう長くないのが分かった。 

 

 ……こりゃあ流石にダメだ。 

 

「ロボスさん! 聞こえた? 逃げて!!」 
「何を言っているですか! 貴方を置いて逃げるわけがないでしょう!!」 
「ぐだぐだ行ってないで行け!!! レスキューは自分が助かる上で人を助けるものだろうが!! 死んで昇進して美談になんてなるんじゃない!!」 
「美談になんてなりませんしそんな昇進はしません!! 真っ当に昇進して家を持って貴方を迎え入れる予定なんですから!!!」 
 おい、初めて聞いたぞそれ。 
「本当にもうだめだってわかってるでしょうが! 急いでよ!! 私に貴方を殺させないで!!!」 
 水かさはもう腰を超えている。相手は諦めずに檻を何度も壊そうとしている。 
「死にませんし死なせません!!!」 
「どうやってだよ!!! 不可能って言葉があるでしょうが! いいから! 怒らないから! 数回会っただけの恋人なんてすぐ忘れて次にいってもいいし見捨てたって誰も怒らないよ!!!」 

 

「バカ言わないでください!!!」 

 

 ビクッと体がこわばった。 
 初めて、本気で怒られた。 

 

「私には貴方しかいない!!! 諦めてたまるか!!! 大事な人をなくすのは一回で十分だ!!!!」 

 

 その力強さに、強い意志に。場違いにも心臓が苦しくなった。 
「でも……!!!」 
 時間がない。そして、光がばちっとするのが見えた。 
「爆発する!!!」 
 それは確信に近い予測だった。 
「モニカさん!」 
 光がまぶしくて、思わず反射的に目を閉じた。 
 その瞬間に見えたのは、大きな大きな何かが私を檻ごと包む姿だった ……。 

 

 


「う……」 
 耳が痛い。頭がくらくらする。 
 どこかに弾き飛ばされたのか、少し体が痛い。 

 人の声が遠くに響いてくる。 

 

 少しずつ、意識が戻って世界が近くなってくる。 

「モニカ!!」 
 聞こえた声は、聴きなれた声。 
「おとう、さん……?」 
「モニカ!! 無事かい?」 
「……多分」 
「……よかった……」
 体を動かしてみて、無事に動くことを確認した。少し耳がまだ遠いけどその程度だ。 

 

「……あれ? 私どうして……」 
 お父さんが痛ましい顔をして後ろを振り向くように見る。 

 そこにいたのは……ボロボロの竜。 
 私のいる檻を守るように、包むように覆っている。 
「……え……」 
「軍の人に聞いたら、その竜は……ウロボロスさんだという話だ」 

 そう、あの時、一瞬……見えた。 
 私をかばうように……大きな姿になったあの人が……。 

 

「ろぼ……す…さん……?」 
 檻から手を伸ばす。はじかれなかった。 
 そのまま扉を開けて外に出れた。 
 竜の体に手を添えた。相手の目がうっすら開く。 

 

  『よかった』 

 そう言わんかごとくの笑顔をして、目を閉じて…… 
 その姿は、鱗に覆われた人の姿に。 

 私の大好きな人の……ボロボロに変わり果てた姿に……。 

 

「……ゃ……いやああああああ!!!!! お父さん! 助けて! ロボスさんを助けて!!!!」 
「大丈夫、落ち着いてモニカ。今病院に搬送する準備はしているから」 
「う、あ、あう……ろぼ、すさん……ロボスさん……ロボスさん…!!!」 
 私は涙を流れるまま流し、相手の体にすがりながら、必死に搬送が来るまで名前を呼んでいた。 

 ねぇ、言ったよね? 
 必ず私の元に還るって言ったよね? 

 だから、どこにもいかないで!!! 

 

 

 

 

 後に聞いた話だけど、犯人は捕獲される前に自分から爆発に巻き込まれに行ったと聞いた。 
 多分、なくなったんじゃないかって。だから檻が開いたんだろうと言われた。 

 お父さんは出来るだけの力を尽くしてくれた。 
 お金の力にものを言わせて最高の治療を受けさせて、彼は一命をとりとめた。 

 

 魔法の力なのか、本人の体質なのか。 
 体は普通より速く回復に向かっていった。 

 私の方は、爆音によってちょっと耳が遠くなったのと(それもすぐ治った)体を少し打ち付けただけ。ロボスさんが……その身で守ってくれたんだ……。 

 

 最初は普通に病院で入院という話だったんだけど、お父さんが娘の大事な人で恩人だから、と軍の人と交渉して、彼の家族にもきっと交渉したのかな。 
 危険を脱したら後はうちの離れで療養させることになった。 

 私は毎日そこに居続けた。お医者さんに手伝えることを聞いて、出来るだけの事をして。 
 目が覚めない相手のために日々尽くした。 
 顔中、体中に包帯がまかれている姿は痛々しくて……つらかった。 


 この人は、本気で命をかけてくれた。 
 本気で、助けてくれた。見捨てなかった。 

 こんなにも、こんなにも思われていたのに……私は……。 

 

 涙があふれる。包帯の隙間から見える鱗をそっとなぞる。 
 これがロボスさんを助けてくれたもの。なら気持ち悪いわけがなかった。 

 

 

 貴方の声が聴きたい。優しく触れられたい。笑いかけて欲しい。 
 あの時は御免ねって伝えたい。逃げろって、突き放してごめん。 

 もうしないから。私を選んでくれるのなら、手放したりなんてしないから。 
 早く目を覚まして…… 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 

 

 

 暗い中を歩いていた。 

 

 光が見えない中をどこに行けばいいのかもわからず歩く。 

 目を閉じる時、聞こえたのは悲鳴。 
 ……彼女は、彼女も、私を化け物と思っただろうか? 
 自分の醜い姿に悲鳴をあげたのだろうか? 

 

 それでも、助けた事に後悔はない。 
 例え、彼女の気持ちがもう、ここになくても私は…… 

19.png

 『んなわけあるかよ』 

 

 懐かしい声が響いた。 
 ……迎えに来てくれたのか? 

 そう思った時、乱暴に背を押された。 

「何を?!」 

 

『まだこっち来んじゃねぇよ』 

 あぁ、間違いない。その声はやっぱり…… 
「シャーク!」 

 

 手を伸ばしても届かない。あいつは背を向けて、振りかえらず去ってしまった。 
 追いかけようとした時、背がまぶしく感じた。 

 愛しい声が聞こえる。 

 

『還って来て、お願い。いかないで』 

 

 強気な彼女。でも案外泣き虫な彼女。 
 私の、恋をしている人の声……。 

(そう、だな。まだいけないな) 

 

 私は手を光の方角に伸ばして足を進めた。そうして……。 

 

 

 

 

「ロボスさん……」 

 最初に見えたのは泣きながら、自分の側で目を閉じて布団に突っ伏している彼女。
 その涙を拭いたくて手を伸ばす。 

 

 でも、その手が包帯でぐるぐるで。おまけに鱗が覗いているのが見えて手が止まった。

 あぁ、醜い姿のまま戻れてないのか……。 

 おまけに鱗が出ている時は怪力になる。下手に触れることが出来ない。 

 

 それに、あの時の彼女の悲鳴がまだ……耳の奥に残っている。 
 触れることが出来ず、少し見ていたら彼女の目が開いた。 

 

「……ろぼ、す……さん?」 
「………ぁ…」 
 喉がかすれて上手く声が出なかった。 
 彼女は涙を流す。そして私の体に縋り付いた。 
「よか……よかった……よか……」 
 抱きしめたい。そう願うのに体が思う様に動いてくれない。 
 暫くそのままにしていたら、彼女は顔を上げた。 
「……私お医者さん呼んでくる! 待ってて! ご家族にも連絡しないとね! ちょっと行ってくる。すぐ戻るから!」 
 そう言ってぱたぱた出て行った。 

 

 それから少しして、医者が私を診に来た。 
 ここはどこなんですか? と病院に見えない景色について訊ねれば、ヒルトンの本宅の敷地内にある離れだとか。……彼女の父親が手を回して療養に良い環境を、と整えてくれたという話を聞いた。 
 ……親子そろって規格外の事をやってくれる。 

 

 私の体はきちんと回復に向かっているらしく、後は痛み止め等を使いながら自分の治癒力で治すべきだという話を聞いた。 
 暫くは、このままここでお世話になるのが確定事項らしい。……どうしたものやら。 

 

 家族が会いに来てくれたり、軍の人が様子を見に来てくれたり、彼女の家族が少しだけ顔をだして私にお礼を言ったり、と色々あった。 

 

 そして体が少しずつ癒えていく。 
 彼女は面会人が来た時は席を外していたけど、出来るだけ近くにいてくれた。 

 

 食べ物を用意したり、食べさせようとしてくれたり。ただ包帯を変えるのだけは医者に頼むから、と断った。 
 鱗に覆われた姿を直視させる心構えが足りなかった。 

 

 どこか気まずく。でも日々側にいれるのに幸せも確かに感じていて。 
 体が動くようになったらリハビリもして。 
  
 いよいよ包帯が取れる時がやってきた。 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 

 

「やっとだね。まだ完璧に治った訳じゃないんだろうけどほぼ完治か。良かった」 
「そう、ですね」 
 ロボスさんは何か、困ったような顔をしている。 
 どうしたんだろう? 
「心配事?」 
「いえ、その……」 
 彼は暫く俯いて何かを考えていた。 

 

 そのまま沈黙がしばし。そうして、相手は顔をあげる。 

 意を決したように、顔の包帯を取り始めた。 
 その下にあったのは……鱗に覆われた、人でないような姿の人。 

 

「貴方は……この姿を見ても平気、ですか……?」 

 あぁ、これは確かに気にするか。 

 怖がる人もいるだろうな。 

 

 

  ……やっと、相手から見せてもらえた。 

 


「……無理、ですよね。すみません」 
 なんて勝手に決めつけて俯く。だから私は即返してやるんだ 


「何を言ってるんだお前は」 


 おう、目がぱちくりしたぜ。いい気味だ。 
 私は相手の顔を手に掴んで、ぐっと自分の顔を近づける。 
「私はもうとっくにそれ見てたからね? 寝てる間とかさ。でも逃げてないけど?」 

 

 息をはいて相手をしっかり見る。 
 普通の人とは違う姿。でも、私の愛している人の姿の一部。 

 

「……どうして、私がその姿を無理だなんて思うのさ。」
「あ、や……その、意識が消える前悲鳴が、聞こえて……。この姿が怖かったのかって……」
「このど阿呆。恋人がボロボロの姿で目の前に現れて悲鳴あげないやつがいるか」
 あの時鱗どうこうとか気にする余裕もなかったわ。
 そっちの恐怖が先に立つわけがないだろうが。阿呆。

 

「ねぇ、言ったよね? 私の事を知りたいって。まるごと。自分の事も知ってほしいって。」 
 それはあの時の言葉。相手が告白をしてくれた時の言葉。 
 あの時、あの人は私をろくに知らないのにそう言った。 
 私は今、この人を見て、……あの時からどれだけ知れたのかな? 言葉を続ける。 

 

「私だってあなたの事まるごと知りたい。 
 弱いところも、ダメなとこも、我が儘だって、醜い部分だってまるごと全部ね。 
 ……だから見せてくれないのが嫌だった。 

 でも追い出したのはごめん。……助けに来てくれたのに、拒絶したのもごめんなさい。あれは言い過ぎた」
「そんな、謝る事じゃ……」
「駄目だよ。そういうとこはしっかりしないと。恋人なんだから余計にね」

 

 私は額をくっつける。鱗の肌の状態だとすこしひんやりしている。

「どんな姿でもそれは貴方の姿。全部含めてロボスさんでしょ?
 私が、好きな人の姿じゃんよ。
 鱗だってあなたを守ってくれた大事な一部じゃない。

 

 私は、ずっと言いたかった。
 あなたのその姿を見せてもらってから言いたかった。

 

 私は、貴方が貴方なら、好きだよ。ちゃんと、好き。大好き」

 

 鱗のある、普通の人でない姿に違和感や異物感がないとまでは言わない。

 けど、それでも。そんなのとっても小さな事。

 それ以上に今の私はこの人が好きだって気持ちで溢れているんだ。恋をしているまま。

 あの時、貴方が受け入れてくれたように。私も貴方を受け入れたい。
 どんな姿でいても、本当にちゃんと好き。
 心臓が苦しくて愛おしい気持ちが溢れてくる。

 

 まぁ、頭から上が全部輪郭含め蛇っぽくなる姿まで想像していたから……正直、思ったより普通。って思っているんだがね。
 それはそれ。

 私は鱗の姿のままの相手に唇を重ねた。

「竜の姿だって、綺麗な顔の時だって、今だって……
 どんな時だって愛しています。

 

 命をかけて……助けてくれてありがとう」

 

 相手の手を私の心臓の上に置いた。
 この強く高鳴る音をちゃんと知ってほしい。
 貴方がくれたものを、私も返したい。その一心で。

 

--------------------------

 

 ──それは一つの大きな賭けだった。

 火傷の保護のために生えた鱗が、右額から左頬にかけて、 顔の斜め半分以上を覆うように残っている。

 条件はまるで違うのに、9年前トラウマになった時とほぼ同じ顔だ。 あれ以来、ここまでひどい状態は、他の誰にも見られたことがない。

 初めての女性にも。生前のシャークにも。

 

 でも……程なくそれが治るのは経験上わかっていた。 だからあと少しだけ、隠し通せばよかったのだ。

 

  ──けれど、敢えてこのままの顔を。

 この世で一番見られたくない人に、見られてしまったら?

 この世で一番大好きな人が、自分を拒んだら…?

 

 「見る必要がない」と言ったのは、その結果を知るのが怖かったからだ。

 だが試してもみないで「必要がない」と言い切るのは、拒絶を意味する。

 その言い回しが、どんなに穏やかだろうと。 拒絶したのも、言い過ぎたのも、むしろ自分が先だった。

 モニカが怒るのも無理はない…そのことにやっと気づいたから。

 

 ──火の中に飛び込むなんて、何にも怖くないんだ。

 貴女のために死ぬのなら、それだって怖くないんだ。

 ただただ…貴女に嫌われるのが怖かった。

 

 ……今、ありったけの勇気を出して、一番醜い時の私を……。

 

 

 鱗に覆われた額に、彼女のビスクドールのような白い額が触れた。

 『どんな姿でもそれは貴方の姿。全部含めてロボスさんでしょ?』

 

 私が先にモニカに贈った言葉によく似ている。

 “それら全部含めて、『貴女』は『貴女』なのではないですか?”

 けれど、だからといって……

 

 ──それは包容力の桁が違いませんか、お嬢様?

 昔読んだ物語では、怪人はキスなんか与えられなかった。

 柔らかな胸から、彼女の鼓動が伝わってくる。

 静かに、だけど力強くて…私の強張った心を叩くのだ。

 

 本当の気持ちを伝えなければならないと、ずっと思っていた。

 でも、涙が溢れて止まらない。

 言葉を、選ぶことができない。

 顔から、少しずつ鱗が引いていくのがわかる。

 

 ……愛より獣性が勝った時、顔が鱗に覆われる。

 火傷が完治したせいも勿論あるが、今は、その逆なのだ。

 

 

   愛が、溢れて止まらない──。

--------------------------


「……貴方は、本当……」
 私が掴んでない方の手でロボスさんは彼の顔を覆った。
 少し、肩をゆらす。もしかしたら、泣いているのかもしれない。

 ……伝わってくれた? 信じて貰えた?

 

 胸に置いたままの手をぎゅっと包み込む。

 腕で目元を拭って、真っ赤な顔でロボスさんは私の方を向く。
 ……新鮮で可愛い。

 

 なんて油断出来たのもここまで。
 ぐいって引っ張られて深いキスをされる。

 

「ん……」
 びっくりして反射的に抵抗しかけるけど、相手は私を更に引き寄せて逃がそうとしない。
 どこか余裕がなくて。熱くて。熱が強く伝わるキス……。

 

 いとおしい

 

 欲しかったのが、やっと手に入った。
 ううん、それはずっとあった。けど私が気付いてなかっただけ。
 私はずっと、この人に愛されていた。

 

 相手に応えるように、自分からもぐっと抱き着く。
 段々と激しくなるキスに必死についていく。
 少しだけ、唇が離れて口を開かされる。
 疑問に思う間もなく、そのまま舌を入れられた。
 うご、これはぬるっとくる!

 

「ふ……んん……」
 甘ったるい声が零れだす。
 どうしていいか流石にわからなくて、されるがままに流される。
 力が抜ける。体が熱くなってくる。

 

 背中がひやり、としたと思ったら背のファスナーがおろされたのか、服をそのままするり、と脱がされる。
 ちょ、まっ。流れるような自然さじゃないか!?
 お前わかってた。わかってたが慣れてるな!? 絶対に!!
 
「まっ……」
 流石に恥ずかしくて少し押し返しす。あ、顔普通になってる。
 う、やっぱり格好いいぞ……。
「ごめん、もう待てない」
「え」

 

 するり、とワンピースのお嬢様ドレスをぬがされて、丁寧にベッドに押し倒される。
 ちょ、待った待った待ったぁ!!!
「いや、怪我! 怪我がだってまだ……」
「ほぼ完治してます」
 きりっという効果音が聞こえてきそうだった。

 

 いや。そりゃあね? いつかは、とは思っていたし……ロボスさんの性格考えるとよく今まで我慢したなってむしろ思うとこなんだろうけど……。

 

「だめ……ですか?」
 耳元でー!!! 言うなー!!!!
 ひゃん、って甘い声が出る。熱くなった体が勝手に反応する。

 

 力が、うまく入らない。

 少し怯えるように相手を見る。
 熱を帯びた視線。懇願するように指で髪を優しくすいてくる。

 

 どうしよう、ドキドキする。
 いや、とかじゃない。
 だって、待って。私今……物凄く大好きって気持ちでいっぱいで……
 嬉しい気持ちもあって……。

 

 触れられると心地いい。
 その目に見つめられると動けなくなる。
 キスの余韻のせいで体が、どこか期待してしまう。

 

 

「……こわい」
 素直に言ってみた。未知の体験がやってくるのが少し、怖い。
「優しくします」
 はむっと、耳を甘噛みされる。
「んっ……」
 ぞくぞくして、体は勝手に反応する。
 体の奥がきゅん、となる。感じるままに、相手の頭を抱えるように抱きしめる。
「……ろぼす、さ……」
 このまま流される気がした時、相手は一回離れて私を見つめた。

 

「愛しています。私を、受け入れて?」

 

 あぁ、もう……。
 もうだめだ。この気持ちに逆らえない。

 

「私、も……愛して……います。
 ……は、はじめて、だから……その、へんだったら御免…ってのと
 あの、本当……やさしく、して……ください……」
 相手は本気で嬉しそうにくしゃっと笑った。
「貴方の初めてが私で嬉しいです」

 

 相手も服を脱いでいく。……やっぱ筋肉ついてるなぁ…。
「勿論、優しくしますよ。ちゃんと気持ちよくしてあげますから」
 相手が服を脱いだ後、私の残る肌着に手を付けられる。
 するり、とキャミソールの肩ひもがおちる。は、は、恥ずかしい…!!

 

「貴方の全て、まるごと教えて?」

 耳元でささやかれたその言葉だけで、達しそうになった。

 

 私はそのまま、体全てもロボスさんの物になった。
 体全てに触れられた。髪の毛一本から全部相手のにされた気になった。
 とても甘くて、優しくしてくれて。体中、心全てが一杯になって。
 熱くて、大きくって。
 好きな人とつながる幸せを与えられた……。

 

 

 

 


 それから。最初こそ手加減してくれたがロボスさんは暫くしたらタガが外れたように私を求めてきた。私もそれに応えた。
 ……もっと体力を作ろう。そう心に誓った。

 怪我が癒えて落ち着いたころ、私の家族と食事をした。
 お父さんもお母さんも命をはって、私を守ってくれたロボスさんに好意的だった。
 必ず大切にします、なんて言われた時には顔が熱くてしょうがなくなってしまったとも。


 軍に復帰することになった時、相手は私に一緒に来てほしいって言ってきた。
 お父さんだって軍にお礼を言いに一緒に行くつもりだって話だし二つ返事で行く、といった。

 軍に顔を出す前に行きたい場所がある、とお父さんに伝え私たちは二人で敷地内のある場所に向かっていた。

 

 

「ここが、シャークのお墓です」
 そう、そこはロボスさんの親友のお墓。
 ロボスさんと私はそこを綺麗にして、お花を飾った。
 そうして二人で手を合わせる。

21.png

「昏睡状態だった時夢にね、出て来たんですよ。まだこっちに来るなって」
「……そっか。じゃあ有難うって私も言っておかないとね。
 ロボスさんを守ってくれてありがとうございました」
 お辞儀をして、目を閉じて祈る。

 

 会った事のない相手。でも好きな人の大事な人だから。ちゃんと心をこめて冥福を祈る。
「シャーク、お前の言った通りだったよ
 すべてが欲しくなる人に出会えた。彼女だ。
 背を、押してくれてありがとう」
 ロボスさんも私を紹介して祈る。

 

 風がさわり、とふいた。
 どこかでその人が応えてくれたように。

 

「ねぇ、そのシャークさんの写真とかないの? どんな人か見てみたい」
「あぁ……寮の部屋にならあるかな。ちょっと待ってて」
「うん」
 ロボスさんは前より私に砕けた感じがする。
 無意識か意識的なのか。どっちにしても嬉しい変化だった。

 

 私はもう少し相手に祈った。
 ……会ってみたかったなぁ。

 

 暫く待っていたらロボスさんが小走りで戻って来た。
「お待たせしました。この写真のこの人ですよ」
「どれどれ」
 そこにいたのは強面で頬に十字傷の大きな人……

 

『もう大丈夫だ。助かってよかったな』

 

 私にそう言ったのは……

 

『海が怖いか? それは普通だ。けど、俺は好きだ』

 

 初めて、誘拐された時……船の中で……
 大きな人に助けてもらって……陸に上がった時海が怖く見えて……
 その人がそう言ったから、嫌いになれなかった……

 どこの誰かも分からないその人は、確かに私の初恋だった……

 


「モニカさん?」
「え!? あ、ご、ごめん。えと、なんかロボスさんと並ぶと面白い組み合わせになりそうだね」
 いかにも優男そうなイケメンさんと強そうな人。

 

 ……それはもうおぼろげな記憶で。傷があった気はするけど完璧本人か? と聞かれると自信はない。
 けど……なんとなく、直感がそうなんじゃないかって告げた。

 

 そうしたら私たちは同じ人を好きになっていたんだろうか?
 なんだかそう思うと人の縁の不思議さを感じた。

 

「豪快な男でね。一緒にいて楽しかったよ」
「へぇ。ロボスさんってそういう人がタイプなんだね」
「そうなんでしょうか」
「私もわりと豪快気質だと思っております」
「はは。性格似てる……とは違う気もしますが、気は合ったと思いますよ」
「私もそう思う。きっと好きになってた」
「……そうですか」
 お? ちょっと言葉が堅いな。

 

「なに? 妬いた?」
 ちょっと冗談めかして聞いてみる。
「……少し」
 少し照れた感じでそんな言葉。
 ……思わず顔が真っ赤になった。

 

「特別な意味で好きなのは、ロボスさんだけだよ」
 指先を絡めてきゅっと握る。恥ずかしくて嬉しくて、愛おしくてしょうがなくて…心臓が苦しい。
「私もです」
 そのまま手を繋がれる。

 

 
 私はぽすっと相手の体に寄りかかる。
「いい友達に会えてよかったね」
「そうですね」

 

 少し沈黙が落ちる。互いに離れがたく思うがゆえに、もうちょっとだけ、とそのまま熱を分け合う。

 

 暫しの沈黙。ロボスさんは手も体も離して私と向き合うように立った。
 どうしたんだろ?

 

 

----------------------------

 


「普通なら、墓地でいうべき言葉ではないかもしれませんが。
でも私は、彼の前で誓いたくて──貴女を幸せにすることを」

 と、そこまで言ってから。

 

 ──まいったな。何だって今頃こんなに心臓がうるさいんだろう。
 これではまるで、初恋を知ったばかりの思春期の少年だ。

 

 ……初恋? ……そうか!! これが本当の……。

 

 急に意識してしまって、次に続けるべき言葉が中々出てこない。

「……だから、私の港になって下さい。
そうしたら帰還する度、ウロボロスな私は、貴女に何度でも恋をする」

 これで、通じるだろうか?今の自分の心情そのものなのだが。
 いや、もっと具体的に、はっきりと言わなくては。

 

「返事は急がなくてもいいです。
 貴女が二十歳の誕生日を迎える時まででいい。

 ……つまり、その……

 

 貴女が二十歳になったら結婚して下さい、ということなんです」

 

 返事をもらえるまでには、どれくらいの間があっただろうか。
 きっと良い返事がもらえる、そう思う一方で、やっぱり少しだけ不安で。

 相手の返答を待つ間、胸の早鐘が鳴り止まない。

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 ……あ、うん。そうか。今私、プロポーズされ……たのか。
 
 何を言いにくそうにしているんだと思ったら……。
 まずはびっくりして。それから段々嬉しいって気持ちが溢れて来た。顔が熱い。

 この人今日が何の日かわかってていったのか? まぁ言ってないから知る訳ないか。
 すごいタイミングなことに思わず笑みが零れた。

 私は相手の手をとって、笑顔を向けた。
 

「いいよ。むしろ私から言おうと思ってた。
 結婚しよう?」
 そう答えれば相手は心からほっとした顔してくしゃっと笑う。
 ……私この人のこの笑い方大好きだな。
「よかったぁ…」
 という声が、小さく漏れた。
 おう、結構可愛い人だなぁ。

 

「これからずっと、一生かけて貴方の帰る場所になる。
 貴方の友達にも、貴方にも誓うよ。
 私はロボスさん、貴方を愛しています。
 私ね、抱かれるのは生涯で一人がいい。だからまぁ、あれなら外堀埋めてやる気でいたんだけど必要なくなっちゃった」
 くすくす、と笑いが零れる。なんだかなー。私本当この人の事愛しているなぁ……。

 

 私はシャークさんのお墓に顔を向けた。
「ロボスさんの事は必ず幸せにします。だから、安心してください!」
「え、ちょ。それは私のセリフでは……」
「言うのが遅いのが悪い」
 えぇ、と相手はうなだれる。

「二十歳の内なら一年以内に結婚しちゃう?」
「一年?」
「あ、やっぱわかってないか。二十歳までとか言ってたからそうだと思った。私今日二十歳になったんだよ?」
「え」
 あ、目が丸くなった。

 

「返事、だからしたの。まぁそうでなくても言ったけどね」
「……何も用意できず……」
「十分だよ。私にロボスさんの未来をくれるんでしょ?
 これ以上にない。私が一番ほしい贈り物、だよ」

 

 私も相手に負けない位、幸せな顔して笑いかけるんだ。
 物だって何か欲しいわけじゃない。
 指輪だってなくたっていい(というかつけれないし必要ない)
 私はただ、この人がほしい。それだけ。

 

「……あぁ、もう。本当あなたは……」
 ロボスさんは顔を赤くして俯く。
 そうして私を引き寄せて唇を重ねた。

「なるべく早く迎えに行きます」
「はい、待ってます」
 私たちはそのまま暫く抱きしめあう。

 おめでとう、って言葉が落とされ、ありがとうって返した。
 お墓で何やってるんだってやつなんだろうけど、見逃してほしいものだ。

 


「また、会えるの待ってるから」
「はい。また暫く先になりますけど……待ってて」
「うん……。昇進お待ちしてます。頑張って」
 檻の向こうからどさくさ紛れに言われたことを私は忘れてないぞ。是非とも有言実行して貰おうじゃないか。
「……あ。あぁ……はい。その、待ってて」
 お、照れた。可愛いなぁ。

 

「ちゃんと待ってるよ。
 だから今は…『行ってらっしゃい』」
「はい、『行ってきます』」

 

 そう言って私達はそっと離れた。

 私もまた、ロボスさんの背を押すようにとんってしておくんだ。

 

 

 

 

 それから暫くして。私たちは海の見える街に来ていた。

 シャークさんの生家だったという場所に足を運ぶ。

 二人で彼の縁者であり、私たち共通の友人のグリーザさんに結婚するって報告に来たんだ。

 

 少し探したらその人はそこにいた。

「おーモニカ久しぶりだなァー! …ってなんだ、蛇野郎も居ンのかよ」

 彼女は私に笑いかけてくれた。嬉しくて私も笑い返す。

「久しぶり。なんだとはご挨拶だな」

「ひっさしぶりー! 元気していた? 風邪とか引いてない?」

「十分だろーが。ウチが風邪なんざ引くと思ったか? 見ての通りだぜ、まーありがとなァ」

  グリーザさんは私の側に寄ってきて頭をわしゃわしゃした。くすぐったい。

 

「あ、これ手土産。食べて。今日はちょっと二人で報告に来たんだ」

 私は用意してきたおかしやら食べ物を手渡す。

「おーサンキュ。早速食っていいかーってなんだよ報告って」 

「うん、私達結婚することになったんだ。だからその報告」

 ガサガサと包装紙を開けながらへぇ、と言う彼女。

 遅れて意味がわかったのか数秒後にリアクションが返ってきた。

 

「うぇ、ケッコン!? は…え、マジで? 人生の墓場に投げ込まれてくるってか?」

「墓場にはならないから」

「ハハッ!…んで、ソイツをわざわざウチに言いに? まぁ、なんだ。おめでとう。

 つーかモニカお前、本当にこのヘタレでいいのかよ?」 

「友達だもん。報告するよ。ありがとう。 あのね、この人がいいんだ。だから大丈夫だよ」

 目いっぱいの幸せな顔を相手に向けた。

「そうかよ」

 グリーザさんはそう言って笑ってくれた。


 それから、私の願いでサーカスの方に出向いてすっかり友人になったトルディさんに報告に向かう。事件の事で心配かけたことについてはもう先に手紙を送っておいたけど、顔をちゃんと合わせたかったしね。

 近くを通ったから挨拶に来たって団員さんに言って、相手が休憩時間になるのを待った。

「ごめんお待たせ。モニカちゃん久しぶり。元気そうでよかったよ」

「お久しぶりです、トルディ殿。見ての通りピンピンしておりますわ」

「うんうん、よかった。今日は彼氏とデート?」

 ちらっとトルディさんはロボスさんを見る。ロボスさんは会釈をした。

「そうですわね。元気な顔を見せておきたかったのと、この街の友人たちに報告に来たのですわ。

 私この人と結婚することになったのですわ」

「へぇ、結婚! それはおめでとう。よかったね。なかなか会えないってふてくされてたしね」

「ちょっ! 言う事ないじゃないですの」

「そうだったのですか?」

「……ちょっとだけ。あ、でもお仕事なのはわかってので気にしないで下さいませ」

 うう、顔が熱い。恥ずかしいなぁ……。

「そういえば親戚の子に挨拶、行かなくていいのですの?」

「あぁ、そうだね。シールにもモニカさん見せておこうか」

「え? 彼氏さんシールの親戚!?」

「あ、そう言えば言ってなかったですわね。私の恋人そうなんですの」

「へぇ……そっか。へぇ。世間って狭いんだな」

「そうですわね」

「あ、いやそれだけじゃなくて……。まぁそのうち分かるか。

 モニカちゃんとは長い付き合いになると思うよ。これからも宜しくね」

「? はい? よろしくお願いいたします」

 ……後々、トルディさんがそのシール君のお姉さんと良い仲とわかることになる。

 未来の親類(予定)に素を出しすぎて接していたことに頭を抱える事になるのはまた、あとの話である……。


 

-----------------------------------

 シールはトレーニング中ということだったので、 モニカを紹介するべく稽古場へ向かう。

 そこで、遠目にも目立つ青い髪を探したが見つからない。

 代わりに、子アザラシがトランポリンの傍に…ぽてっと転がっていた。

 

 ──シール!と声をかけようとしたその時だった。

 モニカが子アザラシを抱き上げたのは。

 

「かわいい!」

「……シール、離れなさい」

 “ぷきゅ? きゅう!!! (何? あ、ロボス兄ちゃん!!!)”

「離れなさい、モニカさん(の、胸)から」

 モニカは不思議そうな顔をしただろうか。

 ロボスは少々乱暴に、Tシャツにくるまった子アザラシをモニカから取り上げた。

「ちょっと待ってて」

 足元のトレーニングウェアを拾って、近くの更衣室へと駆け込む。

 

「……不可抗力でしょ?!  え~何? 焼き餅なの?めっちゃ意外…!

 ……わかったよ。ロボス兄ちゃんの大事な人なんだね?」

 ロボスは声を潜めていたが、シールの声は丸聞こえだった。

 しばらくして、ロボスと人の姿に戻ったシールが並んでやってくる。

 

「改めて紹介します。私の従弟、シール。 この子が小さい時、家で預かっていたことがあってね。 本当の弟みたいな奴なんだ」

 それから今度はモニカの隣に立って、シールに紹介する。

「こちらは、私の婚約者。モニカさんだよ」

「宜しくお願い致しますわ、シール殿」

 シールは、えー!わーぁお、とか言いながらロボスとモニカを交互に見る。

「シールです、よろしくね」

 モニカに握手を求めて右手を差し出す。モニカもそれに応えて笑顔で手を握った。

 

 その後、シールはロボスを呼んで思いっきり背伸びし、耳元で囁く。

「びっじーん!!! スタイルもいい」

 ロボスは、こら、と言いながらシールの頭に拳骨をするフリをした。

 

-----------------------------------

 それから、私達の共通の大事な友人。エリックさんのところにも行ってみた。

 行商行っていたら会えないだろうって覚悟の上だった。けど、たまたま品物を補充しに戻っていたタイミングだったらしく、会う事が出来たのだ。

「エリックさん心配かけて御免なさい。見ての通り元気ですので!」

 エリックさんにもやっぱり手紙は書いてあったけどこれだけは言っておかないとね。

 なにせ普通に新聞沙汰事件だったしねー。はははー。

「本当心配しましたよ。ロボスさんも大怪我したというお話でしたし心配しましたよ」

「あぁ。御免。見ての通り完治したからもう大丈夫だよ」

「モニカ様には自動発動するような魔道具を持たせた方がいいかもしれませんね。

 今度考えてみますね」

「すみません。ありがとうございます
 一応ね、身を守る魔道具は前に買ってあるだが、回数制限らしくってもったいなくて遠出の時しか持ち歩いてないんだよね。すまない。

 私達は出してもらったお茶に手をつける。

「そうそう、エリック。今日は報告があるんだ。私はモニカさんと結婚することにしたんだ」

「おや…! それはそれはおめでとうございます。お祝い用意しなくてはですね」

「ありがとう」

「エリックさんには色々お世話になったしちゃんと報告したかったのです」

「ふふ、お祭りの時のことがこうやって実を結ぶなんておめでたいですね」

「ですよねー」

「お祭りの時の事?」

 ……おう、会ったことは言ったけど何があったとか言ってなかった!? あらー。

「一回逃げた時ちょっとお話したんだよ。またちゃんと教えるね。

 かなりお世話になったんだよ」

「そうだったのですか」

「大した事はしてないですよ。式には是非呼んで下さいね」

「ああ。それは絶対に」

「是非、来てほしいです。その時になったら招待状送りますので!」

 私たちはそうやって、互いの知人に会いに行って、挨拶をして回ったのだった。

 

 

 

 そうしていくばくかの月日が流れた―――

 

 鐘の音が高らかに響く。
 真っ白なドレスにヴェール。
 お父さんと歩いていく道。
 その先で私はロボスさんの手を取った。

22.png

 

  ――病める時も、健やかなる時も――

 私たちは誓いをして、口づけを交わす。


 二人の新居は海から近い場所にした。
 海の見える場所で出会って。
 それから月日を重ねて。思いを重ねて、愛を育てた。

 あの日の出会いから一つ、一つが重なって繋がっていった。

 

 そうして私はやっと言える。
 家に帰って来た貴方に目いっぱいの笑顔で言うんだ


   ――『お帰りなさい』 って――……

                                       ~fin~

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