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*クリスタ*

[色々あって私は守護石でなくなった。私は24で死ぬことはなくなったの。
 まだどこか、それが夢じゃないのかってどこか夢見心地で。
 でも皆を……大事な人たちを悲しませないですんで嬉しいの。とても、嬉しいの。

 

 そのせいでどこか浮足立つ。一人で多少は動けるようなった自由を満喫していたの。
 ふと、大きな背中を見つけれたのは庭園の東屋から音楽が聞こえたから。
 音を立てないよう聞きながらゆっくり歩いて。音楽が終われば拍手するの。]

 

 こんにちは、ギュルセルさん。
 少しいいですか?

 

[許可が出れば近くに座るつもりで声をかけたの。]

*ギュルセル*

おぅ、クリスタ。
どうした。

[聴こえた拍手に振り替えれば、そこにはクリスタの姿。
死の呪縛から解き放たれたクリスタは、出会った時と変わらない――いや、その時よりも大人びた憂いのない微笑みを浮かべているように思う。
クリスタを座るように促して、手にしていたモリンホールを傍らに置いた]

*クリスタ*

[促されるままお話する距離に腰を落ち着けるの。]

 いいお天気にいい音楽というのは相性がいいものですわね。
 相変わらずとても素敵でしたわ。

 

[まずは何はなくとも相変わらず素敵な音を奏でる相手に感想を。

 

 それから一呼吸。
 お話をしようと背筋を正して守護石だった時のようにすっと、空気をしっかり引き締めてしまうの。私にまだ残るちょっとした癖、かしら。]

 ギュルセルさん。改めて有難うございました。
 私は皆さんがいなかったらここにいません。
 伝えきれない程、沢山感謝しています。

[一人一人に出来るだけ伝えようとしている感謝。
 まずはその言葉を目の前の人にも。一人の人間として伝えるの。

 

 ふと、ずっと聞きたかったことがあったことを思い出したの。
 あの、私が選ばれた日からずっとずっと、聞きたくて。でも相手を責めてしまいそうで言えなかった言葉。
 今の私なら大丈夫かしら。一つ深呼吸して顔をしっかり上げるの。]

 

 あの、ギュルセルさん……ずっと聞いてみたかった事があるんです。
 宜しいですか?

*ギュルセル*

はっは、ありがとよ。
俺は雨の日も嫌いじゃねぇけどな。

[そんな日はさすがに東屋まできて弾きはしないが、雨に似合う曲だってある。
相性がいいと思ってくれたのなら、それはクリスタにとっても今の選曲が間違っていなかったということだろう。

笑いながらリラックスムードで腕を組んで、足を組む。
しかしクリスタは対照的に背筋を正した。
その口から紡がれるのは感謝の言葉。]

 

俺はなんもしてねぇよ。
お前らが頑張ったから、だろ?

 

[きっとファシリアも喜んでいる。
本当なら、俺たちの代でしてやりたかったことだったが。
少なくともあの日の願いを守れたのが救いといったところだろうか。]

 

なんだ。

[問いかけにそう答えながら、庭園に咲いているファシリアの花から目線を外して、改めてクリスタを見つめた。]

 

 

*クリスタ*

 ふふ、私はちょっと雨苦手ですわ。
 髪が広がってしまいますし。

[そう言ってくすくす笑うの。]

 

 いいえ。私……というより私達、でしょうか。心配していてくれていましたよね?
 その上で普通に接してくれていたのも。私には支えでした。
 そういった一つ一つがなかったら私はとっくに諦めていましたもの。
 だからありがとうと伝えたいのです。

[皆が私を“クリスタ”として扱ってくれていた。
 それは守護石という立場にいた私には大事な事だったの。
 頑張れたのはそういった一つ一つが支えになっていたのも大きいのよ。

 

 私は相手の目をしっかり見て。言葉を紡ぐの。]

 

 私が守護石に選ばれた日……どうして、エルマールに守護石が生贄だと伝えたのですか?
 わかっていましたよね? 下手したらギュルセルさんの故郷も危なかったと。

 

 

*ギュルセル*

まぁ、素直に受け取ってはおくがよ。

[当然のことをしたまでにすぎない。


心配するのも普通に接するのも。
見守るのも手を貸すのも。
少なくとも俺らの代の元衛士たちは同じように思うだろう。]

 

どうしてだっけかねぇ。

 

[もうあれから10年経つ。
といってもあの日のことは早々忘れられるはずはないから、その顔には笑みが浮かんでいる。
しかしまっすぐ見つめる瞳と目があえば、少し間を開けた後ゆっくりと口を開いた。]

――何故教えてくれなかったと、教えてくれていたら何か変わったかもしれないのにと思ったからだ。
このまま黙っていればお前たちにも、家族にも顔向けできないと思ったからだ。
誰もリスクを背負わないんじゃ、何も変わらないと思ったからだ。

 

だからお前たちを信じた。
まぁ、正直最初は不安だったけどなぁ。

 

[思い出すようにくっくと笑って]

 

……何よりファシリアの願いでもあったからな。
俺の勝手な解釈だが。

 

これで、答えになっているか?

 

*クリスタ*


 ……十分です。

[じっと見ていた目を閉じて、深く息をした。
 そうね。そうだわ。私達を導いてくれた皆はきっと知らないで結末を迎えた。
 それ故に抱えた苦悩はどれだけだったのか……。]

 

 あの時の私たちはギュルセルさんからみれば、まだまだ子どもでしたでしょうしね。

 

[笑われた事にくすり、と笑みで返したの。
 胸の奥に抱えていた疑問がとけて、すっと軽くなった気がしたわ。]

 私は、知らず知らずの内にファシリア様にも守られていたのですね……。

 

[風が優しく私たちの髪をなびかせる。見上げた青い空に青い花びら。
 それはとても美しく見えたの。]

 今だから言いますけど、ちょっとどころでなく苦しかったんですわよ?
 みんなに私のせいで危険を背負わせる、って感じていたので。

 

[これは他の誰にも言っていない言葉。
 ただ、この人にならいいかな。と思ったの。]

 でも……知らないままより、知っててくれてよかったって今なら思えます。
 何もかも、一人で背負えばそれはそれで楽だったかもしれません。
 でも、それはきっと孤独な道でした。  

 

[何も伝えないまま、皆から隠して時間をずらし続けて、取り返しをつかなくさせて。一人透明な砂になっていたら……それは余計に皆を苦しめる事になっていた。]

 

 守護石になって、みんなで考えて道を歩んでこれた事……私の宝物です。
 ギュルセルさん。改めてお礼を言わせてください。
 信じてくれてありがとうございました。私を独りにしないでくれて……本当にありがとうございました。

[その行為は私の為、とはきっと少し違う。その方が納得できるわ。でもそれは結果として私を救う大きな分岐点だったと思うから。
 お礼を言う時改めて立ち上がり、守護石になってから覚えた綺麗なカーテシーを相手にささげたの。]

 

 

*ギュルセル*

俺はな、俺たちの次の代がお前たちで良かったと思う。
真実を話したところで守護石を助けたいと思わないやつばっかりだったら何も変わらなかっただろうしな。

 

……この10年辛い思いも沢山しただろうけどよ、人生まだまだだからな。
ファシリアや他の守護石の分も、しっかり生きろや。

[洗練されたカーテシーを見つめながら、その顔に笑みを浮かべた。]

 

 

*クリスタ*

 ……っ。わたし、も。皆さんが私達を導いてくれた衛士で嬉しいです。

[泣きそうになって声がつまる。でもこれは悲しい涙じゃないの。
 だから零れるのを隠さず、でも心からの笑顔を向けて。]

 

 辛いだけじゃなかったので大丈夫です。
 本当私……これからしっかり生きて、目いっぱい幸せにならないとですね。

 

[生きれなかった今までの守護石達。悲しい思いをした衛士達。
 そんな人たちの『生きてほしい』その願いを受け取って私はこれから生きていくの。
 守護石でいた時間が何も影響がないとは言い切れないわ。多分、他の人よりちょっとは寿命が短くなっているんだと思うの。それでも残されている時間はまだまだ十二分にある。
 これからは何に縛られるでもなく、義務でもなく。過去の記憶の自分でもない。『クリスタ』として一人のただの人間としての人生を歩んでいく。その道が誇れるものであるように。私を生かしてくれた皆に恥じないように。
 今度はその為に自分の背筋を伸ばしたの。]

 お話有難うございましたわ。
 ああ、そうそう。私薬師として本格的に働き始めてますの。
 酔い止め薬、上手く出来るようなったら贈りますので。

 

[リゾートの地に向かう時の小さな約束、ギュルセルさんは覚えていてくれてるかしら? 忘れていてもいいの。私はそれを叶えたいだけだから。

 お話は以上です。と伝えるようにペコリ、と頭を下げたのよ。]

 

 

*ギュルセル*

[零れたのは苦しみからでも悲しみからでもない涙。
まるでクリスタルのように澄んだ雫だった。
浮かぶのは本当に良かったというような柔らかな笑顔。]

出来ればもう船に乗るのは勘弁してほしいところだがな……。
もしもの時のためにそん時はありがたく受け取らせてもらおうかね。

頑張れよ。

 

[垂れる頭にその大きな手をのせる。
 

まるで子どもが巣立つような、そんな感覚になる。
元々クリスタはしっかりした方だったが、10年前と比べればみな立派に成長した。
これからそれぞれの道を歩んでいくのだろう。
自分たちがそうであったように。
それでもそれは別れではなく、絆はこの先も続いていく。]

そうだろう? ――ファシリア

 

[たとえそこにいなくても、会えなくても。
 

笑って見守っていてくれると信じられる。

クリスタの背中を見送った後、青く抜けた空に舞う蒼い花びらを見上げながら、一人ぽつりとつぶやいた。]

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