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 東雲奏音 : 「どうもこんにちはっ!私の名前は東雲奏音ですっ!」

 東雲奏音 : 「両親が仕事で多忙のごくごくふつーの女子高生!ちょっとは空手やってるよっ!」

 東雲奏音 : 「なんか異世界に召喚されるとかよくわかんない事になるみたいだけど、まぁなんとかなるなるっ!」

 東雲奏音 : 「そういうわけで宜しくね~っ!」

 ガエル・J・J・アングラード : ガエル・J・J・アングラード。アングラード王国第二王子だ。

 ガエル・J・J・アングラード : 本来は名誉ある勇者としてこの戦いに身を投じる予定だったが……。まぁいい。

 ガエル・J・J・アングラード : 武術全般は大体得意だ。援護もできないことはない。

 ガエル・J・J・アングラード : 旅も普通の貴族の坊やに比べたら真っ当な立ち回りはできるはずだよ。騎士の演習にもよく付き合って行ってたからね。

 ガエル・J・J・アングラード : あと妹がいる。可愛いんだけども、少々わがままで手が掛かる。そこが可愛いともいうんだけども。

 ガエル・J・J・アングラード : ……そこそこ近い歳の小娘と旅することになるなんて、な。

 ガエル・J・J・アングラード : 役目である以上、文句は言わないさ。よろしく。

 : 【オープニングチャプター】

 

 

 

 

 ガエル・J・J・アングラード : 「まったく、厄介な相手もいたものだ。まぁ、魔物の考えることなどわかりたくもないが。」

 ガエル・J・J・アングラード : やれやれといいたげにため息をついて肩をすくめてみせる。

 ガエル・J・J・アングラード : 「さて、さっさと退治して帰りたいものだね、肌が荒れる。」

 東雲奏音 : 「うわ~~、すごい!私より女子力たっか~~いっその言葉!」

 東雲奏音 : あたしはらんらんと楽し気にそう返した。この人のこういう態度もなれてきたからね。相手は王子様ってことだけど、行儀とかわかんないし。しーらないっと。だって勇者様?らしいし?立場はたいとーたいとー!

 東雲奏音 : 「ま、困ってる人が助ける!それが勇者ってやつなんだよね!だから頑張ろう!えいえいおー!」

 ガエル・J・J・アングラード : 「女子力とはなんだ?」

 ガエル・J・J・アングラード : また聞きなれない言葉だ。彼女、シノの居た世界はどうもこちらとはだいぶ文明も何もかもが違うとは聞くが、いまだにわからない単語が出てくる。

 ガエル・J・J・アングラード : 「そうだ、頼まれてしまったからには、役目は果たさねばならない。」

 東雲奏音 : 「えーとね、今みたくお肌気にするのはこっちじゃおしゃれな女の子が気にする事なんだ。そういう風に可愛い女の子らし~~くするのが女子らしさ。女子のパワー!女子力!」

 東雲奏音 : 私の解釈だ。なお本当の意味は違ってても特に気にしない。

 東雲奏音 : 「うんうんっ!困ってる人を助けないとね。おーじさまは真面目で偉いね~」

 東雲奏音 : 別にばかにはしてないよ?私はこういう言い方なだけ

 ガエル・J・J・アングラード : 「……そうかい。王族は見目も大事にしないとならないんでね。」

 ガエル・J・J・アングラード : 妹に言い聞かせてたことが仇になった。

 ガエル・J・J・アングラード : 少し舌打ちでもしたい気分だったが、そうもいってられない。

 ガエル・J・J・アングラード : 「さて、そろそろ現場も近い。気を引き締めていくぞ。シノ。」

 東雲奏音 : 「そっか。身分高い人っておしゃれも見た目も武器だもんね。そう漫画でみたっ!そっかおーじさまは偉いもんね」

 東雲奏音 : 「うんっ!ちゃーんと、真面目にやるよ!いけない子には必殺キックを繰り出してみせるんだから!」

 東雲奏音 : なおひざ丈でもスカートである。

 ガエル・J・J・アングラード : 「……シノ、仮にもレディであることを自覚してるのかい?」

 ガエル・J・J・アングラード : どうにもこう、小姑じみたものいいが出てしまうのもやはり妹の影響である。彼女も少しお転婆なところがある。

 ガエル・J・J・アングラード : 「戦うのは構わないし、その恰好の方がいいのなら、文句は言わない。でもね、その、淑女としての立ち居振る舞い程度は気にしたまえ。」

 東雲奏音 : 「女子な事はわかってるけど、そんな女子に勇者やれって言ってきたのそっちじゃん?」

 東雲奏音 : 「って、ね。ごめんごめん。別に怒ってないよ」

 東雲奏音 : 「ちゃーんとペチコートも着てるし戦いの場で気にしてたら負けちゃうよ!命第一!安全第一!さあおーじさまれっつごーごー!!!」

 東雲奏音 : あたしはおーじ様の腕をとって歩こうとした

 ガエル・J・J・アングラード : 「ようやくお出ましか。」

 ガエル・J・J・アングラード : とりあえず投擲剣を投げてけん制する。

 ガエル・J・J・アングラード : 「さ、こいつをさっさと退治して早く帰るぞ!」

 東雲奏音 : 「ひゃあっ!相変わらず敵さんがちゃんといる世界だなぁ…当たり前だけどさっ」

 東雲奏音 : 「よーしいっくよー!」

 東雲奏音 : けん制されてひるんだ隙を逃さず間をつめて、一撃殴る(物理)

 東雲奏音 : ほら、剣って慣れてないと逆に危ないから

 東雲奏音 : 「そうだね、夜間勤務はブラックだ!ブラック労働は敵!早く終わらせよー!」

 ガエル・J・J・アングラード : 「そうだ、その通り!夜間はこっちが圧倒的不利だからな!」

 ガエル・J・J・アングラード : そして槍で地面に縫い付けるように刺す。

 東雲奏音 : 「よし、そのまま宜しく~!」

 東雲奏音 : あたしは自分に宿ったらしい勇者の力を開放する。

 東雲奏音 : 「人を襲う悪い子はお仕置きだよっ!」

 東雲奏音 : 力を使えばそれはあっさり消えた。これが、あたしの勇者の力。

 東雲奏音 : うーん、異世界にチート能力持ってきたって気がするなぁ。ラノベ感……

 ガエル・J・J・アングラード : 「それにしても浄化とはな。不思議なものだ。」

 ガエル・J・J・アングラード : 毎回見るたびに思う。塵も残さず、もちろん魔力や瘴気などの悪いものを一切残さず消し去る。すごい力だ。

 ガエル・J・J・アングラード : 「さすがは勇者サマってところだな。」

 東雲奏音 : 「あたしだってこっちくるまでは使えなかったよ。不思議だねぇ~」

 東雲奏音 : カラカラ笑う。

 東雲奏音 : 「……ま、一応勇者みたいだし?流石でいいのかなっ。ありがと?」

 ガエル・J・J・アングラード : 「フン、嫌味も慣れてしまえば意味なし、か。」

 ガエル・J・J・アングラード : と聞こえるか聞こえないくらいの声で言う。

 ガエル・J・J・アングラード : 「さ、帰るぞ!もう寝ないと本気で肌に悪い。」

 東雲奏音 : 「え!?今の嫌味だったんだ!?ごめん、怒った方がよかった?テイクツーする!?」

 東雲奏音 : 「って、帰るんだ?はやーい。ま、そうだね、寝ようかっ」

 東雲奏音 : そうして、暗い道のりの中、あたしは王子様と二人で歩いていった。

 東雲奏音 : あたしの世界じゃない、異世界で。

 : 結末:

 

 

 : 【メインチャプター】

 : 「家族というもの」

 

 

 東雲奏音 : 「おっかっいっもの~おっかいっもの~~。ねえねえ激辛香辛料っておいしいかな?」

 東雲奏音 : そんな事を言いながら歩いていたら子供と親子を見かけた。

 東雲奏音 : 長らく見てない両親を思い出す。

 東雲奏音 : 「……幸せそうに笑ってるね。いいね」

 東雲奏音 : 他人事みたいな響きを孕んだけど、それが伝わったかはわからない。

 ガエル・J・J・アングラード : 「この生活を、平穏を守るために戦うものが要る、それがこの世界なんだ……。」

 ガエル・J・J・アングラード : 「それが『勇者』の役目だと、この世界に来た時に言われただろう?忘れたか?」

 ガエル・J・J・アングラード : キツイ事を言ってしまうのは自覚している。

 東雲奏音 : 「もっちろん忘れてないよっ」

 東雲奏音 : 「……でも、それを赤の他人に任せるシステムはよくないと思ってるけど?」

 東雲奏音 : あたしにしては珍しく真面目な顔していった。

 東雲奏音 : 「ねーねーそれよりさ、おーじさまの家族はどうなの?こうやって歩いたりした?」

 東雲奏音 : すぐいつも通りの笑顔を

 ガエル・J・J・アングラード : 「それに関しては俺も同意だ。どうだ?帰る時が来るまでどこかに隠れて震えて待つか?」

 ガエル・J・J・アングラード : 正直彼女が同意してくれたなら、そう思う。

 東雲奏音 : 「ん~~それででも帰れる保証ないしね」

 東雲奏音 : あなたの願いなんて知らないからかるーく蹴とばしちゃう

 東雲奏音 : 「ま、頼られる分働くのは嫌じゃないよ。おーじさまもいるしね」

 東雲奏音 : 「勇者は異世界召喚ってあたしの世界じゃよくある物語なんだよね。王子様が一緒なのもさ」

 東雲奏音 : 「だからまぁ、物語みたいだなって思ってるとこはある。現実としてしんどいこともあるのもわかってきた。ま、それでもじっとしてるのは性分じゃないからやるだけやるよ」

 ガエル・J・J・アングラード : 「そうか。シノ、お前が納得してるならそれでいい。」

 ガエル・J・J・アングラード : そう、毎回試すように聞いてもこれだ。真面目か。

 ガエル・J・J・アングラード : 「家族、か。妹とお忍びで出かけたことはあるが……まぁ、王族だからああいう風には……」

 ガエル・J・J・アングラード : 柄にもなく、少し羨ましそうな視線が混じってしまう。

 ガエル・J・J・アングラード : 「っつ、なんでもない、なんでもないからな!!!」

 東雲奏音 : 納得してるとは別だけど、そこは言わない。別にあたしは真面目でもないよって教えてあげない。

 東雲奏音 : 「そっかそっか。王族ってやっぱそういうものなんだね」

 東雲奏音 : 「でも妹か、いいなぁ~一人っ子だし、あたし。ちょーだいよ」

 東雲奏音 : なんて冗談めかして言う。流石に本気じゃないのはわかるはずだよ

 東雲奏音 : 「……うーん、あ、そうだ。じゃあ今からあたしが妹になってあげようか?おに~ちゃ~んって!」

 東雲奏音 : そうしたら、家族ごっこが出来るんじゃないかってふと思ったんだ。

 ガエル・J・J・アングラード : 「やらん!妹を嫁にやるならともかく、そうほいほいと渡せるものか!」

 ガエル・J・J・アングラード : 嫁はいいのか。と突っ込まれそうなものだが、気づいていない。

 ガエル・J・J・アングラード : 「お断りしよう。俺の妹は凄い可愛いんだ。」

 ガエル・J・J・アングラード : 見事なまでに綺麗な笑顔で断った。

 ガエル・J・J・アングラード : 「それに、妹など困る。」

 ガエル・J・J・アングラード : こっそりと本音を漏らしてしまったが、自覚はまだ、ない。

 東雲奏音 : 「あはは、しっすこ~ん。冗談、良いお兄ちゃんだね。妹愛されてるじゃん」

 東雲奏音 : 「あ、でも嫁はいいんだね。その辺はちゃんと大丈夫なんだ。えらいえらい」

 東雲奏音 : 偉いえらい、って褒める。心からだよ?

 東雲奏音 : 「……は?あたしは可愛くないの?いや、そりゃーさ、お姫様と比べたらになるけどさー!」

 東雲奏音 : 「困るって?何がさ。あ、わかった!マナーとか出来てないかだっ!そんなの異世界のふつーの学生に求めないでよね。ごっこじゃん、ごっこ!心が狭いとおもいますっ!」

 東雲奏音 : 意図は全く通じなかった。

 ガエル・J・J・アングラード : 「フン、別にいいだろう。そんなにごっこ遊びがしたいならつきあってやらんでもない。」

 ガエル・J・J・アングラード : 心のどこかで少しほっとしながら偉そうに返す。

 ガエル・J・J・アングラード : どうして?困る??なんでだ???

 ガエル・J・J・アングラード : と心の片隅で反芻しながら。

 東雲奏音 : 「えらそーって偉いのか」

 東雲奏音 : 「ん、じゃあ今からおーじさまはお兄ちゃん!お兄様~」

 東雲奏音 : お姫様の真似事してカーテシーの真似をする。

 東雲奏音 : 「……お兄様だったらあたしの傍にいてくれるのかな。あ、でも公務あるから無理かな」

 東雲奏音 : 冗談か本気か、演技か本音か。悟らせないよう零した。

 東雲奏音 : ねぇ、気付いてる?帰ろうとはしてるけど、帰りたいなんてあたし、言ってないよ?

 ガエル・J・J・アングラード : 「……お前、お姫様ごっこがしたいのか?兄妹ごっこがしたいのか、どっちなんだ?」

 ガエル・J・J・アングラード : なんにせよ、街中では目立つ行動は避けたい……と思ったものの、この人込みでごった返す中、そんな行動に気を留めるものなどいなかった。

 ガエル・J・J・アングラード : 「とりあえず、宿屋に帰る前に少し買い食いでもするか?ほら、あそこの菓子とか美味そうだろう?」

 ガエル・J・J・アングラード : こういうものだろうか?ごく普通の兄妹というものは。

 ガエル・J・J・アングラード : そう思いながら、菓子屋の方を示してみた。

 東雲奏音 : 「だっておーじさまの妹ならお姫様じゃん?それっぽくしてみたんだけど?」

 東雲奏音 : やってみたかったのは家族ごっこだけど言わない。

 東雲奏音 : 「あ、ほんとだ。美味しそ~」

 東雲奏音 : 「……あ、でもこれカップルっぽいかもねどっちかというと。なーんて」

 東雲奏音 : 冗談めかしていこいこ、って腕を引いた。

 東雲奏音 : 気付いてほしい、気付かないでほしい。あたしの心に。

 ガエル・J・J・アングラード : 「それはそうだが……なんか違うと思ってな。すまん。」

 ガエル・J・J・アングラード : 少し意地悪が過ぎたかもしれないと一言謝る。

 ガエル・J・J・アングラード : でも秒で後悔した。

 ガエル・J・J・アングラード : 「か、か!?か!!!は、離せ!」

 ガエル・J・J・アングラード : 離せとは言いつつもされるがままに行く。

 ガエル・J・J・アングラード : ホントは離してほしくない、このままで居たいときっと思い始めてた。

 : 「海なる神殿」

 

 


ガエル・J・J・アングラード : 「ここが例の神殿か。」

 ガエル・J・J・アングラード : 水中に沈んだ都市の廃墟。いずれは世界中がこうなってしまうかもしれない。その恐怖に少し震える。

 ガエル・J・J・アングラード : 「水中で呼吸ができるというのも不思議なものだ。少しでも手掛かりが見つかればいいが。」

 ガエル・J・J・アングラード : そうして、神殿の前にたどり着いた

 東雲奏音 : 「神秘的ぃ~~~!!!あ、ねえねえ見てみて!サンゴがあるよ!!!」

 東雲奏音 : 海の中を自由に動くってまさにファンタジー!あたしはテンションがあがっていた。

 東雲奏音 : 水中都市もCGとかさ、そういうのを見てる感覚なんだ

 東雲奏音 : 「そうだね。何かあるといいねっ」

 東雲奏音 : はしゃぎすぎると流石に怒られるかな?と横目でちらっと表情をみた。

 ガエル・J・J・アングラード : 「お前はいつものんきでいいな。」

 ガエル・J・J・アングラード : ふぅ、と少し毒気を抜かれた表情で言う。

 ガエル・J・J・アングラード : 少しばかり彼女の軽いものいいに救われたような気分になっていた。なぜか。

 ガエル・J・J・アングラード : 「まぁ、何がなんでもとは言わないが、少しでも手掛かりがあればいいな位の期待度だ。そんなに気張らなくていい。」

 東雲奏音 : 「ははは。深く考えて暗くなっても仕方ないしねー」

 東雲奏音 : 別に怒られないみたい。ちょっとほっとした。

 東雲奏音 : 「そうだね。じゃあ気楽に楽しんで探索しよー!」

 東雲奏音 : そう言ってえいえいおー!した途端、魚があたしのスカートを盛大にまくっていった。

 東雲奏音 : 勿論とっさにおさえたよ!おさえたけど……

 東雲奏音 : 「…………さ、先行くっ!!!!!!!」

 東雲奏音 : やっぱり羞恥心はすてれず、つからなければ単独で突っ込みそうになっている。

 ガエル・J・J・アングラード : 「楽しむ、か。いいんだろうかな。」

 ガエル・J・J・アングラード : よくわからない。世界は危機に瀕している。でもたまには……などと思った瞬間だった。

 ガエル・J・J・アングラード : 「!……み見えてない、見てないからな!!!」

 ガエル・J・J・アングラード : とっさのことで顔を隠し、追うに終えず赤面したまま立ち尽くす。

 東雲奏音 : 「ずっと気をはってたら疲れちゃうよ。たまにはいいじゃん。人目もないしさっ」

 東雲奏音 : いいよって許すように笑う

 東雲奏音 : 「…………しらないっ!」

 東雲奏音 : その顔を覆う態度がなによりも物語ってそうで、あたしは先に神殿にはいった。

 東雲奏音 : 「……どきどきしてる」

 東雲奏音 : ばかみたい。照れちゃって。異世界の王子様とハッピーエンドなんて物語だけだって知ってるのにね

 東雲奏音 : 「あ~どんな顔すればいいのさ~~!」

 東雲奏音 : って叫んだのが悪いんだろう。踏んだぐにゃって感触に……視線をあげると、たこがいた。おっきーたこさんがいた。たこ焼き何個作れるかなぁ?

 東雲奏音 : 「ひゃっ!?」

 東雲奏音 : 海の中じゃ思うように動けない。その触手につかまるのはあっという間

 東雲奏音 : 「なんててんぷれ~~~!?!?!?!!」

 東雲奏音 : そんな叫びがこだました

 ガエル・J・J・アングラード : 「知らない!?なんで!!!」

 ガエル・J・J・アングラード : もうわけがわからない。フラッシュバックする先ほどの光景。なんでだ。

 ガエル・J・J・アングラード : そしてほどなくして神殿に向かった彼女の悲鳴が(若干くぐもって)聞こえた

 ガエル・J・J・アングラード : 「シノ!?今助けに行く!!!」

 ガエル・J・J・アングラード : 慌てて走るというか泳ぐというか、とにかく急いで向かった彼が目にしたものは……

 ガエル・J・J・アングラード : 「何があったんだ。息できるか?」

 ガエル・J・J・アングラード : と、少しばかりあきれた様子で言う。

 東雲奏音 : 「息は出来てる~」

 東雲奏音 : わたわたしつつも助けに来てくれたおーじさまに返答する

 東雲奏音 : 「呆れてないでよ~!って、ひゃっ、あ、や、やんっ、そこはやめっ……!」

 東雲奏音 : 足をつい、っと触手が動いてついなまめかしい声が出た。

 東雲奏音 : そうして、その触手があたしの呼吸をするのに必要な腕輪に伸びた

 東雲奏音 : 「や、やだ!それはだめ!や、助けて!!!!!」

 ガエル・J・J・アングラード : 「!!!ちょ、なんで、そんな…」

 ガエル・J・J・アングラード : ダメージを受けたのかのように顔を覆いうずくまりそうになる。

 ガエル・J・J・アングラード : 「って、それは不味い、離れろこの海生物め!」

 ガエル・J・J・アングラード : と巨大タコを引きはがしにかかる。

 東雲奏音 : なぜか顔を覆われる。そんなことしてないで助けてくれないの!?と内心の叫び

 東雲奏音 : タコの触手はあたしの腕輪ににょろっと伸びる。身をよじって逃げようとするけどそうすればするほどぬめっとした感触が体に感じて力がぬけるんだ

 東雲奏音 : 「おーじさ……」

 東雲奏音 : 彼の腕が届くとき、腕輪が外れて、あたしはごぼっと息を吐きだした。

 ガエル・J・J・アングラード : 「シノ!」

 ガエル・J・J・アングラード : この際文句は後で受け付けよう。とりあえずタコを引っぺがすことに集中し、見事引きはがすことに成功した。

 ガエル・J・J・アングラード : しかし、腕輪が外れてしまった。まずい。

 ガエル・J・J・アングラード : 「これを!」

 ガエル・J・J・アングラード : そういって、自分の腕輪を外し、彼女に身に着けさせる。

 ガエル・J・J・アングラード : そして、自分は外された彼女の腕輪をなんとかひっつかみ、身に着けた。

 東雲奏音 : たこから離れた瞬間、勝手に海に浮きそうになる体。

 東雲奏音 : あたしはでも、彷徨うことなくおーじさまが腕輪を外すのを見てしまった

 東雲奏音 : 「っ!」

 東雲奏音 : 息が出来るようなってもすぐには喋れない。本能で息を求めてせきこむ。

 東雲奏音 : おーじさまはあたしの腕輪を掴んでちゃんとつけてた。え、すごい。

 東雲奏音 : 「……この、エロタコめ……おしおきーー!!!!」

 東雲奏音 : 弱らせてから使う力を最大解放して力任せに敵を浄化してやった

 東雲奏音 : 「……あ、やば」

 東雲奏音 : 反動で力がぬけてくったりとなる

 東雲奏音 : 「……ごめ、おーじさまは?無事?」

 東雲奏音 : 支えがなければへたりこんで、そうじゃなければ体を預けるかな。ただそれだけは聞いた。

 ガエル・J・J・アングラード : 「……今の、魔物だったのか……。」

 ガエル・J・J・アングラード : 油断していなかったと言えばうそになる。そしてみすみす彼女を危険にさらしてしまった。騎士失格だ。

 ガエル・J・J・アングラード : だというのに、彼女はこっちを心配する。なんでだ。

 ガエル・J・J・アングラード : 「やりすぎだ、阿呆。」

 ガエル・J・J・アングラード : とはいえ、危機を救われたのはこちらもだ。

 ガエル・J・J・アングラード : 「でも助かった。完全にただの海のものかと思っていたからな……。」

 ガエル・J・J・アングラード : そして、彼女をそっと支えるのであった。

 東雲奏音 : 「あんなおっきーのが自然にいる世界だったの…?」

 東雲奏音 : 大きさで魔物認定してたよ、あたし

 東雲奏音 : 「うぅ……今回は言い返せないぃ……。ごめんなさい」

 東雲奏音 : 「……助けてもらったのはあたしだよ。ありがとう」

 東雲奏音 : 支えられるまま寄りかかって、ぴったりくっつく

 東雲奏音 : なんか、顔近いなぁ。

 ガエル・J・J・アングラード : 「さてな。海の中に行きたがる物好きがあまり居ないから何が自然で何が不自然かわからないんだ。」

 ガエル・J・J・アングラード : 事実をそのまま述べる。

 ガエル・J・J・アングラード : 「まぁ、無事だし良かった。」

 ガエル・J・J・アングラード : 騎士としての役目は無事に果たせた。そして、それ以上に謎の安心感が勝っていた。

 ガエル・J・J・アングラード : だからか、しっかりと抱きしめてしまってることに気がつくまで少し時間がかかった。

 東雲奏音 : 「そっか…こっちじゃそうだよね。調査とかそこまで手が回らないよね」

 東雲奏音 : 「うん……おーじさまもでも無茶したよ。腕輪……」

 東雲奏音 : 抱きしめられている腕が強くて、がたいもいいからちょっと困る。

 東雲奏音 : 「……びっくりした。流石に」

 東雲奏音 : 一歩間違えれば自分がおぼれる行為なのにさ、迷わずやってやり遂げるんだもん。

 東雲奏音 : 「格好良くてずるい……」

 東雲奏音 : よくわからない抗議を間近でした。

 ガエル・J・J・アングラード : 「騎士の役目だ、気にするな。」

 ガエル・J・J・アングラード : そうは言いつつも目をそらす。

 ガエル・J・J・アングラード : なぜか当然のことのはずなのに照れが勝る。

 ガエル・J・J・アングラード : 「ふ、ふん、俺がカッコいいのは当然だ。」

 ガエル・J・J・アングラード : 照れ隠しでついそんなことまで言ってしまう。

 ガエル・J・J・アングラード : そんなこんなで、いまだにぎゅっと抱きしめてることにはまだ気づくまで時間がかかりそうであった。

 東雲奏音 : 「気にするよぅ……もう」

 東雲奏音 : そらされた視線。

 東雲奏音 : 「照れてる?」

 東雲奏音 : なんて直球で聞いた。

 東雲奏音 : 「…………そうだね、格好いいよ」

 東雲奏音 : あたしも自分でよくわかってないまま言葉を続けちゃった。

 東雲奏音 : 近いのに、離れない腕に甘えて、肩に頭をぽすっと預けた。

 ガエル・J・J・アングラード : 「て、照れてなど!!と、当然の賞賛だ。」

 ガエル・J・J・アングラード : 態度でめっちゃ語ってるのに、あくまでも認めたくないようだ。

 ガエル・J・J・アングラード : 「!だ、大丈夫か、やはり今日はもう調査は切り上げて帰るか?」

 ガエル・J・J・アングラード : 肩によりかかるように身を預けられ、疲労困憊なのかと焦った声を上げる。

 ガエル・J・J・アングラード : そしてようやく気付く。抱きしめている、という事実に。

 ガエル・J・J・アングラード : ……今、不自然な行動をとるべきではない、平常心、平常心……。と心の内で唱え続けた。

 東雲奏音 : 「ふーん?」

 東雲奏音 : いやぁ、わかりやすいわぁおーじさま。いや、まじで

 東雲奏音 : 王子様がそれでいいの?とは聞かないであげよーっと

 東雲奏音 : 「大丈夫だよ。ちゃんと調べてく」

 東雲奏音 : そう言いながらも離れない

 東雲奏音 : 「……二人きりだね」

 東雲奏音 : 海の底は他に人はいない。人は

 東雲奏音 : 「……立てるよ?」

 東雲奏音 : もうちょっと、と思ったけど流石にやめた。

 東雲奏音 : だって、相手は異世界の王子様。これ以上はダメなんだから。

 ガエル・J・J・アングラード : 「そうか。」

 ガエル・J・J・アングラード : まだ無理してるような気がしないでもないし、正直今は離しがたかった。二人きりと言われてしまえば猶更。

 ガエル・J・J・アングラード : 「心配だからもう少しこのままでいい。海中だから流される心配もあるしな。」

 ガエル・J・J・アングラード : と少しの言い訳を付け加えて。

 東雲奏音 : 「え、あ、そ、そう……?」

 東雲奏音 : 珍しく優しいといったらダメかな?だめですね、はい

 東雲奏音 : 「まぁ確かに突然渦とか出る可能性もあるしね」

 東雲奏音 : いや、どういう状況で発生するかまであたしわかってないけど。もっと勉強すればよかったな

 東雲奏音 : 「……え、とじゃあその辺のとこ調べてみ…うきゃあああ!!」

 東雲奏音 : 壁に手をついた途端、そこの壁が崩れてバランスを崩した

 東雲奏音 : 「……隠し部屋ってベタな…」

 ガエル・J・J・アングラード : 「そうだ。海のことはわからないことだらけだからな。さっきみたいなこともあるだろうし。」

 ガエル・J・J・アングラード : とさらに言い訳を重ねる。自分に瑕疵が無いようにと言わんばかりに。

 ガエル・J・J・アングラード : 「……まぁ、定番というやつだな。」

 ガエル・J・J・アングラード : これで何もなかったら少し恨みたい。そう思いながら調査を続けた。

 東雲奏音 : 「確かに海はなめちゃいけないってよく言うからね」

 東雲奏音 : うんうん、と頷いた。海は簡単に命が落ちちゃうくらい知ってるもん

 東雲奏音 : 「定番だけどさー……あ、あのあたりなんか感じる!」

 東雲奏音 : あっちあっちって指さして不思議な気配をたどる。

 東雲奏音 : そこにある石板をみれば過去の勇者の戦闘について書かれたものが見つかる事になる。

 東雲奏音 : 勝つには愛の力を勇者の力を使う時にこめるといいとか、そんな事が書かれているんじゃないかな。心が大事ってことって。あたしはこっちの文字が読めないから伝えれくれるかはおーじさま次第だよ。

 ガエル・J・J・アングラード : 「あそこか、行こう。」

 ガエル・J・J・アングラード : 海中なので、いわゆるお姫様抱っこに切り替えて移動する。

 ガエル・J・J・アングラード : 「石板か、読めるか?無理なら読み上げる。」

 東雲奏音 : 「うわっ!」

 東雲奏音 : わあああ!王子様がお姫様だっこしたああああ!!!!

 東雲奏音 : 思わずしがみつく。

 東雲奏音 : 「そ、そこまで過保護するんだ!?」

 東雲奏音 : と突っ込みつつも離れようとはしないよ

 東雲奏音 : 「……文字翻訳チートはあたしになかった」

 東雲奏音 : あってもいいじゃんケチーと思いつつ読み上げを待った

 ガエル・J・J・アングラード : 「さっきのことがあるんだ、少し我慢しろ。」

 ガエル・J・J・アングラード : 少し不満げに答えた。

 ガエル・J・J・アングラード : 「よし、読み上げるぞ。

 

 ガエル・J・J・アングラード : 抽象的すぎてなんとなくしかわからない。

 東雲奏音 : 「うっ……はぁい」

 東雲奏音 : そう言われると弱い。

 東雲奏音 : 「………むずかしい言い回しでわかんない」

 東雲奏音 : あたしの成績はご察しだ。ごめん……

 東雲奏音 : 「愛を得た時って抽象的すぎるね。愛ってなんだろうね」

 東雲奏音 : そんな事を、真顔で言った

 東雲奏音 : 「……あれなら専門家の人にどういうことかって調べて貰えばいいよね。他も調べていく?」

 ガエル・J・J・アングラード : 「うむ、そうだな。あとで依頼して人を派遣させるのもアリだな。護衛も必要だとわかったしな。」

 ガエル・J・J・アングラード : そう言うと、何かないかとあたりを見回す。

 ガエル・J・J・アングラード : 「この辺、何かあるな……」

 ガエル・J・J・アングラード : 王子は宝箱を見つけた!

 

 : 【インタリュード】

 

 

 

 

 


ガエル・J・J・アングラード : 詳細はわからないが、ある日突然『勇者』を召喚すると告げられた。

 ガエル・J・J・アングラード : そんなの聞いてない、自分では実力不足だと言うのか!?などの抗議は一切聞く耳を持たれず、ただ決定だとのみ。

 ガエル・J・J・アングラード : そして、訪れる召喚の儀。

 ガエル・J・J・アングラード : 立ち会わねばならないと言われ、この中で一番反対している自分も立ち会うことになった。はたしてどんな『勇者』とやらが呼ばれるのか。

 ガエル・J・J・アングラード : いっそ殺してやりたいなどと、まだ見ぬ勇者に対しての殺意を一切隠さずその場に佇み、周囲に圧を掛けていた。

 ガエル・J・J・アングラード : そして始まった召喚はまばゆい光とともにあっけなく終わった。

 ガエル・J・J・アングラード : 始まる前には居なかった一人の少女という異変を除いて。

 ガエル・J・J・アングラード : 「……女?」

 ガエル・J・J・アングラード : 正直予想外というのが正しかった。毒気を抜かれたというか、虚を突かれたというか。そしてそんな間抜けな一言を発してしまったのであった。

 東雲奏音 : なんてことない日常があたしにはあった

 東雲奏音 : 学校行って、仕事忙しい両親がいて、学校じゃ頼られた雑用とか笑ってやったり

 東雲奏音 : 楽しい日々だったと思う。平穏で、当たり前で、幸福で

 東雲奏音 : どこか、寂しいのは見ないふり

 東雲奏音 : そんなある日、日常は一変した。足元の謎の光で

 東雲奏音 : 「な、なに!?」

 東雲奏音 : あまりのまぶしさに目を閉じた。そうして目を開いて気付けば全く知らない場所にいた

 東雲奏音 : 「……な、な、な…………」

 東雲奏音 : 流石のあたしだってビックリしすぎて目の前にいた人の言葉も耳に入ってない

 東雲奏音 : ふらり、と体がよろけてとっとっと、と足踏みしたんだ。このままだったら転んだだろうね

 ガエル・J・J・アングラード : よろけた。そう思った時にはとっさに手が出ていた、自然と体が動いたという方が正しいのだろうか?彼女をそっと受け止めていた。

 ガエル・J・J・アングラード : そのままそっとしゃがませるよう促すと何事もなかったかのようなふりをして、今までいた位置に戻った。

 ガエル・J・J・アングラード : 胸の鼓動が収まらない、なんだこれは?

 ガエル・J・J・アングラード : 何も言えず、ひとまず誰にも気づかれないようそっと息を吐いた。

 東雲奏音 : よろけたあたしの体はそのまま倒れたりはしなかった。

 東雲奏音 : 「ど、どうも?」

 東雲奏音 : なんのコスプレ?というか何人?とか頭の中をぐるぐる回る。あ、そうかこれ夢?

 東雲奏音 : とりあえず素直にへたり込んで周りを見た。うん、ゲームにありそう

 東雲奏音 : 「……なかなかリアルな夢だね。なるほど、あたしこういう場所にいってみたかったんだ。……ってぇ!あたし今さっきまで道歩いてたのにねたのぉ!?やばくなーい!?」

 東雲奏音 : 「起きなきゃ!おきろーおきてーあたしー!倒れてたら大変じゃんよー!道路の真ん中じゃなかったのよね!?」

 東雲奏音 : 現実的な思考の結末にあたしはただ慌てていた。

 ガエル・J・J・アングラード : 『落ち着いてくださいませ勇者様!』

 ガエル・J・J・アングラード : 『貴方様こそ選ばれし勇者なのです、この世界をお救い下さいませ!』

 ガエル・J・J・アングラード : などと、周囲の召喚士やら、重臣やらが言っているが、果たして言葉は通じてるだろうか?

 東雲奏音 : 「……わぁ。てんぷれーとぉ。最近読んだ小説のじゃんよ」

 東雲奏音 : 「やっぱこれ夢か……うーん、夢でも勇者これやるっていうと大概ろくなことにならないのが最近多いんだよねぇ。でもまぁこれあたしの夢か」

 東雲奏音 : 夢と思えば少しは落ち着いてきた。まぁ夢にいる事が事実なら現実でたおれてるんだろうけどもうしょうがないかー

 東雲奏音 : 「えーと、ひとまず説明してくれるかな?」

 東雲奏音 : あたしの妄想にしてもまぁ少しくらい浸ってもいっか。そんなのんきな気持ちもちょっとあった。どうせ夢なんだし。

 東雲奏音 : 現実で迷惑かけてる人はごめんなさい。でも起きれないんです。起こして下さい。

 東雲奏音 : 起きるまでの、これは、夢。

 東雲奏音 : だからちょっとあたしの世界につきあってみようと思ったんだ。

 東雲奏音 : そうして場所は移動された。さっき抱えてくれた人がいる。よく見ればいけめーん。うん、成程。あたしの好みってこんな感じなんだ。なるほどー

 東雲奏音 : 「ど、どうも?」

 ガエル・J・J・アングラード : 改めて説明を受けたようだが、理解してるのやら。ただ、言葉は通じたのは僥倖だった。これも勇者の力なのか、加護なのか。

 ガエル・J・J・アングラード : そして迎える『勇者』と『騎士』の対面の時間。伝統的に二人きりにされるらしい。勇者が召喚される側とは聞き及ばなかったが。

 ガエル・J・J・アングラード : 「初めまして『お嬢さん』貴女様が『勇者』だそうで?」

 ガエル・J・J・アングラード : 嫌味たっぷりに、皮肉を効かせてそう言ってやった。

 東雲奏音 : 夢だと思ってるから言葉が通じる事に違和感なんてもってない。

 東雲奏音 : 「あ~、なんかさっきそう言われましたね。勇者みたいですね、あたし」

 東雲奏音 : 嫌味が嫌味と通じず言われたことを繰り返すようにそのまま告げた。

 東雲奏音 : 「お兄さんは?あ、あたしは東雲奏音っていいます」

 東雲奏音 : 一応自己紹介はしておいた。夢だから相手が知ってても驚かないけどさ

 ガエル・J・J・アングラード : 思いっきり舌打ちが漏れた。通じてない。

 ガエル・J・J・アングラード : 「おっとこれは失礼。レディの前に何も名乗らず無礼を働いた事をお許し頂きたい。」

 ガエル・J・J・アングラード : ひとまず女性に対する非礼を詫びるべく跪く。

 ガエル・J・J・アングラード : 実際には顔を見たくなかったからなのだが、丁度いい。

 ガエル・J・J・アングラード : 「私はガエル・ジェルマン・ジャック・アングラード。長いので、ガエルとおよび下されば。」

 ガエル・J・J・アングラード : というのは定型の自己紹介である。

 ガエル・J・J・アングラード : 「そして、我がアングラード王国へようこそ。歓迎はしませんけど。」

 ガエル・J・J・アングラード : うっかり本音が漏れた。

 ガエル・J・J・アングラード : 「第二王子で、これから貴女様……シノ、のめ?様の『騎士』となる者です。どうぞ、お見知りおきを。」

 東雲奏音 : あ、舌打ちされた。聞こえてるぞー。

 東雲奏音 : 丁寧に言ったってさっきのは聞き逃してないぞ?と思うけどまぁ大人しく聞いていた。

 東雲奏音 : え?なんで跪くの!?

 東雲奏音 : 「……は、はぁ」

 東雲奏音 : やばい、長い。

 東雲奏音 : この名前一発で覚えれる気がしない、やばい。もう忘れた。あたしの夢だし次には名前がきっと変更されてる。間違いない

 東雲奏音 : 「歓迎しないんだ?じゃあ目覚めるから帰り方教えてよ」

 東雲奏音 : 別に怒ったり傷ついたりはしない。歓迎されない夢ってのもあるだろう、うん。

 東雲奏音 : 「……おーじさま?で騎士?」

 東雲奏音 : 王子様が騎士……我ながらべったべたな設定の夢だなぁ

 東雲奏音 : まぁとりあえず、帰り方を聞かないとなぁ。冒険も楽しそうだけど道端じゃないとこでこういう壮大な夢はみたかったよ。

 ガエル・J・J・アングラード : 「還せるなら還したい、しかしそういうわけにもいかないんだ。」

 ガエル・J・J・アングラード : また舌打ちしそうになって今度は堪えた。でも敬語は消えた。面倒すぎて。

 ガエル・J・J・アングラード : 「そう、王子で……本来はアンタがいる『勇者』のポジションに居た者だよ。警護のために『騎士』としてお供せよだとさ。」

 ガエル・J・J・アングラード : いやがらせにもほどがある。でも伝統だのなんだの、なんか色々説明されたが、そんなのは全てすり抜けた。

 ガエル・J・J・アングラード : こうして呼ばれてしまえば、もう抗する術など何もなかったのだから。

 ガエル・J・J・アングラード : 「さっき散々言われただろうが、魔王を、お前が、倒すんだよ!」

 ガエル・J・J・アングラード : 不機嫌も露わにテーブルをドンと叩いた。

 東雲奏音 : お、と口調が崩れた。

 東雲奏音 : そういうわけにもいかない。まぁテンプレかなぁ。

 東雲奏音 : 「……そうですか」

 東雲奏音 : それ以外何を言えばいいのか分からない。あたしの夢の世界の設定に振り回されて大変だなとは思うけどさ。

 東雲奏音 : 「……魔王を」

 東雲奏音 : ピンとは来ない。でもまぁRPGならそういうことだし。この世界に今あたしが必要なのはわかってた。

 東雲奏音 : 「まぁおーじさまはそれじゃああたしの事嫌いでしょうね」

 東雲奏音 : さらっと言った。

 東雲奏音 : 「でもまぁあたしも好きでここに居るわけじゃないですし。でも」

 東雲奏音 : 「いいですよ。あたしが必要ならやります」

 東雲奏音 : どこまでも現実味がないまま。事の重大さも理解してないまま。あたしは夢だし、というのとあたしが必要なら。その二つがあれば受ける理由には十分だった。

 東雲奏音 : 「あ、不機嫌なのはわかったけどテーブル叩くと手が痛いと思うよ?」

 東雲奏音 : ずれた心配は届いたか、挑発に聞こえたかどうだったかな

 ガエル・J・J・アングラード : 一瞬マジで殺そうかと思った。何も理解してない。

 ガエル・J・J・アングラード : しかし、殺さなくても勝手に死ぬかもと思いなおし、心を落ち着ける努力をした。

 ガエル・J・J・アングラード : 「そうだ、嫌いだ。アンタも災難だったな?こんな不機嫌野郎が騎士でさ。」

 ガエル・J・J・アングラード : さらっと言われたから、こっちも事実を隠すことなく述べた。

 ガエル・J・J・アングラード : 同情にも聞こえたかもしれないが、これも嫌味……というよりは、少しだけ自嘲が混ざった。

 ガエル・J・J・アングラード : 女子供の前で見っともない姿を晒してる自分を恥じた。

 ガエル・J・J・アングラード : 「まぁ、そうだろうな。まったく、お互いにとって利益がないな、召喚というやつは。」

 ガエル・J・J・アングラード : 少し落ち着いてきた。好きで呼ばれたわけではない。そりゃそうだろう。

 ガエル・J・J・アングラード : 「まぁ、実戦で役に立たないと判断できたら還してもらえるよう頼んでやるから、安心しとけ。」

 ガエル・J・J・アングラード : こんなガキの何が『勇者』だというんだ?この時俺はそういう風に彼女を認識していた。

 ガエル・J・J・アングラード : 「余計なお世話だ。今は自分の心配でもしとけ。」

 ガエル・J・J・アングラード : 不機嫌そうに足を組み替えて居丈高に言った。

 東雲奏音 : そう、あたしはここを夢だと思って理解していない。

 東雲奏音 : 「んー、まぁ嫌っても仕方ないんじゃ?いやな事やらなきゃいけないってのも大変ですし。とはいえ初対面の人に対する態度としては落第点だけどね~」

 東雲奏音 : 災難は言われた設定どおり考えるなら相手じゃないかな。そう思ったんだ。

 東雲奏音 : 「確かに、お互いいい迷惑ですね。あ、そこお互い共感出来るねっ」

 東雲奏音 : 「まぁうん、空手やってるけど戦えって言われて出来る自信ないし。夢でも補正かかってなさそうならそうしてくれると助かるよ」

 東雲奏音 : その申し出は素直に受け入れた。夢でも痛いのはやっぱ嫌だしね

 東雲奏音 : しかしまぁ。あたしはこういうのがタイプなの?顔はまぁ範囲だけど。王子様に夢見てたの?自分がわからないなぁ

 東雲奏音 : じーっと顔を遠慮なく見つめた。

 ガエル・J・J・アングラード : 「嫌いなものは仕方ないだろう?」

 ガエル・J・J・アングラード : いっそすがすがしいと思えるような笑顔で(珍しく)そういい放った。

 ガエル・J・J・アングラード : 「カラ?なんだって??武術の心得があるというのか?補正?俺は補助魔術などは使えないぞ??」

 ガエル・J・J・アングラード : 何を言ってるのかさっぱりわからない。言葉自体は理解できる。その単語の意味が分からない言葉がたまに混じるのだ。

 ガエル・J・J・アングラード : 「と、とにかく今日はもう休め、部屋の用意ができたら人が来るだろう。実戦は明日だ、備えておけ。」

 ガエル・J・J・アングラード : そういい放つと返事も待たずに立ち去ろうとする。

 東雲奏音 : 「ま、それは確かに」

 東雲奏音 : でもあたしの意思で来たわけじゃないのに嫌われるのは理不尽だなー。夢ってそんなもんか

 東雲奏音 : 「おーじさまは笑った方がいいよ。顔そっちのがあたし好きだよ?」

 東雲奏音 : 嫌いと言いつつの清々しい笑みだけど作りはそっちのが良く見えたから感想として素直に言っておいた。うん、この顔は好みだ。

 東雲奏音 : 「空手。あれ、通じない設定なんだ。武術といえばそうですね。へー魔法があるんだ。あたしも使えるのかなっ!」

 東雲奏音 : そこはちょっとわくわくした。だってさ、夢で魔法どーん!ってやるってロマンじゃん?

 東雲奏音 : 「あ、はーい。おーじさままたね~」

 東雲奏音 : ま、目覚めたら現実かもしれないけどさ。そんな事をのんびり考えていた

 : 結末:


: 「宿屋にて」

 

 

 東雲奏音 : 「ひゃあああ!雨~~~!!!」

 東雲奏音 : と駆け込んだ先でまさかの王道のハプニングが起きていた。

 東雲奏音 : 「…………まぁ、まずは体ふかないとね」

 東雲奏音 : 服を脱げるわけもなく、そのままタオルで頭を軽くふいていた。

 東雲奏音 : あれ、これあたしそういう願望あったっけ!?というかこれ現実?夢?これだけ時間がたったりリアルに痛かったりおなかすいたりしてるとよくわからないんだよなぁ。でも出来てることは間違いなくファンタジーだし……

 東雲奏音 : 「……っくしゅ」

 東雲奏音 : 寒いのはちゃんと感じるのが現実味あるんだけどね。

 ガエル・J・J・アングラード : 「はぁ、ついてないな。まぁ、旅をしてるんだ。こういう日もある。」

 ガエル・J・J・アングラード : 宿が取れただけでも正直僥倖というべきだ。この調子だと今夜中降り続くだろう。

 ガエル・J・J・アングラード : 「ほら、風呂はないんだ、これでしっかり拭いておけ。」

 ガエル・J・J・アングラード : 余分に持っていたタオルを投げかける。

 ガエル・J・J・アングラード : 「風邪をひかれたら困る。ちゃんと拭いておけよ。」

 ガエル・J・J・アングラード : そういいながら自分は部屋の隅で背中を向けて体を拭く。

 東雲奏音 : 「そ、そ、そうだ、ね?」

 東雲奏音 : この状況に流石に緊張している。声がちょっと裏返った。

 東雲奏音 : 「う、うん……」

 東雲奏音 : おーじさまは動揺してないみたい。……なーんだ

 東雲奏音 : あたしも背を向けて、相手をちらちら、と何度も見つつ、服を脱ごうとして……顔を赤くした。

 東雲奏音 : 「……ね、ねぇ?着替えこのまま…するの?」

 東雲奏音 : ほ、ほら、片一方ずつ出て行って着替えるとかね。あるじゃん?

 ガエル・J・J・アングラード : 「そうだが?外は冷える、あと共用部だからそういうわけにもいかない。」

 ガエル・J・J・アングラード : 何を言うんだ?という声音で答える。

 ガエル・J・J・アングラード : 世界の常識というものの違いはこういうところで出た。

 ガエル・J・J・アングラード : 「まぁ、男女一緒で……は、あまり慣れないだろうが我慢してくれ。部屋は一個しかないからな。」

 ガエル・J・J・アングラード : 正直普段なら避けたいレベルの宿ではあった。しかし急な豪雨とあってか、高級な宿は全て埋まってた、というか、ここまで僻地だとそもそも高級な宿自体がない。需要がないからだ。

 ガエル・J・J・アングラード : 「俺に拭かれるのは嫌だろう?ならさっさと着替えて拭け。」

 ガエル・J・J・アングラード : そして自分の作業に戻った。

 東雲奏音 : 「いや、流石にね!外で着替えろとは言ってないよ!あたしだって!」

 東雲奏音 : 「部屋が一個しかないのもわかってるってばー!」

 東雲奏音 : いや、まぁそこも問題だけど問題にしない事にするっ!

 東雲奏音 : 「拭……っ!それはぜーったいない!!!!」

 東雲奏音 : 流石のあたしだってそれはないない!

 東雲奏音 : え?なんか作業戻ったけど?え?まじぃ?

 東雲奏音 : 「……終わるまで待つから終わったら出て待っててはなしですか」

 東雲奏音 : 珍しく敬語になった。

 ガエル・J・J・アングラード : 「だろう?お互い様だ。」

 ガエル・J・J・アングラード : 無いと言われて内心ほっとする。正直頼まれたら理性の方が危ないところだった。絶対に無いという返事が来るだろうと思っての提案だった。

 ガエル・J・J・アングラード : 「無いな。却下。どっちが風邪を引いても困る。戦力の低下は避けられないからな。そういうことだ。」

 ガエル・J・J・アングラード : それ以上でも以下でもない。と言わなければ確実に手遅れになるだろう。

 東雲奏音 : 流石に仮に夢だったとしてもない!!そこまでふしだらじゃないもんっ!

 東雲奏音 : 「え~!!!!」

 東雲奏音 : まぁ確かにさっさと拭く方がいいのはわかるけどさぁ!

 東雲奏音 : 「……耳に詰め物入れて!!!!!」

 東雲奏音 : 最大限の譲歩の条件だった

 ガエル・J・J・アングラード : 「なんでだ?」

 ガエル・J・J・アングラード : どうしてそこまでこだわるのか。謎しかない。

 ガエル・J・J・アングラード : 「まぁ、やらなきゃ拭かないというなら、仕方ない、譲歩しよう。」

 ガエル・J・J・アングラード : 疑問しか残らないことこの上ないが、ここは大人しく従う方がいいと思った。

 東雲奏音 : 「~~~~気になるからっ!!!!!」

 東雲奏音 : それ以上は教えないっ!この朴念仁!あほーーーー!!!

 東雲奏音 : 「……う~。あたしのが正論言ってるはずなのにぃ」

 東雲奏音 : 耳に詰め物が入ったのを見てあたしも服をするり、と脱いでいく。服が落ちる音、水が滴る音、全部がなんか…こう……恥ずかしいんだよっ!

 東雲奏音 : 服を脱いで体をぱぱっと拭いていく。見られる心配は一応しないでおいてあげる。だってね、あたしの事嫌いだしね?

 東雲奏音 : キャミソールワンピになったころ、それは起こった。

 東雲奏音 : 天井から蜘蛛がついーーーと…………

 東雲奏音 : 魔物じゃない。だから今更恐れるものじゃない。でも、急に、目の前に、やってきて。長年の条件反射ってのはあった。

 東雲奏音 : 「うきゃああああ!!!!」

 東雲奏音 : その悲鳴は届いてしまったかもしれない。

 ガエル・J・J・アングラード : 「なんで気にする必要がある?」

 ガエル・J・J・アングラード : 心の底から理解しがたい。それしかなかった。

 ガエル・J・J・アングラード : そしてしばらくしてから、耳栓越しにでもわかる悲鳴。さすがにこれは振り返っても仕方ないと言わせてもらいたい。

 ガエル・J・J・アングラード : 「どうした!敵襲……ではないと思うが、何が!」

 ガエル・J・J・アングラード : と振り返る。何もない。まぁ、裸でないのは良かったというべきか。

 東雲奏音 : 「知らないっ!」

 東雲奏音 : 説明は投げた。

 東雲奏音 : そうしてあげてしまった悲鳴。振り返ったのはそうだね、仕方ないね

 東雲奏音 : 「く、蜘蛛ぉっ!追い出して!」

 東雲奏音 : 「しっかりタオルで体を隠してはいるよ。いるけど。濡れた服は目の視力のよさによってはその下の布が透けてるのを見るには十分だったんじゃないかな。

 ガエル・J・J・アングラード : 「なんだっていうんだ……」

 ガエル・J・J・アングラード : 理解できないことばかりだ。旅を始めてから、ここまで理不尽な反応は見たことがない。

 ガエル・J・J・アングラード : 「なんだ、蜘蛛か。それよりももっと厄介なやつらを散々やっつけたというのに。」

 ガエル・J・J・アングラード : あきれてそんな感想が出た。

 ガエル・J・J・アングラード : 「ほら、だしてやったぞ、これで十分か?」

 ガエル・J・J・アングラード : 見るものはしっかり見た。逆にこっちが振り返るわけにはいかないことになったかどうかは……今はまだ秘密にしておこう。

 東雲奏音 : 「だって急に出てくるんだもんっ!ビックリしたんだよっ!」

 東雲奏音 : 厄介なやつはそうなんだけどさー!心構えあるとないとじゃ違うんだって!

 東雲奏音 : 「……はい、どうもありがとうございました」

 東雲奏音 : 体をタオルで隠しつつ、お辞儀はしておいた。

 東雲奏音 : ……いや、さ。反応されても困るけど…されないのも……なんでもないです、はい

 東雲奏音 : 嫌いな相手にそんな反応するわけないよね

 東雲奏音 : 「……暫くぜーったい振り返らないでよ!!」

 東雲奏音 : 改めて、背を向けて。一応一度振り返って確認して、着ている全部を脱ぎ始めた。だってそこまで濡れてたんだもんっ!着替えたいよ!

 東雲奏音 : やだ、これ恥ずかしいじゃすまないー!すぐ終わらせよう!何事もなくおわらせよー!!!

 ガエル・J・J・アングラード : 「またシノが悲鳴を上げなければな。」

 ガエル・J・J・アングラード : 嫌味も込めてそう返した。とはいえ、向こうも振り返らないだろうが、こっちも振り返れない。次は無い。そう心のどこかで何かが訴えかけていた。

 ガエル・J・J・アングラード : 「ほら、着替え済んだなら早く寝るぞ!」

 ガエル・J・J・アングラード : 務めて平静に、いつも通りに振舞うことにした。ずっとこんな日々だったじゃないか、今更何を思う必要があるんだ?と自らに言い聞かせるように。

 東雲奏音 : 「もう大丈夫だもんっ!」

 東雲奏音 : ついっと顔をそむけた。

 東雲奏音 : そうして手早くやったおかげか着替えは無事終わった。つ、疲れた……

 東雲奏音 : 「……そう、だね」

 東雲奏音 : 寝台は一つ。二人で寝るにはそこそこくっつきそう

 東雲奏音 : 「……すごい状況だね」

 東雲奏音 : つい言葉に出した。

 ガエル・J・J・アングラード : 着替えは無事に終わった。それはいい。

 ガエル・J・J・アングラード : でも次は一つの寝台での睡眠。寝れるのか?

 ガエル・J・J・アングラード : 今まで二人きりで過ごすことは多かった。しかし……ここまで密着するというか、距離の近いことはなかった。そう、なかったのである。

 ガエル・J・J・アングラード : 「何も思うな気にするな。寝ろ!」

 ガエル・J・J・アングラード : なぜかひどく不機嫌そうに言うと、さっさと入れと言わんばかりに寝台を指し示す。

 東雲奏音 : ここで寝るのかぁ……

 東雲奏音 : 二人で、一緒に。そう思うとやっぱドキドキする。

 東雲奏音 : 「あ、うん……。あたしこの状況で男の人と寝るってなかったんだけどさ…」

 東雲奏音 : おーじさまは?って聞けなかった。だって王子様だもんね。あっておかしくないしそういうの聞くのはやだった。

 東雲奏音 : 「……そういえばおーじさまって婚約者いるの?すんごい今更だけど」

 東雲奏音 : いたらこれ大問題じゃすまないんじゃ?流石に聞かずにはいられなかった。

 ガエル・J・J・アングラード : 「さっさと寝ろと言っている!俺が眠れないではないか!!」

 ガエル・J・J・アングラード : 理不尽である。

 ガエル・J・J・アングラード : 「婚約者は居ない。騎士だからな。」

 ガエル・J・J・アングラード : 本来は勇者だったが。と内心付け加えつつ。いつ死んでもいいような扱いではあったのである。もとよりスペアみたいな身の上なのだ。

 ガエル・J・J・アングラード : 「質問はそれだけか?寝ろ!!」

 東雲奏音 : 「おーじさまって可愛い人だよねぇ……」

 東雲奏音 : ついしみじみ言ってしまった。ごめーん

 東雲奏音 : 「王子様でも騎士だといないんだ?へぇ?」

 東雲奏音 : よくわかんないシステム。

 東雲奏音 : 「……おーじさまは、誰かと一緒に寝た事ある?家族でもいいよ」

 東雲奏音 : ひとまずお布団には入った。どうぞ、と隣はあけておく。じーっと入るかな?どうするのかな?と見ている。

 ガエル・J・J・アングラード : 「は!?な、なんだ、馬鹿にしてるのか!?」

 ガエル・J・J・アングラード : 可愛い、など幼少のころ言われたかどうか。

 ガエル・J・J・アングラード : 「……魔王と戦うんだ。死んでもおかしくない、故に居ない。」

 ガエル・J・J・アングラード : 端的に答えた。そうでも言わないと伝わらないとさすがに学習した。

 ガエル・J・J・アングラード : 「……無い。だから、その……そのまま背を向けててくれ。」

 ガエル・J・J・アングラード : 降参だと言うかのようにそう小声で付け加えた。

 東雲奏音 : 「してないよ。ただそう思っちゃった。ごめん」

 東雲奏音 : えへ、と舌を出した。反省が足りないのはデフォかな。

 東雲奏音 : 「…………なにそれ。王子様なのに、酷くない?」

 東雲奏音 : 流石にそこまで直球で言われればわかるよ。でもそれは、きつい現実の話だ。つまりこの人はいつだって切り捨てられるってことじゃん。

 東雲奏音 : 背を向ける以前に、起き上がって相手の顔を覗き込むようにぐいっと近づいた。

 東雲奏音 : あたしの夢にしては、ちょっと酷いな。じゃあこれは現実でいいのかな。やっぱ。

 東雲奏音 : 「魔王無事に倒してぎゃふん!と言わせてやろう!おーじさま頑張ってるのにそれじゃああんまりだよっ!」

 ガエル・J・J・アングラード : 「な、なんで起きる!」

 ガエル・J・J・アングラード : 動揺しすぎて返答がおかしい。

 ガエル・J・J・アングラード : 「酷いも何も今更だ。ここまで来て、お前は何を言っているんだ?そういうものだと、最初に説明されたではないか!」

 ガエル・J・J・アングラード : なんで、どうして、今更。ぐるぐるとそればかりが回る。

 ガエル・J・J・アングラード : 「ま、まぁ、それには……いや、違う。それで、『当然』なんだ。役目、だからな……。」

 ガエル・J・J・アングラード : 逃げるように少し後ずさってしまう。

 東雲奏音 : 抗議には耳をかさない。あたしきっとむぅ、とした顔してる

 東雲奏音 : 「そうだね、そうだよ。だってあなたたちにとって『異世界の勇者』は使い捨てだっておかしくないし、あたしには今更だよ」

 東雲奏音 : 「でも、おーじさまはちゃんとここの人で、王子様で、可愛い家族もいるのにそれは変だよ!」

 東雲奏音 : 「当然なんて言葉で目を閉じたらいいように扱われちゃうよ?あたしみたいに!」

 東雲奏音 : しっかりして、と目を見た。

 東雲奏音 : 「……あたしは、王子様はあった時より今のが『すき』になってるよ……だから、王子様も同じ扱いってのは、いや。それ、だけ」

 東雲奏音 : 「ん、やっぱ魔王はどうにかしないとねっ。よし、休んで寝よう、おやすみ!」

 東雲奏音 : 背を向けて横になった。抗議は聞くつもりはあるよ?

 ガエル・J・J・アングラード : 「だって、勇者は、名誉で……王族の、第二王子以降の男子の責務で……っ!」

 ガエル・J・J・アングラード : 当然と、それが『当たり前』『名誉』『役目』と言われ続けてきた。それが当然だと思って来た。理不尽などと、思う日などなかった。

 ガエル・J・J・アングラード : あの日、自分の立場をひっくり返されるまでは。

 ガエル・J・J・アングラード :

 ガエル・J・J・アングラード : 「俺をすき??あ、いや、そういう意味ではない、か。同じだ。扱いは、『勇者』も『騎士』も。俺は、俺たちは、運命共同体なんだ。」

 ガエル・J・J・アングラード : あえて言わなかったこと、言いたくなかったこと。それを今更のように告げる。

 ガエル・J・J・アングラード : 当時は憎しみで目を曇らせていたから、言うことすらなかった事実。

 ガエル・J・J・アングラード : 「……そうだ、それで、いい。それでいいんだ……。」

 ガエル・J・J・アングラード : 魔王をどうにかする。それさえ忘れてくれなければ構わない。今はそう思うことにした。

 ガエル・J・J・アングラード : 「お休み」

 ガエル・J・J・アングラード : そしてそっと背を向けて、背中合わせで横になる。

 ガエル・J・J・アングラード : まるで戦いの最中のようだと思いながら。

 東雲奏音 : 「……おーじさまのばーかっ」

 東雲奏音 : 小さく呟いた。あたしもバカだけど、王子様もばかだ。

 東雲奏音 : 運命共同体がこんな形なんて、嬉しくないよ。

 東雲奏音 : 「おやすみ」

 東雲奏音 : それだけ告げて、背のぬくもりを頼りに少しずつ眠りに落ちる。

 東雲奏音 : あたしは、この人をどうしたいんだろう。ばかだから、やっぱりいい方法は思いつきそうにない。

 : 「終末の星が降ってきたのなら」

 


ガエル・J・J・アングラード : あれ以来、あの日、宿屋で二人、狭い寝台で眠りについた日以来、気まずさをどことなく抱えながらこの旅を続けてきた。

 ガエル・J・J・アングラード : 戦いには支障はなかった。でもどことなく、距離を置いてしまっていた。

 ガエル・J・J・アングラード : 話をするなら今しかない。もう明日は決戦の日、なのだから。

 ガエル・J・J・アングラード : 焚火を前にして、二人最後の休息をとる。珍しくこちらから声をかけた。

 ガエル・J・J・アングラード : 「明日はいよいよ、か。ここまで、長かったな。」

 ガエル・J・J・アングラード : 何がとは言わない。そのためにここまで来たのだから。

 東雲奏音 : 距離を置かれてるのに気付かない程ばかじゃない。

 東雲奏音 : でもそれでもあたしは出来るだけ今まで通りにしてきたつもり。戦って、軽口叩いていた。

 東雲奏音 : 最後を前にして感傷に浸ってるのか、珍しくあっちから言葉が来た。

 東雲奏音 : 「そうだね。終わるのかぁ。負けたらまた勇者が召喚されるのかな?」

 東雲奏音 : 不吉な事?現実的な話?どっちでもいいや。

 東雲奏音 : 聞きたいことはあるけど、まずはおーじさまの出方を見ようと思った

 ガエル・J・J・アングラード : 「さてな。その前に世界は滅びました、おしまい!!となるだろうと言われているが。」

 ガエル・J・J・アングラード : 珍しく少しふざけたような物言いになる。なお酒は飲んでない。

 ガエル・J・J・アングラード : 「そもそも魔王討伐というのが今回が初めてなのかすらわからん。代々の魔王がどうだったのかもな。」

 ガエル・J・J・アングラード : なぜかその辺の情報は面白いほど出てこなかった。勇者の役目とやらも、今となっては怪しいとしか言いようが無かった。

 ガエル・J・J・アングラード : あの日を境に、考えてしまった。今まで何も疑わなかった全てを疑う事を。

 ガエル・J・J・アングラード : 「今ならまだ引き返せる、逃げられる。いいんだぞ、逃げても。」

 ガエル・J・J・アングラード : ずっと逸らしてた目を、今は逸らさず真っすぐに見据えてそう言った。

 東雲奏音 : 「へー。言われてるだけかもだし、本当にそうなのかな」

 東雲奏音 : どこか他人事なのは今もそのまま。だってこの世界はあたしには他人事のまま。

 東雲奏音 : 他人事に出来ないのは、一人だけ

 東雲奏音 : なお、おーじさまも決戦前だからかテンション高いなぁ、と思ってる。

 東雲奏音 : 「……何か意図を感じるね。やーな感じ」

 東雲奏音 : 「それはさ、なんの為に言ってるの?」

 東雲奏音 : こっちも目をそらさず言うよ。

 東雲奏音 : あたし帰り方知らないよ?魔王がいる世界で家族もいないあたしにどこに逃げろって言ってる?帰り方知ってるの?とかは言わないよ。

 東雲奏音 : 「あたし、悪いけどおーじさまを勇者にしてあげないよ」

 東雲奏音 : それはきっぱりと言い切った。

 ガエル・J・J・アングラード : 「知らん。今となっては調べる術もない。お手上げだ。」

 ガエル・J・J・アングラード : 投げやりにそう言った。証言者も居ない、本当に今更ながら何の確証もなかった。

 ガエル・J・J・アングラード : 「な、俺が今更『勇者』にこだわってると思っているのか?」

 ガエル・J・J・アングラード : 「シノ、お前が、無理して、戦う必要はない。そう、言いたいだけなんだ……。」

 ガエル・J・J・アングラード : 「帰る方法はなんとかする。あと、帰れなかったら責任は、取る。」

 ガエル・J・J・アングラード : 「決めるなら今のうちなんだ。今しか、無いんだよ。」

 ガエル・J・J・アングラード : 少し涙声で、半ば懇願するかのように言った。

 東雲奏音 : 知らない事は知らないようされてるのかな、とふぅんと返した。

 東雲奏音 : 「……どうだろうね。でもなるために生きてきたんでしょ?初対面の年下の訳も分からずにいた女の子嫌うくらいには」

 東雲奏音 : 「……そっか」

 東雲奏音 : ぽつ、と音を落として少し沈黙を落とした。

 東雲奏音 : 「……もしね、本当に帰る方法を知ってたなら恨むかな。でもおーじさまってそういう人じゃないってことくらいは知ってるよ。だからなんとかは出来ないんじゃないのかな?」

 東雲奏音 : これは推測。

 東雲奏音 : 「まぁ魔王倒しても帰れなかったら生活保障の庇護はほしいかな。そこは甘えるよ」

 東雲奏音 : 一人で知らない世界で生きていけると思うほど楽観的にはなれない。

 東雲奏音 : 「……あたしさぁ、おーじさまがどうしたいか聞きたいかな。方法のあるなしは全部放置して今は考えて。あたしに帰ってほしい?」

 東雲奏音 : 「……あたしに、いなくなってほしい?」

 ガエル・J・J・アングラード : 「あ、あの時は、その……今更で申し訳ないが、すまなかったと思って、いる。」

 ガエル・J・J・アングラード : ずっとあの日から旅をしてきた。言い出す機会も切欠もそもそもなかった。

 ガエル・J・J・アングラード : 「知ってたらとっくに帰していたと思わないか?あれだけ嫌っていたのに。」

 ガエル・J・J・アングラード : さすがにそれだけは心の底から呆れてしまった。

 ガエル・J・J・アングラード : たとえ反対されたとしても、反逆者扱いされたとしても、あの日、あの時のままの自分がそれを知っていたのなら、確実に実行していただろう。

 ガエル・J・J・アングラード : もしかしたら、それを見越して教えられてなかった可能性はあった。

 ガエル・J・J・アングラード : 「さすがに元とはいえ、『勇者』を酷い扱いをしたら王家の信用が落ちる。そこは心配しなくていい。」

 ガエル・J・J・アングラード : とは言ったものの、今となってはそれすら怪しい。少しだけ顔が青ざめたのは見られてしまっただろうか?

 ガエル・J・J・アングラード : 「居なくなってほしくない。そうだ、俺は!!!シノ、お前に死地に赴いてほしくない!!!」

 ガエル・J・J・アングラード : 「それで、満足か!俺にそういわせたかったのか!?」

 東雲奏音 : 「へぇ。そう思ってたんだ?」

 東雲奏音 : わりと、本気で今でも嫌われててもおかしくないと思ってた。

 東雲奏音 : 「まぁそれは確かに。だってそんな事言うんだもん。イジワル言いたくもなるよ?」

 東雲奏音 : 「……そっか」

 東雲奏音 : 青ざめた顔色に追及はしないであげた。あたしはでも余計な事言ったとは思わない。自分の頭で考えない人はいいように扱われちゃう。あたしが本当いい例なんだよ。

 東雲奏音 : だから、おーじさまはそんな事ない方がいいよ。

 東雲奏音 : 「っ!!」

 東雲奏音 : 死地にいかないでほしい、そう言ってくれるとは思わなかった。だから流石に顔が赤くなる。いや、それ…反則だよ

 東雲奏音 : 「……おーじさまわりとあたしの事好きになってくれたんだね」

 東雲奏音 : 自分で言ってて恥ずかしい。うわ、照れる。

 東雲奏音 : 「そう、だね……70点くらいは満足したかな?うん」

 東雲奏音 : 減点の理由?言ってあげない。

 東雲奏音 : 「……でも魔王は勇者しか倒せないよ?」

 東雲奏音 : そこを前提として、提案をしようか。

 東雲奏音 : 「だからまぁあたしたちにある選択肢であたしが思いつくのをあげるのなら、まず魔王をこのまま放置して皆一蓮托生の運命をたどる」

 東雲奏音 : これはまぁあまり勧めないかな。気分悪いよね。

 東雲奏音 : 「次は、おーじさまにそんな甘い考え捨ててもらう。というかこれ選ばなかったら結局世界亡ぶだけになると思うけど?」

 東雲奏音 : 「別にさ、あたしいいんだ。魔王と戦うって役割。それでつぶされてもあたしは自業自得ってわりとのみこめちゃうんだ」

 東雲奏音 : さて、そろそろおーじさまはあたしの異常性に気付くかな?

 ガエル・J・J・アングラード : 「す、すきとか言うな……そういうのは、なんか、今は、ダメ、だ……。」

 ガエル・J・J・アングラード : 自分であれだけの事を言っておいてなんだが、今更ながら恥ずかしくなる。というか、彼女と出会ってからの自分恥じのかきすぎでは?と自問したくなった。

 ガエル・J・J・アングラード : 「クソ、なんで満点じゃない、もういっそ殺せ!!」

 ガエル・J・J・アングラード : 恥ずかしさのあまり、思わずそんなことを言う。もちろん顔は真っ赤である。

 ガエル・J・J・アングラード : 「うぐ、そ、それはそうかもしれないが……。」

 ガエル・J・J・アングラード : 『魔王は勇者にしか倒せない。』結論は覆らなかった。それゆえに彼女が、『勇者』がここに居る。それ以上の答えはなかった。

 ガエル・J・J・アングラード : 「シノ、お前……何を言ってるのかわかってるのか?」

 ガエル・J・J・アングラード : 震えた。何かが根本的に違ってた。ようやくソコに理解が及んだ。

 ガエル・J・J・アングラード : 「これは夢でも何でもない、現実なんだ!魔王を倒せなかったらお前、死ぬんだぞ!死にたいのか!」

 ガエル・J・J・アングラード : 目の前の、か弱い少女にしか見えない彼女の肩を思わず掴む。

 ガエル・J・J・アングラード : 細かった。なんで、どうして……

 ガエル・J・J・アングラード : 「なんで、お前が『勇者』なんだろうな?」

 ガエル・J・J・アングラード : わからなくて、思わずそんな言葉が漏れた。

 東雲奏音 : うわ、かわいい。

 東雲奏音 : 言わなかったのを褒めてほしいよ。いや、だって可愛いし。

 東雲奏音 : 「えー、だってねぇ。ねー」

 東雲奏音 : まぁ満点でもよかったけどさ。はっきり言わなきゃやっぱわからないし?意地悪かな?

 東雲奏音 : 気持ちがどうであれ現実は変わらない。魔物をどうにかする力は間違いなくあたしだけのだってこの旅で嫌って程見てきた。

 東雲奏音 : 「ん?まぁ……それなりには?」

 東雲奏音 : 「……まぁ現実だったらそうだよね。まぁ流石に本気でただの夢って今でもおもってるわけじゃないけどさ……」

 東雲奏音 : 掴まれた肩に伝わる温度も、痛覚も、ただの夢にしては生々しすぎる。

 東雲奏音 : 「……役割があるから、あたし生きてけるとこあるみたい」

 東雲奏音 : 零したあたしの事。

 東雲奏音 : 「死にたくはないよ?流石に。でも、あたし……あたしが必要な場所ってさなかったから」

 東雲奏音 : 「……おーじさまも分かるんじゃない?自分の立ち位置への渇望。そこを奪われたからあれだけ怒ったんだし」

 東雲奏音 : 「望んでとったわけじゃないけど、あたしの場所だよ。ここは」

 東雲奏音 : 目線を下に下げた

 東雲奏音 : 「おーじさまじゃなくてよかったよ。好きなようにされないですむんだから。逃げれるのはむしろ……おーじさまの方だよ?」

 東雲奏音 : 逃げていいんだよ?ってへらっと笑った。

 ガエル・J・J・アングラード : 「……居場所、役目、か。」

 ガエル・J・J・アングラード : ずっとそうだった。重荷に思わないわけでもなかった。そして、それが無い者のことなど、考えたことすらなかった。

 ガエル・J・J・アングラード : 言いたいことはきちんと伝わってた、ちゃんと理解してることもわかった。でも……

 ガエル・J・J・アングラード : 「だったら、猶更、お前だけに行かせるわけにはいかないじゃないか。」

 ガエル・J・J・アングラード : 今、この瞬間、騎士が自分であることに感謝した。初めてかもしれない。

 ガエル・J・J・アングラード : 「『勇者』を守るのは『騎士』の役目だ。二人で、生きて、帰ろう。」

 ガエル・J・J・アングラード : これが答えだ。多分間違いなく、初めて自分ですべて考えて悩みぬいて出した答え。

 ガエル・J・J・アングラード : 「これだけじゃ不満か?」

 ガエル・J・J・アングラード : 少し余裕を取り戻したのか、フッと少し見下すような笑いを浮かべた。

 東雲奏音 : 「……そっかぁ。おーじさまは優しいね」

 東雲奏音 : 「ほんとーに最初はあたしの事嫌いだったくせにぃっ。このこのぅ」

 東雲奏音 : ……嬉しいな。いとおしいな。

 東雲奏音 : 「だったらやっぱり、あたしは勇者にふさわしくないなぁ。本当なんであたしが勇者なんだろうね」

 東雲奏音 : さっき答えなかった言葉をそのまま返した。今までと同じトーンで、表情で。

 東雲奏音 : 「言ってあげようか?あたし、この世界だいっきらいだよ?」

 東雲奏音 : 「人を使いつぶそうとするのが嫌い。王子様も同じ運命抱えさせるのが嫌い。他人事の運命だけどでも、役割くれたのは嬉しいし、おーじさまと会えたのは感謝してる」

 東雲奏音 : 「大丈夫、ちゃんと勇者にはなるよ」

 東雲奏音 : 「ねぇ、あたしの事嫌いだよね?」

 東雲奏音 : 「だから、一緒になんて言わなくていいよ。お前が死んでこの世界を守って俺に名誉の全部くれって言っていいよ。そうして、終わればこの世界は誰にとってもハッピーエンドだ」

 東雲奏音 : 笑顔のまま、そういった。

 東雲奏音 : あたしの事、嫌えばいい。あたしの愛に気付かなくていい。

 ガエル・J・J・アングラード : 「優しい?俺が?今までの事を忘れたとは言わせないぞ?」

 ガエル・J・J・アングラード : 少しだけふざけた態度で言う。本気でそう思ってるわけではないが。

 ガエル・J・J・アングラード : 「そう、だな。この世界はシノ、お前にとっては憎んでしかるべきだ。それにすら気づかなかった俺は大馬鹿者だな。」

 ガエル・J・J・アングラード : 自嘲の笑みが浮かぶ。

 ガエル・J・J・アングラード : 「世界がそう望むのなら?本当のシノの気持ちはどうなんだ?俺にだけ、言わせておいてお前は逃げるのは許さない。」

 ガエル・J・J・アングラード : こっちも綺麗な笑顔でそう言い切った。

 ガエル・J・J・アングラード : 「『俺が』お前と一緒に行くと言ったんだ。断る権利はない。どこまでもついていくからな?」

 東雲奏音 : 「はは、じゃあ差し引きで普通にしておく?」

 東雲奏音 : そう言うならこう返すんだからっ

 東雲奏音 : 「……それは当然じゃないかな?この世界にとってはあたしは『勇者』でしかないんだから」

 東雲奏音 : 個々の名前すら多分必要ない。役割を他人に押し付けるシステムはそういう事だ

 東雲奏音 : 「……あたしの気持ちかあ」

 東雲奏音 : 「……じゃあおーじさまもあたしと同じ目にあってみる?何も知らない異世界にきて、常識すらひっくりかえされて。でも役割なんてあっちには何もない。今まで培った全部が意味ないって突きつけられる」

 東雲奏音 : 「うそ。それは……選ばせちゃダメって知ってる」

 東雲奏音 : 「……あたしはさ、おーじさまが幸せだって笑えばいいかな」

 東雲奏音 : 逃げられないなら、唇を奪ってみようか

 東雲奏音 : 「すきだよ。あたしにある執着はそれくらいだよ。でもあたし、この世界には残りたくない。だって嫌いだから」

 東雲奏音 : これが、本音

 ガエル・J・J・アングラード : 「そんなの既に経験済みだが?」

 ガエル・J・J・アングラード : 全てとは言わない。でもあの無力感を、喪失感を忘れたわけではない。

 ガエル・J・J・アングラード : 「まぁ、異世界ではないから、半分もわからないかもしれない、と付け加えておこう。」

 ガエル・J・J・アングラード : 「俺が、幸せ……か、なら、シノ、おまえには…!?んん!?」

 ガエル・J・J・アングラード : 答えてる最中であった。唇を奪われたのは。

 ガエル・J・J・アングラード : 「くっそ、なんだよ、なんなんだよお前。俺の方が好きだと思ってたのに!俺のことなんて嫌いだろうと思ってたのに!!」

 東雲奏音 : まぁ役割奪われるのはそうか、と納得はしておく。

 東雲奏音 : でも、世界が違って何もかもをとられたとは違うのかな。こればかりは経験しないに越したことは無いと思うけどね。

 東雲奏音 : 「……はぇ?」

 東雲奏音 : 間抜けな声が出た。

 東雲奏音 : 「……いや、まぁ…好き、だけど」

 東雲奏音 : 顔が赤くなっていった。

 東雲奏音 : 「……すき?」

 東雲奏音 : いや、その、えーと……まぁ情がうつったんだろうなーくらいは思ってたけど……いや、ないでしょ?こんな無礼満載の庶民におーじさまだよ?とあたしは混乱していた。

 ガエル・J・J・アングラード : 「そうだよ、好き、だ。そうか、ちゃんと言わないと理解できないか、好きだ、死なれたくない。」

 ガエル・J・J・アングラード : 真っすぐ見つめながら言った。避けられないなら今度はこっちから唇を奪い返してやろう。

 ガエル・J・J・アングラード : 「あと、『ガエル』だ。俺の名前は『おーじさま』ではない。それくらい覚えろよ、好きなんだろう?」

 ガエル・J・J・アングラード : 多分抵抗されないなら、抱きしめることだろう。

 東雲奏音 : 「……え、え……えぇ……」

 東雲奏音 : 待って?えーと?これはその、なんですか?キスまでされておいて好きっていうのはそういう事……以外にあったら嫌だね?うん

 東雲奏音 : 顔を赤くして硬直していたら、唇がまた重なった。

 東雲奏音 : 反射的に目を閉じて、でも体は拒絶反応を起こさない。そのまま受け入れてしまう。

 東雲奏音 : 「…………ご、ごめん。名前長くて覚えれなかった」

 東雲奏音 : 素直に言った。

 東雲奏音 : 「がえ、る…さま?」

 東雲奏音 : カエルってひとまず覚えてそこからちゃんと発音すればいけるかなーと失礼な事をぶつぶつ言ったのが届いたかは知らない。名前一発記憶出来ないだよ。ごめん

 東雲奏音 : 「そ、そっちだってあたしのことシノとしか覚えてないでしょ!どーせ!」

 東雲奏音 : 八つ当たった。だって、だって、恥ずかしいんだもんっ!

 東雲奏音 : 抱きしめられて、ぴゃあっ!と言うし、多少もがくけど本気じゃない。

 東雲奏音 : うう、と唸りながらその腕に身を預けた。

 東雲奏音 : 「……えー、王子様なのに趣味わるーい。……これが旅補正ってやつなのかなぁ」

 東雲奏音 : 一緒に行動してれば自然とそうなりやすい。大きな目標に向かって戦っているならなおさら。大雑把で無礼満載のあたしが好かれる理由なんてそれ位しか浮かばないよ。最初は大嫌いだったの本当だろうし。

 東雲奏音 : 抱きしめ返して、少ししたら話を切り出そうかな。じゃあどうする?って

 東雲奏音 : 魔王倒した瞬間帰る道が開く可能性はあたしの世界の物語によくある。だから今のうちに決めておきたかった。

 東雲奏音 : あたしが帰るか、帰らないか。

 東雲奏音 : なお、王子様がこっちにきてもしょうがないとあたしは思ってる。

 

 ガエル・J・J・アングラード : しっかり聞こえたからな。とは言わないでおく。カエルは酷くないか?と思うが。

 ガエル・J・J・アングラード : 「シノノメ カノンだろう?」

 ガエル・J・J・アングラード : 名前はすぐ覚える。王族というか、貴族社会においては必須スキルだ。


ガエル・J・J・アングラード : 「シノノメで、いいのか?」

 ガエル・J・J・アングラード : 苗字と名前が逆ということは聞いてなかったのか、そう言った。

 ガエル・J・J・アングラード : 「はっ、その言葉そのままお返ししてやるよ、お前だって同じようなもんだろうが。」

 ガエル・J・J・アングラード : 散々嫌な態度で当たり散らすような嫌な奴によく惚れたもんだと、我が事ながら、正直最低ではあったと反省はする。でもそれとコレとは別だ。

 ガエル・J・J・アングラード : 「というか、シノノメ、お前そんなに自分に自信がないのか?こんな美少女と一緒に居て、好きにならないほうが無理だろ。」

 東雲奏音 : 「うわ、覚えてるだと…?!」

 東雲奏音 : あたしだけかーい!覚えてなかったの!ちょっと!裏切者っ!!!!酷い!!!

 東雲奏音 : 「ん?まぁそうだね」

 東雲奏音 : 苗字で呼ばれる方が違和感ない日本人です。名前で呼ぼうとしてるって認識はなかった。別に呼ばれたくないとかじゃないけど慣れの問題。

 東雲奏音 : 「…………言われてみればそうなのかな?でもおーじさまはツンデレだってわりとわかりやすかったしちゃんと守ってくれてたしね」

 東雲奏音 : ツンデレの意味は教えたっけどうだったけ。今聞かれても教えたら怒られそうだから言わないでおこーっと。

 東雲奏音 : 「ん~、だってあたしがさつだし?無礼者って言われたって仕方ない態度とっていたし。……好かれる理由の方がないと思わない?王子様ならだってより取り見取りじゃん」

 東雲奏音 : それこそお淑やかで教養ある人選ぶのが普通じゃないのかな?いや、でもこれラノベ知識だし本当はどうだかわからないか。

 東雲奏音 : 「……そうだね、でも愛されてると思う事があまりなかったからかな。両親忙しいから。学校も女子高でそういうのもなかったし」

 東雲奏音 : 「……なんか、照れるよ」

 東雲奏音 : どうしよう、と今頃感情が追いついてくる。顔を赤くしながらぎゅうぎゅう抱きしめて頭を押し付けた。

 ガエル・J・J・アングラード : 「なん……だと。」

 ガエル・J・J・アングラード : わかりやすかった。そう言われてしまうと今までどれだけ見ないふりをしてきたのか。とはいえ、悔しいには変わりない。

 ガエル・J・J・アングラード : 「それにしてもツンデレってなんだ?」

 ガエル・J・J・アングラード : 毎度のことだが、異国の文化はわからないことだらけだ。

 ガエル・J・J・アングラード : 「好きとか嫌いとかないんだ。いや、あるんだが。」

 ガエル・J・J・アングラード : どっちだ。と言われそうだが、貴族、特に王族などは感情は二の次の結婚。政略結婚は日常茶飯事。

 ガエル・J・J・アングラード : 「貴族とか王族とかってのは、自分の好き嫌いでは婚姻も何も選べない。そういうことだ。」

 ガエル・J・J・アングラード : 「そうか、そういう意味では俺たち、似た者同士だったのかもな。」

 ガエル・J・J・アングラード : 自分の事を見てくれない両親、薄い繋がり、孤独、不安……なんだか全部わかるような気がした。

 ガエル・J・J・アングラード : 「そっちからそういうことしておいて、今更か?」

 ガエル・J・J・アングラード : 押し付けられた頭をそっと撫でようとする。

 東雲奏音 : やっぱ可愛い反応だよなぁ、うん。言わないけど。あたしだって学習するよ。

 東雲奏音 : 「なーいしょっ」

 東雲奏音 : この言葉で怒られそうな言葉ってことは伝わりそうだね。

 東雲奏音 : 「まぁ…それもそうか。でもその中でも好みとかそういうのくらいあるものじゃない?選べなくても心は別なんだし。実際それであたしに落ちちゃってるんだしさ」

 東雲奏音 : 「……そうなのかもね」

 東雲奏音 : 深く繋がる縁って難しいよね。寂しいって感情はどこでも共通なのかな。

 東雲奏音 : 「だって……そっちからもされるなんて思わなかったし」

 東雲奏音 : 撫でられるまま甘えた。

 ガエル・J・J・アングラード : 「……そうか、そうか、碌でもない意味だということは理解したからな?」

 ガエル・J・J・アングラード : にっこりとほほ笑む。でも今日は少しだけちゃんと怒ってる笑顔だった。

 ガエル・J・J・アングラード : 「思ったとしても、選べることは稀だ。特に王族ともなれば余計に……。だから、俺は『騎士』で良かったとすら思っていたんだ。」

 ガエル・J・J・アングラード : たとえ死ぬ運命にあったとしても。心をこれ以上勝手にされるのは嫌だった。もしかしたらちょっとした反抗意識もあったのかもしれない。

 ガエル・J・J・アングラード : 「ほほう。そういうことか。」

 ガエル・J・J・アングラード : それならこれはどうだ?といわんばかりに、近くにあった耳にフッと息を吹きかける。

 東雲奏音 : 「あはははー」

 東雲奏音 : ま、そりゃそうだ。笑って逃げる!

 東雲奏音 : 「あー、騎士だから婚約者いないって話だったっけ」

 東雲奏音 : どういうこっちゃ。そう言う前に耳に息がかかった

 東雲奏音 : 「へぁっ????!!!!?!?!?」

 東雲奏音 : 「ちょ、くすぐったいよ!!」

 東雲奏音 : 顔を真っ赤にして抗議した。

 ガエル・J・J・アングラード : 「ははは、そうだ、それくらい反応してくれないとな!」

 ガエル・J・J・アングラード : 胸がすくといわんばかりに笑った。心の底から笑ったのはいつぶりだろうか。心が軽くなるのを感じた。

 ガエル・J・J・アングラード : 「もう少し、このまま、いいか?」

 ガエル・J・J・アングラード : 耳元で囁くようにいい、抱きしめる力を少しだけ強くした。

 東雲奏音 : 「~~~むぅ、遊ばれてるあたし」

 東雲奏音 : 人聞き悪い事を言って抗議する

 東雲奏音 : 「……いいよ」

 東雲奏音 : これが最後かもしれないし。それは言葉にしない。

 東雲奏音 : 魔王と戦うのか、戦わないにしても戦ったにしてもどうなるか保証なんてない。その先の事も勿論。だから、今の時間だけは素直でいたかった。

 ガエル・J・J・アングラード : そして、しばらくの後、少しため息を吐いたあと、重くなった口を開く。

 ガエル・J・J・アングラード : 「明日、どうする?やっぱり行く、のか?」

 東雲奏音 : 「行かない選択があるの?かえ…ガエルさまはだって死にたいの?」

 東雲奏音 : 現実ってそういうことだ。行かないってことはそれこそ他の世界に逃げない限り滅びがくるってことなんだよね?

 ガエル・J・J・アングラード : 「無いな。でも確認したかった。」

 ガエル・J・J・アングラード : 正直カエルって言いそうになったのは突っ込みたかった。でも今それは言わない方がいいと思った。話が進まなくなる。静まれ、俺。

 ガエル・J・J・アングラード : 「だが、確信はあるのか?倒せるという確かな自信が。」

 ガエル・J・J・アングラード : 例の神殿での手掛かり、アレの真の意味は理解できたのだろうか?それでどうにかなるのなら、何も言うことはないが。

 ガエル・J・J・アングラード : 「なんの対策や勝機もないのに突っ込むのはタダの馬鹿だ。勝機はあるのか?と聞いている。」

 ガエル・J・J・アングラード : 真剣な眼差しで問うた。

 東雲奏音 : 「そっか」

 東雲奏音 : 突っ込まれなかったからまぁあれこれについてはスルーという事で。ごめんってば

 東雲奏音 : 「んー……まぁ正直ないかな。意味はわからないままだし。でも愛については前よりはわかってるつもりだよ?」

 東雲奏音 : 「でもそれで倒せる保証なんて出来ないよ」

 東雲奏音 : それが正直なとこだ。

 東雲奏音 : 「まだレベルアップしてる時間あるのかなぁ?」

 東雲奏音 : 結局のとこそこだ。時間がなければ策が足りなくてもいかなきゃいけない。人海戦術とか最終手段で使うべきなのかな?とか頭をひねる。

 ガエル・J・J・アングラード : 「そうだな、時間の問題もあったか……。なら、行くだけ行こうか。」

 ガエル・J・J・アングラード : どうせ死ぬのなら、滅びるというのなら、少し早いか遅いか、その差程度でしかないだろう。

 ガエル・J・J・アングラード : とはいえ、諦めでも自棄でもない。

 ガエル・J・J・アングラード : 「今ならきっといける。昨日までのどこか壁があった『騎士』と『勇者』はもう居ない。」

 ガエル・J・J・アングラード : 「明日を掴むために、生きるために挑もう。それでいいか?」

 東雲奏音 : 「それでいいんだ?」

 東雲奏音 : ギリギリまで、は選ぶとタイムアップになりかねないしね。まぁそれしかないのかな。

 東雲奏音 : 「わぁ、王子様っぽーい」

 東雲奏音 : 格好つけ~っとうりうり肘でいじる。

 東雲奏音 : 「ん、そうだね。であたしのことはどうする?帰す?それとも?」

 ガエル・J・J・アングラード : 「ああ、それでいい。共に歩めるものがシノノメ、お前でよかった。」

 ガエル・J・J・アングラード : 今は素直にそう答えられた。もう恥ずかしいとかそういうのは飛んで行ってしまった。

 ガエル・J・J・アングラード : 「まったく、ふざけずにはいられないのか?」

 ガエル・J・J・アングラード : うりうりする肘を掴んで止める。

 ガエル・J・J・アングラード : 「なんでシノノメが帰るという話になるんだ?……別れるか決めておきたい、そういうことか?」

 ガエル・J・J・アングラード : 魔王を倒したら帰れるという可能性については考えていなかった。

 東雲奏音 : う、真面目にそう言われると恥ずかしいなぁっ!これがツンデレのデレか……

 東雲奏音 : 流石だ…

 東雲奏音 : 「だって…ねぇ。恥ずかしさに負けるし」

 東雲奏音 : 止められれば止まるけど、体はくっついたまま。やっぱ恥ずかしいって!

 東雲奏音 : 「ん?だって魔王倒したら勇者は帰るのがお約束じゃない?あ、あたしの世界の創作じゃそういうのが多いから。そうじゃなくても帰る方法教えてもらえるかもだし」

 東雲奏音 : 「加えて、ガエルさまは好きでもこの世界は好きとは違うから。選べなかったら残るけど選べる時になったとしたらどうしたいかって心をどう決めていいかわからないよ。だからガエルさんの心を知りたい」

 東雲奏音 : 「あたしの平和で、家族や、今までいた場所に帰ってほしいか、それとも手を離さないのか。今決まらないならそれでいいよ」

 ガエル・J・J・アングラード : 「はぁ、まぁそれはいいとしようか。」

 ガエル・J・J・アングラード : そのかわり悪戯できないようにがっちりホールドしてやろうかなどと考えつつ。

 ガエル・J・J・アングラード : 「そういえばそうだった。魔王を倒したら還す方法を教えるという話だったな……。」

 ガエル・J・J・アングラード : そのことは聞き流して忘れてたというのが正確なところだが。

 ガエル・J・J・アングラード : 「ははは、いいな、好きと言って貰えるのは。」

 ガエル・J・J・アングラード : このまま時が止まればいいのに、などとくだらない事を思う程度には、今この時がたまらなく愛おしかった。

 ガエル・J・J・アングラード : 「俺はシノノメ、お前に居てほしい。でも、それがお前にとって不幸でしかないのなら……。帰ることを願おう。」

 東雲奏音 : がっつりホールドされれば動けない…と思いつつもそのまま。

 東雲奏音 : 「そうそう。まぁどこまで本当か知らないけどさ」

 東雲奏音 : 「……たのしそー」

 東雲奏音 : 嬉しそうなのがくすぐったすぎる。

 東雲奏音 : 「……そっか。そうくるか」

 東雲奏音 : 「──────不幸かぁ」

 東雲奏音 : 何があたしの不幸なんだろう。何があたしの幸せなんだろう

 東雲奏音 : 「……あたし勇者としてやりとげても英雄扱いはされたくないなぁ」

 東雲奏音 : なんとなく思ってた事。お飾りになりたくはないな。礼儀行儀覚えるのも無理だし。

 東雲奏音 : あたしは、一緒にいるならこの人を落とす存在になるんだろうなって思う。今だって場所をとってるんだし

 東雲奏音 : 「……その時のあたしの心に聞くよ。居てほしいって思うなら……」

 東雲奏音 : あたしを捕まえて。

 東雲奏音 : それは言葉に出さない。

 ガエル・J・J・アングラード : 「英雄扱いはされたくない、か。」

 ガエル・J・J・アングラード : 今ならわかる気がする。

 ガエル・J・J・アングラード : 「なら、この世界にとどまることになるかもしれないが、魔王を無事倒せたらそのまま旅立たないか?」

 東雲奏音 : 「ん-。そういうのもいいかもね。安住の地求めてみるのかぁ」

 東雲奏音 : 勇者じゃなくなったらあたしの身体能力どうなるかわからないけどね。

 東雲奏音 : 雲隠れしちゃうのはありかもな

 東雲奏音 : 「んじゃあ支度金もらえるだけ貰って宝石にしておこうよ。お金はないとっ!」

 東雲奏音 : ちゃっかりしてる?でも貰えるものは貰わないと。報酬出ないんじゃあんまりだと思うよ。

 東雲奏音 : 「……魔王、倒そうね。まずはそこから」

 東雲奏音 : もう一度、ってねだるように目を閉じた。

 ガエル・J・J・アングラード : 「ちゃっかりしてるな?でもそれは危ないからやめとけ。」

 ガエル・J・J・アングラード : 王城に戻ったが最後、帰る手段などなく、そのまま謀殺すらあり得る。今はそう思っていた。

 ガエル・J・J・アングラード : 「ああ、まずは魔王をちょちょっと捻ってやらないとな。」

 ガエル・J・J・アングラード : そして、ねだる様な彼女の期待に応えるべく、唇を重ねた。

 東雲奏音 : 「ん?今から最終戦の準備って言って貰えばよくない?足がつかないよう宝石にする手段はわからないけどさ」

 東雲奏音 : 戻る気?ないけど?って笑う

 東雲奏音 : 「そうだね。全部終わらせよ」

 東雲奏音 : そうして、重なる温度に身を預けた。

 : 【ファイナルチャプター】

 東雲奏音 : 最終戦はきつい戦いだった。

 東雲奏音 : 魔王は強かったよ。すごくすごーく。

 東雲奏音 : 騎士様の補佐がなかったら目標までたどり着けるか危なかった。

 東雲奏音 : ガエルさまはあたしに残ってほしいって、不幸を抱えてでも、とは言わなかった。だからあたしは……不確定の未来を掴むことにしたんだ。

 東雲奏音 : 「よっし……魔王さん!あたし貴方に恨みちょっとあるけど、感謝もするよ。好きだって思える人に逢えたからね」

 東雲奏音 : 「もうちょっとあたしに付き合ってね」

 東雲奏音 : そうして、勇者の力を振り絞った。

 東雲奏音 : あたしの抱えた”愛”はきっと、幼いもの。半端なもの。だからうまく行くと思った

 東雲奏音 : 「…………はぁっはぁっ……」

 東雲奏音 : 流石に能力を使いすぎて倒れかかる。膝をついて、息を整える。

 東雲奏音 : あたしは、腕の中に……ちいさな魔王を抱えていた。

 東雲奏音 : 「……貴方がいれば、新しい勇者はこない。そうだよね」

 東雲奏音 : 「…………ここまで小さくしちゃえば世界への影響は少ないと思う。大きくしないようあたしが傍で管理する」

 東雲奏音 : 何を言ってるんだ?って思われるかな

 東雲奏音 : 「言ったよね。不幸になるくらいなら帰っていいって。あたしわからなかった。何もかも捨てて残って不幸になるかならないかわからないよ」

 東雲奏音 : 「だからね、時間を作る事にした。旅を続けて、ガエルさ……さんの傍にいて、幸せになってここ以外にないって思ったら全部終わらせるよ。そうじゃなければ帰る」

 東雲奏音 : 「この魔王に関してはあたしが全部責任とるから……じゃだめ、かなぁ…?」

 東雲奏音 : 流石に危なすぎるとは思うよ。でも、全部浄化するとあたしの命に関わる。それもわかっていた。でもそれは言わない。あなたが世界を選ぶなら、命を捨てておわるだけだ。

 ガエル・J・J・アングラード : 「お、おい、シノ、それ……」

 ガエル・J・J・アングラード : 彼女の腕に抱えられた、ぷち魔王?とでもいうべきソレは、危機感なのか身じろぎもせずそこに収まっていた。

 ガエル・J・J・アングラード : 「まぁ、確かに時間は稼げる、か。」

 ガエル・J・J・アングラード : なるほどなぁ……と思いつつ、しげしげとシノと元魔王?を眺める。

 ガエル・J・J・アングラード : 「つまるところ、この世界は俺にかかってると言いたいのか?」

 ガエル・J・J・アングラード : 少し試すような視線でじっと見つめつつ問う。

 東雲奏音 : 流石に吃驚させちゃったよね。でもまぁ流石に王族というか。冷静に考える頭はあるみたい。

 東雲奏音 : 「……あ~、そこまで考えてなかったな。そっか、そういう事になっちゃうのかな?まぁ余程世界やガエルさんを見限らない限りちゃんと浄化するし」

 東雲奏音 : 「そこまで重荷にしなくていいよ。この世界が残酷だったとしたらそれはもうあたしが魔王になるってだけなんだと思う」

 東雲奏音 : 「……嫌ならいいよ。今終わらせてほしいって懇願してよ」

 ガエル・J・J・アングラード : 「なるほどな、先代の勇者が魔王。案外今までもそうだったのかもしれないなぁ。」

 ガエル・J・J・アングラード : しげしげとぷち魔王とシノの顔を交互に眺める。

 ガエル・J・J・アングラード : 「いいさ、構わん。それで、こいつのことは報告するのか?」

 ガエル・J・J・アングラード : とぷち魔王をツンツンつついてみたりする。

 東雲奏音 : 「そこはわかんないけどね」

 東雲奏音 : 「報告出来ると思う?無理だよ。浄化もしきらないで連れて帰ったら何がなんでも倒しきるよう言われるだけじゃないかな?魔物だってこの子が消えなきゃ消えないんだし」

 東雲奏音 : つつかれた魔王ことまっくろくろ君はもそもそ動く。大人しいものだ。

 東雲奏音 : 「だからこのまま雲隠れするっきゃないんじゃないかな。あれならここに住んじゃう?って食料に困りそうかな」

 東雲奏音 : 「……おーじさまに戻りたいなら、この状況見逃たらむりだと思うよ?もう国に頼れないだろうし下手したら手配される」

 東雲奏音 : 「そんな場所におちていい?」

 ガエル・J・J・アングラード : 「報告のしようはあると思うぞ?未熟な状態で召喚されたので、今一歩及ばず。で、封印を提案すればいいとかな。」

 ガエル・J・J・アングラード : まぁ、封印できるかもしらないし、そもそも封印など面倒ごとを先送りするだけの事は望まれないだろうが。

 ガエル・J・J・アングラード : 「ここに住むのはなぁ……山小屋の方がまだマシだぞ。」

 ガエル・J・J・アングラード : 魔王城などという曰くありすぎ物件は嫌すぎる。あと、戦闘の余波で結構穴ぼことかひび割れが凄い。崩れ落ちるのも時間の問題かもしれない。

 ガエル・J・J・アングラード : 「王子に戻りたいか?そんなもの要らない。俺はシノがいればいい、それでいいんだ。」

 ガエル・J・J・アングラード : 魔王をつついてた手をそのままシノノメの手を掴む。

 東雲奏音 : 「うーん、そんなものかな。あまり歓迎はされないだろうね」

 東雲奏音 : ま、なんにしてもあたしの中であの国にこの状況を教える選択肢は今のとこないかな。

 東雲奏音 : 「まぁ確かにね。崩落に巻き込まれて死亡は悲しいよね」

 東雲奏音 : 最低限雨風しのげてちゃんと生きれる環境で流石にいたいよ、あたしだって

 東雲奏音 : 「……恥ずかしい事いうねぇ。もうっ……」

 東雲奏音 : 「……んじゃ、あたしと旅続けてくれる?」

 東雲奏音 : そうして、最後はあふれる位の愛が満ちれば魔王は勝手に浄化されると思うんだ。そうして、完全に平和になれば次の代くらいまでは平穏に生きれると思うんだよね。

 東雲奏音 : その時帰る道が開いたとして、帰るか帰らないか。あたしの愛が満ちてるなら迷う事もきっとない。

 東雲奏音 : 「あたしが魔王を浄化しきれるかどうかの……旅」

 東雲奏音 : 結末は全部あたしたち次第。あたしの心次第。それは、与えられたわけじゃない役割であたしが選ぶ道。

 東雲奏音 : 好きな人と共にいるか選ぶための道だ。

 ガエル・J・J・アングラード : 「魔王浄化の旅、結局今までと変わらないな。」

 ガエル・J・J・アングラード : いっそ追跡してるってことにして、金を毟り取りつづけてやろうか?などと思ったりもしたが、それは言わないでおいた。

 ガエル・J・J・アングラード : 「まぁ、こいつが無害なら色々やりたいこともたくさんある。時間はあるに越したことはない。」

 ガエル・J・J・アングラード : そう、色々。できなかった、してこなかった事がたくさんある。

 ガエル・J・J・アングラード : 「旅の日々は結構大変だが、まだ続けれるか?」

 ガエル・J・J・アングラード : 今度はこっちが試すように問うと、立ち上がり、手を差し伸べる。

 東雲奏音 : 「それもそうだね」

 東雲奏音 : 追跡し続ける、というのは知ったら流石~とか言っちゃいそう。

 東雲奏音 : 「うん、流石に今は少し休みたいけど。定住は暫くはしなくてへーき。あたし結構タフだし」

 東雲奏音 : まだ知らないお互いの事、恋人ってどういうことかってこと。これから知れていけるなら嬉しいと思うよ。

 東雲奏音 : 差し出された手を取る。

 東雲奏音 : 「行こうか」

 東雲奏音 : そうして、あたしたちの新たな旅立ちを始めよう

 ガエル・J・J・アングラード : 「ああ、行こう!」

 ガエル・J・J・アングラード : 今までで一番の笑顔で答え、しっかりと彼女の手を掴んで歩き出した。

 ガエル・J・J・アングラード : 知られざる真なる勇者達の旅立ちであった。

 : ~Fin~
 

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