もやむのサイト
~自己紹介~
「名は射手俊士(いでとしお)。職業:運び屋 以上。」
「依頼はきちんとした手順で頼む。HPへは…通常の手順ではたどり着けないがな。では健闘を祈る。」
そうして、謎のメモを残して去るのであった。*
「ちょっと!短すぎなーい?はいはーーい!近衛朝日(このえあさひ)っていいます!よろしく!職業以下同文!ドライバーの方よっ!」
「組んでからなんだかんだで6年選手だったっけ?とっしーの相棒の朝日さんといえば私ですっ!依頼はちゃんと達成するから安心してねっ」
「依頼はいつでもお待ちしております!あ、前金だからその辺よろしくっ。」
「それじゃあ私たちの物語、楽しんでいってね!」*
~これまでのあらすじ~
そう、あれは6年前。私達の出会いのお話をちょっとするね。
その時私は、誘拐されていた。え?何故って?これでもいいとこのお嬢様ってやつなーのっ!家庭環境は絵にかいたような最低なものだけどね。
あ、妹だけは別。あの子は可愛い。それは今はおいておくね。兎に角私は誘拐されてたの。
「ってめえええええ!!ただで済むと思うなよー!!!」
恥も外聞も投げ捨てて、誘拐犯にそう吐き出していた。*
「……車では無かったのか。なら、この依頼はキャンセルだ。家は?」
怪しいとは多少思っていたが、裏を取る前に引き受けざるを得なくなって、受けたらコレとは。やはり確認は必須だと思い知った。
まだ若かりし日のちょっとした失敗というやつであった。依頼人は〆よう。*
「は?何?」
いきなりそんな事を(私の脳内では)誘拐犯一味が言いだしてぽかん、とした。
「家に身代金要求ってやつ?というか家位知ってるでしょうが。誰がわざわざ言わないといけないのよ!ばーかばーか!!!」
子どもみたいな悪口が精一杯なのはお育ちということで。*
「誘拐犯は別だ。俺はお前…とは知らずにこの車を運ぶ依頼をされた運び屋だ。人は運ばないから、相手の依頼ミス。よって、俺はお前を家に帰す。以上だ。」
他に質問は?といいたげな雰囲気だが、とりあえずどこか駐車場を探しているようだ(運転中)*
後ろ手を縛られて後ろのシートに横になっていて、上手く動けない中その運び屋さんを見た。ええ、それでいいの?
「いや、仕事しなくていいの?いや、されたら困るのよね……。あ、言っておくけどうちの親私相手にお金なんて出さないわよ?人選ミスもミス。大ミスよ!誘拐犯も運び屋?も情報収集ろくにしないのね。ふんだ」
なかば八つ当たり気味に言葉を吐いた。
「……とりあえず信じられない。けど、解放してくれるのならしてほしい、です」
少ししおらしく、体の自由を求めた。*
しばらくしてそれなりに暗がりと明かりのある駐車場に止まる。車を降り、後部座席を開け、暫し待つ。
「今から縄を解く。動くなよ。」
ドアを開けた瞬間攻撃されたら溜まったものではないので、それを警戒しての沈黙であった。*
ひとまず止まって扉が開くのを感じた。一旦は様子を見たのはお互い様。変なとこ触るのならがぶりつくつもりで警戒してた。
「……変なとこさわらないなら何もしないわよ」
警戒はしてても現状攻撃はまだ、する理由もなかったから大人しくした。*
そのまま無言で縄を切る。
「……大丈夫だ、お前みたいなガキに欲情はしない。」
事実を述べる。*
縄を切って貰って手をぷらぷらして体を起こした。
お礼を言おうと思った直後、その心は霧散した。
「しっつれいなああああ!!もう結婚できる年よ!体だっていい具合に成長してるわよ!!!」
睨むにとどめた私は偉いわ。*
「制服なんだ、学生だろう?」
明らかにガキじゃねぇか。というのは心にとどめた。
「とりあえず送る。ただし、そのまま横になっておけ。」
いつ気づかれて銃撃があるかわからない。届けるまでが運び屋の仕事だ。*
「まぁ、学生だけどね?だからってその発言は失礼にあたるわよっ!」
ぷりぷり、と怒るのが余計に幼く見えたと思う。
「は?折角起きあがれたのに何で?」
銃撃なんて予測してない私は首を傾げたの。というか家教えてないけど……抜けてるのかしら?*
「お前を攫った実行犯とかに気づかれたら攻撃される恐れがある。死にたくなかったら伏せていろ。」
「あと送り先、ちゃんと住所を言えばわかる。」
話を聞く気にならないと多分言わないと思ったので、改めて聞くのであった。*
「……うわぁ。暴力はんたーい……」
げんなりした顔でうなだれた。というかそんな事してるの?この人。
「……はぁ。●●町のでっかーーいおうちあるの知ってる?近衛って家。そこよ。本当にお金でないわよ?」*
「金は今回は不要だ。正式な依頼をしたければ、また後日だな。」
ふっと笑って後部座席のドアを閉める。
「なるべく安全運転で行くが、トラブルはつきものだ。何かあれば俺の指示に従って貰うぞ。」
と言うだけ言うと車を発進させる。*
「ふーん……。お仕事だと思ったのにサービス残業になっちゃったのね。お疲れ様。依頼って……そんな運び屋使うような事なんてあるのかしら」
従うしかない、と腹をくくって座席に横になった。どっちにしてもこの人に自分の命運が現在握られているに変わりないわ。
「わかりましたー」
半ばやけっぱちになって何が起こっても何とか生き延びてやらぁ!って心意気になっていた。*
「よし、着いたぞ。」
多分裏口とおぼしき辺りで車を停める。
「っ、まだ、起きるな。いいか、いいというまで座席の陰に身を隠せ。」
そう言うと、さっと車外に出て行き、しばらくするとささやかな物音。
そして開く後部座席。
「今なら大丈夫だ、早く帰れ。」*
横になりながらも見えていた景色で家に戻って来たのを感じていた。愛着の無い家でもほっとしたのは事実。
起き上がろうとしたのを止められた。
「え、は、はいっ!?」
言われた通り、自分の身はかわいいからぎゅっと丸くなっていた。静かな音が響く。
ようやく開いた扉に視線で大丈夫?と問いかけた。
「あ、は、はい……」
起き上がって家に入ろうとして、その前に相手を見た。
「あの、その……誘拐犯と間違えてごめんなさい。あと、ありがとう」*
「いや、あの状況では間違えない方が無理だろう。今後は気を付けるんだな。」
去り際の背を向ける彼女の頭をいたわる様に軽く手を載せるように叩く。*
「……はい」
なんとなく、しおらしくなってしまった。非日常から帰って来たばかりのせいかもしれない。
そうして、手が頭にぽん、と乗せられるのを黙って受け入れた。
「……あ、えと、お名前は?」
思わず聞いていた。*
「…時間無いんだがな。」
そう言うとそっと名刺とメモ用紙らしきものを手渡す。
「ご用命の際は連絡を。ただし、それなりに報酬は貰うから、そのつもりでな。」*
時間の一言にしゅん、となって上目遣いで見た。でもその人は私に名刺をくれた。
「……射手俊士さん。わかりました。その、お気を付けて」
そうして立ち去る彼の背を見送った。
そうして私は卒業後。彼に連絡をとった。
「お願いします!私を雇ってください!!!!」
こうして、私たちの物語は始まった。*
~オープニングチャプター~
▼最速の運び屋と、依頼人の死
「チッ、もう追手が来てるのか…とりあえず乗るぞ。早くここを出ないと、俺らもハチの巣確定だ!」
そう言って、後部座席に荷物をさっさと積み込むと、助手席に移動する。*
「あああああ!もう!急に依頼人死んじゃうとかありー!?了解!さっさと出発しよう!」
慣れた手つきで車に乗り込んで、シートベルトはちゃんとする。
「いくよ!!!」
ブォン、と派手な音を立てて車は飛び出した。*
~メインチャプター~
▼逃走劇の始まり
主演:近衛朝日
「はぁあああああ……。やっと振り切ったぁ。ふふ、でも運転私結構うまくなったんじゃないかしら?ねえねえ。って言ってる場合じゃないわね。一先ず荷物をどこに届けるとか調べないと!」
人気が少ない場所。こんな場所にいると誰もいない街にいるみたい。
「ねぇ……あ、えっと。中、開いたらどっかんはないわよね、うん」
一寸不自然だったかしら。でも、今日の私は平然としていられない。その理由がある。
……どうしよう、どうしたらいいの?この人を、殺せなんて、脅されているなんて……。妹が人質なんて、どうしたらいいの。目の前のことと合せて目が回りそうだった。*
「荷物の確認か?それはやめておけ。このまま届ける依頼だったはずだ。場所は…隣県のテーマパーク、か。ここなら、高速に乗ればすぐだな。」
となりで葛藤する彼女の事なんて気づかずに、地図を確認する。そして武器も。弾薬、銃万全だ。今の所不備はない。*
「あ、そ、そっか。そうだったね。ごめんごめん。うっかり」
ぺろっと舌をだして、大切な人を見る。……心臓が、嫌という程はねている。
「高速ね?りょーかいっ。んじゃいきまっしょーかー!」
無理矢理にでもいつも通りにする。どうしよう、この荷物を届ける前に決めないと。どうしよう。*
「受取人は…。この写真の娘か。なんか昔を思い出すな。」
ふっと笑って写真を眺める。
「よし、もう少し時間もある、今のうちに腹ごしらえでもしておくか?」
そう言いながら先ほどの店で買っておいたハンバーガーを手渡そうとする。*
「昔?何かあった?」
街灯の光に照らしてその少女の写真をみる。うん、かわいい。
ろりこ……と言わなかっただけ私は大人。うん。
「あ、ありがと。お腹は満たしておかないとね!うんうん!」
エンジンの音を聞きながら、そのジャンクな味すらよくわからなかった。*
「よし、準備終わったら出発だ。今回もぶっ飛んだ仕事になりそうだな、朝日。」
そして出発する前に積み荷の箱を動かないように固定する。
今ではこんな大切な…引退を考える程の相棒になった、大切な彼女のことを。**
「うん、了解!ふふ、刺激的な仕事になりそうね」
少しぎこちない笑みで返した。
そうして、車に乗り込んだ。まだ。まだ……。私は言えないまま。*
▼ハイウェイロンド
主演:射手 俊士
「今回、相当ヤバい案件だな…。ま、最後の大仕事にするなら申し分ない。」
防弾ガラス完備の車、必要経費なんてクソくらえ。今回は廃業の覚悟で受けた。今回で引退するつもり満々だった。最後にこんなバカみたいな危険で大きい仕事を受けたのは、区切りをつけるという意味でもあった。*
「は?最後ってなによっとぉ!」
並走する車を振り切るように派手にハンドルをきった。スナイパーが顔を出している。
「道路交通法なんてくそくらえぇ!派手に行きなよ!相棒!車は任せて!」
最後の意味は、聞く余裕はあったかしら。*
「頼む。この仕事が終わったら、話したいことがある。ガンアクション映画全部分位のノリでやっちまおうか!!」
ニヤリとチーム名の由来たる鷲のように獰猛な猛禽類を彷彿とさせる顔で笑う。
「銃刀法違反は今夜でオサラバだ!派手にやるぞ!!」
アサルトライフルを構え、追手の車のタイヤを打ち抜き始める。*
街灯が割れる音が響いた。身をすくませるほどの可愛げはもう捨てた
「ああ、もう!そんな死亡フラグみたいなこと言わないでよぉ!」
ただでさえ、今貴方に死亡フラグたってるのにやめてよ!
「とりあえず派手にやるのは賛成!やっちゃえー!」
そう騒いで相手のタイヤに相棒の銃がヒットしたのを見届けた。*
「は、運転も狙撃もなっちゃいねぇ。ズブの素人集団じゃねぇか。」
あっさりと言っていいほど、全ての追手の車が行動不能に陥った。早さ重視のパンク対策なんて何もしてないスポーツカーの集団など烏合の衆も同じだ。*
「ほんっとう、銃もつとキャラ変わるんだから……」
そう言いながらも私もテンションで大分お口が悪くなるけどね。
「……次、いきましょ」
最後の意味を問う事をせず、私はまたスピードをあげた。
まだ、まだ……言えない。実行したく、ない。*
「ああ。次もきっとくる。最後まで気を抜くなよ。」
手入れを始めたのか、何時ものテンションに戻る。予言でもなんでもなく、確信だけがそこにあった。**
▼ハンバーガーファイト
主演:
次の追手は本当にやってきた。車に挟まれて私は下をなめずる。
「よし、この天才運転手に任せておきなさいっての!」
「しっかり捕まっててよ!!!」
タイヤが悲鳴をあげて、まるで歌のように響く。
「いっけええええ!!!トリプルフェイスの公安なんか目じゃないわよ!!」
車体を半分宙にうかせ、壁を走行してトラックを抜かしてやろうとハンドルをきる。重力が強く、横にかかった。*
「公安?朝日、お前知り合いでも居るのか?」
テレビの類には疎い。というか興味がないので、知らぬ情報であった。
抜けるような綺麗な星空の下、台無しにするような爆発音、ぶっ飛んでいく車のパーツ。
フィクションなんて必要ない、ここにあるリアルが全てだった。どんなフィクションよりも最高のフィクションみたいな現実。*
「百億の男くらい知っておきなさいっての!!!」
そんなのんきな会話しながらこの場がまるでサーキットのようにカーチェイスは続く。
「舌かまないでよ!?ここで死なないでよ!こんな場所で”は”死なせないって約束したげるから!」
まだ。まだ
今じゃない。自分が危険だから。そんな言い訳を繰り返してハンドルを切る。
トラックが寄せてくるのを構わず一気に加速して追い抜いてやった。
「前とった!撃ってやれー!」*
「よし、任せろ!」
今度はショットガンに持ち替えて、トラックのタイヤを打ち抜く。これなら頑強なトラックと言えどもまず対策は無理だろう。
狙いたがわずトラックは沈黙した。
そして後方に見える爆炎。後続のスポーツカー軍団がそのまま足止めの玉突き事故を起こしたようだ。ざまぁみろ。
「よし、これで……いや、まだ。か……」
終わったはずなのに、嫌な予感が消えない。きっとまだ終わりじゃない。気はまだまだ抜け無い様だ。
「ながーい夜になりそうだぜ。相棒?」
そっと耳にささやくように言う。*
トラックもスポーツカーも見事振り切ってみせた。思わずガッツポーズ。
ずっとこうやってきた。これからだって、そのつもりだった。
でも……妹は、夕日は……見捨てられない。どうしよう、どうしたらいいの?
「ひぇ!?!?!!」
そんな事を考えていたから耳元の言葉が不意打ちすぎて飛び上がった。
「そ、そうね。まだ……色々あるわよね」
貴方の話も、私の迷いも。この仕事が終わる前に、決着がつくのかしら。
それが、今は怖かった。**
▼ルートイレヴンの女神
主演:射手俊士
過去の因縁がこんな所で来ようとは。
ここでこいつを絶対倒す、そうでないときっと引退もままならない。どっちがNo1ガンナーか決める決着も付けられようとは。
願っても無い機会に、神に感謝した。
「よお、かつての最高の相棒、ついに決着をつける時が来たなぁ?」
聞こえるかどうかもわからない。でも言いたいことは山ほどあった。届けばいいと願いつつ、言葉を重ねる。
「6年前、あの時からか。俺はお前に追いついた。そしてこのまま追い抜いてやる!覚悟しやがれ!!」
気合を入れて、愛銃を構え火花が散った。*
並走してきたその車にいたのは……どうやら相棒の知り合いみたい。
かつての最高の相棒、その言葉によし、こいつは絶対ここで潰す。と内心嫉妬で燃えていたわ。
まるで時が止まったような暫しの沈黙。車の音をBGMにその二人の戦いの火ぶたは切って落とされる事になる。
「車は任せて!最高のダンス踊らせてみせるから!相手に集中して!」
貴方を殺していいのは、私だけ。殺されるのは、絶対に認めないわよ?*
「ああ、頼むぜ。俺の大事な相棒ちゃん。」
邪魔になるとはわかっていても、この瞬間、もう抑えきれなくなり、そっと頬にキスをする。それ位の余裕はあった。
そうして始まる銃撃戦。舞い散る薬莢、車体で弾かれ、或いはガラスを散らせて地獄のハイウェイの追走劇は続く。
「愛してたよ、相棒としてな。でもこれで終わりだ!!命があるかどうかは、お前の運次第だ!」
先ほどのトラックに使ったものよりも更に口径の大きいショットガンを使う。今度使うのは散弾ではなく、炸裂弾だ。
そして、前輪のタイヤをパンクさせた単車はハイウェイの後方に流れて消えた。**
「なっ!?!?!!」
頬に触れた熱にハンドルが一瞬乱れた。ちょっと!殺す気なの?!
無理矢理意識を切り替えて、銃撃戦をサポートできる位置をキープし続ける。
「…………うわきもの」
炸裂段が爆発した直後の言葉は届いたかしらね。
へーへー、ほー。あいしてるねー。
半分くらいジト目になりつつ、勝てばお疲れ様、とは告げて運転を続けたわ。**
~ファイナルチャプター~
▼明ける夜
「これで、終わり……か。」
達成感と共に、ほんの少しだけ、寂しさが胸を過ぎる。
無事であれば、買いこんでおいたドリンクで軽く乾杯でもしたいところだが…さて。
「朝日、大事な話があると言ったな?」
一先ず切り出し、なんとか無事だったドリンクをそっと見える位置に置く。(ドリンクキーパーも辛うじて無事だった)*
「……まだ渡してないんだから終わったとは言い過ぎじゃない?」
そう言っても少しは疲れた。ふぅ、と息をはいた。
選ばないと。選ばないと。焦燥感が自分を焦がす。
「え、あ、あぁ……言ってたわね。何?」
ドリンクを受け取って、そっと一口。味なんてよくわからなかったわ。*
「引退、したいと思ってな。あとついでで言う事じゃないかもしれないが。」
こちらもドリンクを一口。そして一息。
「人質の件なら心配ないぞ。」*
「引退!?!!?」
その一言にまずは反応。なんで。どうして。そんな思いが胸をしめた。
この関係性がおわったら……自分たちがどうなるのか。全く予測もつかなかったわ。だから不安になった。
そしてついでのように投げかけられたとんでもない言葉に、ドリンクを盛大に噴き出したわ。
「ぶっ!!!!げっふげっふげぐげふげふ……」
落ち着くまで暫しむせたわ。
「……待ったぁああああ!!!!何を言っているの!?」*
「お、おいおい、そんなに驚く事か?」
そうは言いつつもおろおろして背中を慌ててさすってみたり。
「ふぅ、バレてないとでも思ったか?ま、解決の連絡が来たのはさっき…というか、黒幕を仕留めたのはさっきだ。」
こんなこともあろうかと……ではないが、事前の調べは手回しを念入りにするようになった。*
「普通に驚かない訳あるかあああああ!!!」
大絶叫したわ。
「……夕日は、夕日は!?無事なの!?連絡とれるの!?」
先ず何よりも、そこを知りたかった。*
「そういうと思ったから、連絡…っと、ちょうど来たみたいだな。ほれ」
そう言って通信機を放る。*
通信機を奪い取るように受け取って耳元に近づけた。
「夕日!夕日!無事?けがはない!?ねぇ、大丈夫?……うん、うん、そう?……うん、お姉ちゃんは大丈夫よ。ごめんね……怖い思いさせて…」
愛しの妹の声を聞いて、無事を聞いて、ようやく息が出来た心地だった。
「……貴方が、無事でよかった……」
ぼろぼろ、と涙が零れた。もう少し会話して。そうして通話を終わらせた。
「……色々言いたいことがある気がするんだけどひとまず……ありがとう」
「それと……いつから?」
その返答次第では、今日一日の葛藤を返せと、殴りかかるつもりもちょっとあった。*
「朝日、お前の様子が明らかにおかしかったんだ。気づかないわけがないだろう?」
この仕事を受けた頃だっただろうか?なんにせよ様子がおかしいのは明らかで。安全が確保されるまでは話すに話せなかったのもあるが。
「何年組んでると思ってるんだ?すぐわかったぞ。」
わるかったなと言いながらそっと抱きしめようとする。*
「うううううう……」
顔を真っ赤にしてうなだれる。そう言われてしまえばそれまでといえばそれまで。
「私、ずっとずっと……葛藤してたのに……」
色々緊張の糸が切れたのか、ぼろぼろ涙がこぼれてきた。
「俊士のばああかああああああ!!!あほんだらーー!!!」
八つ当たりを思いっきり、相手の胸倉に。でも、その前に抱きしめられたかしら?
腕に収まれば、ただ子供の様になきじゃくった。*
「悪い悪い、安全が確保されない事には話すに話せない。その連絡がさっき来たんだ。いいタイミングだったぜ。」
なにせ見張り…というか、実行犯がさっき戦ったヤツだった。主戦力が居なくなってようやくの出来事だったからだ。
「ああーもう、お姫様は泣き虫だな?」
抱きしめる腕をそっとゆるめて顔を近づける。油断してるようなら、口づけで泣き声を止めようとするだろう。*
「うううう……知ってたって事くらい、教えてよ……」
分かってはいるけどつい愚痴めいた言葉を口にしてしまう。
というかさっきの奴そうだったの!?
「……へぇ、愛してた相棒がねぇ、へぇー」
若干半目を入れつつそんなボヤキを呟いた。
そうして、顔が近づけば、いつも通りの流れでつい、それを受け入れてしまう。
「……で、引退ってなんでよ」
話を戻した。*
「はぁ。誤魔化せたと思ったんだけどもなぁ。」
ため息を吐く。
「こういうことはここで言う事じゃない!とかそういうのは却下するから、よーく聞いておけよ?」
さすがにこればかりは予防線を張らせて貰いたい。そういうものだと思う。
「朝日、お前と結婚したい。だから、危ないお仕事とはオサラバだ。」*
「なぁにが誤魔化せたよ」
流石に色々ぶっとんでも聞き流せる言葉じゃないわよ。ったく。
「うん?まぁ一先ず聞くわ」
と、予防線を一先ず受け入れたような言葉を紡いで先を聞いた。
「─────…………」
固まった。数秒しっかり固まった。
「なっ………なななななななななな……」
顔を真っ赤にしていく。いや、確かに私達恋人だけど!だけどさ!
「……だから死亡フラグまくのやめええええええい!!!!!!」
まだ仕事が終わってない内からそれ言うのは、本当フラグだから!!!!!*
「ああー!もうすこしその口塞ぐぞ!!」
今度は待ってなんかやらない。強引に口を塞ぐ。逃げられないように腕もがっちりホールドの構えだ。*
「いや、だっ……むっ……」
言葉は続かない内に言葉は封じられたわ。
腕も、私を捉えて離さない。むーむー、とちょっと抵抗の意志を見せるけれど、時間が経つにつれて段々弱っていく。
「……っん」
段々と、その吐息に甘さが混じってしまうのは、もう熱を知っているから。
しかしね、まだ仕事は終わってないわよね?と思ったから、その内離れると思って。その時に色々突っ込もうと思って。今はもういいや、と流れに任せた。
だって、色々ありすぎて。もう、よくわからないんだもの。*
「んっ……」
少しづつ抵抗を止めていくのに気がつき、落ち着いたころを見計らって塞いだ唇を離す。
「落ち着いたか?」
色々順番は狂ったが、まぁ仕方ない。あとこれ以上は色々もたないので解放したともいう。
「何から聞きたい?もう少し時間はあるはずだ。全部話す。」
今度は背中をあやすように叩くだろう。*
「……いや、これで落ち着いたら逆にすごいわ!」
体に少し熱が残って、一寸、困った。それは言わないわよ、流石に!
「……私と結婚って……どこまで本気なの。引退、しちゃうの?」
流石になんというか、勢いでいってない?と問い詰めたくなるわ。流れが流れだもの。
「ガキには欲情しないだっけ。彼の昔にはそんな事もいってたのにね」
この言葉は初めての時にも言ったけど、ね。ちょっと意地悪な顔して相手の気持ちを探った。*
「まぁ、そう言うな。引退については……ずっと考えていたさ。数年前から、な。」
仕事自体は好きだし、楽しんでも居る。だが、肉体には限界がある。貯金はもう十分だ。楽隠居…というには早すぎるかもしれないが。
アスリートの引退……と言うと怒られてしまうかもしれないが、そうなる前に色々とケリをつけたかったのも事実。
「あの時はそうなるなんて想像もしてなかったんだ。それに、そうでも言わないと信じなかっただろう?」
6年前の彼女を思い出しながらそう答えた。*
「そんな前から……。そう、なんだ」
私とのコンビを終わりにするのを、そこまで考えていたのかな、と思うと寂しい気はした。その代わりに提示されているのは結婚だとしても。仕事のパートナーとしての関係性があってこその関係だったから。
「まぁ、確かにいつかは限界がくるよね。こんなの。……楽隠居は流石にはやすぎるわ」
流石にまだ仕事はしていたい。それがこんな危険な形でなくても、ね。
「……いや、そこまで失礼な事言わなくても良いと思うわ」
そこは言い切らせて貰うわ。
「……そうなの」
……あれ?これ、もしかして。私の返答待ち……!?
顔を赤くして、言葉をつまらせた。
嫌じゃないわよ!?嫌じゃ!で、でも、私にとって突然だから。吃驚しているのよ!色々一気に言われ過ぎて咀嚼するのに時間がかかるの!
「─────……私、何を言えばいい?ええと、今、一寸、混乱している」*
「まぁ、そうだな。俺と結婚、するか?」
シンプルにまとめるとそれだ。*
今、返答を求められてるー!?!?!?!!?
顔に熱が一気にともった。
「ああ、もう!!!断る選択肢があると思ってるの!?そもそもねぇ!こんな危険な職業に家出したいってだけで行くわけないじゃない!最初から貴方が好きだからって言ったわよね!なら……」
答えなんて、一つしかない。
「しないなんて言わないわよ!!!」*
「良かった。これかも人生の相棒として居てくれるってことでいいんだな。ありがとう。」
抱きしめてもう一度キスをする。*
「……うん、まぁ、それは……はい」
顔を赤くしたまま、なんとか返答した。あれ、これでいいのかしら?とか色々もう吹っ飛んでいる気しかしないわ。
もう一度のキスを受け入れて。やっぱり好きだという思いを再確認するしかないのよ。
「……どうにでもなれ……」
色々、なんか、強引に流された気しかしないわ。*
「さて、そろそろ仕事終わらせないとな。お客様も待ちかねてることだろうさ。」
いけるか?と聞きながら、彼女を解放する。
「続きはじっくり、後で……だ。楽しみにしておけよ?」*
「……そうね。ねぇ、でもその前にやっぱり荷物確認しない?これだけ狙われるの女の子に渡すの怖いわ」
依頼人まで死亡している以上大丈夫、と軽く渡したくはなかったわ。
「……っ!!ばかっ」
その言葉には、小さく毒づいて。でも、嬉しいと示すように、私から唇を頬にあてておいた。*
「確かに。そっちは確認……するまでもなかった、か?」
いつの間に破れたのか、段ボール箱の中から覗くのは可愛い大きなクマのぬいぐるみだった。
しかし、その耳をよく見れば、メモリーカードらしきものが。
「これか?あのしつこすぎる追手の理由は。」
一先ず申し訳ないがクマを手に取る。*
箱の中のぬいぐるみを目にすれば、それは普通に可愛いぬいぐるみだった。そこに、あの依頼人の親としての心を見た気がしたわ。
流石にそれだけじゃないのはわかるわ。その耳から出て来たカードを私も見るの。
「かも、しれないわね。……命、狙われたくないのなら全部投げちゃうのが正解なんでしょうけど……うん。そういうのは駄目だと思う。見ましょ?」
全部知った上で判断をしたい。そう告げた。*
「わかった。……これは、結構な情報じゃないか?」
詳細はわからないが、金になる事だけはわかった。こういうのは彼女の方が得意かもしれないと思い、端末を渡す。*
「そうなの?」
手渡された情報を見て、息をのんだ。これは……独占できれば確かに相当な額のお金になるでしょうね。
人に対して有益な情報。それにほっとしたわ。
「……この情報は、一人の手には余るわよ」
天才と呼べる人だったんじゃないのかしら。そんな人を死なせるなんてそれでこそ勿体ない事を相手はしたものね。
「……少なくとも、小さな女の子一人に抱えさせちゃだめ。……だからって私たちが独占しても宝の持ち腐れ。……この情報を使える誰かに使ってもらうのがいいのかしら」
どうかしら?と相棒を見た。
「これ、大々的に公開しちゃうのも手段よ」*
「だろうな。何せ殺してまでも奪い取りたいものだったみたいだからな。」
頭のイイ奴の考えることはわからんと言いたげに言う。
「大々的に公開、か。……それならこういうのはどうだ?」
依頼人の名前で公表し、後は公正な判断の手に委ねるという方法だ。これはこれで苦労するかもしれないが、全てにおいてのアフターフォローは差流石にサービス外だ。
「やれることはやる、だが、深入りはしない。いいか?」
と彼女に確認を取る。*
その方法になるほど、と頷いた。
「勿論、私が大事にするのは夕日に、相棒さんくらいよ」
そこで真っ先に妹が出てきたのはごめんね。血のつながりは代えがないのよ。
「うん。それでいいと思う。じゃあ、そう言う方向で」
「……行きましょうか。最後の仕事おさめに」
少し、寂し気に呟いた。*
「わかった。そういう方向で手を回しておく。」
そして端末を何やら弄り始める。何処かに連絡をしているようだ。
「よし、あとはこのオリジナルを送り付ければいいだろう。受取人には本来の本命たる可愛い贈り物を届けようか。」
そう答えると後部座席にそっとクマを座らせる。
「さ、運転手さん、安全運転で頼むぜ?」*
頼れる相棒さんは早速手を回してくれた。
「そうね、喜んでくれるといいわね」
なにせ、最期の贈り物になってしまったのだから。
助手席のクマをポン、と撫でた。
「勿論、安全第一に決まってるでしょう?」
どの口が?とは聞かないわよ。
誰も追手の居ないドライブは、ちゃんと穏やかで、優しいものだったと明記しておくわ。**
▼ドリームランドにて
少女が私達に問いかけてくる。私は俊士さんに目配せして、前に出た。少女の相手は女同士のがいいでしょ?って
視線を合わせてにっこり笑いかける。
「そう、私たちがあなたのパパから荷物、預かって来たの」
そう言って、クマをひょこっと取り出した。
「とっても可愛いクマさん。貴方に、ですって」
わぁ、とその子は喜びを示した。
同時に、パパは?と問いかけてきて、言葉は一瞬つまる。
「パパはね、暫くお仕事が忙しいんですって。でも、その子はずっと一緒にいてくれるから」
そう言って、寂しそうにするその子の頭を撫でた。
慕いあう親子に羨望の感情を抱きながら、俊士さんは何か言うのかどうか、一寸様子をみたわ。*
「申し訳ございません、お嬢様。お父上は仕事の都合で来られずに私共がせめてとこの仕事を請け負わせて頂きました。」
秘書、という設定ならばそれに準じよう。ということで、普段は言いなれない敬語で秘書っぽく振る舞ってみた。どうだろうか。
「そして、来て早々申し訳ございません。私どもも早々に戻らねばならず……。お父上からの連絡をお待ち下さい。」
では、と手短に挨拶をすませ、付き人と思しき人物に目礼し、朝日を促して去ろうとする。*
うわ、なりきってるぅ!
というのは心の中だけに。
私も促されるままに、じゃあねって女の子に手をふった。
「貴方のパパは、貴方の事、大切に思っているから」
余計な一言でも、そう言わずにいられなかった。
あれだけの研究を少女に、娘に渡そうとした意味を考えれば、そんな気がしたわ。危険が伴う事でも。思いがなければ関わらせることだってないはずだもの。
それだけ伝えて立ち去った。
これで、私たちの最期の仕事は、終わった。*
そしてそのままもう一度礼をして去る。
そして車に乗り込むとようやく肩の力を抜いた。
「さて、これで今度こそお仕事完了……ではなかったな。」
「隠れ家に帰るまでが運び。確かそうだったよな?」
なんだかそんなことを言われたような記憶がある。ゲームだったか小説だったか。
「さぁ、帰ろうぜ。そしたら今度こそお仕事完了だ。」**
「……ふふ、小学生の遠足の文句みたい」
ついつい噴き出してしまったわ。だって可愛いんだもの。
「そうね。帰りましょ」
勿論、安全運転で、ね。**
そして、彼らを載せた車は去っていく。
幸せな未来を誓い合って。
~Fin~